Side 昴
僕達はサーゼクスさん達の後に続いて会場に入った。
其処には既に多くの悪魔達が集まっていた。
事前に聞いていた話では、全員が悪魔社会において重要な役割を持っている者達らしい。
魔王が会場入りした事もあって全員が会話を打ち切り此方に顔を向ける。
そして僕達が中に入ると、見下す様な視線を各所から向けられた。
「皆、遅くなってすまないね。」
「・・・いえ、それよりも後ろの人間は何なのですか?」
多方向から向けられる感じの悪い視線が僕達に突き刺さる。
しかし予め想定していた事なので表情一つ変える事無く受け流す・・・勿論エリカさん達も気にした様子はない。
その間にサーゼクスさんが僕達に付いて話を進めていた。
「彼等は私とセラフォルーの契約者でね。
今回参加する事になっているリアス達とも仲がいいんだよ。
折角だから彼女達の晴れ舞台を是非見せてあげたくてね。」
「・・・しかし。」
「此処は僕の顔を立てて大目に見て貰えないかな?」
多くの悪魔が渋ったが最終的に魔王の客人と言う形に落ち着いた。
しかしその後も彼等から向けられる視線が無くなる事は無かった。
そして遂に若手悪魔達のお披露目会が始まった。
ソーナさん達が入場し横一列に並んだ所で、改めて今回の主役達を眺める。
まず目に付くのは大きな青年が率いる集団。
確か先頭の彼の名前は『サイラオーグ・バアル』と言ったか・・・。
がっしりとした鍛え上げられた肉体・・・今まで見てきた悪魔の中で一番の肉体を持っている。
彼から発せられる威圧感はこの場に居る若手の中では群を抜いていた。
次はグレモリーさん達。
彼女を始め、姫島さん・木場君達は毅然としているが、兵藤君・アルジェントさんは緊張している様に見えた。
そしてソーナさん達。
彼女達に緊張している様子は全く見られない。
一番後ろに控える2人は若干表情が引き攣っているが、まだ悪魔になって日が浅いから仕方ないだろう。
ソーナさんが僕に気付いたので小さく手を振ってあげた。
そしたら嬉しそうに表情を綻ばせそうになっていたが、引き締まった表情を崩す事は無かった。
・・・後ろからエリカさんに小突かれてしまった。
次の人に視線を向けた時・・・僕はそこで視線を止めた。
彼は・・・僕が見た悪魔の中で一番、悪魔らしい悪魔だと感じた。
名前は確か・・・『ディオドラ・アスタルト』。
何か内に野望・・・いや、大きな欲望を持っている・・・そう思えてならなかった。
何を持ってそう感じたのかは説明し辛い・・・あえて言うなら、神殺しとしての『勘』・・・だろうか。
それから暫くの間、僕は彼の事が頭から離れなかった。
そして僕が我に返った頃にはお披露目会は終盤に差し掛かっていた。
・・・全く話を聞いてなかった。
若干焦りを覚えつつ改めてサーゼクスさんの言葉に耳を傾ける。
「・・・最後に若く希望溢れる君達のこれからの目標を聞かせて貰えないかな?」
「目標・・・ですか?」
「あぁ、僕達は君達には本当に期待しているんだ。
だからこそ僕達に君達のこれからの目標を聞かせて欲しいんだ。」
とてもサーゼクスさんらしい問い掛けだと思った。
彼は威厳ある魔王ではあると共に、慈愛溢れる王でもあるから・・・。
全員が順当に自身の目標を発表していく。
「魔王になる」と宣言した『サイラオーグ・バアル』君。
「レーティングゲームの覇者になる」と目標を掲げたグレモリーさん。
・・・その中で唯一、彼の言葉だけは空虚に聞こえた。
そして最後にソーナさんの番となった。
流石に緊張しているのか、少し表情が強張っている。
「私の目標は・・・冥界にレーティングゲームの学校を建てる事です。
レーティングゲームの学校と言っても、現存する上級悪魔や特例の悪魔の為の施設ではありません。
平民、下級悪魔、転生悪魔・・・悪魔が平等に学ぶ事の出来る学校を作る事・・・それが私の目標です。」
・・・へぇ、知らなかったなぁ。
でも、とてもいい目標だと思う。
以前黒歌さんに聞いた現在悪魔全体が抱えている問題。
その多くの事を解決できる可能性を持つ大きな目標だ。
・・・しかし、彼女の想いはこの場に居る悪魔達には伝わらなかった。
僕がソーナさんの発言に感心している時、会場は一瞬の空白に包まれていた。
そして次の瞬間「ハハハハハハハハハッ!!」と会場は大勢の笑い声に包まれたのだ。
それと同時にソーナさんに向けられた、人を馬鹿にした様な視線。
