あの散々だった航空火災から四年もの月日が経った。
コウリュウのその後の調査でも結局僅かな手がかりを掴んだ程度で、肝心の犯人逮捕にまで至ることはできなかった。
なのは、フェイト、はやての三人やクロノ提督といった面々のみならず、はやての知人騎士カリムを伝手に査察官まで手を貸してくれたのにはさすがのコウリュウも驚いたものだ。
しかし、それほどのメンツを揃えても尚尻尾を掴ませない“彼ら”、その組織力。
《こりゃ、デカいバックが付いているってことで間違いなさそうだなぁ》
「分かっていたが、キナ臭い事になってきやがる・・・」
実は、それら云々、当時その犯人らしき人物と接触した唯一の人物であるコウリュウが追うという形となってしまっていたのだ。
各管理世界のみならず、管理が異世界にまで研究所らしきラボを幾つか発見し、潰してきたが、そのどれもが毎回ハズレを掴まされ続けている。まるで測ったようなタイミングで、どれもが直前に撤収したかのようなものばかりなのだ。
「情報伝達の遅れならやむを得ん、とも言いたいが」
《そればっかりはどうしようもねぇし、でもよぉ》
「それが毎回続くとなれば違和感も覚えるというものだ。まあ、それも今回のアレがまっとうに機能さえすれば、何れ解決に向かうだろう」
《だな。なんせリミッター有りとは言えオーバーSランクてんこ盛り、そんでもって例によってあのクロノ提督やら騎士カリムのバック付き部隊ときた。この前、フェイトちゃんが掴んでくれた情報とかあるからな。こっからは、気ィ張り続ける必用はねえと思うぜ?》
「だといいがな」
口に咥えた煙草を指で挟んで離し、紫煙を吐き出しながらぼやく。
と、予めセットしていたアラームが、喫煙所内部に鳴り響いた。
「時間か」
遅れるわけには行かないと、コウリュウは手早く灰皿へと煙草をねじ込み、席を立った。これから部隊挨拶だ。
□
「スバル・ナカジマ二等陸士です!」
「ティアナ・ランスター二等陸士であります!」
「聞いている。俺はコウリュウ・ナカジマ三等陸尉だ。よろしく頼む」
「はい!」
威勢良い返事を寄越す、目の前で敬礼をしている二人の少女。
八神はやてによる部隊長の挨拶を聞き終えたコウリュウは、部隊の新人との顔合わせを終わらせようと考え、まず訓練を終えたばかりのフォワード部隊のスターズ分隊――なのはの部下に会っていた。
「久しぶり、兄さん!」
「お久しぶりです」
「ああ、覚えているようで助かる。これからも公の場以外ではその態度で構わない。・・・・あと、お前たちの試験の様子を見させて貰っていた」
それを聞いて意外だったのか、ふたりは目に見えて緊張を表情に表す。
コウリュウは一時期、二人の訓練を見てやったことがあったが、そのことが思いのほか堪えていたらしい。
なのは曰く、およそ通常の局員に課せられるようなメニューではないとのことだったが、ゼスト隊ではよくあることだったので無視した。
「およそ出来の悪い点はなのはと試験官をやっていたチビに言われたのだろう、何度も言わん。それよりも、この場に立っているということは、それなりに出来ると太鼓判を押されたということだ。だが、それはスタートラインにたっただけに過ぎん。聡いお前たちならば天狗にならんことも知っている。だから危惧していることはひとつだけ・・・訓練で出来んようなことは実戦ではまず出来ん。やろうとすれば、それは自分の領分を超えた馬鹿だ。そうした奴、そしてそいつの身近に居る奴からさっさと死んでいく。覚えておけ」
なのはやフェイトは、こういったことを直球には言わない。やれ、そうすると危ないだとか、誰それに迷惑が及んでしまうだとか、そういった、オブラートに包んだ言葉をよく使う。
それでは生温い。それにそんな気遣いはそもそも余計だと、以前から二人ないし三人には言い続けているというのに・・・。コウリュウはやや呆れ半分に、彼女たちの言葉を思い出していた。
“死ぬ”という物騒なワードが効いたのだろう。二人の瞳には真剣なそれが宿り、互の顔を見合わせている。
図らずとも効果がありすぎたようだ。そうなるように言葉を選んだコウリュウだったが、思いのほか二人が真剣に悩みすぎている。これでは、訓練にも支障を来たしてしまうかもしれない。
「まあ、そうならないために高町なのはという教導官が居る。存分に頼ってやれ。なかなかハードだが、アイツに習えば技術云々はうまく矯正して、良いところは伸ばしてくれるだろうからな」
「・・・は、はい!」
再度威勢良く返事をした二人は、ちらりと時計を見ると時間なのでと足早に訓練場へと向かっていった。
段々と遠くなっていく二人の背を見送ったコウリュウは、折角だから、訓練の様子でも見に行こうと考えた。
「屋上にでも行くか」
やはりこの場所に限る。気軽に煙草で一服しながら見ることができるし、なにより、なのはに巻き込まれなくて済む、と思う。
「む、コウリュウ。お前も来たか」
「よっ!」
「お前らか」
今日はどうしたというのだ。同じ隊舎なのだからということもあるだろうが、それにしたって、今日はよく人と出会う。
コウリュウより早く屋上へとやってきていた、目的は同じらしい二人――シグナムとヘリパイロットのヴァイス・グランセニック。
シグナムは以前、はやてに食事会に誘ってもらってからの付き合いとなる。ヴァイスは、四年もの間に一時期共同で任務に当たっていたことがある。その時からの腐れ縁だ。
