黒龍を宿した少女(ドラゴンとは言ってない) 作:コカ・と栗鼠
特に代わり映えのしない日常が今日も無事終わる。
殺されたと思ったクラスメイトが普通に登校してきて。
学園内で悪名轟かす三馬鹿がいつも通り騒いでいて。
そんないつも通りの。
……天使や悪魔が居るんだから、黄泉返りくらいなんてことない。とは言いません。自分で自分を黄泉返らせたリッチ先生ですら未だに他人を黄泉返らせることが出来ないのです。天使や悪魔にそれが出来るとは思えない私です。
だからまぁ死んでなかったのでしょう。あの時面倒臭くてうっかり放ったらかしにしてしまいましたが、生きていていたのならちょっと悪いことをしちゃったかな。とは思うものの、向こうが何も言ってこないのだから、私の方から態々言う必要もないですし。クラスメイトであると言う以上の接点は無いわけで、露出天使に襲われるような輩を無闇に突つく趣味もないのです。
なので、昨日に引き続きなこの状況は心底納得いかない訳でして。
シンプルに今起きてることを言っちゃうとですね、変態カラスが四羽出待ちでかごめかごめ。
黒色長髪な昨日の露出さん。
青っぽい長髪のボディコンさん。
金髪ツインテのゴスロリちゃん。
トレンチコートのオヤジ。
イロモノ過ぎてどういった対応が正しいのか困惑すること頻りです。なーんで悪魔とか堕天使とか、もっとこうマトモな格好をしないのだろう。いやまぁそりゃあね、みーこ様みたいに千五百万円もする着物とか着られててもそれはそれで対応に困るけどさ。
まいったなー。こまったなー。とか思ってると、そんな私に何を思ったのか、優越感と威圧感に見下し成分を配合して悦に入っておられる様子。
「今日はあの忌まわしい『アウター』が居ないことは確認済みよ。たかだか人間程度が私を虚仮にした報いを受けなさい」
そんな言葉と共に四条の光の槍がピカー、ドーンと私に殺到し瞬く間も無く突き刺さる。
――ように見えるんでしょーね。そのざまぁみろ的な表情から察するに。
本数増えただけで昨日の焼き直しですよね、これ。
大体ですよ。私に光の槍が効かなかったのはカッコが来る前の事なのだから、「あ、こいつコレ効かないんだ」と思わないとダメでしょう。
そんなだから、そうやって驚愕の表情を浮かべることになるんです。四人揃って間抜け面ですよ、それ。
思わずため息も漏れようというものです。
そんな私に何事か喚き立てる四羽カラス。
「あーもーわかりましたわかりました。それじゃあ私は何もせずここで立ってますので、気が済むまで頑張ってください」
おお!? 殺気的なモノが噴出しましたよ? 流石にプライドを刺激しちゃったかな? けどさぁ仕方ないよね。だって私ってば“無敵”だけど“超弱い”し。疲れて諦めて帰ってもらう以外に方法は思い付かないわけで。逃げる? 無理無理。向こうは飛べる。私は走る。逃げ切れる訳がないじゃないですか。しかもなんか景色が暗色のベールに包まれたようになっていて……ぶっちゃけ結界で閉じ込められてます。
あーもー、なんでカッコは昨日の今日でクラスの友達とカラオケに行っちゃうかなー。カッコが私と同じ学校に通ってるのって、一応は私の護衛的な意味合いもあった筈です。職務怠慢甚だしいですね。帰ったらエスティさんにチクってやる。
………………
…………
……
「ハァハァ……、いったい……、なんなの、あなた」
ポチポチとケータイでテトリスをプレイしていると、露出さんが疲労を感じさせる声音でそんなことを聞いてきた。
なんなのとか言われても、私はカッコ程強くもないし自分に自信が無いからなぁ。そう易々と種明かしなんてしませんよ?
「私が何かなんてどーでもいいんじゃないですか? 重要なのは、あなた方程度では私はどうにもなりませんし、私は私であなた方に興味は無いってことです」
充電がヤバくなったケータイをポッケに入れながら事実を突き付ける私です。なにやら悔しそうにしていますが、残念なことにこの事実は覆りません。
「昨日や今日の事は些細な事故です。私はあなた方にも、あなた方が何をするにも興味はありません。ですので、今後は不干渉を約束してくださるのなら私は今日の事を忘れます。しかし、今後もまたちょっかいを出してくるつもりであるのなら、非常に遺憾ではありますが保護者に泣きついて対処して頂くことになります」
「……保護者?」
「はい。『アウター』。その最高峰に座す『
「なっ!?」
私としても本当に不本意なんですよ? この程度の事でカッコとかエスティさんに頼るのは。でもホウレンソウをきちんとしておかないと、後々あの二人がみーこ様に怒られちゃいますし、私はそれ以上に叱られちゃうわけです。
だからこれが最後通帳。
誰が何時何処で死のうが基本的にあまり気にしない私ですが、だからって誰も彼も死んでも良いとか、悼まないとか哀しまないなんてことはないのです。回避可能な被害は出来るだけ回避するのが基本方針なのです。
と言うかですね、
「そもそもですね。ここで私をコロコロしちゃうと後々昨日の彼女、VZに報復されるとか考えなかったんですか? それとも、頑張っても中級程度のあなた方が、かつての戦争で二天龍ごと三大勢力に被害を撒き散らしたアウターに勝てるとか妄想しちゃったんですか?」
だとしたらちょっともう本当に救えない。バカは死んでも直らないそうですよ?
