Side 昴
窓の外を確認した二人は真剣な表情で振り返ると口を開いた。
「サーゼクスちゃん、警戒する相手が違うよ。」
「ミカエルも・・・こっち来て外を確認してみろよ。」
訝しげにしながらも二人の尋常じゃ無い雰囲気に僕の事を警戒をしながらも立ち上がり窓の外を見る。
そしてサーゼクスさん達もその表情を真剣な物に変えた。
「グレイフィア、彼らを警戒する必要はない。」
「・・・あなたもです。」
サーゼクスさん達の言葉に彼女達は警戒を弱める事は無かったが戦闘態勢は解除してくれた。
部屋の緊張感が緩んだ事でソーナさん達も窓に駆け寄り外の様子を確認する。
そして一同その表情を驚愕に染めた。
「こ、これはっ!!」
「??何関わっているようには見えないですけど??」
多くの人が外の様子に驚愕する中、兵藤君・匙君・アルジェントさんだけが首を傾げていた。
それをアザゼルさんが呆れながらも口を開いた。
「はぁ・・・よく見てみろ。」
「そんな事言ったって・・・。」
「イッセー君、あの木をよく見てみて。」
気付かない兵藤君に木場君が顔を強張らせながら近くにあった木を指差す。
兵藤君は言われた通りに木を注視すると、ようやく気付いたのか不安気に呟いた。
「あれ・・・あの木全く動いてねぇ。」
「その通りだ。
恐らくだがこの辺り一帯の時間が止まってやがる。」
「なっ!!」
気付いていなかった匙君・アルジェントさんも同様に驚愕する。
そして戸惑いながらも匙君が声を出す。
「外の時間が止まってるっていうなら、どうしてこの部屋は大丈夫なんですか。」
「それはとっさに昴さんがこの部屋を純度の高い魔力で覆って防いでくれたからだよ。」
セラフォルーさんからの回答に全員が僕の方を見る。
「・・・とっさの事だったので、不用意に警戒させてしまい申し訳ありませんでした。」
「謝るのはこちらの方だ。
我々を助けてくれたのに警戒してしまった。
すまなかった。」
「お前らもあいつに感謝しろよ。
もしあいつの防御が無かったら此処に居る大半が外と同じ様に時間が止まっていただろうからな。」
アザゼルさんの言葉にサーゼクスさんに続いて他の方々も顔を青くさせながらお礼を言ってくれた。
そしてそんな中で不安げな表情で口を開く少女が居た。
「・・・もしかしたらギャスパーの神器が暴走したのかもしれません。」
「多分そうだろうな。」
不安気な表情だったグレモリーさんの表情がアザゼルさんの一言で恐怖に変わる。
事情は分からないがこの事態を引き起こした原因に心当たりがあるみたいだ。
・・・彼女の恐怖を感じる心情もわかる。
大切な会談の最中に自分の眷属が神器を暴走させ中断させてしまったのだ。
そして暴走している事が事実だったとしたら眷属思いの彼女の事だ、眷属の心配している部分もあるだろう。
「確かに管理を怠ったという点ではお前にも落ち度があるが・・・今回はお前の所為だけじゃねぇよ。」
アザゼルさんは鋭い視線を窓の外に向けた。
そこには巨大な魔方陣が展開されており、そこから多くのフードを被った人達が現れていた。
「あ、あれ、いったいなんなんですか!!」
「ちっ・・・テロリストだよ!!
俺達の和平をよく思わねぇ奴らのな!!」
「これがあなたの危惧していた状況ですか??」
「あぁその通りだよ!!
