楽しんで頂けたらと思います。
それではどうぞ!!
Side 昴
ソーナさんが家に住む様になって数日が過ぎた。
この数日の間にソーナさんも随分とここでの暮らしに馴染んだみたいだ。
不自由なく過ごしてくれている事は本当に喜ばしい限りだ。
今日は三大勢力会談の時に馨さんが話しを付けてくれた会談の続きをする事になっている。
本当であればもっと早くに機会を設ける事になっているのだが、テロの襲撃を受け各勢力がその対応に追われた為、今日まで待つ事になったのだ。
いつもはこの世界の家で過ごしているのだが、今日は僕達の事を話すという事で異世界まで案内する事にした。
その為今は家の外にて彼等の到着を待っている。
最初に来たのはアザゼルさん。
彼の後ろにはもう一人壮年の男性が続いている。
「よう、今日はよろしくな。」
「こちらこそ・・・そちらの方は??」
「あぁ、こいつはこの間話した奴だよ。」
あぁ、奥さんを斬られて呪いを掛けられて、娘さんに逃げられた。
と思ったが口に出す様な愚行はしない。
彼は僕を見極めるかの様に視線を向けてくる。
「アザゼルから話は聞いている。
私はバラキエルと言う・・・今日はよろしく頼む。」
「治療の時、全く知らない奴から治療されるよりはいいと思ってな、丁度いい機会だから連れて来た。」
「そうでしたか。
お忙しい中、よく御越し下さいました。」
セラフォルーさんからアザゼルさんのさぼり癖は聞いている。
彼の下で働く、それも立場の近しい人物であるならばその苦労は数知れないだろう。
僕の労いが通じたのだろうか彼はこう返してきた。
「本当ならばここに来る時間も惜しかったのだが・・・愛する妻の為だ、何とか時間を空けて来た。」
時期が時期だし本当に忙しいんだろう。
アザゼルさんも会談から今日まで本当に働いていたみたいだし・・・。
次にやって来たのはサーゼクスさんとセラフォルーさん。
サーゼクスさんはグレイフィアさんを連れている。
「あぁ~~一番だと思ったのに~~。」
「はっ、残念だったなっ!!」
小さい事でいがみ合う2人。
そんな彼らを無視してサーゼクスさんが挨拶してくる。
「今日はよろしく頼むよ。」
「こちらこそ、お互い実りある時間になる事を願っています。」
後ろに控えるグレイフィアさんも頭を下げてくれた。
彼等と話している間にセラフォルーさんはソーナさんに抱き着いていた。
「ソーナちゃん、元気にしてた??昴さんと進展あった??」
「なっ、お姉様、何を言っているんですか!!」
「もう~~しっかりしなきゃ。
それでなくとも昴さんの周りにはエリカさん達もいるんだから!!」
何を話しているかは聞こえなかったがソーナさんの顔が赤くなっている様に見えた。
その後にやって来たのはミカエルさん。
天界も忙しいみたいで、今日は1人で参加するみたいだ。
彼は本当に天使と言うだけあって心優しい人だ。
例外はアザゼルさんにだけ・・・昔からの知り合いみたいだしね。
丁寧に挨拶してくれた彼にはいい印象しかない。
その後すぐにグレモリーさんとその眷属達がやって来た・・・その後ろにソーナさんの眷属の子達もいる。
自分達が最後だという事に焦ったのか駆け足で此方に向かってくる。
そしてその中に足を止める人物が一人。
姫島朱乃さん・・・バラキエルさんの娘さんだ。
彼女は目を見開き表情を険しくしてグレモリーさんに追い付くが、バラキエルさんに視線を向け様ともしない。
バラキエルさんはそんな彼女を淋しそうに見つめていた。
・・・彼等の確執は思っていたよりも大きいみたいだ。
彼女の母親を治療する事によって彼らの関係も良くなる事を今は祈るしかない。
全員揃った事を確認して僕は声を上げる。
「今日は態々御越し下さりありがとうございます。
それではご案内いたします・・・こちらへどうぞ。」
僕は先導する様に前に出て扉に手を掛け、少し氣を流し別世界へと扉を繋げる。
繋がった事を確認した僕は扉を開け、後ろを振り向き彼等を中に招き入れる。
最初に入ったのはアザゼルさん。
