後半は意外な人物の視点でお送りします。他から見たコウリュウってどんな? と考えた末に出てきた代物。
「・・・・・・痛ぇ」
見るも無残に窶れた表情のコウリュウは、一日の、主に訓練場での一件の疲れた肉体を癒してやるためにシャワールームへとやって来ていた。
気合を入れて、いざ往かんと向かった訓練場。そこに待ち受けていたのは、文字通りの鬼か怪獣の類、それも三体であった。形式はバトルロワイヤル。この瞬間のコウリュウにとって、更に鬼門である。
必死に戦った。コウリュウは最初の様子見程度のシューターや剣撃が放たれる最中、空気を読まずに全力で相手を潰しにかかっていた。ジャブ程度に、と気を若干程度でも抜いているその時が、四人中最弱である己の、もしかすれば最後のチャンスかもしれなかったからだ。
汚らしいと蔑まれても仕方のない、完全な不意打ち。上等である。そんな下策ですら、彼女達には届かなかった。
先ず、即時に対応してみせたのはシグナム。大昔から経験を積んでいる守護騎士の身にとって、所詮は浅知恵でしかなかったコウリュウの闇討ちは、呆気なくいなされた上で返し技を叩き込まれることになった。
堪らず躱し、その後迫り来る追撃に命からがら無事逃れることができたコウリュウ。しかし、空中に身を晒してしまったことが失策であったと気づく。次の瞬間には桃色のバインドが体に巻かれ、見上げた先で帯電した大剣を振りかぶるフェイト、そして収束砲撃の構えをとっていたなのはが視界に映った。
潔白ななのはとフェイトの嫌う汚い手を使ったことである程度予想は出来ていたが、余りにもあんまりな連携であった。後ほど、なぜ真面目に正面からぶつかって来なかったのかと問いただすメールが送られることになるが、こうまで綺麗に決められるとそれも無意味な気がする。
直後放たれる合体攻撃。どうせ避けても下からシグナムに殺られるだけだと諦観し、コウリュウは襲い来ると予測していた激痛に備えて歯を食いしばった。
結果、ボロ雑巾のようにになったコウリュウは開始数秒程であっという間に撃墜し、リタイア。痛みに軋む体を引きずって安全圏まで移動してからメールをなのはに送り、いち早く抜ける旨を伝えた後にシャマルの所にお世話になっていた。
その後、現在のコウリュウに至る。
「――ッ! あいつら、ちっとは手加減しやがれって――――づうッ・・・・・・!」
《・・・・・・申し訳程度に謝罪のメール来てるけど、返すか?》
「要るかッ!」
《・・・・・・》
念話越しに話しかけていたガンロックは、取り敢えず主の気が収まるまでは黙っておくことにしたようだった。
均整のとれた肉体を洗っていくコウリュウ。ふと、入口の扉を開ける音が聞こえた。
ここ機動六課には所属している男性局員の数がとにかく少ない。聞こえる足音の感覚が狭いことから、ある程度判別は出来た。
「あ・・・・・・コウさん!」
声の主は案の定、フォワードメンバーの一人、その中で唯一の男子。エリオ・モンディアルだった。
エリオとは、もう随分と前から顔を合わせている。彼がフェイトに保護される、それすら以前。施設で酷い扱いを受け心も荒んでいた時だったと、コウリュウは思い出す。
触れれば刺す。そんな雰囲気がぴったりと当てはまるようだった当時のエリオと出会った。瞳も澱んでいて、まるで自分以外は皆信じるに値しない奴らであると考えているとひと目で解った。路地裏生活を強いられていた昔の自分を見ているようで、当時のコウリュウは気分が悪かった。そして、どうしても他人の気がしなかったのだ。
だからなのか、積極的に様子を見に行っていたコウリュウ。結果として、年相応の元気を取り戻したエリオに、随分と懐かれてしまったのだ。
エリオは背の高い為に仕切りから覗くコウリュウの金髪を見つけたらしく、コウリュウが使っているシャワー室の隣に入り、蛇口を捻る音を鳴らした。
「訓練は、どうだった?」