ヴァイスはその持ち前の気さくさから、あまり悪い印象は聞かないし、コウリュウ自身も特別嫌ってはいない。銃器型のデバイスという共通の話題もあり、同時に飲み友でもあるからだ。
反して長い付き合いとなるシグナムは、実はある一件以来苦手である。以前、戦技披露会なる催し物に半ば強引に誘われてフェイトも道連れに参加させられたところ、タッグ戦でクロノ提督に使用を厳禁されているとあるデバイスがなければあまりにも半端な攻撃力しか持たないコウリュウに、容赦なくファルケンをぶっぱなして死に目を見せたのだ。当時は結局勝敗もどっちつかずではあったが、コウリュウ自身にとっては散々な結果であった。
もう二度とやらねえと声高に宣言してやりたいところではある。しかし曖昧なまま終わるというのも、かなり癪だ。
何れは再戦と洒落込みたい所存である。勿論、禁止されているデバイスも解禁させて、なのは風に言えば全力全開で。
問題はそのデバイス解禁がいつになることやらという話なのだが・・・。
「――い。おーい、聞いてっかー?」
「・・・・あ?」
「あ? じゃ、ねえよ・・・ったく」
「グランセニックは、お前から見てあいつらの出来はどうだ? と問うていたのだ」
呆れて言葉を失っていたヴァイスの代わりに、シグナムが補足し、コウリュウが聞き逃していた言葉を代弁してくれた。
その質問に応えるべく、コウリュウは視線を機動六課訓練スペースへ――そこでドンパチやっている青、橙、赤、桃の四色の少年少女達へと向ける。
「出来もなにもあるか。こんな初日で、一朝一夕で身に付くようなものがアイツの訓練な筈がないだろう」
「うへぇ・・・。相変わらず辛辣なこって」
ヴァイスは若干身を引いて言った。顔も引き攣って見える。
なのはが実践している訓練メニューは、基礎をしっかりと固めてそれを強固な土台とし、そこから応用という形で積み上げていく、それを特に重視したものだ。
彼女の過去の失敗があるからこその堅実な訓練。見ようによってはかなり地味な部類に入り中々成長していないようにも感じられるだろうが、そもそもあのフォワードの雛共の年齢を考慮した場合至極当然の処置で、先も言ったが、一朝一夕で身につく筈がない。身に付いたと感じているのなら、それはただの勘違いだ。
そんな奴は決まって実戦下に置かれると咄嗟のイレギュラーな事態に対応が追いつかず狼狽し、手拍子ひとつ後には体のどこかから鮮血を上げている。そうは成って欲しくないものだと考えているので、連中に課しているメニューを恐らく夜遅くまで考えた証拠である隈を化粧で隠し切れていないなのはに感謝の念も浮かぶというもの。
(今度、どっかで奢ってやるか)
その機会には妹と妹分の二人の面倒を見てもらっている一人の兄貴として、労ってやることにしよう。
そんなことを思いながらだったからか、無意識になのはの方へと視線を動かしていた。
信じられないことだが視線に気づいたらしいなのはが、こちらを恐らくレイジング・ハートに確認を取らせたのだろう――明らかにコウリュウに対して手招きをやっていた。
《お。呼ばれてんぞ、コウリュウ。大方、新人との相手とかじゃねえ?》
「・・・・ったく」
ガンロックからの念話に冗談じゃねえ、と返したコウリュウは足早に屋上を去ることにした。
振り返り、一直線に下の階へと続く階段へと向かう。
すると、目の前にヴンと半透明ディスプレイが浮かぶ。案の定、繋げてきたのはなのはであった。
「無視はひどいと思わない?」
「ヴィータ教導官と同じ意見ということで、辞退させてもらう」
コウリュウがハンマーチビと呼ぶ彼女は、自分よりなのはの方が最初の基礎を叩き込むことに関して秀でていることを自覚しているため、新人たちが多少無理の効くようになるまでは出向かないと決めているようだった。
なんでも加減が中々効きづらく、つい勢い余ってやり過ぎてしまうらしい。
確かに彼女の持つ愛機グラーフ・アイゼンの突破力は並々ならんものである。コウリュウは以前ラウンド・シールドで受けて体感したことがあったが、一部を護る障壁としては上位に当たるそれでも、ヴィータの攻撃で亀裂を入れられ次の瞬間には粉々にされたほどだ。
「うーん、残念。じゃあ、また今度ってことにしといてあげようかな」
「話が分かるな」
頑固な彼女としては珍しいことだ。
「じゃあ後ほど隊長陣の訓練には参加ねー」
「――――な、おい!」
(――切りやがった・・・・)
静かになったディスプレイを消し、コウリュウはやや曇った表情で医療室へと連絡を入れた。予約を入れるためだ。
連絡をして出たのはそこの主任シャマル。
「あら、コウリュウくん? 予約コードだけど、どうしたの?」
「後ほど、怪獣大決戦だ。どっかの提督に兵装を制限されている一兵士としては、万一に備え医療ベッドの用意を頼みたい」
「ああ・・・そうなの・・・」
コウリュウの言葉の意を汲み取ったシャマルは、画面越しに同情の篭った視線を向けてくる。
「なら、念の為にあと四つは空けておくべきかしらね・・・」
「それも含めて、頼む」
どうせ全員無事に済むまい。いや、流石にこの非常事態の最中だ。無理などするはずもなかろう。しかし、少なくとも無事には帰れないと踏んでいた。
コウリュウは気合を入れるため、自販機で購入したジンジャーエールを飲み干した。
ミッドにジンジャーはあるのか・・・・いや、ありますって。きっと文化とか入ってますって(滝汗)