彼は中に目をやると楽しそうに笑顔を作り、足を止める事無く中に入る。
バラキエルさんもそれに続くが、何かに驚いた様で入り口で足を止めてしまった。
すぐに我に返ってアザゼルさんに続いたが今も少し困惑している様に見えた。
それを見てアザゼルさんが爆笑している。
次にセラフォルーさんとソーナさん、その眷属の子が続く。
2人は普通に入ったが眷属の子達は口をあんぐり開けて足を止めてしまった。
だがそれを見たソーナさんが彼等を窘めて先に促した為、そこまで時間を食う事は無かった。
その後に続いたサーゼクスさん達であったが、彼等も家の中を見た瞬間表情を驚きに染めた。
それもそうだろう。
普通の一般的な一軒家に入ったのに、玄関を潜ればそこにあったのは高層ビルの会議室だったのだから。
今回会談の場に用意したのは僕達の世界で拠点となっている場所・・・魔術結社『ディスガイア』の会議室だ。
僕達の家では些かこの人数は多すぎる為、今回はこちらに招かせて貰った。
会議室内ではアンナさんとミッテルトさんがそれぞれ皆さんを席に案内している。
若いメンバーは緊張しているのか表情を硬くし、サーゼクスさん・グレイフィアさん・ミカエルさんは大人しく席に着きながらも警戒を怠っていない。
アザゼルさん・セラフォルーさん・バラキエルさん・ソーナさんは落ち着いた雰囲気である。
僕は全員が席に着いたのを見て全員を見渡しながら口を開く。
「少々驚かせてしまったみたいですね。」
「少々所ではないよ・・・いったいどういう魔法を使ったんだい??
普通の家に入った筈なのに会議室に出るなんて。」
「・・・これもあなたの秘密に関係があるんでしょうか??」
「その事に付いてもちゃんとお話しします。
・・・ですがその前に改めて自己紹介をさせて貰いましょうか。」
僕は立ち上がり周囲を威圧する様に氣を開放する。
その横ではエリカさん達が片膝を付き僕に頭を下げている・・・それは黒歌さん達も例外じゃない。
「僕の名前は神藤 昴。
魔術結社『ディスガイア』の総帥にして、とある世界では神殺しの魔王と呼ばれている男です。」
会議室に居る人達は(元々僕と同じ世界に居たエリカさん達を除き)僕の存在感に圧倒されている。
周囲を警戒していた筈のサーゼクスさん達や、一緒に暮らしているソーナさんでさえ僕から視線を外せない。
僕が氣を収めるとエリカさん達は立ち上がり僕の後ろに付く。
「突然の無礼をお詫びいたします。」
席に着きながらそう言うとアザゼルさんが如何にかといった感じで口を開いた。
「・・・お、おいおい、いきなりは勘弁してくれよ。」
「そ、そうだよ、昴さん。
ソーナちゃん達なんて体が震えちゃってるよ。」
彼等を切掛けに漸く全員硬直から解放される。
震える声でサーゼクスさんが口を開く。
「さ、さっきの魔力はいったい・・・それに・・・。」
「・・・確か神殺しの魔王だと。」
続いたミカエルさんは体を震わせながらも今までの温和な雰囲気を潜ませ最大限の警戒を僕に向けていた。
そんな彼に僕は優しく微笑む。
「確かに僕は神殺しですが、それは僕の世界での話です。」
「・・・君の世界ですか??」
「それではまるで君が別の世界から来たと聞こえるのだが・・・。」
サーゼクスさんの言葉ににっこりと笑みを作る。
「その通りです。
僕は・・・僕達はとある目的の為にこの世界にやって来た異世界の人間です。
それにここは既にあなた方の世界とは全く違う世界・・・異世界ですよ。」
そして僕は語る。
僕の神殺しとして過ごしてきた日々を・・・僕の力の一端を・・・この世界に来た目的を・・・。
全てを話し終えひと息吐く。
「・・・これが僕のお話出来る全てです。」
アザゼルさん達を除き全員が僕の話に唖然としていた。
まぁ、いきなりこんな話を聞かされては無理もないだろうけど。
最初に言葉を発したのはサーゼクスさんだった。
「・・・この話を聞いてセラフォルーとアザゼルは信じたのかい??」
「う~~ん、信じたというより信じるしかなかったかな??