「これは笑える、笑い話としては腹が捩れるぞ!!」
「言うに事を欠いて下級の為の学校?冗談としては中々の物だぞ!!」
「無謀にして傑作、そんな物を語るのが正式な場でなくて良かったものだ!!」
至る所から彼女の目標を嘲笑う言葉が飛び交う。
思わず怒りに任せて『氣』を放ちそうになった所を、両肩に添えられた温かさによって抑えられた。
「気持ちは分かるけど抑えなさい、昴。」
「ソーナだって堪えてるんだ、折角の式を台無しにしたくは無いだろう。」
肩から伝わってくる2人の怒り・・・エリカさん達も我慢しているんだ。
未だ止まない嘲笑・・・ソーナさんに目を向けると震える体を必死に抑え、拳を握り締めている。
いや、彼女だけじゃない。
その傍に控える彼女の眷属達もまた悔しさに体を震わせていた。
その姿を見て深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
・・・ソーナさんが我慢しているんだ、僕が邪魔しちゃいけない。
「私は・・・本気です。」
「本気ならば尚の事・・・その様な愚行は考え直されよ。
いくら悪魔界が変革期に入っているとはいえ、下の者が力を示して伸し上がるのが我々の常だ。
それを乙女の夢事の様に語っては旧家の顔も丸潰れでありますぞ。」
彼女の絞り出した言葉は、またしても踏み躙られる。
それでもソーナさんは気を強く持ち、顔を下げる様な事はしなかった。
そんな彼女の姿に僕は見惚れていた。
悔しさを滲ませながら、それでも絶対に下を向かないその心の強さに・・・惹きつけられていた。
しかし、ソーナさん達が我慢し続けているこの状況を彼は我慢できなかった。
「何でっすか!?
何でソーナ様の夢を馬鹿にするんですか!?
例えそうであったとしても、貴方達に会長の夢を馬鹿にする権利があるんですか!!」
突然前に出て発言をする匙君。
どうして自分の主が馬鹿にされているのか理解できない・・・そんな心境だろう。
彼の気持ちは痛いほどわかる・・・けど、今此処で彼に発言が許される訳が無かった。
「匙、やめなさい!!
申し訳ありません・・・私の教育不足です。」
「ソーナ様っ・・・何で・・・。」
それを理解しているソーナさんが慌てて匙君を下がらせ、自分は頭を下げる。
「・・・ふん、主が主なら下僕も下僕と言った所か。
全く、これだから人間の転生者等たかが知れていると・・・。」
頭を下げた彼女に浴びせられた心無い言葉。
今迄堪え続けた彼女の悔しさ、怒り、悲しみ、不甲斐無さ・・・。
そんな全てが詰まった雫が零れ落ちる瞬間を目にした時・・・一度は収まった感情が一瞬で沸点を越えた。
もう我慢出来ない
馬鹿共を黙らせる為、今まで抑えていた奴等に対する怒りを爆発させ会場内に敵意を込めた『氣』を放つ。
一瞬の内に静まり返る会場。
僕はそんな彼等を無視して一足飛びにソーナさんの前に舞い降りる。
確かにソーナさんの事を笑った奴等を叩きのめしてやりたい気持ちはある。
けど今はソーナさんの方が大切だった。
彼女の涙を止めてあげたい・・・僕はその感情だけで動いていた。
未だ頭を下げ続ける彼女を、僕は優しく抱き寄せる。
肩がびくっと震えたが気にする事なく、そのまま彼女の耳元で僕の気持ちを伝えた。
「素晴らしい夢です。
僕にもぜひ手伝わせて下さい。」
彼女の夢には多くの困難があるだろう。
でもそんな事は関係ない。
僕は心の底からソーナさんの力になりたいと・・・そう、強く思ったんだ。
僕の言葉に彼女の瞳から溢れ出る涙は止まらなくなった。
声を上げる事は無かったが、僕に縋り付き綺麗な瞳から涙を流し続ける。
・・・あれ?な、泣かせちゃった?
ど、ど、どうしよう。
ソーナさんの事に夢中で、何とかしようとして、な、泣かせるつもりなんて無かったのに!
泣き続けるソーナさんを見て、僕の頭は急激に冷えて行く。
冷静になった僕はこの状況に内心焦りながらも、静まり返っていた会場内に音が戻り始めた事に気付いた。
少しずつだが我に返り始めた人達が出て来ている。
まださっきの『氣』の事にしか意識が向いていないみたいだけど、僕の事に気付くのも時間の問題だ。
流石にまずいと思った僕は助けを求めて後ろを振り返り、エリカさん達に視線を送る。
2人は呆れた様な視線を僕にやると、セラフォルーさん達に何かを告げ静かに部屋から出て行ってしまった。
・・・この状況、僕が1人で何とかするの?
