自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第30話 マリネアの雷霆

 ソードライン防潮堤近海 大戦艦シャンデローザ

 宿敵アルロスと真夜中に激しい砲撃を仕掛けるシャンデローザのドーラーとシャデル。彼らは戦っていく中である違和感に気付いた。

「おかしいです…なんか誘導されてるような…」

「あぁ、こちらの意図を理解した上で攻撃し、その先の行動まで読まれてるようだ…」

 飛んでくるミサイルや魚雷を迎撃しながらも、どこか腑に落ちない様だった。

「この魚雷…音波信管です!」

「取り舵いっぱい!機関停止!!」

「了解!機関停止!!」

 エンジンが停止し、ゆっくりと惰性で回頭するシャンデローザ。どうやら音波信管魚雷は回避出来そうだ。しかし新たなる危機が差し迫っていた。

「多数のミサイル群が接近中!迎撃できる許容量を超えてます!!」

「エンジン再起動急げ!」

「機関再始動中ですが間に合いません!!」

「CIWSで迎撃は!?」

「全兵装の電力供給ダウン!迎撃不能です!!」

 ドーラーの頭の中は真っ白になった。他にいろんな方法を模索するが、いくつもの策が浮かんでは消えていく。それらは全て、エンジンが動いて電力が供給されている前提のものばかりだった。もはやここまでか…ドーラーはミサイルアラートが鳴り止まない中で、静かに目を閉じて時の流れをゆっくりと感じていた。出来る限りの事はやった、あとは千歳が成し遂げてくれる…そう思っていると、空気が振動しているのが感じられた。その揺れはだんだんと大きくなってゆく。どうやら何かが近づいているようだ。ハッと目を見開いたドーラーが周囲を確認すると、水平線の向こうから眩い光が凄まじい速さで近づいてくるのが見えた。

「本艦の認識範囲外から高出力のレーザーを確認!」

 シャデルの報告が終わった瞬間、そのレーザー光はシャンデローザの傍をすり抜け、接近していたミサイル群を一瞬にして消し去った。

「あの閃光は…マリネアの雷霆?…機関再起動!最大船速!!」

「エンジンリスタート!動力炉点火!出力上昇、最大船速!!」

 その光景にしばし呆然としていたドーラーだったが、すぐ我に返り命令を下した。なんとか危機を脱し推力を得たシャンデローザは、動力喪失中にいつの間にか近付いていた宿敵グランドマスターとの間合いを取るべく、回頭して離れる方に針路を取った。これからどう戦うか…未だ健全なグランドマスターをじっと見つめながら考えていた。

 

 航空戦艦グランドマスター

 その頃、グランドマスターの艦橋では突如として現れたレーザー光線の正体を探っていた。マリネアの兵器に詳しいアルロスでもあの高出力のレーザーを放てる光学兵器に心当たりがなかったのだ。

「くそ…あれは一体何なんだ…!艦船搭載の大口径単装砲は出力が限られる…。方角はマリネア本土…地上配備型の砲台か?それにしてもあの大出力のものはないはずだ…。」

 早く特定しないとあのレーザーの第2波がやってくるかもしれない…マリネアの兵器は全て知っていると自負していただけにアルロスは内心焦っていた。

 しかし全然浮かんでこないアルロスは仕舞いには考えるのをやめてしまった。飛んでくる方向さえ分かれば対処可能と判断したのだ。

「この艦には高出力の反重力防壁がある…それを使えば相殺できる…」

 

 大戦艦シャンデローザ

 一方こちらはというと再び砲戦を仕掛けてきたグランドマスターと光学兵器を用いた殴り合いをしていた。しかしいくら撃ってもキリがなく、終わりが見えない。二人の顔色にも疲労の色が見え隠れしていた。

「何か現状を変えるきっかけがあれば…」

≪お待たせしました、漆黒の艦長さん≫

 聞き覚えがあるその声を聴いた途端、二人の表情が急に明るくなった。

「遅いぞ千歳ぇ…」

 

 大戦艦ロエルエリーザ

「いや~すみません、パーツの交換に手間取りまして!でも安心してください、すぐに終わらせます!」

≪油断しない方がいいぞ≫

「まぁ見ててくださいって…ちょっと無茶しますけど堪えてくださいね。ICBM発射!」

「了解!GLCC-129デューイ発射準備!目標座標セット、起爆高度20000mに設定!射撃用意よし!」

「ミサイルハッチオープン!GLCC-129デューイ発射!ロケットエンジンスタート!」

 その瞬間、艦内で眠っていたICBMデューイのロケットエンジンが点火され、艦中央に設けられたVLSの一区画から閃光と爆音を響かせ、だんだんと加速しながら雲の合間へと消えていった。そしてデューイの発射を確認した千歳はすぐさま命令を下した。

「総員対ショック姿勢!衝撃に備え!!」

 

 航空戦艦グランドマスター

 海中から姿を現したロエルエリーザを見て「また千歳と対峙するのか」と内心複雑な心境だったアルロスだったが、発射されたICBMを眺めて思考を巡らせた。

「何をするつもりだ千歳…あれには弾頭に何を積んでいる?…まさか!反重力防壁展開!!」

 まさにそのまさかだった。ロエルエリーザが打ち上げたICBMは設定高度で炸裂すると、強力な電磁パルスが一帯を襲い、グランドマスターの艦橋はシステムがダウンして真っ暗になった。

 