私とソーナちゃんはこことは別の場所で昴さんの実力を目の当たりにしたから。
あんなのを見せられたら信じるしかないよ。」
「俺も似たような感じだな。
一瞬だったがこいつの力を見た・・・お前達も感じたはずだぜ??」
アザゼルさんの言葉にミカエルさんが思い至った様に顔を上げた。
「もしかして会談数日前に一瞬だけ感じたあの強烈な魔力は神藤さんだったのですか!!」
「さっき彼から感じた魔力・・・何処かで感じた事があると思ったらあの時の魔力だ!!」
「その節はお騒がせしました。」
もうあの時の事は思い出したくもない・・・思い出すだけで震えが止まらなくなりそうだ。
あの時の事を知っているアザゼルさんは僕を見て笑っていた・・・後で覚えとけよ。
その後サーゼクスさん達はしばらく考えを纏めてから、改めて口を開いた。
「君が何故自分の事を隠してきたのか・・・君の話を聞いて漸く合点がいったよ。」
「確かに・・・信頼できる相手でないとこんな話は出来ませんよね。
特に天使に対して神殺しとは名乗れませんね。」
「・・・理解頂けた様で何よりです。」
「そして僕達に打ち明けてくれたという事は信用してくれたという事でいいのかな??」
サーゼクスさんがとても嬉しそうに笑い掛けてくる。
その後ろでグレイフィアさんが顔を覆っているが・・・見なかった事にしよう。
「そう取って頂いて構いませんよ。
あなた方とは直接短時間でしたが話も出来て、信用に足る人物だと確認しました。」
「君の信頼を得られて嬉しい限りだよ!!」
「・・・それは私も同じです。
異世界でとは言え、神殺しと呼ばれる程の実力者と敵対するとは・・・想像したくもありません。」
本来なら神殺しとは敵対関係に在るべき人達からの言葉・・・本当に喜ばしい限りだ。
するとにこやかに笑っていたサーゼクスさんの表情がすっと真剣な物へと変わった。
「昴君の話が事実であるならば・・・まつろわぬ神に対して何かしらの対処法を確立しておく必要があるね。」
「・・・確かに、異世界の神であっても神である事は変わり様の無い事実。
私達天使は神からの威光を強く受ける可能性があります。」
「恐らくその考えは当たっていると思います。
僕達の世界でも神々の言葉一つで逆らえなくなる事はざらです。
信仰心の強い天使や教会の人間であるならば尚更だと思います。」
「ならば、まつろわぬ神と戦うのは専門家である昴君に任せた方がいい・・・という事かな。」
サーゼクスさんは僕の考えを呼んだのかそう問い掛けて来た。
流石は若くして(悪魔としては)魔王に上り詰めただけはある、頭の回転も速い。
僕は彼の言葉に強く頷いた。
「彼等は神話に・・・本能に忠実に行動します。
周りの事なんて欠片も気にしない。
彼らの目に留まるのは同じ神か・・・僕達神殺しだけです。
もし神の機嫌を損ねる様な事になれば、辺り一帯が吹き飛ぶのは免れないでしょう。」
僕は立ち上がり、各勢力のトップ達を見据える。
「もしまつろわぬ神に遭遇する事があったら、すぐに僕達に知らせて貰えないでしょうか。」
「・・・それがアザゼル達と交わした契約の内容だね。」
「大まかな内容はあっています。
もっと簡単に言えばこの世界で動き易くする手伝い・・・と言った所でしょうか。
その見返りにセラフォルーさんとはソーナさんを守る事、アザゼルさんとは条件の範囲内で彼からの依頼を請け負う事になっています。」
「・・・その契約内容だったら僕とも結んでもらえないかな??」
「サーゼクス様!!」
サーゼクスさんの言葉にグレイフィアさんが反応するが、彼は僕から視線を外さない。
・・・やはり契約を結ばないといけないのか。
僕はエリカさんに視線を向ける。
彼女も同じ考えの様で、小さく頷いた。
確かに他二人とは契約を結んで彼等とは結ばないとなると、彼等も納得しないだろう。
