自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第6話 青より藍き海

 12月10日 ゴールドライン海軍基地

 ゴールドマリン基地からゴールドライン基地に拠点を移した海藍(かいらん)艦隊。その艦隊唯一の所属艦、大戦艦ブルーエリアがゴールドライン基地に入港した。しかし、基地の建物の見た目はボロボロ、桟橋などの設備も使われていないのは明らかだった。

「一体、何しに来たんです?」

 すっかり回復した千歳が老朽化した桟橋に降り立ち、後から降りてきたアルロスに質問した。

「まぁ、見てな。新生海藍(かいらん)艦隊の始まりだ!」

 そう言うとアルロスは司令部だったと思われる廃墟に力強い足取りで歩き始めた。千歳も仕方なくアルロスについていった。

 

 ゴールドライン海軍基地旧司令部管制塔

 司令部の管制塔にやってきた一同。この基地は航空機用の滑走路もあるため、各艦隊への命令はここから発令するようになっている。

「電源入れますよ~」

 ミゼッタの合図と同時に管制塔にある計器の全てに光が灯った。無線台と思われる物にゆっくり近づいたアルロスは、うっすらと液晶画面に積もった埃をさっと払うと操作を始めた。

「まだ計器は生きてるな…」

「でも既に旧型の計器ばかりです。レーダーだってGEWSにリンクされた最初期のバージョン…。使うには最新のものに入れ替えないと…」

 そんなアルロスとウェイクのやり取りを聞きながら千歳は管制塔を探索していた。すると、過去に使っていた物だろうか?壁に掛けられた所属艦隊運用盤を見つけた。所属艦隊運用盤とは所属する艦隊の活動状況が一目でわかるようにした電光掲示板である。千歳は運用盤の艦隊名に気になる名前を発見した。

海藍(かいらん)艦隊…?以前所属していたのか?」

「おぉ~運用盤か~!懐かしいな~」

「これ、アルロスさんの艦隊ですか?」

「あぁ、そうだ。艦隊が最盛期だった頃のな」

「昔ここに所属していたのですか?」

「あぁ」

 そこからアルロスは海藍(かいらん)艦隊の過去を話し始めた。

 

 話は1960年の冷戦まで遡る。アメリカとロシアに挟まれた太平洋の島国マリネアは近い将来自国に被害が及ぶのを恐れた。いつ第3次世界大戦が勃発してもおかしくなかったからだ。そこで当時仲が悪かった海軍と空軍が何度も話し合い、大規模な海上戦力と航空戦力を併せ持った大艦隊をそれぞれの分隊に分けて運用することで合意した。これが海藍(かいらん)艦隊の前身の国防第1艦隊だ。

 しかし冷戦が終結した1990年、国防第1艦隊はその力を持て余すようになった。いずれ起こるとされた核戦争から国を守るために結成された艦隊だったため、100%稼働しきれてなかったのだ。その後海軍上層部の判断により国防第1艦隊を解体、複数の艦隊に分裂した。そのうちの一つが国防第1艦隊で最も優秀だったアルロス・マーリン率いる所属艦20隻、航空機330機から成る海藍(かいらん)艦隊だった。

 海藍(かいらん)艦隊は国防第1艦隊解体後、演習の一環である軍港奇襲で5年連続トップに輝くなど目覚ましい戦果を上げていた。しかし海藍(かいらん)艦隊内部で事件が発生し、その責任を負うために艦隊は解体、アルロスは降格処分を食らったのだ。

 そうして更に縮小した海藍(かいらん)艦隊が現在の状態と言う訳なのだ。

 

「ざっとこんなもんだ」

 レーダー画面に積もった埃を掃除しながらアルロスが艦隊の過去を話した。そしてレーダーから再び無線台に歩み寄ったアルロスはさらに付け足した。

「だからもう一度やり直すんだ。だから俺たちはこの始まりの基地へやってきた」

「どうやって…?」

「まずは、艦隊の再招集から始めないとな!」

 受話器を口元まで持っていきながらチャンネルを『海藍(かいらん)艦隊』に合わせたアルロスはアリアとアイコンタクトを取り、アリアに送信開始ボタンを押すように促した。そしてアルロスはしゃべり始めた。

「元海藍(かいらん)艦隊の諸君、久しぶりだな。海藍(かいらん)艦隊元司令のアルロスだ。君たちに伝えたいことがある」

 

 ソードライン防潮堤外洋

 その頃、洋上にぽつんと停泊する黒塗りの戦艦の主砲砲塔に腰掛ける艦長が無線から聞こえる海藍(かいらん)艦隊元司令の言葉に耳を傾けていた。

≪本日をもって海藍(かいらん)艦隊は復活を宣言する。再び艦隊に所属したい者は…≫

「…いよいよ海藍(かいらん)艦隊が復活か。艦隊を再結成して何するんだ?アルロス」

 艦長はそう言うとゆっくり立ち上がり、マリネア海軍制服の上着をなびかせながら歩き始めた。そして腰に下がっている無線機を取ろうと左手を使おうとしたが、ある事に気が付いた。

「あぁ、そういや左手なかったんだっけか」

 左腕が通っていない海軍制服の袖をさすりながら彼は呟いた。ずいぶん昔から無かったはずだが、つい左手を使おうと意識してしまう。彼は右手で改めて無線機を取ると艦橋に連絡を取った。