奴らの組織の名は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。
今回の和平に否定的なあらゆる勢力の強者が集まった組織だ。」
「状況から見てギャスパー君の暴走も彼らの手によって引き起こされたと考えていいだろうね。」
サーゼクスさんの一言にグレモリーさんの表情が怒りへと変わる。
「私の可愛い下僕の利用する何て・・・許せないわ!!」
「落ち着け、リアス・グレモリー。
まだ神器の力は影響し続けているんだ。
今外に出たら実力の無い奴はそのまま時間が止まっちまうぞ。」
「しかし外にいる連中を放っておく訳には・・・。」
「・・・ヴァーリ、ちょっと外に行ってあいつ等片付けて来い。
白龍皇のお前が相手ならあいつ等も動揺するだろう。」
アザゼルさんはこの騒動の中表情1つ変えなかったヴァーリ君に声を掛けた。
「あんな奴らの相手・・・正直言って気が乗らんが・・・まぁいい、やってやろう。」
ヴァーリ君はそう言うと以前と同じ鎧を身に纏い、窓を突き破って飛び出していった。
とは言え彼なら傷一つ付けずに外の魔術師達を圧倒するだろうけど、如何せん数が多い。
それにここには外の敵を相手する人員がいないに等しい。
各勢力のトップが前線で戦う訳に行かない。
グレモリーさん達は恐らく自分の眷属の救出に向かうだろう。
ソーナさん達では些か不安が残る。
ここは僕も動いた方がいいかな??
「アザゼルさん、僕も行きましょう。」
「お前がか??」
僕の言葉にアザゼルさんだけでなくサーゼクスさん達も驚く。
そんなに意外だったかな??
「彼だけでは全員を相手にするのは不可能ですし、その間に他の場所に被害が出ないとは考えられませんから。」
「・・・それじゃあ、頼んでもいいか??」
僕が任せて下さいと答えようとした時それは後ろから遮られた。
「待ちなさい、昴。」
「エリカさん??」
「あんなの相手にあなたが出る必要は無いわ・・・というより過剰戦力よ。
ここは私に任せて頂戴。」
エリカさんはそう言うと自らの手に愛剣であるクオレ・ディ・レオーネを呼び出した。
そんな彼女を見て呼び止めたのは先程ミカエルと呼ばれていた男性天使の方だった。
「待って下さい!!
外に居る魔術師は中級はぐれ悪魔程の力を持っています。
それにまだ神器の力も止まっていないのですよ。
人間であるあなた達では危険すぎます!!」
「お気使い頂きありがとうございます。
ですがご心配には及びません。」
エリカさんに更に声を掛け様としていたミカエルさんを遮り、口を挿んだのはアザゼルさんだった。
「ミカエル、そいつらの心配は無用だ。
・・・じゃあ、頼んでもいいか??」
「任せて頂戴!!」
エリカさんはそう言ってすぐに飛び出して行くのかと思ったが、こちらを振り返り指示を出していく。
こう言う所は本当に頼りになる。
「馨さんは昴に変わってこの部屋に防御結界を張って頂戴。
この後何が起こるか分からないから昴には万全の状態でいて貰った方がいいわ。」
「すぐに取り掛かるよ。」
「黒歌さんは時間が止まっているから外に出ると仙術が使えない可能性があるわ。
だから状況が改善されるまでここで待機。
その後は自由に戦って頂戴・・・外の敵の中に懸賞金が掛けられた者達がいるかもしれないしね。」
「っ!!わかったにゃ!!」