「なんとか着いていけそうです。高町教官・・・・・・いえ、なのはさんの教導は理解しやすいですし、なにより子供の僕達にも分け隔てなく接してくれて、とっても感謝しています!」
「そうか」
背伸びした子供らしくハキハキと答える声は、狭い室内によく響いた。
コウリュウは、初日にしては良い感じにスタートを切れたのではないかと思う。
「動きは中々だが、まだまだ伸ばしていけ。それこそ、お前の保護者を撃墜させてやる意気込みでな」
「は、はい・・・・」
「こうなりたくなかったら、必ず肝に銘じておけ」
「はい・・・・・・」
コウリュウにしては珍しい自虐ネタ。彼の惨状を偶々廊下で会ったシャマルから聞いていたエリオは、少し身震いしていた。
「そういえば」
ふと、思い出したように声を上げるエリオ。
「コウさんって、六課ではどのような立ち位置なんでしょう?」
「ん、伝えていなかったか」
「はい。 訓練をしていらしたので、スターズかライトニングのどちらの配属なのか、気になってしまいまして」
「形式上は、そのどちらでもない」
「そうなんですか!?」
「嘘を言ってどうする」
事実、コウリュウはふたつの分隊のどちらにも所属はしておらず、遊撃を主としたビュレットという分隊名に所属ということになっているのである。
元よりチーム戦自体が苦手、もっぱら個人戦オンリーの男だ。はやてもそれを承知で用意しておいたのだろう。六課転属時に司令室に挨拶に向かったところ、早速そのように通達を受けていたのだ。
組織に所属している以上、チームでの連携は避けられないことなのだが、それを含め、訓練時では手加減なしで教導するとなのはも豪語していた。
「そういうことで、俺はただ一人の分隊という訳だ。だが、」
コウリュウはシャワーの栓を捻りお湯を止める。
「以前、本局の方で演習を受ける機会があった。そこで集団同士での戦い方について色々と叩き込まれた事がある。だから知識はあるし、別にどうしてもやる気がない訳ではないんだが・・・・」
それでも、コウリュウはチーム戦が苦手であるということに変わりはない。こればっかりは、時間を掛けてでも矯正していかねばならないことであると常々感じてきたことだった。
「何れ、お前たちが基礎を終える頃には副隊長陣も交えた訓練が始まる。なのはが判断することだが、その時には俺も参加させてもらう」
「はい、楽しみです! 僕は、フェイトさんだけでなくコウさんも超えたいって思っていますから」
「ふん、やって見せろ」
できるものならば。そう続けるコウリュウの口角は募る期待に相乗してつり上がっていた。
□
機動六課におけるデバイスマスター、シャーリー。本名をシャリオ・フィニーノという。
彼女のこの部隊での役割は、専らその肩書きの通り。つまりはフォワード隊や各分隊の隊長や副隊長達の相棒であるデバイス達を常時万全な状態にするというものだ。
数年ほど前からこの六課における部隊長八神はやて、その友人の高町なのはとフェイト・T・ハラオウンとの交流もあって、各々のデバイスの整備なども担当した経験はあった。
その縁ではやてから六課の専属デバイスマスターに抜擢され、誘いを受けて二つ返事でOKを出した。特になのはとフェイトはそれぞれに部下を持つとのことだったので、その分のデバイスの面倒を見ることも増えると大いに期待をふくらませていたものである。
更には、はやての家族の末っ子リインⅡと共に造り上げることになった新デバイスの件もあり、最近のシャーリーの気分は鰻登りだったのだ。
そんな中、敬愛する上司の一人なのはから『自分の友人が一人六課に配属されるから、是非その人のデバイスの面倒も見てやって欲しい』そう頼まれた。
無論、なのはの親友である。当然の如くOKを出し、約束の日に今か今かとデバイス・ルームで件の友人とやらを待ちわびていた。
「デバイス・ルーム・・・・ここで、合っているな?」
そう言って入室してきた金糸の髪に紫暗の瞳の男――パッと見綺麗すぎて女性に見えた――は、早い足取りでシャーリーに近づくと、おもむろに自分の懐に手を入れた。