 大戦艦シャンデローザ

 ICBMが炸裂したと同時にシャンデローザとロエルエリーザにも電磁パルスが容赦なく襲いかかった。瞬時に全てのモニターが消え、全システムがダウンした。シャデルがすぐに状況把握にかかる。

「全システムダウン!全武装応答無し!戦闘継続不能です!!」

「くそ…どうするんだ千歳…」

 そう言ってドーラーは敵艦へ向かってゆくロエルエリーザをじっと見つめた。

 

 大戦艦ロエルエリーザ

 一方こちらもシャンデローザと同じく、各画面がブラックアウトし使用不能になっていた。しかし、シャンデローザほど慌ててはいなかった。

「復旧はのんびりやってくれ、こっちにはアナログがあるからな」

 操舵輪に歩み寄った千歳は力を込めて握り込むと、命令を下した。

「全系統をアナログへ切り替え!」

「デジタルからアナログへ切り替えよし!それにしても、ゼウスでの奇襲から電磁パルス攻撃で相手の電子機器を無力化するとは考えましたね、キャプテン」

「なに、どう有利に戦おうか考えた際に一番真っ先に浮かんだのが相手はデジタルのみ、こっちはアナログデジタル併用だったからな。さすが冷戦に備えて造られただけあるよ」

 持っている舵輪を褒めるようにさすり、よく出来た艦だと称えた。そして目線を自分の手元から窓の向こうのグランドマスターに移した千歳は何処か連絡を取り始めた。

「エルシアさん、第2射お願いできます?」

 

 第零管区特務機関本部

「任せなさーい!今準備するわ」

 千歳との話を終えて受話器を置くと、第零管区特務機関局長のエルシアはホログラムで浮かび上がる射撃操作台に立ち、照準の微調整を始めた。局長である彼女にだけ射撃権限が与えられるこの兵器、正式名称『対隕石迎撃用準無制限射程式大口径光学電子砲ゼウス』は通称『マリネアの雷霆』と呼ばれ、マリネア連合州国がユリシーズ迎撃のために天体望遠鏡の仕組みを転用した迎撃用光学兵器である。弾道上に浮遊式の光学粒子加速器を最大2基まで設置でき、これにより10000kmを射程圏内に収めることが出来る。稼働させるための膨大な電力は同じ施設内にある発電所用永久機関を高出力化したジュピターエンジンMark2を使用している。

 普段は国内最高峰グランマラック山の山頂にある国立天文台の天体望遠鏡としてカモフラージュしながら星を観測しているので、この存在を知る者は少ない。

「地磁気補正、重力加速度修正よし、薬莢内エネルギー充填よし、第2射撃て!」

 エルシアにより引き金が引かれ、最高神の雷は一筋の光矢となって水平線の遥か彼方の戦場へと放たれた。

 

 ソードライン防潮堤近海 航空戦艦グランドマスター

 一方、懸命な復旧作業によりせめてレーダーが使えるようになったグランドマスターでは、アルロスと乗員たちが兵装まで復旧させようと奔走していた。先ほどの電磁パルス攻撃は直前に展開した反重力防壁で影響を軽減出来たものの、今では防壁を展開するのに必要な電力を生み出すエンジンまで停止している。

「やれやれ…電磁パルスで自分を巻き込んでまで攻撃するとは、千歳も無茶をするな……」

 そう呟きながら高電流が流れて焼け焦げた配線を引き出していると、周囲を監視していた幹部から報告が届いた。

「指揮官!水平線から閃光が!!」

「まさか…そんな事が…!!」

 次の瞬間、目をギュッと瞑っていても光を感じる程の凄まじい閃光がグランドマスターを襲った。

 

 大戦艦ロエルエリーザ

 その艦で最高位の席に座る彼の目は、ただ真っ直ぐに容赦ない攻撃に晒される敵艦を見つめていた。そこには悲壮も同情も無く、特にこれといった感情も無かった。千歳はこの心情を「単に仕事だから…」と早々に片付け、ゆっくり瞬きをした。次に千歳が見たものは原型を留めない程大破し、傾いたまま浮かぶグランドマスターの姿だった。

 それを見た千歳はすかさずロエルエリーザの艦首をグランドマスターの中腹に食い込ませて横付けし、千愛海副長や部下と共にグランドマスターに乗り込んだ。そして艦橋を制圧するように言うと千歳は機関室へと向かった。

 

 航空戦艦グランドマスター機関室

 アルロスはおぼつかない足取りで艦橋からの長い道を移動していた。彼の手には千歳たちが探していたブルーメモリーが握られていた。ここで起動しなければ二度とチャンスはないだろう。機関室の水密扉を開け、ビィラスエンジンの主制御盤に歩みを進めると制御盤のUSB差込口に持ってたブルーメモリーを差し込み、タッチパネルとキーボードを操作し始めた。するとエンジンの回転数が上がり始め、カウントが始まった。これでよし…満足したアルロスがゆっくり振り返ると、そこには水密扉を塞ぐように佇む千歳がいた。

「こんなところで何をしてるんですか?例の計画の実行ですか?」

 腰から下がる軍刀に手を添え、千歳がゆっくりと聞いた。アルロスはやれやれ…といった感じで口を開いた。

「どのくらい情報を掴んだ?」

「大半かな…。さぁ教えてもらおうか、残りのすべてを」

 千歳は軍刀のロックを解除し、ゆっくり鞘から引き抜くとアルロスに向けて構えた。

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