彼等に視線を戻すと、ミカエルさんまでも熱い視線を送ってきている。
僕は深く息を吐き、気を引き締め直して彼等に向き直る。
「・・・あなた方がそれを望むのであれば。」
「それは良かった!!」
僕の言葉に笑顔で答えるサーゼクスさん。
「僕達悪魔は契約を何よりも遵守する種族だ。
こうやって契約で縛って置けば裏切る事も、裏切られる事も無くなるからね。
それに唯の口約束だけよりやる気も全然違う。
もう一つ言えば人間を贔屓するのは魔王であれど厳しい物があるからね。
それに何より・・・昴君みたいに興味をそそられる存在とセラフォルー達だけが契約を結んでいるのが羨ましくて仕方なかったんだ!!」
「確かにサーゼクスの言う事は一理ありますね。
神殺しという事がばれたとしても、契約をして監視しているとでも言えば多少は誤魔化せるでしょうし。」
「・・・それではあなた方ともアザゼルさん同様契約を結ぶという事でよろしいですか。」
「「よろしく頼むよ(みます)。」」
こうして結局彼等とも契約を結ぶ事になった。
ミカエルさんとはアザゼルさんと同じ物を。
サーゼクスさんとはついでだからと彼に押し切られた形でソーナさん同様、グレモリーさんも守る事になった。
その時セラフォルーさんが大いに反論する事になったがサーゼクスさんには届かなかった。
・・・後ソーナさんが少し不機嫌に見えた様な気がした。
契約が終わりこの場の空気も穏やかな物へと変わった。
若いメンバー達もグレモリーさんを中心に口を開き色々と質問してきた。
・・・ただ一人、匙君だけ何やらショックを受けている様に見えた。
今迄の話で何か気になる事でもあったんだろうか??
僕もサーゼクスさん達と言葉を交わしていた時・・・遂に彼女の話を振られてしまった。
「1つ気になっていたのですが・・・あの堕天使は一体どなたなのでしょうか??」
話題に上がった人物・・・ミッテルトさんの動きが止まった。
彼女は体を震わせながら僕の方に歩み寄って来る。
彼女が僕の横に立ったのを確認して僕は全員に聞こえる様に口を開く。
「この場を借りて彼女の事を話しておかなくてはいけません。
この話はグレモリー眷属の・・・中でもアルジェントさんと兵藤君に関係のある事です。」
「お、俺っすか??」
いきなり話を振られた兵藤君はミッテルトさんを見て首を傾げる。
心当たりが無いんだろうな。
アルジェントさんは心配そうにミッテルトさんの事を見つめている。
「彼女は以前この街に無断で潜入していた堕天使・レイナーレの部下だった一人です。」
僕の言葉にグレモリー眷属の表情が険しくなる・・・中でも兵藤君が一番。
それも仕方のない事だろ・・・以前敵同士であり、兵藤君はその時に彼女達に殺されているのだから。
ミッテルトさんも彼等の視線を浴びて縮こまっている。
「まずは話を聞いてくれませんか??」
「・・・わかったわ、一応聞いてみましょう。」
兵藤君達の主であるグレモリーさんに許可を貰ったので僕は話し出す。
彼女との出会い・・・彼女の置かれていた境遇・・・アルジェントさんとの事・・・。
「・・・話は分かったわ。
あなたは何も知らなかったみたいだし・・・アーシアとも仲良かったみたいね。
しかも既に和解も済ませている。
そんなあなたをこれ以上罪に問おうとは思わないわよ。」
「・・・ありがとう・・ございます。」
グレモリーさん達もこれで終わりだと思ったのだろう。
しかし・・・。
「ま、待って下さいっす。」
「まだ何かあるの??」
別に悪意も何もない極自然な疑問であったのだが、ミッテルトさんの震えは更に強まった。
・・・彼女の抱える罪はこれだけではないのだから。
「わ、私にはもう一人謝らなくちゃいけない人がいるっす。」
そう言って全員が注目する中ミッテルトさんがその人物に体を向ける。