それとも、私と言う彼女達的に普通の人間にしか感じられない存在に虚仮にされたことで怒り心頭になって、その可能性を考えなかったんですかね? ……あー。考えなかったんですね。思いっきり「あ、やべ」って感じの表情してますもんね。
……そんなんだから下級か中級かわからないような格なんですよ。
「ハイじゃあお互いに納得いったということで、かいさーん」
パンパンと手を叩きながら言う私に、なんだか凄く悔しそうな顔をしているけれど、正直知ったことではない。
悔しかろうが、憎かろうが、悲しかろうが、喩え天地がひっくり返り地球の自転が逆になっても、彼女らに私をどうこうすることは出来ない。
私に害を及ぼしたいのなら、一国家の人口に比するだけの存在を蘇生させ、時間を遡ることすら可能な程の力が必要だ。“伊織”瑠々子はそういう存在になってしまっているのだから。
飛び退る彼女らを眺めながら呆とそんなことを考えていると、とても重大な事を忘れていたことに気付く。
「ちょ、ちょぉっと待った!」
慌てて呼び止める私に怪訝そうにしながらもきちんと待ってくれる四羽カラス――改め堕天使ズ。無視されるかと思いましたが、実は律儀?
「一つ大事なことを忘れていました! そこのゴスロリちゃお名前教えてぷりーず!」
あ、今「はぁ? 何言ってんだコイツ」みたいな顔しましたよあの四人。
しかし私はそんなこと気にしません。そんな些事よりも重要ですもの!
「はぁ、えっと、ミッテルトっす」
困惑しながらもちゃんと答えてくれる。もしかして良い娘なのかも。
ともあれお名前げっと! しかも“ミッテルト”だなんて、なんかデスティニー感じちゃう私ですよ。
「私は」
「あ、他の方はけっこうなんで」
「…………」
うーん。名前を聞くだけにして今日は満足しておこうかと思いましたが……。思わぬ偶然にちょっとテンション上がっちゃって引っ込み付かなくなってる私がいますよ。
あー、けどなー。あまり勝手なことすると怒られるよねー、エスティさんに。基本的に苦労性なあの人にこれ以上負担を架けるのも、ちょっと考えどころですよね。むむむ。
「モノは相談です。ミッテルトちゃん、貴女私のお友達になりませんか?」
ぽっかーん、と。
シンキングタイムなんてなかった。そう言っても過言ではないくらい滑らかに口を突いて出た言葉に、堕天使ズは羽をパタパタさせたまま静止してしまった。
うん。まぁ。自分でも大概突拍子もないこと言ってるなっていう自覚はあります。
しかしそれでもこれは譲れない。
金髪ツインテつり目ゴスロリ堕天使とか、これを逃すと二度と出逢えないでしょう。しかも可愛い上に見た目中学生くらいですよ彼女。私のストライクゾーンど真ん中です。
「……巫山戯てるの?」
「いえ、超マジメです」
露出さんの怒りと呆れと困惑がブレンドされているだろう問いかけに、即答で返します。
自慢ではないですが、私は基本的にどんなことにもマジメに取り組んでるんですよ?
「……とりあえず、突然そんなことを言い出した理由を教えて」
「私、可愛い子大好き」
「…………え?」
「可愛い子超大好き」
「…………あ、はい」
万感込めた返答に対し、その気のない返事はなんなんでしょうか。ちょっと心外です。
「えっと、レイナーレ様……?」
「…………疲れたわ。私たちは帰るから、後は当人同士で好きにして」
「えっ?」
頭痛を堪えるようにして、ようやく絞り出した風な言葉と共に露出さん他は飛んで行ってしまった。
「え、ちょ!? レイナーレさまぁぁぁぁぁあああ!」
置いていかれた形のミッテルトちゃんが絶叫してますが、嫌なら後を追いかければ良いわけで。それをしないってことは逆説的にウェルカムであると受け取ってオッケーな筈です。
よし。
「とりあえずミッテルトちゃん、降りてきて一緒におっ話しっましょっ☆」
腕を広げて歓迎する私を、どうしてか嫌そうに見るミッテルトちゃんが可愛くてゾクゾクします。
…………………
…………
……
その後。
まずは最初の触れ合いということで、徐々に好感度を上げるためにも沸き上がる欲望をステイしながら羽をもふったり、サラサラな金髪をクンカクンカしたりしながらお喋りして愉しい時間を過ごしていると、いつの間にやら時間はもうどっぷり夜でした。
このまま私の家でお泊まりしませんか、と誘ったものの、丁重に断られてしまった。確かにまだ序盤も序盤。お泊まりイベント発生には早かったですね、と私もここは折れます。……その間ミッテルトちゃんから感じられる必死感と九死に一生を得た感が印象的でしたが、気のせいでしょう。
黒い羽を広げてバッサバッサと羽ばたきながら帰っていくミッテルトちゃんを見えなくなるまで見送ってから、私も家路を急ぎます。
確認すると時刻は二十一時を越えていました。これはもうどう足掻いても叱られます。
けれど私に悲壮感はありません。
何故なら、今日は新しいお友達が出来たのだから。それも金髪ツインテつり目ゴスロリ堕天使(幼児体型)です。
今の気分はそう、さながら「もうなにもこわくない」。
とは言え、帰宅直後に玄関先で突然叩きつけるのはどうかと思いますよ、エスティさん。
いやまぁ私が悪いのは確定的に明らかなので口答えしませんが。
ミッテルトの受難はこれからだ!