「昴はここを動かないでね。」
「・・・わかりました。」
最後に僕に釘を刺してからエリカさんは1人の少年に目を向ける。
「後、祐斗も一緒に来なさい。」
「僕も・・・ですか??」
「丁度いい実践訓練よ。
あの程度の相手だったら今の貴方だったら遅れを取る事は無いわ。
・・・もし遅れを取る様だったらまた一から鍛え直してあげるから心配しないで。」
木場君は表情を引き攣らせながら返事をするとグレモリーさんの方へ振り返る。
最初はエリカさんの様子に呆気に取られていたグレモリーさんだったが木場君の聞きたい事が分かっていたのか笑顔で彼を送り出した。
「暴れて来なさい!!」
グレモリーさんの言葉に気合を貰い、木場君はその手に魔剣を呼び出すと、エリカさんと共に部屋を飛び出して行った。
彼女達を全員が呆気に取られながら見送っている所にアザゼルが声を出す。
「外の事はあいつ等に任せておけば大丈夫だろう。
後は『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』・・・この状況を作っている神器使いだけだ。」
「それなら私に案があります。」
真っ先に手を上げたのはグレモリーさん。
「・・・キャスリング。
これを使えば敵に気付かれる事なく一瞬で旧校舎に移動できます。」
僕にはその時キャスリングという物がどういった効果があるのか分からなかったが、後でソーナさんに聞いた所『王』の駒の能力の中に『戦車』の駒と位置を入れ替える事が出来ると言っていた。
それを使って相手に気付かれる事なく移動するという事だったのだ。
その案は許可された。
しかし1人で彼女を行かせるのは危険という事で、グレイフィアさんの力でもう一人送り込む事になった。
それに選ばれたのが兵藤君。
グレモリーさんは気合十分な兵藤君を連れてこの部屋から転移していった・・・その後に残ったチェスの駒は姫島さんが大事に拾い上げていた。
Side エリカ
祐斗と共に飛び出した私は周囲を見渡しながら彼に指示を出す。
「今回は1対多の戦闘よ。
至る所から攻撃が飛んでくるから周囲の警戒を怠って話ダメよ。
危なくなったらフォローはしてあげるから、存分にやりなさい!!」
「はいっ!!」
大きく返事をすると祐斗は目の前の魔術師の集団目掛けて駆けて行った。
私はそれを見送るとすでに戦闘をしている彼の方に目を向ける。
相手の繰り出す魔法攻撃を容易く避け、凄まじい速さで相手に迫り殴り飛ばす。
行っている事は単純であるがそのレベルがどれも高い。
はっきり言って格が違う・・・勝負にすらなっていない。
昴が頻りに彼の事を気にしていたのが気になるが今は自分のやるべき事に集中しよう。
周囲を圧倒している白龍皇から視線を外し、自分を囲む敵を見渡す。
杖を手に持ち魔法の準備を始めている者。
光る剣を持ち既に私目掛けて切りかかって来ている者。
そのどちらの者達からも私の侮っている雰囲気が伝わってくる。
「相手はただの人間だ!!」
「あれほどの容姿だ、捕えて俺達でいい様に使ってやろう!!」
直接戦う価値すら見出せない・・・というより近寄りたいとも思わない。
私は1つ息を吐くと言霊を紡ぐ。
「クオレ・ディ・レオーネ・・・鋼の獅子に使命を授ける。
引き裂け、穿て、噛み付け!!
打倒せよ、殲滅せよ、勝利せよ!!
