Side 昴
冥界への汽車の旅は快適な物だった。
1つ驚いたのは冥界の空が紫だった事。
冥界らしいとも思ったが・・・はっきり言って気味が悪かった。
僕達は1つの車両に集まっている。
人間界でも一般的に見る向い合せの4人掛けの座席に、僕とエリカさん・馨さん・ソーナさんが座っている。
・・・黒歌さんは猫の姿になって僕の膝の上だ。
ソーナさんの眷属の子達は各々トランプ等で時間を潰している。
ただ一人匙君だけが頻りに僕を睨み付けて来るが、もう諦めた。
ミッテルトさんは家と同様に僕達に飲み物を配ったりしてくれている・・・珈琲が美味しかった。
道中ソーナさんにこれからの予定を簡単に教え貰った。
まず今日はソーナさんの実家・・・シトリー家に泊めて貰う事になっている。
そこで僕達はソーナさんのご両親に挨拶をする事になっている。
セラフォルーさんに頼んで簡単にだが僕達の事を話して貰っているから、挨拶はスムーズに行くと思う。
ソーナさんも両親は純血に染まっている訳では無く、穏やかな人達だと言っていたから心配はしていない。
そして次の日は悪魔界の上層部の人達に対して、ソーナさん達若手の上級悪魔のお披露目会だ。
これにサーゼクスさんとセラフォルーさんから招待されている。
悪魔の催しに人間である僕が参加してもいいのか些か不安ではあるが、折角の機会だから参加する事にした。
その場で悪魔の実態を確認する事が出来るとも思っている。
最初は僕達だけで話していたが、途中からソーナさんの眷属の子達も集まって来た。
やはり前回の会談の時では聞けなかった事が沢山あるのだろう。
自分達との世界の違い等を沢山質問された。
それ等にはエリカさん達が丁寧に答えてくれたので、彼女達との距離も縮まった。
唯一警戒していた匙君も最終的には話の輪に加わってくれて良かった。
暫く汽車の旅を満喫していたが目的地に到着した事がアナウンスされた。
アナウンスされた駅名が『シトリー家前』だった事には少し笑ってしまった。
そんな僕にソーナさんが恥ずかしそうに、上級悪魔の多くの家は専用の駅を持っている事を教えてくれた。
冥界は地球と同じ面積がある事、そして楽しみが少ない事もあり、娯楽の1つとして汽車を所有しているらしい。
都会の駅よりも豪華な駅を出るとそこには大きなお城が聳え立っていた。
そのあまりの大きさに僕を始めソーナさんの眷属の子達も口を開けて驚いていた。
唯一驚いていなかったのはソーナさんと、真羅さんだけ。
「ははは・・・これは、凄いね。」
「えぇ、現代では中々お目に掛かれない大きさのお城ね。」
「もう、世界遺産級ですよね。」
お城に驚いているのもつかの間、お城に続く門が開かれると道の両サイドにずらりと並ぶ執事とメイド達。
彼等は一斉に首を垂れると・・・。
「お帰りなさいませ。ソーナ様。
ようこそお越しくださいました、眷属の皆様・・・そして神藤御一行様。」
盛大なご挨拶に誰もが固まってしまった・・・僕だってこんな事をされた事は無い。
ソーナさんですら恥ずかしいのか動かなくなってしまった。
そんな静寂の打ち破ったのは彼女のお姉さんだった。
「ソーナちゃ~~ん!!」
突然現れ大声で叫びながらソーナさんを抱き締めるセラフォルーさん。
急の事に対応の遅れたソーナさんはセラフォルーさんに捕まってしまった。
「お、お姉様!!
どうして此処に居るのですか!!
