自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第31話 野望 対 信念

 航空戦艦グランドマスター機関室

 船体のあちこちで起きる爆発の振動で機関室全体が時より揺れる中、アルロスは制御盤にもたれかかると計画についてゆっくりと口を開いた。

「どこから話そうかな…まずこの計画を立案したのはマリネア王国、それから連合州国に対する失望と、個人的な恨みだ。平和ボケや政治の汚職など、堕落した両国を消すために協力してくれた仲間の中で特に力を貸してくれたのがアリーズ・エンドリッヒ、彼女だった」

「アリーズ・エンドリッヒ…」

 千歳は呟くふりをしてさりげなく音声検索でメンタルモデルデータベースを参照した。マリネア連合州国の初代軍事技術開発局最高顧問であり、海軍で最初のメンタルモデルにして、永い間に渡ってメンタルモデルの中でトップの演算処理能力を誇った人物、それが彼女だった。

「連合州国軍事技術開発局に実験台としていいように使われ、捨てられていた所を当時王国海軍に所属していた自分が見つけ、そこから始まった…」

「なるほど、そんで連合州国と王国への復讐は具体的にどのように?」

「イルマリウスだ」

「…人工衛星の?」

「ふむ、さすがはミリオタなだけあるな」

 イルマリウス…それはかつて天文学をはじめとする数多くの分野で多大な功績を残した科学者セミストリー・イルマリウスの名を冠した演算処理専用の超大型準天頂人工衛星だ。常に多くの処理を必要とするメンタルモデルの演算などの軍事演算から天気予報に使われる気象データなどの民間演算までの膨大なデータを処理できる能力を持つ。連合州国により何度も打ち上げられては宇宙空間で拡張を繰り返し、超大型の人工衛星がマリネアの超高高度に固定されている。

「大きさは駆逐艦並、質量は巡洋艦の主砲4基分の人工衛星…。更にそこへ任意に移動可能な欧州の追跡マーカーが付いた無数のユリシーズの残骸…。それらが落ちてくれば100年前我が国が経験したユリシーズの厄災を更に上回る。それらの誘導システムを起動する為にこいつを必要としたのだ」

 アルロスが手を添えた制御盤の上に目線を移すとそこにはセットされたブルーメモリーがあった。ディスプレイにはカウントダウンが表示され、それが終われば起動可能になることを悟った。

「確かに…それだけあれば連合州国も王国も無かった事にできる…。しかし分からないな。本来国を守るべきはずの軍人がその使命を忘れ、国の平和を脅かすという事が…!」

 思わず千歳の口調が強くなる。だがアルロスも負けじと言葉を荒らげる。

「まだ分からぬか!もうこのマリネアは一度消えないと戻れない所まで来てしまったのだ!!お前も見ただろうこの国の腐りきった政治家を!圧力をかける東西陣営に恐れおののき、防潮堤の中に引きこもり、自国の科学力に陶酔して他国に差を縮められ、せっかく制定した海洋国家条約機構も使わず、同盟国の日本へ技術提供して助けてもらおうとしている!!この国は戦火で消えるしかないのだ!!!」

「あんた、軍人じゃなくて思想家になるべきだったな」

「俺とやるってのか、起動時間までの暇つぶしになればいいか」

 アルロスはそう呟くと自身の腰に下げていた軍刀を素早く引き抜き、床を思いっきり蹴って千歳の背後に回り込んだ。予想を上回る速さに驚愕する千歳をよそに、アルロスは千歳の背中を軍刀の峰で一撃食らわせた。

「ぐぁっ!」

 勢いで吹き飛ばされた千歳は床にうつ伏せになったまま、痛みで立ち上がることができなかった。

「さっきまでの勢いはどうした!口だけか?」

「なぜ…同じ国の…軍人同志で…争う?!軍人としての誇りは…船乗りとしての…信念はァ!!」

 千歳の心からの訴えに応えもせず、アルロスはうつ伏せのままの千歳の背を力を込めて踏みつけた。

「とっくに消えたわそんなもの!この国の腐った連中のせいでな!!俺やアリーズが奴らからされてきたことも知らないくせに語るなよ、階級だけの新米が!!」

「それでもあんたは…他の船乗りの憧れだった…。自分の…憧れだった…!」

「黙れ!あの頃とはもう違う!!今俺を動かすのは恨みと憎しみだけだ!!」

 