その人物は不思議そうに首を傾げる。
「お、俺??」
「私はアーシアと出会う前、街に出て神器所有者を見つけてレイナーレ様に報告するって任務をしてたっす。
だ、だからその日もいつもの様に神器所有者の可能性のある人間を報告してたっす。
でも・・・私は知らなかったっす。
レイナーレ様が危険な神器を持っている人間を殺して回ってるなんて・・・。」
此処に居る全ての人が彼女の言いたい事を理解出来ただろう。
それは兵藤君も同じだった。
「わ、私っす・・・私がレイナーレ様に報告したっす。
・・・兵藤 一誠っていう人間が神器を持ってるって。」
ミッテルトさんは我慢出来なかったのか涙を零しながら兵藤君に頭を下げる。
「私がレイナーレ様に報告しなければあなたは死ぬ事は無かった。
悪魔に何てならずに平和に暮らす事が出来たかもしれない。
全部・・・全部私の所為っす。
謝って済む事じゃ無いかも知れないけど・・・本当にごめんなさい。」
そのまま頭を下げ続けるミッテルトさんにアルジェントさんが駆け寄って一緒に頭を下げる。
「イ、 イッセーさんどうか許してあげて下さい・・・お願いします。」
頭を下げ続ける2人に兵藤君は声を掛けた。
その表情は責めるといった物では無く・・・とても穏やかな物だった。
「2人共頭を上げて。」
「・・・で、でも。」
「いいからいいから・・・ほら、アーシアも。」
不安気な表情で顔を上げる2人。
そんな彼女達を前にしても兵藤君の表情は笑顔を崩さなかった。
「俺さ、最強の一角のドラゴンの力何て神器を持っているからさ。
多分ミッテルトが報告していようがしていまいが結局はこうなる運命だったと思うんだ。
だからさ・・・そんなに自分を責める事無い。」
「・・・で、でも。」
「何度でも言ってやるよ・・・君は悪くない!!
許すも何も君は何も悪くないんだから謝る必要も・・・自分を責める必要もないんだ。」
兵藤君の言葉にミッテルトさんの目に更に涙が溢れてくる。
そんな彼女に優しい笑みを受かべながら兵藤君は告げる。
「それにミッテルトはアーシアの友達何だろ??
だったら俺とも友達になってくれよ。
ほら、よく言うだろ??友達の友達は友達だって!!」
そう言って彼はミッテルトさんに向かって右手を差し出す。
それを見たミッテルトさんは恐る恐るその手を取った。
「これからよろしくな!!」
「ありがとう・・・ありがとうっす。」
涙を流しながらも笑顔を作って兵藤君の手を強く握っているミッテルトさん。
それを見たアルジェントさんも目に涙を浮かべながらも拍手している。
グレモリーさん達は「イッセーらしいわね」と言っている。
彼女達の心温まる会話に室内がほっこりした瞬間だった。
これで彼女も気持ちに一区切り付いた筈だ。
僕は以前から彼女の実力が高まったので腕を治療しないかと促してきた。
だが彼女が治療を断り続けていた・・・口にはしなかったが自分への罰の意味もあったんだと思う。
それも兵藤君の御蔭で前向きに考えてくれる筈だ。
僕はそう思って仲良く話をしている彼女達に歩み寄る。
「ミッテルトさん、よかったですね。」
「あっ、はいっす!!」
とてもいい笑顔だ・・・心の憂いも晴れたんだろうな。
そんな彼女になったからこそ今まで彼女が避け続けていた話が出来る。
「・・・ミッテルトさん、そろそろその腕・・・治療しませんか??」
「っ!!」
「今まで自分への戒めとして、治療を拒んでいた事は知っています。
でも・・・もう大丈夫ですよね??」
ミッテルトさんは少し悩んでいる様子だ。
つい先程の事だからまだどうすればいいか決め兼ねているんだろうか。
彼女が動くのを待っていると、小さい声で僕に問い掛けて来た。
「・・・この腕が元に戻れば、昴さんの力になれるっすか??」