い、いや、でもセラフォルーさん達に何か言ってたから大丈夫な筈。
・・・でも、後で絶対怒られるだろうなぁ。
見捨てられた感は否めない。
けど、自分で蒔いた種なのだからと切り替える。
まずは少し落ち着いてきたソーナさんに声を掛ける。
「・・・今から僕が時間を稼ぎます。
その間に気持ちを落ち着けて下さい・・・出来ますね?」
僕の言葉に反応したソーナさんは、一瞬で顔が赤くなったが、それでもしっかりと頷いた。
その事を確認した僕は最後に優しく頭を撫で、ソーナさんから離れる。
彼女も感情が溢れだしたとはいえ、状況は理解している筈だ。
少しの時間があれば気持ちを落ち着ける位、簡単に熟すだろう。
だったら僕のやる事は、その時間を稼ぐ事だ。
僕がソーナさんから離れた時には既に多くの悪魔からの怒りの感情を一身に受けていた。
多くの侮蔑と怒りの籠った声が僕に向けられる。
「貴様、人間の分際でそこで何をやっている!!」
「いくら魔王様の客人だとしても我々も我慢ならんぞ!!」
「誰かあの無礼者を殺してしまえ!!」
普通の人なら萎縮してしまうこの状況。
けど長い時間を生きてきた僕の精神力をもってすればスルーする事なんて簡単だ。
だけど、それじゃあ余り時間が稼げないかな。
そう思った僕は彼等に向けて、もう一度『氣』を放つ事にした。
時間を稼ぐ事もそうだが、彼等には今は幾分か収まったが怒りを感じている事も確か。
少々耳障りだし、溜まっていた鬱憤を晴らす事も含めて早速決行する。
再び会場に静寂が訪れる。
さっきは感情的になっていて細かい調整をしなかったが、今回は『氣』を向ける相手を選ぶ事が出来た。
主役の皆や魔王様達の負担にならない様に『氣』を向けたのは罵声を言って来た人達だけ。
多少会場内に重圧が掛かっちゃったけど、これ位は許容範囲内だろう。
静かになった会場に満足すると、改めてサーゼクスさん達に体を向ける。
まず目に入ったのは、表情を輝かせながら親指を立てているセラフォルーさん。
迷惑を掛けたと思ったけど、違うのかな?
その隣に座るサーゼクスさんは申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。
・・・申し訳ないのは僕の方です。
アジュカさんとファルビウムさんは警戒する様に僕を睨み付けている。
・・・うん、これが正しい反応だよね。
そんな彼等に僕は謝罪と共に頭を下げた。
「思わず体が動いてしまいました・・・お許し下さい。
そして大切な会を中断させてしまった事・・・申し訳ありませんでした。」
静かな会場に僕の声だけが響く。
警戒していた二人は拍子抜けした様に驚いている。
そんな中でサーゼクスさんが表情を改めると打ち合わせしていたかの様に、言葉を返してくれた。
「・・・君の気持ちも分からなくはない。
でも、君は私達との約束を破った・・・現時点を持って退室を命じる。」
「申し訳ありませんでした。」
僕は最後にもう一度謝罪と共に頭を下げる。
多分エリカさん達は「僕が退室出来る様にしてくれ」とでも頼んでくれたんだと思う。
周囲の悪魔達はまだ僕の威圧が効いていて、口を閉ざしたままなので事は簡単に進んだ。
僕は頭を上げると後ろを振り返り、今度は今回の主役達に向かって口を開いた。
「君達の大事な式典の邪魔をしてしい・・・申し訳ありませんでした。
そして・・・ありがとう。」
グレモリーさん達はいち早く僕に気付いていた。
でもそれを指摘しなかったのは、ソーナさんの事を考えてくれたからだと思う。
だからこそ黙っていてくれた事のお礼がしたかった。
代表してグレモリーさんが答えてくれた。
「いいえ、お気になさらないで。」
彼女達の対応に感謝しつつ、最後にソーナさんに視線を向ける。
其処には既に落ち着きを取り戻した彼女の姿があった。
その事に少し安堵すると会場を後にする為に歩き出す。
そんな僕を会場内に居る全員の目が追い掛けて来る。
・・・目立ち過ぎちゃったなぁ。
等と思いながら最後に悪戯心と奴等に対する意趣返しの想いを込めて、一瞬だけ『氣』を最大量撃ち放った。
ただの『氣』に攻撃作用なんてない・・・これは唯の威圧。
勿論向ける相手は調整しているから心配いらない。
・・・うん、少しはスッキリしたかな。
そんな事を思いながら僕は堂々と会場を後にした。
この後昴の考えは書く予定ですが、元より昴は悪魔に期待していません。
その為この程度の事で済ませて頂きました。
皆さん思う所はあると思いますが、宜しくお願いします。