 イージス巡洋艦リニアブルー艦橋

 その頃、海戦の様子を眺め、インカムから聞こえてくる千歳とアルロスとのやり取りを聞いていた桜木は、真っすぐを見つめながら隣にいる副長に話しかけた。

「なぁ副長…」

「はい、艦長」

「私は少しばかり、間違った解釈をしていたかもしれないなぁ…」

「と、言いますと?」

 腕を組みなおし、小さくため息をつくと神妙な面持ちで口を開いた。

「なぜ同じ国の軍人で戦う?私はこのような状況を望んでいなかった。アルロスに付いていけばこの国の意識が何かしら変わると思っていたが、そうではなかったようだ。すでに変わり始めていたんだ、かの者が海軍にやってきたことで。私は彼の行動を逐一報告するよう命じられていたが、スピード昇格しただけの新米であっても困難や敵に果敢に立ち向かう様は正に海軍軍人の鑑だ。私達が忘れていた国を守るという使命そのものだよ…」

「確かに、あのお方を見習わないといけませんね…」

 二人で静かに話していると、突然ロエルエリーザによって取り付けられていた電磁拘束が解除された。それを見ていた部下が慌てて桜木に報告した。

「報告!各武装に施されていた電磁拘束が解除されました!」

「こちら通信管制、ジャミングが消えて衛星・本国双方の通信可能です!」

《こちら機関室、拘束解除されました!再点火可能です!》

 突然の報告に何かを察した桜木はすぐに命令を下した。

「機関始動、最大船速!グランドマスターへ急げ!千歳が危ない!!」

 

 航空戦艦グランドマスター機関室

 その頃、千歳はというと長時間に渡りアルロスに足で強く背中を踏まれ続けていた為に満足に呼吸ができず、意識が朦朧としていた。このままではいけないのは分かってるが、体に力が入らない。

 すると突然グランドマスターが何かに衝突されたかのように大きく揺れ、アルロスがバランスを崩した。その一瞬の隙を逃さなかった千歳はすかさず握ってた軍刀でアルロスのアキレス腱を切りつけ、何とか脱出する事が出来た。千歳は更によろめくアルロスに軍刀の柄の端で殴りつけて気絶させるとすぐさま制御盤へ駆け寄り、状況を把握しようと表示内容を一通り確認した。そこには『システム起動中 データ転送38%』と表示されていた。千歳はすぐに止めようと中止ボタンを探したものの見つからず、刺さっていたUSBを引き抜いた。しかし何も変わらなかった。

「…どうしてだ!!」

「無駄だよ、もう起動シーケンスに入った。もう止められない…」

 その声に振り返ると目を覚ましたアルロスがよろめきながらも立っていた。

「もうすぐ計画は実行される。アリーズの手によってな」

「シャデル、この艦の通信マストを破壊しろ!」

《了解しました》

 次の瞬間、艦全体がまた大きく揺れた。声がした方を振り向くと片腕の艦長が立っていた。

「ドーラーさん…!」

「よく頑張ったな千歳、システムが止まらないなら出てる所を壊せばいいのさ」

 その証拠に制御盤に表示されていたパーセンテージは45%で止まっていた。

「おのれドーラー…かつて同じ志を持っていたお前が…なぜ!!」

「確かに同じ志を持っていた…国を守るという志をな。お前が途中で変わっただけだ」

「お前まで…裏切るのか!」

 そう言うとアルロスは勢いよくホルダーから拳銃を引き抜き、銃声が鳴り響いた。しかし、アルロスの拳銃から発せられたものでは無かった。なぜなら…

「…もういいだろ、アルロス」

「桜…木……」

 背中に一発、致命傷を受けたアルロスはそのまま倒れ込んだ。

「桜木さん!?」

 驚く千歳に歩み寄ると桜木はそのまま声をかけた。

「大丈夫か千歳」

「自分は何とか大丈夫ですが…」

「そうか、だが今はゆっくりしてる時間は無い。アリーズは電子化されグランドマスターから脱出した。計画を実行できる権限を持ったままだ!彼女を止めなければまた国の危機がやってくる!」

「どうしてそれを…」

 桜木は倒れたまま動かないアルロスを見つめながらゆっくりと言葉を口にした。

「まぁ…罪滅ぼしってやつだ…。自沈処置をしてここを離れるぞ」

「了解しました…」

 二人はうまく歩けない千歳を両脇から支えながら、傾斜が酷くなる艦内通路をゆっくり歩いていった。度重なる爆発と燃え盛る炎で包まれた機関室に動かなくなったアルロスを残して…。

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