彼女の声音はとても真剣みを帯びていた。
そんな彼女に応じて僕もまじめに対応する。
「・・・そうですね。
これから悪魔や天使、堕天使とも交流する事になります。
その時に堕天使であるミッテルトさんが動けると僕達も幾分か楽になる事は確かでしょう。
それに堕天使だからこそ出来る依頼と言うのもあるかもしれません。
そして何より・・・家族としてミッテルトさんが不自由無く暮らせる様になる事を望んでいます。」
ミッテルトさんは薄っすら顔を赤めたがそれでも強く頷いた。
「よろしくお願いするっす。」
「はい、それでは早速治療を始めましょう。
かなり痛みますが・・・覚悟してくださいね。」
僕の言葉に表情を硬くしたミッテルトさん。
腕の治療については以前から話していたから覚悟はできている筈。
彼女も承諾した事だし・・・と後ろを振り返るとエリカさんがサーゼクスさん達に話し掛けていた。
「もし良ければ見学して下さい、我が王の力の一端がご覧になれますよ。」
「・・・という事は先程言っていた事をこの場で実際にやるんだね。」
「腕一本を治療とは・・・些か信じられませんね。」
「ついでだ、アザゼル・・・お前も治してもらえ。」
「はあぁ、俺はいいよ。
折角義手を用意して付けたんだ、勿体ねぇじゃねぇか。」
バラキエルさんの言葉をすぐさま却下するアザゼルさん。
そう言えば彼もあの戦いで腕を無くしていたな・・・義手を付けているから治療の必要はないと思っていた。
だがバラキエルさんはそう簡単に引き下がらなかった。
「まぁ、そう言うな・・・義手より元の腕の方が何かと便利であろう。」
「そんな事ねぇよ、これすげぇんだぜ??
これは俺の開発した人工神器になっててな・・・。」
「そんな事だろうと思ったよ!!
お前、この忙しい時にいったい何してたんだ!!
ミカエルちょっと手伝え・・・昴殿、すまないがこいつも頼む。」
バラキエルさんはミカエルさんの手を借りて強引に義手を外し、2人でアザゼルさんを抱え上げ僕の方に連行してきた。
あっという間の早業・・・見事でした。
アザゼルさんは暫くは暴れていたが、逃げられない事を悟ったのかもう大人しくなっている。
周囲には皆さんが集まり円を作っていて、そこに馨さんが防御結界を張っている。
今回の治療は僕の権能を使うから、僕の氣を近くで感じない為の配慮だ。
「という訳で・・・早速はじめますね。」
「お、おい・・・大丈夫なんだろうな。」
「心配しなくても大丈夫ですって・・・ミッテルトさんには話してますけど、燃える様に痛いだけですから。」
「・・・は??」
すでに覚悟が出来ているミッテルトさんは目を閉じ横になってじっとしている。
アザゼルさんは僕の言葉に呆けると、意味を理解したのかすぐに逃げだした。
そんな彼の肩に手を置き逃がさない。
「もう諦めて下さい。
ミッテルトさんだって怖いのに我慢しているんですから・・・みっともないですよ??」
「く、くそっ!!」
漸く大人しくなったアザゼルさん。
覚悟を決めて、ミッテルトさん同様目を閉じて横になってくれた。
何時までも待たせるのは悪いので、早く始めてしまおう。
「それでは始めます。
先程も言いましたが、この治療にはかなりの痛みを伴います。
簡単な傷であれば問題ないのですが、腕一本ともなればそうもいきません。
かなりキツイと思いますが・・・頑張って耐えて下さい。」
二人が頷いたのを確認して僕は言霊を紡ぐ。
「不死なる霊鳥、世界に遍在する再生の火、偽りの概念を解き放ち、再び世界を創造せよ!!」
僕から溢れ出した氣が言霊を通じて、炎へと変換される。
それは不死の炎・・・生きとし生ける者を蘇らせる復活の炎。
オレンジに輝く炎を彼女達の患部へと当てる。
そしてその瞬間・・・彼女達は声にならない悲鳴を上げる。
「っーーーーーーー!!」「ぐぅーーーーーー!!」
