《コウリュウ。着信だ》
ある朝、ちょうど出勤手前の事だ。コウリュウのデバイス、ガンロックが何者かからの連絡が届いていることを知らせてきた。
半透明ディスプレイに映し出される名前は、現在ミッドチルダ地上部隊(陸)にて部隊を設立するために必要な様々な知識を勉強している八神はやて。
最早、知らない中ではなかったので、すぐに開くよう机の上に転がっているガンロックに指示すると、読んでいた新聞を机――ガンロックの隣に置いた。
『おはよー、コウくん。ゴメンな、こないな朝早くに・・・・・・ちょっと確認したいことがあるんよ』
「構わん、さっさと言え」
『・・・・・・相変わらずドライ。こほん、あのな? この前、コウくんはなのはちゃんとフェイトちゃんの家に行ったやろ?』
「行ったな、それで?」
ちなみに、行ったのはミッドチルダで住んでいる家ではなく、なのはとフェイトの実家だ。
それぞれの実家では、当然、各々の家族が住んでいるわけで・・・・・・更には二人の友人までやって来たこともあった。まあ、色々と面倒極まりない目にも遭ったが、割愛しておく。
『そういえば、私の家族を紹介してないって思うてな』
「そうだったな。ザフィーラはお前が連れていたのを見たことがある、他はあのチビだけだ。いつだったか話だけは聞いていたが、あとの三人とは結局合わずじまいだった」
『そや。と、いうわけで・・・・・次の休みの日、来るか? 女の子ばっかりでちょっと窮屈やと思うけど、ザフィーラもおるし』
「女ばっかり、って言ったら、お前らと駄弁っているからあまり気にはならん。あとザフィーラは狼、動物だろうが。オスだろ、男にカウントすんな」
『ふっふー。それに関しては、私の家に来てからのお楽しみやでぇ!』
「・・・・・・ウゼェ」
得意げに胸を張り、人差し指をビシッと俺に向かって指してくる。
――あとウィンクをしようとするな、できてねぇから。
『ま、そういう事やから。楽しみに待っとるでー』
「なるべく早く行く。さっさと切れ時間がねえ」
「ああん、いけず――」
それまではやての顔を映し出していたディスプレイが途端に静かになる。もちろん、コウリュウが痺れを切らして無理やり回線を切ったからなのだが。
――ふと、机の上でチカチカと自己主張をしているガンロックが視界に映った。
《よう色男》
「・・・・・・なんだ」
《・・・・・・一つ、妙な事をレイジング・ハートから聞いていてよ》
「時間ねぇから、掻い摘んで話せ」
《はやての嬢ちゃん、ヴォルケンリッターっていう、ボディーガード的な家族がいるだろ? その中に、すっげぇバトルマニアがいて、そいつに目ェ付けられるとお互いボロボロになるまで戦うことになるって・・・・・・》
「ン、それがどうした?」
《・・・・・・俺、まだブッ壊れたくねぇよー! うわぁぁー!》
突然、前ぶりもなく大きく機械音声を張り上げたチキンデバイスは、これ以上ないほどにビビっていますとでも言いたげに、態々バイブレーション機能までフルに使ってブルブル震え、高速でチカチカと点滅し始める。
下に固いものを敷いている状態で震えているせいで、微妙に振動しながら移動している辺りが気持ち悪い。ここまで来ると、なんか別の――地球で見た黒いアイツのようにも感じられる。
《頼む、コウリュウ! 頼むから俺のフレームはこの際、せめて内部機構だけは――ぁ゛》
「黙ってろゴキブリ」
《おわああぁぁぁぁ――――! ごばぅ》
紫色の本体をいつまでもチカチカと光らせるカードを引っ掴み、後ろに向かって無造作に放り投げる。
尾を引いて悲鳴を上げ、宙を舞うガンロックは、地球の夏祭り以来飼っている金魚の住処である水槽へとダイブ。
我が家を荒らすな、とでも言いたげに金魚たちに突っつかれるガンロックの様はなんだか哀れで、少しやりすぎた感も否めない。が、同時にいい気味だと思う。
朝っぱらから喧しく喚きやがって、そのまましばらく反省しやがれ。
ちなみに、コウリュウはガンロックを後でちゃんと拭いてやったのだった。
□
「ようこそ、八神家へー!」
「ですー!」
約束の時間通りにピッタリとはやての自宅へやって来たコウリュウは、呼び出した張本人であるはやてと、その融合騎リインフォース・ツヴァイ(略してリイン、もといチビ)の出迎えを受けていた。
「待たせたか?」
「ええねん、ええねん。これから作るとこやしー」
「ふっふー。期待しておくがいいです。はやてちゃんの作るお料理はまさに天下一品! 日頃デレないコウさんは、あまりの美味しさにほっぺ落っことしてメロメロになるがいいですよー! ふっふふ――――――ふにゃ」
「・・・・・・日頃はやての飯を食っているお前のコレはさぞや落ちやすいんだろうな?」
「いふぁい、いふぁいれふふぉふぉーふぁーん!(痛い、痛いですよコウさーん!)」
無造作にリインの頬を引っ掴み、そのままキリキリと抓るコウリュウ。