その動作が余りにも、なのはから借りたことのある刑事モノのドラマで見た『拳銃を取り出す動作』に似ていたため、シャーリーは大いに狼狽した。
「ふえーん! 撃たないでくださいー! 彼氏できないまま死ぬなんて、成仏できません!」
などと、現在振り返ってみれば赤面物の言葉を口走っていた。
無論、彼が取り出したものは拳銃などではなく――セットアップ時にそれになるが――待機状態のカード型デバイスであったのだが、当時のシャーリーにはそれを知る由もなかった訳で。
その後、自身が盛大な誤解を抱いていた事実、そして更に上官に非礼をやってしまったという事実を自覚したシャーリー。
彼女は直後、人生最大級の土下座を繰り出した。ちょっと怖そうな感じだったために許しを得られるか不安な面持ちであったシャーリーだが、相手の男性はそれに反して、気にしていないと言ってくれたのだった。
その瞬間から、彼女の中の名も知らぬ男性の株は急上昇。
よくよく見ればかなりの上物であった男性。そんな彼とお近づきになろうと、未だ彼氏なしのシャーリーはアプローチの前座。要は自己紹介を始めることにした。
「いや、お前のことは知っている。なのはから話は聞いた」
“え? なのはさんから話を? それって・・・・・・・・”
嫌な予感につ、と冷や汗が伝う。まさか、そう思うシャーリーの推理は、ものの見事に的中してしまっていた。
「デバイスマスターのシャリオだったな。俺はコウリュウ・ナカジマだ。今日はよろしく頼む」
「やっぱりぃ――――!!」
「?」
――やってしまった。よりにもよって・・・・! 己の考え無し加減に、シャーリーはどっと後悔の念が押し寄せる。がしかし、
「・・・・大事はないか?」
「はい、問題ありません! コウリュウさん。こちらこそ、よろしくお願いします! あと、シャーリーって読んでくださって結構ですよ?」
「追々な。・・・・では、コレを頼む」
「・・・・はい。確かに、お預かりしました!」
そうと決まれば切り替える。デバイスマスターとしての仕事で、この失敗を払拭させてやる。それで、仲良くなれれば万々歳。前向きな思考を胸に、シャーリーは持ち前の笑顔を咲かせ、差し出されるデバイスを受け取ったのだった――
”今思うと、かなり恥ずかしいわよね、さっきの私・・・・いや、なにを弱気になってるんだ、私!”
ネガティブな思考に陥りそうになった自分を奮い立たせる。そう、既に件の彼――コウリュウから請け負った仕事は終えている。後は引渡しのみとなっているのだ。
そして、コウリュウは再びやって来た――
先程からメンテナンスしながら会話していたコウリュウのデバイスのガンロックの情報通り、どうやらシャワーを浴びてきたらしい。ガンロックを渡しに来た時のボロボロな練習着姿から一転、体のラインがよく見える六課の制服姿でやって来ていた。
ピシッとしたそのナリは、彼の雰囲気にどこか似合わないけれど。それでも、引き締まった体躯の片鱗を伺えただけでも良いとしようと思考にピリオドを打った。
ちょっとだけカジュアルな服装姿も見てみたい衝動にも駆られたが、一旦抑える。またの機会が、いずれ訪れる。いや、訪れさせてやるのだ。
それにしても、上がりたてのコウリュウの姿が、なんというかアレだったので、若干シャーリー自身もドギマギが先程から止まらない。
もったいないが、早いところ終わらせようと勤める。整備し終えて、おまけにピカピカに磨いておいたガンロックを手渡しする。
「・・・・ふむ。いい仕事をするようだな、シャーリー。また頼む」
「え、あ、ハイ! 喜んで!」
しばらく思案していたので心配だったが、コウリュウは満足してくれたようで、礼を言ってくれた。更に渾名で呼んでまでしてくれて、シャーリーはそれからしばらく上がりっぱなしになるテンションを沈めることができなかった。
こうしてこの日、シャーリーの尊敬する上司リストに新たな名前が追加されたのである。