今日も仕事があるのではないのですか!!」
「そんなのソーナちゃんが返って来る事に比べたらどうでもいい事だよ!!」
「そんな訳無いでしょう!!」
というやり取りに誰もが呆気に取られている時、後ろから声が掛けられた。
「よく来てくれたね・・・椿姫君、そしてソーナの眷属達よ。」
振り返るとそこには、短く切り揃えられた黒髪に威厳ある顔立ちの男性と・・・。
暗い紫色をした美しい髪を靡かせ微笑む女性の姿があった。
彼等を視界に入れた瞬間、真羅さんが慌てて膝を付いた。
「お、御久し振りに御座います・・・ゼラル様、ソファーナ様。」
真羅さんの行動に驚いていた他の眷属の子達も、彼等の正体に気付いたのか慌てて膝を付く。
その様子に優しい微笑みを浮かべる2人は彼等を立たせると、僕達に体を向けた。
「ようこそ御越し下さいました。
セラフォルーから話は聞いています、神藤 昴様。
私は彼女達の父親でゼラル・シトリーと言います・・・こちらは妻のソファーナです。」
「初めまして、神藤様・・・娘達がお世話になっております。」
そう言ってゼラルさんから差し出された手を握り返す。
「初めまして、神藤 昴です。
僕の方こそ彼女達には何かとお世話になっています。
今日は御招き頂きありがとうございます。」
挨拶と共に交錯した視線。
彼の視線はとても真っ直ぐで、強者特有の力強さがあった。
僕は彼から視線を逸らす事無くじっと見つめ返す。
ほんの一瞬の事だったが何かを感じ取ったのか、すっと視線を弱めてくれた。
・・・恐らくセラフォルーさんから聞いた話が本当か少しでも確かめたかったんだろう。
ゼラルさんは僕の手を放すと、真羅さんに向き直り口を開いた。
「椿姫君、その子達を部屋に案内させてあげなさい。」
「か、畏まりました。」
真羅さんは緊張しながらも返事をすると、匙君達を伴って城の中へと入って行った。
僕達はゼラルさんの誘いで少しお話をする事になった。
・・・ソーナさん達はというと、放置という形になった。
ゼラルさん曰はく・・・。
「あぁなっては暫くセラフォルーは止まりません。
暫くしたら落ち着いてこちらに合流すると思うので、大丈夫でしょう。」
・・・という事だった。
流石は彼女の親・・・扱いがよくわかっている。
お城の中はとても豪華で、ヨーロッパの世界遺産を連想させられた。
こういったお城に憧れがあったのか、エリカさんの目が輝いていた。
僕達が案内されたのは応接室の様な部屋。
対面されたソファに僕とゼラルさん・ソファーナさんが腰掛ける。
相も変わらずエリカさん達は僕の後ろに控えて居る。
シトリー家に控えているメイドの1人がお茶を用意して退室した所でゼラルさんが口を開いた。
「改めて、シトリー家当主ゼラル・シトリーと言います。」
「妻のソファーナ・シトリーです。」
「神藤 昴です。
後ろに居るのは、エリカ・ブランデッリに沙耶宮 馨・・・そして黒歌とミッテルトです。
彼女達は僕の腹心であり、パートナーであり、家族でもあります。」
彼は僕の言葉に頷くと真剣な面持ちで話しだした。
「あなた方の事はセラフォルーから聞いています。
娘達の契約者である事も、異世界人である事も・・・勿論、神殺しである事も・・・。」
それに僕は黙って頷いた。
・・・セラフォルーさんはちゃんと伝えてくれていたみたいで安心した。
「まずはお礼を言わせて下さい。
娘を・・・ソーナを救って戴き、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
真っ先に頭を下げられた事で、彼等に対する評価が上がった。
悪魔は人を見下す傾向がある事を僕達は予め認識していた。
しかし彼等は娘のお礼にと最初に頭を下げた・・・人として信頼に値する人物だと確認できた。
それと同時に彼女達の親だとも思った。
「頭を上げて下さい。
僕としても彼女の助けになれたのなら良かったと思っています。」
「・・・神藤様。」
「僕に『様』何て付けなくても大丈夫ですよ。
これから長い付き合いになると思いますから・・・昴と、気楽に呼んで下さい。」
「わかりました・・・では昴君と呼ばせて貰います。
私の事もゼラルと呼んで下さって結構です。」
「これから宜しくお願いしますね、ゼラルさん。」
・・・と僕達が笑い合っていると大きな音を立てて扉が開かれた。
