黒龍を宿した少女(ドラゴンとは言ってない)   作:コカ・と栗鼠

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無自覚に駆け抜けるようにプロローグ

「龍ください、龍。あと前世、つまり今の記憶ですね。いらんですので消去希望」

 

 なんやかんやあってテンプレな神様転生的な状況なう。

 直前の記憶が神様転生系小説読みながらの寝落ちだったから、これは夢なんでしょうね。

 とは言え、夢でも転生にロマンと羨望を感じる系女子の私はサクッと願望を応える次第。

 龍って良いよね。東洋系なら青龍とか応龍とか。西洋ならファーブニルとかブリトラとか。ゲームなら最終幻想系のバハムートとか。零はマジかっけー。

 ええそうですよ感性男の子よりですが何か? いいじゃない龍。強い、カッコイイ。シンプルイズステキ。そんなわけで龍を早くぷりーず。ほら早くしないと目覚めちゃうハリーハリー。

 え? せっかち? 人の話を聞け? なーに言ってやがりますか夢の住人。時間は価千金。一秒足りとも無駄にする気はないのです。

 だーいじょうぶ。予習はハー○ルンとか理想郷とかで万全です。なので前置きは結構です。サクッと特典渡して、ササッと転生させるのが今貴方が積める善行です。ほら早く。どこまで行けるかわからないけれど夢が覚める前に目一杯楽しみたいのデス!

 え? 夢じゃない? 現実? 私死亡? あーそういうのいいから。そういうテンプレプロローグ要らないから。早く速く!

 ……おお、なんかそれっぽい光球が私の中に……。ふああ、あったかいなりぃ……。

 ――おや? 足元から感触が……ってうっひゃーきたですよ落下転生!

 それでは神様っぽい夢の住人さん、アデュー!

 

◆◇◆◇◆

 

 ハイテンションな上に喧しい少女を下位世界へと送った老紳士は一人、儂はやまった? と己の人選を疑うも、一つ首を振ることでその疑念を払拭した。

 システムリィンカーネィションの亜法たるリ・フォルダウン。

 近年これの悪用が目立つようになり急遽対策チームが結成された。

 とは言え上位世界人が下位世界人や下位世界そのものに直接干渉するのはどんな犯罪者であっても忌避する最大の違法行為だ。それは一重にその法が人の築いたモノではなく、世界が敷いたモノであるが故に。

 その為に対策は一つしかなかった。

 リ・フォルダウンした者をリ・フォルダウンした者に討ち取らせる。

 つまりは亜法を取り締まるために亜法を用いるという下策。しかも完全に他人任せな上に後手に回るしかないというあたりが救いようがない。

 しかしそれ以外に方法がないのも事実なのだ。自ら干渉することが叶わず、さりとて先手を取って術者を抑えることも出来ない。ましてや下位世界を封鎖するなど出来よう筈もない。

 これしかない。そうはわかっていても不安は尽きない。

 縦列世界群について、此を知らない存在に知る者が明かすのは世界のバランスを崩す行為だ。故に彼らに多くを語らぬままに送り出せねばならない。

 出来るのは精々が彼らよりも下位の世界に存在する“何か”を授ける事だけ。

 嗚呼、せめて彼女の道程に災いが無いことを祈ろう。

 老紳士はそう思いながら、カタンとタイムカードを切って帰路を急いだ。

 残業とかごめん被る。恵梨奈ちゃん(行き付けのキャバクラのホステス)に日頃の疲れを癒して貰わねば。

 老紳士の頭の中は若い女の子のおっぱいとか脚とか尻で一杯だった。最低だった。

 

 なんだかんだ言ってもお役所勤めなんてこんなもんである。

 

 

 前略

 中略

 後略

 なんだかんだで転生して、しかもこれが夢じゃなくて現実だと知った私です。

 最初こそテンパった私ですが、今はもう受け入れました。だってそうでしょう? 転生したってことは理解しても、前世の記憶が殆どないんだもの。これで悩んだり悲嘆してみたりしなさい。完全に中二病か電波だわ。

 そんなわけで私こと櫻井瑠々子十才ですが、只今大絶賛超絶ピンチです。

 なんかメガ○ンシリーズとかに出てきそうな感じの化け物に超追われてます。どうにも肥えた体躯に見合って動きは鈍いようで、極々普通な小娘である私の足でも未だに捕まることなく逃げられているわけですが、それもそろそろ限界のようです。さっきから黒い塊をどんどこ撃ち込まれています。無様に跳んだり転がったりしながら辛うじて避けてきましたが、体力的にそろそろ限界です。