≪艦長、どうしましたか?≫

「もう少しマリネアに近づこう。何かしら動きがあるようだ」

≪潜航しますか?≫

「いや、今はその必要はない。海賊を見つけたら潜航する」

≪了解しました。抜錨、機関始動します≫

 通信が終わるとエンジンが点火して始動する音と振動が艦全体に響き渡った。やがて最大速力に達すると目的地に針路を取り、波を切り裂きながら航海を始めた。

 

 北極海、戦艦アイギス

 厳冬期を迎え、激しいブリザードが容赦なく吹き付ける北極海に戦艦が一隻停泊していた。長い間ブリザードを横から食らい、氷で閉ざされた海に若干傾いたまま浮いていた。何も知らない人から見れば遭難したまま北極海をさまよい、消息を絶った幽霊船にも見えるがそうではない。通信マストに凍りついた連合州国旗と連合州国海軍旗がただ者ではないことを伝えていた。外気温との温度差で結露した窓に歩み寄り、外の様子を伺いながら戦艦アイギス艦長のエリンゼ・ケンベックは無線から聞こえるアルロスの声に耳を傾けていた。

《再び艦隊に所属したい者は、明日日没までに元海藍(かいらん)艦隊の拠点だったゴールドライン海軍基地跡地に明日の日没までに来てくれ。》

「やっと海藍(かいらん)艦隊が復活ですか、集合しなくていいんですか?」

 副長がゆっくりとエリンゼの背後に近づき、窓の外を見続ける背中に問いかけた。

「いや、俺は行かない。今は火狐(こぎつね)艦隊の司令だ。遠くから見守ろう」

「了解です」

 エリンゼが窓際から離れた瞬間、戦艦アイギスに通信が入った。それに通信技師が応答する。

「こちら戦艦アイギス。…はい、艦長ですね。艦長、戦艦カリバーンの瑞之瀬(みずのせ)艦長から連絡です」

「ふむ、応えよう」

 そういうと自分の席に着いたエリンゼは受話器を取り、瑞之瀬(みずのせ)からの連絡に応答した。瑞之瀬(みずのせ)はマリネア連合州国海軍の国防主力艦隊である、現在の『国防第1艦隊』として旗艦である戦艦カリバーンに乗り、主に防潮堤近海の警戒にあたっている。アメリカ海軍で言う日本防衛主力担当の第7艦隊といったところだろうか。

「こちらアイギス艦長、エリンゼだ」

≪お久しぶり、エリンゼ艦長。瑞之瀬(みずのせ)奏海(かなみ)です≫

「あぁ、久しぶりだな。ところでどうした?連絡してくるなんて珍しいじゃないか」

≪えぇ、実は今キャンベルマリーネが危機的と言っても過言ではない状態なんです。なので一旦本国に戻ってきてほしいのです。≫

「危機的状況?何かあったのか」

≪はい、ソードライン防潮堤がイギリス艦隊に突破され、迎撃に向かったイージス艦が撃沈。その後大戦艦ブルーエリアが迎撃しました。今は防潮堤外の情報収集よりも本国の防衛が優先です≫

「了解した、急いで本国に向かおう」

≪海軍大将の救援、お待ちしております≫

 そう伝えた瑞之瀬(みずのせ)は無線を切った。一連の流れを今知ったエリンゼは動揺を隠しきれなかった。それを見た部下が尋ねた。

「艦長、何かあったんですか?」

「…防潮堤がイギリス艦に突破された」

 それを聞いた瞬間、艦橋内がざわついた。マリネアにとって防潮堤を突破されたという事は防衛対策を1から練り直さなければいけなくなる事態と言っても過言でないくらい国防にとって重大な事なのだ。しかし今は動揺している場合ではない。一刻も早くここから抜け出して本国に行かなければ…。だが、戦艦アイギスの周りには分厚い氷がびっしりまとわりついて動くに動けない。

「航海長、現在地から氷の境界までどれくらいの距離がある?」

「1km弱です」

「よし、砲雷長。全武装射撃用意、標的は本艦周囲の氷だ」

「ここは北極圏です!北極圏での武装使用は国連決議のより禁止されています!」

「構わん、どうせ我が国を邪魔者と思っている国連だ。北極圏にマリネア海軍艦がいたってだけで何か言われるに決まってる。どうせだ、武装も使っちまえ」

「…了解、撃ちます!」

 次の瞬間、全ての武装が火を噴き、砲撃音と砕氷音が周囲に轟いた。それと同時に氷と艦の固着がなくなり、無事に水平に戻った。あとはひたすら氷の境界を目指すだけである。

「主砲、第2射射撃準備。砲撃で水路を作れ」

「了解です、砲撃始め!機関微速全身!」

 今度は前方に砲撃を行い、着弾した場所からひび割れを起こし、それを大きくして水路を作った。艦がゆっくり進み始めた瞬間、乗員がほっと胸をなでおろした。こうすれば氷海でも航海することができる。

 やがて氷海から抜け出した戦艦アイギスは最大速力まで加速し、一路マリネア本国を目指した。5年ぶりの帰国を果たすために…。

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