そこに居たのは不満げな表情を浮かべたセラフォルーさんと、息を切らしたソーナさん。
「はぁ、セラフォルー・・・ノック位しなさい。」
「そんな事より、お父さん!!如何して置いて行ったのさ!!」
父親の注意も何のその・・・ゼラルさんに詰め寄るセラフォルーさんにご両親が頭を抱えている。
そんな彼等の様子に僕達は苦笑するしかない。
慌しいセラフォルーさんを余所にソーナさんが声を掛けて来た。
「すみません、ご案内も出来ずに・・・。」
「気にしなくても大丈夫ですよ。
とてもいい時間を過ごせましたから・・・いいご両親ですね。」
僕の言葉にきょとんといた顔をしたが次の瞬間には嬉しそうな笑みを浮かべた。
そしてそれをソファーナさんが目敏く見詰めていた事に僕とソーナさんは気付かなかった。
セラフォルーさんが突撃してきた事で解散する事になり、僕達はソーナさんに用意して貰った部屋に案内された。
その後すぐに食事の時間になり、大きな食堂に集まる事になった。
そこでソーナさんの眷属も含めた全員が席に着き、楽しい団欒が始まった。
最初こそ匙君達は緊張していたが、ゼラルさん達の優しさに触れて次第に落ち着きを取り戻して行った。
・・・ホント、悪魔らしくない悪魔だ。
社交界の場に出ているだけあって、全員に上手く話を振る等、僕には真似出来ない事を平然とやってのける。
ゼラルさんは素直に見習いたいと思える人だった。
調子に乗った匙君をソーナさんが諌めたりと楽しい時間を過ごした。
しかし明日の事もあり、遅い時間になったのでソーナさん達は部屋に戻された。
そして僕達はその場に残りゆっくりと談笑する事になった。
僕はゼラルさんと、エリカさん達はソファーナさんと・・・それぞれが違う話で盛り上がった。
「それにしても、異世界・・・いや、人間界という物はとても面白い所だね。」
「ゼラルさんは人間界に言った事が無いんですか?」
「残念ながら数えるほどしかなくてね。
やはりこうして話を聞くと自分の目で見てみたくなるよ。」
「話を聞く限り、冥界には娯楽と呼ばれる物が少ないみたいですしね。
もし時間があるなら、僕が案内しますよ。」
「本当かい!!それは是非お願いしようかな。」
・・・と、僕達は他愛もない話で盛り上がっていた所為で、近くで話している女性陣に気付かなかった。
「もしかしてソーナさんは昴さんに惚れているのかしら?」
「流石、お母さん!!
そうなんだよ、ソーナちゃんは昴さんに助けられた時から昴さんの事が大好きなんだよ!!」
「まぁ、やっぱりそうなの!!
・・・でも、エリカさん達が居るからやっぱり入る隙間は無いのかしら?」
「いいえ、ソファーナ様、そんな事はありませんわ。」
「・・・彼は『神殺し』。
中には孤高を名乗っている方もおられますが、基本的に王を支える人材は必要不可欠なのです。」
「王が男性であるならば、何人もの女性を囲うのは当たり前の事。」
「あら、だったらソーナちゃんにも可能性があるのかしら。」
「私達の世界では我々が傍に控えて居た為、寄ってくる女性は居ませんでしたし、近寄らせませんでした。」
「しかしこれから先、我が王は様々な世界を渡る事が決まっています。
その為、その先々で様々な出会いがあっても仕方がないとも思っています。」
「ですから私達が管理できる範囲内であるならば、王の傍で支える女性を増やしてもいいと考えています。」
「まあ!!まあ!!まあ!!」
「お母さん、エリカさん達は最初からソーナちゃんの事を応援してくれてるんだよ!!」
「あら、そうなの?」
「はい、彼女は聡明でとてもよく頭が回ります。
ああいう人材は何人いても困りませんから・・・彼女が昴君に惚れたと確認できた時から応援してますね。」
「最近は昴も満更ではないみたいですし・・・近い将来、結ばれるかもしれません。」
「それは喜ばしい事ね!!
・・・でも、そうするとシトリー家を継ぐ子が居なくなっちゃうわ。
昴さんを婿に入れる訳にはいかないし・・・。」
「それなら心配しないで!!
もしそうなったら私が魔王を止めてシトリー家を継ぐから!!」
「・・・それはそれで心配ね。」
「もう、どういう意味!!」
という会話で盛り上がっていたと言う。
僕はこの会話に気付かなかった事を後に少しだけ後悔する事になる。