 嗚呼、さよなら今生。お父さんお母さん、先立つ不幸をお許しください。

 すんなり諦めた私ですが、別に舐めた考えの元ではありません。十才女子の体力限界以上に動いてもはやにっちもさっちもいかず、後は殺されるだけだからこそ、絶対に泣かないし嘆いてなんてやらない。こんな人生でも、こんな結末でも笑って死んでやることでせめてもの意趣返しとする。それが私に残された最後の矜持。

 さぁ醜い化け物よ。私の身体は殺せても、魂や心までは殺せないと知るが良い。

 ……なんて、本当は超絶怖いんですけどね。なんかぱんつ冷たいし。強がってないと恐怖で狂いそうです。

 せめて死ぬなら一瞬で――。

 へたり込んで死を覚悟した私の前で化け物が聞き取りにくい声で何事か喋りながら下卑た笑いを上げていますが、それは唐突に終わりました。……私が食べられたからではありません。逆です。

 化け物が突如地面から生えた巨大なミミズのような存在に一口でペロリと食べられてしまったのです。

 超展開に次ぐ超展開。絶体絶命の危機でのどんでん返し。なんというご都合主義。

 呆然とする私の前でミミズのような存在は、まるでビデオの巻き戻しのように地面へと姿を消し、

 

「ほう、泣かなんだか」

 

 代わりに着物のよく似合うスゴイ美人なお姉さんが現れました。

 

「……ふむ。なかなかどうして面白い形をしておる。救ってやったのだ。娘、おぬしの身柄はいただくよ」

 

 命の危険が去ったと思ったら今度は誘拐です。

 もう本当に勘弁してください。十才女子にこの怒濤の超展開ラッシュは無理です。キャパオーバーです。

 もういい知らん! 気を失ってやる!

 ………………

 …………

 ……

 

 

 もしこれが小説や漫画だったら作者に文句言うね。

 そんなわけで私は晴れて高校生になりました。しかもなんかヤバイ雰囲気漂う駒王学園とか言うところですよ。

 いやね。私は最初普通に無難な公立高校に行こうとしたし、受験もそこを受けて合格したはずなのです。なのに何故か何時もは居ない筈のマリーチ様が突然やって来て。

 

「駒王学園に入学すること。愉しい事になるから」

 

 そんな一言ともに気づいたらこの有り様ですよ。私、ここの入学受験を受けた覚えないんですが。

 とは言え。色んな意味で非力な私にマリーチ様に逆らうなんて暴挙は無理無茶無謀の極み。あの方はか弱い人間にとっての天災みたいなものなので、大人しくしとくの正解なのです。

 はぁ、せめてみーこ様が居てくれたら――いや、変わらないか。

 けどまぁいいのです。このガッコーの制服可愛いし。聞くところによると、ちょっと前まで女子校だったこともあって通う女子も可愛いという噂。それを考えれば多少の問題には目を瞑ろうと言ういうものです。

 とまぁそんな感じで良い所を探してテンション上げていかないと、日常的に降りかかる不条理に耐えて健やかに生活することなど出来はしないのです。人生って厳しいよね。

 そんな感じでハイスクールライフをエンジョイして一年。

 二年生になった私は特に問題もなく青春を謳歌しております。

 すっごい美人のリアス・グレモリー先輩とか、大人な色香がやばい姫島朱乃先輩とか、知的クール美人な支取蒼那先輩とか、なんか不穏な気配漂うお姉さま方もお近づきになることなく遠巻きに眺めていれば大変良い目の肥やしなのです。

 ――なんて思ってたのに、一体全体どうしてこうなるのか。

 端的に現状を申しますと、殺人現場なう。

 

「ちっ、見られたか。仕方ないわね、己の不幸を恨みなさい」

 

 口封じデスねわかります。

 クラスメイトの男子を殺した露出過多な黒羽のお姉さんがライトセーバーちっくな槍を振りかぶります。

 しかしそこで慌てないのが私です。

 何故って私こと櫻井瑠々子改め伊織瑠々子にとって、もはや敵となる存在はいないのだから。

 

「――っ!?」

 

 黒羽露出さんが驚愕の表情をしておりますが、それも仕方がないでしょう。

 なにせ普通なら必殺間違いなしの光る槍は、私に刺さるや否や次第に小さくなって消えてしまったのだから。まあ実際には刺さったわけではないのですが。

 

「……どういうこと? あなたから感じるのは間違いなく人間の気配の筈なのに」

 