これはとある事件により神獣からも権能を簒奪出来る様になった時に手に入れた権能。
元々は僕が死に瀕した際に僕を蘇らせる権能だ。
しかし掌握が進むにつれて不死の炎を自在に操れる様になってきた。
そこから出来る様になったのが他人の治療だ。
「・・・あれはフェニックス家の炎。」
「しかもフェニックス家が束になってもまだ足りない程の強さだ。」
「だがフェニックスの炎には涙と違って治癒の力は無かった筈です。」
周りから声が聞こえる。
答えを返してあげたいが、この権能を使う時は未だに多くの集中力を使う。
しかも治療箇所が腕2本分だ・・・今の僕に周りに構っている余裕はない。
その事を理解しているエリカさん達が代わりに答えてくれた。
「あの権能は不死鳥『フェニックス』の力ではありません。」
「あれはエジプト神話に伝わる不死の霊鳥『ベンヌ』より簒奪した権能です。」
「『ベンヌ』は『フェニックス』の元となった霊鳥です。
もっとも簒奪に至るまでに複雑な事情があった為『ベンヌ』だけの力とは一概にも言えませんが・・・。」
「あ、あの・・・ミッテルトさんがとっても苦しそうなんですが・・・大丈夫なんでしょうか??」
「心配しなくても大丈夫よ、アーシアさん。」
アルジェントさんの心配そうな声が聞こえた。
確かにミッテルトさんもアザゼルさんも表情を苦しそうに歪め、必死にその痛みに耐えている。
「彼の権能は対神という事もあって、その威力はどれも強大です。
そして強大な力にはそれ相応の制約が付きます。」
「制約ですか??」
「元々あの権能は彼自身が死に瀕した際に蘇る為の力です。」
「よ、蘇る!?」
「まぁ簡単に言えば、彼はそう簡単に死なないって事かな。」
兵藤君が代表して驚きの声を上げた。
多分だけど他の人も同じ様な心境だろう。
「彼の不死を象徴する権能を治療に使用可能にしたのがあの炎です。」
「勿論いくつかの制約も存在します。」
「まずは見て貰ったらわかる様に・・・激しい痛みです。
簡単な傷であれば温かさを感じる程度で済みますが・・・腕一本にもなればそれ相応の痛みを伴います。
あれは治療に使う魔力量に比例していると考えられます。」
「次にその痛みに耐えうるだけの強さです。
権能自体が強力である為、彼であってもその制御が難しくあのような事態になります。
その為治療者本人にもある程度の実力が要求されるのです。」
「・・・あの力は過去に受けた物でも治療出来るのかい??」
「問題ありません、実際何年も前の傷を治す所を見た事があります。」
彼女達はそこで口を閉ざしたが本当の事を言えば制約はまだある。
この権能は一度使えば24時間使用不能になるのだ。
それは僕自身にも適用される・・・つまり僕は今から24時間、死んでも生き返る事が出来ないのだ。
エリカさん達もそれが分かっているから僕が不利になる様な情報を態々伝えたりしない。
そうしているうちに治療はどんどん進んでいく。
元々腕のあった場所で炎が燃え続けている。
僕はこの行為を治療と呼んでいるが、実際は違う。
負傷箇所から腕を生やしている訳ではない・・・復元しているのだ。
無くした腕がこの場にあるのなら繋げる事も出来たのだが、今回は不可能だ。
今回は彼女達の氣の流れから腕の情報を読み取り、彼女達の腕を復元しているのだ。
その為氣の量も時間も掛かり、彼女達にはかなりの負担となっている。
・・・だがそれもあと少しの辛抱だ。
「アザゼルさん、ミッテルトさん、もう少しです・・・頑張ってください!!」
返事は無い。
2人共焼け付く様な途轍もない痛みに耐えている・・・しかも痛みにより気を失う事すら出来ない。
そう言う僕だって一度に二人を治療するのは初めてで、使用する氣の量も尋常じゃ無い。
あと少し・・・あと・・・・・っ!!
