Side 昴
恥ずかしかった家路を何とか帰り着き、家に入る。
ここで権能を使わずこの世界の家に入る。
元の世界には黒歌が居るので、もしばれてしまったら厄介な事になる。
家に上がりソファーに彼女を座らせる。
体中傷だらけだ。
所々制服も破けているから肌が見えてしまっているし、これは僕がやらない方がいいな。
そう判断してエリカさん達を呼びに行く事にした。
「ここで待っていてください、人を呼んできますから。」
そのまま部屋を出て権能を使いもう一つの家へと向かう。
部屋に入ると、
「遅いわよ昴。
いったい何していたのよ。」
「そうだよ。
いきなり送還の術でお菓子だけ送って来るし。」
「昴だったら何があっても大丈夫だと思うけどね。」
「何かあったのかにゃ?」
皆が一斉に声を掛けてくる。
「皆さん落ち着いてください。
ちゃんと話しますから。」
そう言ってなるべく簡潔になるようにさっきの出来事を説明した。
「という事はその悪魔の子が傷だらけで待っているのね。」
「はい、手当てをしてあげたいんですけど、僕がするわけにはいかないですし。
・・・それにここには黒歌さんが居ますから。
頼んでもいいですか。」
「わかったそれだったら僕が行こう。」
「私もお手伝いします。」
そう言って馨さんが立ち上がりアンナさんと共に部屋を出て行った。
「それにしても相変われず色々と巻き込まれるわね。」
「そうなのかにゃ?」
「いつもいつも何か厄介事を引っ提げて帰ってくるのよ。」
確かにその通りだ。
カンピオーネになってから厄介事に巻き込まれることが多くなったから、反論できない。
しかもそれにいつも付き合ってもらっていたから、彼女達には頭も上がらない。
こういう時は早々に引き上げるに限る。
「ほ、ほら僕達も行きましょう。
何時までも待たせるといけませんし・・・。」
「・・・そうね。
黒歌はここで待ってなさい。」
「わかっているにゃ。
いってらっしゃいなのにゃ。」
黒歌さんに送り出されて例の悪魔の女の子の所へ向かう。
たどり着いたら、傷はきちんと治療されていて、ボロボロだった制服も綺麗な物に着替えさせられている。
多分馨さんのだろうな。
「ちゃんと治療してもらえたみたいですね。
馨さん、アンナさん、ありがとうございました。」
馨さん達は僕達が入ってきた事を確認すると、すっと立ち上がり、
「どういたしまして。」
と言って後ろに下がった。
そして改めて彼女を見てみるとどこか警戒しながらこっちを窺っている。
・・・目が合ったら顔を赤くされてしまった。
「・・・治療していただきありがとうございました。
申し遅れましたが、私支取 蒼那と言います。
駒王学園の生徒会長を務めております。」
やっぱりちゃんと礼儀を弁えている人だった。
僕も名乗り返そうと前に出ようとしたら、それより先にエリカさんが前に出た。
「こちらこそ家の人が悪かったわね。
私はエリカ・ブランデッリよ。
そしてあなたを助けてここまで連れて来たのが神藤 昴。
治療したのがメイドの方がアリアンナ、もう一人が沙耶宮 馨よ。」
全員分の紹介をしてしまった。
信用出来そうだとは言っておいたけど、やっぱりまだ情報が少ないからこっちも警戒しなくちゃいけないんだろうな。
ここはエリカさんに任せよう。
「・・・治療に関しては感謝しますが・・・一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、なんなりと聞いてください。」
支取さんは警戒しながらも意を決して話す。
「悪魔・・・はぐれ悪魔について知っているようでしたけど、あなた達はいったい何者ですか?」
聞かれると思っていた。
あの時聞いちゃったもんな・・・。
エリカさんも予想していたのか特に動揺も見せずに答える。
「私達は日本で活動している悪魔の討伐を生業としている一族の者です。
ですからはぐれ悪魔の事も、もちろんあなたが悪魔である事も承知しています。」
「・・・聞いた事がありませんね。
それにあなたは日本人には見えませんけれど・・・。」
「それはそうよ。
私はイタリアからその術を教わりに来たのだからね。
正当な継承資格があるのは昴だけよ。」
支取さんは僕を見つめる。
「けど彼はまだ未熟でね。
補佐役として私達も一緒に活動しているのよ。」
「ですがこの地は私達が管理・・・・・。」
「それは誰が決めたのかしら?