実は割と結構な頻度で交わされる応酬を間近で「和やかやわぁ」と見ていたはやては、途中ではっと我に返って「どうどう」とリインを救出するべく行動した。
「こっちや」
「ああ、上がらせてもらう」
「・・・・・・ほっぺ、絶対あかくなってるですぅ」
玄関でブーツを脱いだコウリュウは、はやてとその肩に乗って頬をさするリインの案内でリビングルームへと入った。
流石に大家族とだけあって、部屋の面積が多く取られている。コウリュウの実家であるナカジマ家も相当なものだが、こちらはそれに輪をかけて広い印象を持った。
“陸曹の俺より上の階級に座るだけのことはある。給料の差が開くだけでもここまで違うとはな・・・・・・”
はやての、この時点で階級はコウリュウのそれをとうに越えている。コウリュウの父ゲンヤも喜んでいた。そうは言っても、実際二人の関係は現在も同じ。それぞれ、公式の場ではない限りいつも通りの砕けた口調で会話をしている。
陸曹の分際で上官(主になのは、フェイト、はやて)にタメ口をきくコウリュウもコウリュウなのだが、この場合もちゃんと公私は弁えている。子供じゃないのだから、そんな事如きでフラストレーションなどは蓄積されない。
“しかし、広いな”
ただ、現在住んでいる隊舎が狭いせいでちょっと羨ましいのであった。
「――――――?」
「・・・・・・・・・」
ふとコウリュウは自身へ向けられる視線を三つほど感じた。いや、正しくはもう一つあるのだが、その三つが極薄ではあるが警戒の色を帯びているため、そっちの方を優先的に数えてしまったのだ。
視線の先――ソファに座っていたのは茶髪のどこか勝気そうな少女。ピンクブロンドの髪をポニーテイルにした凛々しい顔付きの女性と、柔らかく微笑むショートカットにした金髪の女性。三人とも、世間一般で言われる美少女や美女と言われそうな容姿をしている。
驚くべきは微笑みながらも最も警戒度の高い意識を向けてくる金髪の女性であろうか。そんな器用な真似はできないコウリュウはその器用さを心の内で称賛しながらも、とりあえずは要らぬ警戒を解いてもらおうとする為に、まずは定石の手段をとることにした。
「食事に呼んでくれて、礼を言う。既に聞いている者も居るかもしれないが・・・・・・俺はコウリュウ・ナカジマ。父が世話になっている」
コウリュウの自己紹介を聞いてか、三人は居住まいを正し、
「このような姿勢で済まない。私は、主はやての守護騎士(ヴォルケンリッター)が烈火の将。シグナムだ」
「同じく、鉄槌のヴィータ。趣味は、はやての故郷でやっているゲートボールだ。あとアイスは好きだぞ」
「こちらこそ、いつもはやてちゃんがお世話になってます。私は泉の騎士、シャマルです。お料理を頑張っているので、よかったら食べてね~」
「・・・・・・・・・・・・」
「ああ。よろしく」
一瞬だけ不穏な空気が流れた、なにか他人を気遣うような、同情するような空気が。
それはともかく、とコウリュウはいつまでも立っているわけにも行かないのでダイニングテーブルを見やる。
とにかく席につこう、と動こうとしたところで「そういえば」とはやてに振り返った。
「はやて。俺はどの席に着けばいい?」
「呼んだの私やし、隣でええやん?」
「それもそうか。・・・・・・ン、そういえばザフィーラの姿がないが――」
「ここだ」
「人化・・・だと・・・?」
「ふふん。驚いとる驚いとる・・・・・・!」
気がつけば、ちょうどはやての後ろに続く形で褐色の肌と犬耳が特徴の大柄な男が居た。
確かに、言われてみれば・・・・・・声と雰囲気であのザフィーラであることは分かる。
「お前、そんな便利な魔法持っていたのか。俺は知らんぞ」
「普段は主の魔力節約のため、ああしているだけだ。それにこれからのことを考えると、元の獣の姿の方が色々と便利性があるからと主に指示された。曰く、ルールのちょっとした穴を使った反則と、」
「それ以上はいけないわ、ザフィーラ」
「・・・・・・すまん」
不穏な言葉が飛び出してきたところでシャマルからのストップがかかる。
言いすぎたことがわかったのか、ザフィーラは軽く咳払いをして謝った。
とにかく色々状況を理解したコウリュウは、先に着いていたはやての隣の席に座る。ほかの面々も、各々の席に着いた。
「はやての料理はギガウマだぞ」
“フン、手並みを拝見させてもらう”
ヴィータの言葉を受ける。身近に住む者からの肯定的な言葉は身内心から来ることが多いが、さて。
珍しく箸を使う風習はナカジマ家でも同じ、なのでなんら不都合なく食事をはじめることができた。
パクッと料理を口に入れた。その感想は――――
“なるほど、確かにコイツはギガウマだ”
普段マトモでない言葉に否定的なコウリュウだが、この時だけはこの言葉で褒めてもいいかもしれない。そう思えた。
――――本人が実際に口に出すと言われれば、それは疑問であるところなのだが。