我は何時にこの戦場を任せる。」
言霊を紡ぎ終えると手に持つ愛剣を空中に放つ。
剣は華麗に空を泳いでいたかと思うとその動きをピタッと止める。
私の行動に襲い掛かって来ていた連中も警戒したのか様子を窺っている。
そして剣は変形と膨張を始めた。
銀色の鋼が膨れ上がり、獅子の形をかたどった彫像へと変化していく。
それは変形するだけに止まらず、元々が剣とは想像も出来ない程に巨大化した。
変化が完了した獅子の彫像は地面に降り立つ。
大きく揺れる大地。
現存するどの獅子よりも大きく、大型のバスやトラックに相当する体躯。
獅子は低い唸り声を上げる。
それを聞いた瞬間私に迫って来ていた者達が後ずさった。
首を回し、地面を見下ろし、自らの敵をその視界に収めた。
獅子は威嚇する様に大きく吠えるとその大きな体を躍らせた。
獅子の雄叫びに怯んだ魔術師達はその場を動く事すら出来ずに吹き飛ばされる。
ある者は鋭い鉄の牙の餌食になり食い千切られ、またある者は鋭い爪とその重量に引き裂かれ、押し潰される。
大きな体に見合わない凄まじい速さで駆ける獅子に反応する事も出来ない相手は蹂躙されていく。
その様子を満足気に一瞥すると視線を祐斗の方へ向ける。
そちらでは周りを囲まれながら傷一つ負う事無く立ち回り続けている弟子の姿があった。
周囲の警戒を怠らず、自慢のスピードと様々な魔剣を駆使して動き続けている。
基本となる剣捌きもここ数週間で更に上達した。
実戦であれだけの動きが出来ている事からちゃんと体に沁み込んでいるのが分かる。
あの様子なら心配する事も無いだろうと判断し、再び自らが呼び出した鋼の獅子に視線を向けた。
その直後、後ろから大きな爆発音と共に二人の人影が飛び出て来た。
その事に気を取られて気付かなかった・・・この戦場から一人の男が消えていた事に
Side 昴
グレモリーさんと兵藤君が会議室から移動した後、僕達は外で戦っているエリカさん達に注目していた。
ヴァーリ君は相手の一切受ける事無く立ち回っている。
アザゼルさんの話だと全然本気で戦っていないという事だった。
ヴァーリ君は生粋の戦闘狂で強者と戦う事の最大の喜びと思っているらしい。
そんな彼じゃあ、あの程度の相手じゃ満足しないよね・・・ホント思考回路がサルバトーレ卿にそっくりだ。
エリカさんは自分自らが手を下す価値を感じなかったのか、エリカさん得意の魔術『』による鋼の獅子を想像。
獅子に敵を襲わせエリカさん自身は高みの見物をしていた。
・・・まぁ、あの手の輩は彼女の騎士道的に戦いたくない相手だしなぁ。
木場君も数的不利をものともせず上手く立ち回っている。
エリカさんとの修行の成果も出ているみたいで喜ばしく思う。
そんな彼の戦いぶりにサーゼクスさんをはじめ、同じ眷属の姫島さんやゼノヴィアさんも驚いていた。
「彼はいつの間にあんなに強くなったんだい??」
「エリカさんの下に稽古を付けて貰いに行っていたと先日聞きましたが・・・これは想像以上です。」
「・・・以前よりも比べ物にならない位強くなっている。」
上層部からの評価も鰻登りみたいだ。
・・・木場君、よかったね。
そんな風に外の様子を見ている時の事だった。
突然室内の空中に人一人通れる位の魔方陣が展開された。
それを見てセラフォルーさんの表情が驚愕の物へと変わる。
「・・・これはレヴィアタンの魔方陣。」
セラフォルーさんの呟きに僕は疑問に思う事があった。
以前セラフォルーさんに見せて貰った魔方陣は違う模様だった。
だったらこれはいったい誰の物なのか・・・。
「初めまして偽りの魔王。
・・・そして各勢力のトップの皆様。」
魔方陣から現れたのは豪華なドレスを身に纏った女性だった。
彼女は妖艶な笑みを浮かべてこちらを見渡している。
「・・・これはどういう事だい??
旧魔王レヴィアタンの血を引く者・・・カテレア・レヴィアタン。」
そう言ったのはサーゼクスさん。
いつもの温かい笑みを消し、カテレアを見つめている。
その隣に控えるグレイフィアさんはいつでも戦える様に体勢を整えている。
僕は彼女から目を離さず気付かれない様にソーナさん達を庇う様にして立つ。
そして以前セラフォルーさんから聞いた話を思い出していた。
旧魔王派・・・前大戦の際に戦死した今は亡き旧魔王の血族。
最後まで現魔王の選出に反対していて、このままでは内戦の可能性もあった。
その為力づくで旧魔王派一派を抑え込んだと言っていた。
・・・彼女はその一派の一員で間違いなさそうだ。
「サーゼクス、我々旧魔王派のほぼ全ては禍の団への参加を決めました。」
「・・・旧魔王派と新魔王派の確執はここに来て完全な溝になってしまったって訳か。」
少し可笑しそうに小さく笑うのはアザゼルさん・・・ちょっとは空気を読もうよ。
逆にサーゼクスさんは何とも言えない表情をしていた。
「・・・それは本気で言っているのかい、カテレア??」
「勿論ですとも。」
ここに来て反乱が起きたって事か。
そう言えば禍の団の事を言っていた時にあらゆる勢力の強者が集まった組織だって言っていた。
あれはこういう事だったんだろうか??