治療を開始しておよそ20分・・・漸くその時が来た。
腕の部分で燃え続けていた炎が弾けた。
その炎は周囲に散らばり、それは恰も花火の様だ。
ミッテルトさん達に目を向けると2人は気を失っていた。
しかし彼女達の無かった筈の腕はしっかりとそこにあった。
それを確認して深く息を吐く・・・ちゃんと治ってよかった。
治療の完了を確認したエリカさん達は防御結界を解除してこちらに駆け寄ってくる。
サーゼクスさん達は感心する様にアザゼルさんの腕を確認している。
兵藤君達は心配そうにミッテルトさんに寄り添っているが、その表情はとても嬉しそうであった。
そんな彼等を笑顔で見つめていたらソーナさんにタオルを渡された。
「お疲れ様です、昴さん。」
「ありがとうございます、ソーナさん。」
タオルを渡されて気付いたが僕は全身汗びっしょりだ・・・集中し過ぎで気付かなかったな。
彼女の心遣いに感謝しながら汗を拭う。
・・・それを見ていた匙君が涙を流していた事に僕は気付かなかった。
その後・・・僕やアザゼルさんの体調を考慮して今日は解散となった。
彼等の雰囲気から今回の会談は成功したんだと思う・・・勿論僕もそう思っている。
冥界と天界それぞれに協力者が出来た。
しかも二人とも心の広い方だ・・・今後もいい関係を築けるだろう。
懸念事項があるとすれば黒歌さんの事だ。
彼女が『禍の団』に勧誘・洗脳された事は彼等にも伝えた。
『英雄派』と言う組織について・黒歌さんを勧誘して来た理由・洗脳してでも手に入れようとした目的。
その全てが未だ不明なのだ・・・しかしこれだけは伝えておいた。
奴らは僕が叩き潰す。
そう言った時全員の表情が引き攣っていた様に見えたが気のせいだろう。
この事に関しても何か分かれば情報を流してくれるという事だ。
後は黒歌さんを1人で出歩かせない様にする事に決めた。
折角はぐれが解除される算段も付いた所だったのに残念だが仕方ない。
もしもの事があってはいけないのだから、彼等を片付けるまで我慢してもらおう。
黒歌さんも白音ちゃんの説得もあって頷いてくれた。
全員を見送って僕達もこの世界の家へと戻って来た。
未だ眠るアザゼルさんは我が家に泊まる事になった。
バラキエルさんもその方がいいと言って帰って行った。
・・・多分アザゼルさんがいると余計な仕事が増えるとか思っていたに違いない。
疲労感は途轍もなかったが今回の会談でいい方向へと話が纏まったのでよしとしよう。
疲れた体をソファに投げ出していた僕にソーナさんが話し掛けてきた。
「昴さん、なぜあの場でアザゼルさん達を治療したんですか??」
「あぁ、その事ですか。
確かにひどく痛むミッテルトさんのあの状況を全員の前で晒すのは気が引けましたが・・・。」
「だったら何故??」
それに答えたのはエリカさんだった。
「彼等に昴の力を見せておく必要性があったのよ。
話を聞いて信用してくれたかもしれない・・・でもそれだけじゃ駄目なのよ。」
「どうしてですか??」
「元々僕達の境遇は信憑性の低い物だからだよ。
だから実際に彼等に昴君の力を見せつける必要があったんだ。」
「・・・各勢力のトップがまだ心の何処かで昴さん達を信用出来ていなかったという事ですか??」
「見た目は普通の人間ですからね・・・仕方ありません。」
「簡単に言えばちょっとしたデモンストレーションだったのよ。」
「確かに私もコカビエルとの戦いを見るまでは昴さんの力がどれ程の物なのか認識していませんでした。」
エリカさんの言葉にソーナさんは驚いたが、すぐに納得したのか1つ息を吐いた。
ソーナさんの疑問を解消出来て良かった。
その後さすがに疲れがピークに達したのか夕食まで眠ってしまったのだった。
・・・本当に疲れた。