 えーうそだー。

 とは思うだけで言ってやらない。私から人間の気配しか感じられないと言うのなら、所詮はその程度の存在と言うことだからだ。

 十把一絡げの有象無象に一々種明かしとか面倒臭すぎて鬱るんです。

 とは言え、未熟な私にはこの後どうするかなんて考えはないし、諦めて撤退とかしてくれたら嬉しいなって。

 別にね、殺人がどうとか、その被害者がクラスメイトだったとかはどうでも良いのです。この現場に居合わせちゃったのも完全に偶然ですし。

 生物ってのはどうやったって死ぬ時は死ぬし、弱肉強食は自然の摂理だし。それが人間でも変わることはないのです。

 とりあえずクラスメイトだから、お葬式には出てあげるし悼んでもあげるけど、それは何て言うか晴れの日の翌日が雨だったみたいなものでしかないわけで。

 だからここは気にせずお帰り頂ければ、双方にとって幸いなんじゃないでしょーか。

 て言うか愚図々々してると多分やばいと思うのです。ああいえ、私がではなくお姉さんがね。

 

「――一本が、」

 

 ほら、噂をすればなんとやらです。

 不審な気配を感じて私の身を案じてくれる親友がきちゃいましたよ。

 

「――三十六本っ!」

 

 軽い調子の掛け声と共に、お姉さんの黒い羽が弾けるように千切れ飛びます。

 

「なっ!?」

 

 そんな突然の異変にも即座に光の槍を降って対応するのは流石、なんでしょうか?

 それでも下手人にそんな雑な攻撃が当たるわけもなく。

 シュタッ、という音共に私の横に降り立つのでした。

 

「お迎えごくろーさま、カッコ」

「にゃーん、遅いよルルコ。全然心配とかはしてないんだけどね?」

 

 軽口を叩く相手はあの時誘拐されて以来の親友、高木嘉子(偽名)です。その装いはシルクハットにマントにミニスカート姿で細剣を持った間違った怪傑ゾロのようなそれという、言葉とは裏腹の戦装束です。

 きっと帰りの遅い私に業を煮やした心配性のエスティさんに急かされて探しに来てくれたのしょう。持つべきものは親友ですね。

 

「クッ、なんなのあなた……」

「にゃーん、私がだれかだって? よくぞ聞いた! では答えてやろう! ある時は美少女女子高生! ある時はメイド美少女! またある時は謎の美少女剣士! しかしてその実態

は! 『億千万の眷属(インフィニティシリーズ)』が一人、億千万の刃、VZちゃんだ!」

 

 マントをバッサバッサと翻しはためかせながら、所々で大袈裟なポーズを取りつつドヤ顔で名乗りを上げた親友は、この時ちょっと距離を置きたい存在だった。と言うか、自分で自分の事を美少女美少女と連呼し過ぎだ。確かに美少女だし、ここまでくるともう流石だと思うけど。

 私が横でそんなことを思っているのを他所に話は進んでいる。というか、露出さんが驚愕と焦燥相半ばな表情をしている。そんな露出さんを見て気分が良さそうなカッコ。多分キマッたと思っているのだろう。そういうことじゃないと思う。

 ところで、私と親友のカッコには非常に似通った部分がある。それは、基本的にテキトーで気分屋だということだ。

 だから露出さんが魔方陣的な紋様の光と共に消えても気にしない。

 

「ルルコルルコ、今日の晩御飯はカレーだって」

「ほほう。では牛乳を多目に買わないとだね」

「だねー。エスティ様は辛口カレーしか認めないからねー」

 

 直前の状況をスパッと投げ捨て、雑談しながら帰路を行く。話題は今夜のお夕飯。いつの間にやらカッコの格好が間違った怪傑ゾロから、学園の制服に伊達眼鏡に三つ編みと言う、曰く美少女女子高生のものに変わっていた。こう言う何気ないところにも実力の一端が見え隠れする。その割りにカーストは私と大差なのだけど。

 ――この世界に天使だとか悪魔だとか、そういう超常の存在が居るのは知っている。それらが極々身近に居ることも。それらが人間に良くも悪くも驚異であることも。

 だけど、だからどうしたというのが私の感想である。

 天使は神の名の下、善を押し付けてくる。それが人間にとって何れ程の害であっても関係無く。

 悪魔は人間を食い物にする。戯れに殺し、騙し利用する。まるで子供が虫の肢体を解体するのと変わらない邪悪さで。

 けどまぁそれがなんなのか。

 この世界にはそれらよりもっとどうしようもない存在も居る。

 その気になれば遊び半分で人類を滅亡させ、積み木の城を崩すような気安さで世界を壊す存在が。

 そんなのに比べれば、ねぇ?

 なんて事を胸裡の片隅で思いながら、けれど足取りは変わらずいつも通りに暢気に日常を往く。

 

 世は並べて事もなし。

 

 

 

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