「・・・考え直す事は出来ないのかい??
できれば私は旧魔王派の存在を失いたくはない。」
「まるで何時でも殺せるから・・・だからついでに情けを掛けると・・・そう言いたげな台詞ですわね??
旧魔王派を代表して言わせて貰いましょう。
・・・ふざけるな!!
私達はお前達偽りの魔王を認めない!!」
彼女の顔から笑みは無くなり怒りが埋め尽くす。
それと同時に室内に濃密な殺気が彼女から放たれる。
「私達は悟りました。
旧魔王も神もいないこの世界。
そんな物は必要ない・・・それならば創り変えようと。
その為に組織への加入を決めたのです。」
「カテレアちゃん、やめて!!」
セラフォルーさんが我慢出来なかったのか悲痛な声を上げる。
現在のレヴィアタンを名乗っているセラフォルーさんだからこその思いもあるのだろう。
だがそれが彼女に届く事は無い。
「よく抜け抜けとそんな台詞を吐けますね、セラフォルー!!
私は貴女を殺し、再び魔王を名乗ります。
そして全てを消し去り、新たな世界を創る・・・その為の力を私は得ました。」
怒りが消え高らかに宣言したカテレアに反応を示したのはアザゼルさんだった。
侮蔑の籠った視線を彼女に向けながら口を開く。
「力を得た・・・か。
それは興味深いな、そりゃあお前らのトップから貰ったもんか??」
「・・・堕天使の総督、アザゼル。
えぇ、その通りです。
・・・だから何だと言うのですか??
私達は世界を滅ぼし、そしてそこに新たな魔王として君臨し、神を我々の指導者とします。」
「・・・ハハハ、そりゃすげぇな!!」
突然堪え切れなくなったのか声を上げて笑い出したアザゼルさん。
それをカテレアは怒りの視線で睨みつける。
「・・・何が可笑しい、アザゼル。」
「いやいや、夢があって良いと思うぜ??
だけどよ・・・それは夢というより無駄にスケールのでかい無謀な野望って奴だ。
言ってしまえばお前らはただの迷惑野郎・・・自分の利益の為だけにしか動かない馬鹿共。
だけど・・・そういう奴等が力を持つんだから世界は不平等だよな。」
最後に呆れた様に付け加えたアザゼルさん。
そんなアザゼルさんを見て怒りのボルテージを上げるカテレア。
「我々を侮辱するとは・・・許しませんよ、アザゼル!!」
「カテレア、お前の相手は俺がしてやるよ。
ミカエル、サーゼクス、セラフォルー、邪魔立ては許さねぇぜ。」
「・・・わかっています、私はまだ若い彼らの護衛に回ります。」
その言葉を聞くとアザゼルさんはその手に光の槍を出現させ、その背には常闇の黒い翼を展開させた。
美しくさえ思える漆黒の12枚の翼。
翼を展開してからアザゼルさんの纏う雰囲気がガラッと変わる。
止めるのは不可能だと判断したサーゼクスさんはこれが最後と口を開いた。
「カテレア、最後通告だ。
・・・我々に降伏する気は無いか??」
「・・・カテレアちゃん。」
サーゼクスさんとセラフォルーさんの言葉は届く事は無かった。
カテレアは彼らの言葉を無視してアザゼルに襲い掛かる。
ドレスをはためかせて鋭い蹴りを放つカテレアだったが・・・。
「おいおい、その程度の力で俺と殺し合うつもりか??