悪魔が一方的に決めた事を私達人間が従う理由はないわよ。
それに私達は別にこの地だけで仕事をしているわけではないのよ。」
エリカさんの口撃に支取さんは黙り込んでしまった。
何か可哀想に見えてきた。
「エリカさん・・・もういいじゃないですか。
僕達も活動し始めたばかりです。
ここを悪魔が管理している事もわかっていて、ご挨拶がまだだったわけですから。
これから仲良くしていければ・・・。」
「・・・そう思っているのはあなただけよ。
あなたが連れて来たからこうやって治療はしてあげたけど、本当だったら悪魔と馴れ合う気は無かったのよ。」
「うっ・・・すみません。」
エリカさんは少し悩んでから支取さんの向き直り、
「・・・だったらこうしましょう。
ちょっと順番が逆になってしまうけど、あなた昴と契約しなさい。」
「・・・どう言う事でしょう。」
「私達の事を悪魔側に知られたくないのよ。
だから私達の事を話さない事を条件に助けてもらう・・・という契約を結んでいた事にするのよ。」
「・・・・そんな。」
「してくれないとあなたをここから帰す事が出来ないわねぇ・・・。」
「くっ!!!」
エリカさん脅すのはやりすぎなんじゃ・・・。
支取さんは悩んだ末、
「・・・わかりました。
私があなた達の事を話さない事を条件に助けてもらう。
この契約を結ばせてもらいます。」
「結構よ。
それじゃあ昴、それが終わったら彼女を家まで送ってあげなさい。」
そう言うとエリカさんは部屋から出て行くのだった。
契約が終わりもうすでに夜になっている。
今は駒王学園に向かっている所だ。
最初は迎えに来てもらうと言っていたけど、ここがばれると困るという事で、眷属が居る学校まで送るという事になった。
僕達の間に会話は無い。
それもそうだろう・・・支取さん顔を赤くして下を向いてしまっているのだから。
今の状態・・・お姫様抱っこ。
僕も恥ずかしいよ。
もう夜も遅いから誰かに見られる事もないけど。
最初はおぶって行こうとしたんだよ。
支取さんは歩けるって言っていたけど、無理して怪我が長引いてもいけないからって説得して。
そしたら馨さんが、
「ここに来る時はどうやって来たの?」
何て追求して来るから、僕が逃げるように支取さんを抱きかかえて家を飛び出して来たらこんな状況になったんだよ。
そうだよ!!!!こうなったのは僕のせいだよ!!!!
何とかこの空気を変えようと声を掛ける事にした。
「・・・支取さん、エリカさんがすみませんでした。」
「・・・・・・。」
へ、返事がない。
めげずに話し続ける。
「エリカさんは子供の時からお世話になっているので、ちょっと過保護なんですよ。
それに普段はとても優しいんですよ。」
どうしよう、どうしよう(汗)
空気が痛い。
「・・・・・神藤さんはどうして私を助けてくれたんですか?
あの人の感じだと、悪魔を敵として見ている感じでしたけど・・・。」
やっと話してくれた!!!
「そんな事ありませんよ。
僕達が倒すのは人間を襲う悪魔だけです。
それはエリカさん達も変わりませんよ。」
「そう・・・なんですか?」
「そうなんです!!!!
人に危害を加える奴には容赦しませんけど、支取さんはそんな事しないって思っていますし。」
「・・・どうして。
どうしてそんな事わかるんですか?」
「わかりますよ。
支取さん、とても綺麗ですから。」
言った瞬間しまったと思った。
支取さんは僕の腕の中で真っ赤になってしまった。
「き、綺麗・・・な、何を言って・・・。」
「ああ、違います。
いや、違わないけど、確かに支取さん綺麗ですけど違うんです。」
違うといった瞬間、凄く落ち込んでしまったのですぐさまフォロー。
「氣ですよ、氣!!!
あなた達で言う処に魔力ですね。
支取さんの魔力とても澄んでいて綺麗な色をしています。」
「??魔力が綺麗・・ですか??