・・・冗談も程々にしとけよ!!」
放たれた蹴りは難無くアザゼルさんに防がれる。
そしてそのまま足を掴まれ部屋の外に投げ飛ばされた。
彼の攻撃はまだ止まらない。
追撃する様に無数に展開した光の槍を彼女に向けて放つ。
体制の整わない彼女に避ける術はなく、彼女は凄まじい爆発に包まれた。
アザゼルさんは彼女を追いかける前に僕の方に視線を向ける。
そしてそのまま何も言わずに部屋を飛び出して行った。
・・・多分だけど、後の事は任せるとでも言いたかったのかな??
サーゼクスさんとセラフォルーさんは精神状態的に万全と言えないだろうし、ソーナさん達は実力不足。
ミカエルさんともう一人の女性天使はこの学園全体に結界を張っている。
・・・カテレア並の敵が来たら僕が対処するしかないって事か。
そんな事を考えていると不意に外の様子が変わった。
風が吹き、木々が揺れている・・・時間が流れ出したのだ。
他の人達もその様子に気付いた様で口々にグレモリーさん達を褒め称える。
「・・・リアス、やったんだね。」
「さすがイッセーさんです!!」
その中でもいち早く動きを見せたのは黒歌さんだった。
彼女は時間が流れ出したと同時に僕に一声掛け外に駈け出して行った。
「それじゃあ、私もいって来るにゃ!!」
「気を付けてくださいね。」
「わかってるにゃ~~!!」
あっという間に姿が見えなくなった。
エリカさん達の御蔭で敵の数が少なくなっていたから他の場所に探しに行ったのかな??
黒歌さんを見送っていると後ろからソーナさんと達の会話が聞こえてきた。
「・・・会長、俺達も行った方がいいんでしょうか??」
匙君の言葉にソーナさんは外に視線を向け少し考えると首を横に振った。
「あの程度の相手であれば私達でも容易に対処できます。
しかし、これ以上は過剰戦力です。
この後増援が来ないとも限りませんし、ここで待機して置きましょう。
・・・朱乃達もそれでいいですね??」
「・・・わかりました。」
グレモリーさんの活躍もあって余裕も出来たのかサーゼクスさん達。
彼等も彼女達の話を聞いていたのか満足そうに頷いている。
セラフォルーさん何て状況が状況じゃ無かったら今にも抱き着いていただろう。
僕もいい判断だと思う。
グレモリーさんは仕方なかったとしてもソーナさん達は魔王の妹という立場にある。
もし敵の手に落ちればそれは大きな弱点となり得るのだ。
現在の戦力から考えても無闇矢鱈に前線に出て戦う必要性は無い。
ソーナさんも自分の眷属が活躍する所を見たいと思っていたはずだが、ちゃんと理性的に物事を判断出来ている。
それは彼女の今後に大いに役立つ事だ。
暫くしたら外での戦闘音が止んだ。
それはこの部屋に居る全員が感じ取った事だ。
サーゼクスさん達は戦闘が終了したと判断したのか周囲を警戒しながら外に出てみる事になった。
勿論僕もそれに着いて行く。
外はそれなりに荒れていた。
多くの魔術師が倒れているし、グラウンドにも戦闘の痕跡が見て取れる。
僕達はグラウンドから少し外れた旧校舎に続く林の中を進む。
グラウンドに倒れた魔術師以外誰も見当たらなかったからだ。
魔術師達の方はソーナさんの指示で彼女の眷属の子達が処理する事になった。
林の中に入ると其処にも戦闘の跡が見られた。
そして林に入ってすぐアザゼルさん達の声が耳に入ったので急いでそちらに向かう。
そこには居たのは疲労困憊で倒れている兵藤君とそれを支えるグレモリーさんと木場君。
そして兵藤君を心配そうに見つめる見た事の無い女の子(後に男の娘と判明)。
その隣には片腕を無くした状態のアザゼルさんと彼に治癒の魔術を掛けているエリカさん。
黒歌さんは何故かその傍で蹲っていた。
「・・・終わったみたいだね。」
「おぉ、お前達か。
色々あったが何とか・・・な。」
グレモリーさん達も僕達が来た事に気付いたみたいだ。
その中で真っ先に動いたのは黒歌さんだった。
顔を上げ僕を確認すると一目散に駆け寄り抱き着いて来たのだ。
「おっと、どうかしたんですか??」
声を掛けるが何の反応も無い。
黒歌さんは声を出さない代わりに更に強く僕に抱き着いて来た。
・・・何かあったんだろうか??
僕は彼女の頭を撫でてあげながらエリカさんに目を向ける。
エリカさんはアザゼルさんの腕の治療を続けながら首を横に振る。
・・・エリカさんも何があったのか分からないのか。
周囲も様子のおかしい彼女に戸惑っていたが、今はその事にだけ気にしている場合ではない。
治療を終えたアザゼルさんを確認するとサーゼクスさんが口を開いた。
「・・・君がそこまで負傷するとは思わなかったよ。」
「予想以上の最後の悪足掻きを喰らってな・・・腕一本持って行かれちまったぜ。」
「油断するからですよ・・・それにしても白龍皇は何処ですか??」
呆れた口調で口を挿んだのはミカエルさん。
彼の疑問は僕も思っていた事だ・・・確かにこの場に彼の姿は無い。
戦闘が終わったから興味を無くして先に帰った・・・という訳では無さそうだ。
ヴァーリ君について聞かれたアザゼルさんが一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたからだ。
「彼奴は・・・禍の団に寝返りやがった。」
その言葉を僕は黙って受け止めた・・・だが三大勢力のメンバーはそうはいかなかった。
二天龍の一角である白龍皇が敵側に寝返ったのは今後の事を考えたらかなりの痛手だからだ。
表情を普段の不敵な笑みに戻したアザゼルさんは淡々と言葉を発していく。
「兆候はあったんだ・・・彼奴が戦いを求めている事も知ってたしな。
今回のヴァーリの離反・・・完全に俺の不手際だ。
・・・兵藤も彼奴との戦いに巻き込んで悪かったな。」
「・・・アザゼルは悪くねぇよ。」
兵藤君はアルジェントさんから受けていた治療が終わったのか既に自分で立ち上がっている。
戦闘をしていたメンバーの回復が終わった事を確認したサーゼクスさんは彼等に問い掛けた。
「・・・そろそろ何があったのか詳しく教えてくれるかな??」
「申し訳ありませんが僕達はここで失礼させて貰っても宜しいでしょうか??」
話の腰を折って悪いと思ったが仕方がない・・・僕にとっては黒歌さんの方が心配なのだ。
その事を理解してくれたのかセラフォルーさんが許可をくれた。
「うん、いいよ。
黒歌ちゃんの事しっかり休ませてあげてね・・・彼女に何があったのかはまた後日でいいから。」
「・・・ありがとうございます。」
「此処には僕が残ろう。
これからの事を決めるのに誰も残らない訳にはいかないからね。」
そう言ってくれたのは馨さんだった。
確かにこの場に誰も残らないのは良くない。
今回の会談の目的でもあった僕達の正体を明かし、協力者を得る事が出来ていないのだから。
「それではここは馨さんにお任せしますね。」
「任せておいて。」
「それでは僕達は先に失礼させて頂きます。」
そう言って僕とエリカさん、そして僕の腕に抱き着いた状態の黒歌さんはその場を後にした。
帰り道・・・黒歌さんは僕達が話し掛けても何も答えてはくれず、僕の腕を放す事は無かった。