・・・そんな事言われた事がありません。」
まだ顔を赤くしながら不思議そうに僕を見上げる支取さん。
僕は苦笑いしながら、
「そうでしょうね。
これは僕だけにしかわかりませんから。」
「神藤さんだけ・・・ですか?」
「はい。
周りに聞いてみても理解してもらえませんでしたから。
でもこれすっごく当たるんですよ・・・っていうより外れた事がありません。」
「つまり、魔力が綺麗な人に悪い人はいないって事ですか?」
純粋な目で見つめられる。
信じてくれたんだ。
普通なら笑い話にされるような事なのに・・・。
「そう言う事です。
・・・というより信じてくれるんですか?」
「信じます。
神藤さんの言葉に嘘は感じませんでしたから。」
「・・・そうですか。
ありがとうございます。」
そして沈黙が訪れる。
でも先程とは違いとても穏やかに感じた。
そうこうしている内に学園が見えてきた。
「そろそろ着きますね。
・・・支取さん、まと困った事があったら呼んでください。」
「えっ!!!」
「だってそういう契約でしたよね?」
「い、いやあれは・・・。」
「支取さんが僕達の事を話さない限りあの契約は続きますよ。」
「あっ!!!」
気付いていなかったのかな?
支取さん頭良さそうだったからとっくの昔に気付いていると思っていた。
「だから遠慮しないで、声掛けて下さい。」
「で、でも・・・いいんですか?」
「はい。」
そう言って微笑むと、せっかく収まっていた顔の熱もさらに熱くなっていた。
校門が見えてくると、そこには数人の生徒の姿が見えた。
あの子達が支取さんの眷属の子達かな?
ここに来る前に事前に連絡を入れてもらっていた。
彼らは僕達を確認するとこちらに走り寄ってきた。
「ソーナ様!!!
大丈夫ですか!!!御怪我の方は・・・。」
「・・・心配を掛けました。
怪我の方は大した事ありません。
あ、あの神藤さん、もう大丈夫ですから・・・その・・・。」
「あ、はい、今降ろしますね。」
彼女達の事を観察していたら降ろすのを忘れていた。
ここには僕達を除いて7人の生徒さんがいる。
うち6人が女性、一人が男だ。
そしてその男が僕の事をすっごい形相で睨んでいる。
他の子達は支取さんが抱き抱えられているのにびっくりはしていたけど、すでに支取さんに声を掛けている。
僕は足に響かない様に優しく降ろす。
最初に声を掛けていた子がすぐに近寄って肩を貸している。
そんな様子を窺っていた時、
「てめぇぇぇーーー!!!」
いきなり睨んでいた男の子が殴り掛かってきた。
驚いたけど、落ち着いて対処する。
多分誤解しているだけだからこちらから攻撃するわけにもいかないし・・・。
そう思って避け続けていると、
「やめなさい匙!!!
いったい何をやっているの!!!」
普通に怒られ動きの止まった匙君。
焦りながら言い訳。
「で、ですが、こいつ・・・。」
「事前に連絡をしたはずです。
彼には危なかった所を助けてもらったと。
私の命の恩人に対して何をしているんですか!!!」
匙君は肩を竦ませ縮こまってしまった。
反省したとわかって支取さんはこちらに向き直る。
「私の部下が誠にすみませんでした。」
「気にしなくてもいいですよ。
それにいい子じゃないですか。
それだけ慕われている証拠です。」
「・・・はい。
私の自慢の眷属です!!!」
そう言った時の笑顔は年相応でとても可愛らしかった。
「それじゃあ僕は帰ります。
数日は安静にしていてくださいね。
ではまた・・・。」
「あ・・・ち、ちょっと待ってください。」
帰ろうとしたら呼び止められた。
振り向くと、
「あ、あの・・・私の本当の名前はソーナ・シトリーと言います。
よければこれからはソーナと呼んでください。」
顔を赤くしながら名前を教えてもらった。
その後ろで眷属の子達がとても驚いていた。
一人は睨んでいたけど・・・。
「じゃあ僕の事も昴でいいですよ。
ソーナさん、また会いましょう。」
そして僕は本当に家に向かって歩き出した。