黒龍を宿した少女(ドラゴンとは言ってない) 作:コカ・と栗鼠
由々しき事態です。
ミッテルトちゃんが最近とんと姿を見せてくれません。
学校帰りに街を散策するも、トレンチコートのおっさんは見かけてもミッテルトちゃんの金髪ツインテもゴスロリも見かけない。
体調でも崩したのかな? 堕天使が風邪を引くのかは知りませんが、もしも体調不良ならば私に移せばいいと思うの。大丈夫、風邪は移せば治る。
それとも嫌われたかな? だとしたら仕方がない。もう私無しでは過ごせないほどにチョメチョメにゃんにゃんしないと。
私ってば基本的に段階を踏んで一歩づつ進むことを心掛けていますが、時と場合に合わせて臨機応変に進むことも出来る柔軟性も兼ね備えております。
そんな風なことを頭の片隅で考えながら今日も今日とて街をブラブラしていると、私の美少女レーダーがビンビンに反応しました。
虫の知らせや風の便り。はたまた第六感とも言うべき乙女の勘の告げるままにダッシュです。
走ること暫し。実はそこそこの健脚を誇る私はさして時間をかけることなく公園へと辿り着きました。
するとそこには、金髪ロングの美少女シスターと、学校でも有名な変態筆頭が!
視認するや私の反応は凄かった。瞬動一歩手前の踏み込みで疾風のように距離を縮め、その勢いのままに変態の頭に側面からジャンピングキック!
人体から発すると不味い気のする音を響かせながら吹っ飛ぶ変態に、私は確かな手応えを感じてガッツポーズ。
突然の事態に追い付けないのか、固まってしまった美少女シスターに、私は百万ドルを余裕でぶっちぎる微笑みと共に言葉を投げ掛けます。
「危ない所でしたね。彼は普段は人畜無害な淫獣ですが、パッシブスキルとして接触妊娠させることが出切ると噂される存在です」
「くぉらぁ! 突然何しやがる!」
「おや? 確実に仕留めたと思ったのですが……」
殺人も辞さない覚悟と勢いで見舞ったのですが、おかしいですね? やはり変態は耐久力も変態なのでしょうか?
「悪びれない……だと? って言うかお前、同じクラスの伊織か?」
「はい、そうですよ。非常に残念なことにクラスメイトな、伊織瑠々子さんですよ。兵藤一誠君」
「残念て……。つーかお前学校と印象て言うか、性格違わないか?」
「ふっ。猫被りなだけに、他人の縄張りでは大人しい私です」
「自慢げに言うことか、それ」
いやいや、わかってないですね。あの学校は悪魔の縄張りですよ? 通ってる生徒も悪魔が多いですし、生徒会とかメンバー全員悪魔ですからね? 悪魔程度どうと言うことはありませんが、だからって面倒事は御免被ります。大人しく一般生徒Aを装うのが正しいのですよ。
まぁ、一般生徒の兵藤君にこんなこと言いませんがね。
――と、兵藤君なんかと話していたら、金髪美少女シスターがあわあわしながら兵藤君に駆け寄って行ってしまいました。むむ、これは由々しき事態。……おや
「――、――――」
「いや、大丈夫だってアーシア。俺、けっこう頑丈なんだぜ?」
「――――、――――!」
ほう。シスターさんのお名前はアーシアちゃんと言うのですね。うん、可愛らしい良い名前です。
しかしアーシアちゃんは外国の方なんですね。正直何言ってんのかわかんないですよ。て言うか、なんで兵藤君はさも当然のように意思疏通しちゃってるんです? あなたいつも低空飛行してる程度の学力じゃなかったでしたっけ?
「ふむ。兵藤君。私の勘違いでなければ、あなた外国語理解してるです?」
「は? 何言って――、あー、そうそう! 俺、全国津々浦々の美少女と会話する為に語学だけは大得意なんだよ!」
「なるほど。流石はエロ魔神。動機は兎も角その実力は認めるに吝かではありません。ところで、そちらのシスターさんは外国語で、あなたは日本語を喋っている点についてはどう答えるのでしょう?」
「そ、それは、ほら、アーシアは日本語は喋れないけど理解は出来てるんだよ!」
「ほほう。シスターさんシスターさん。私は伊織瑠々子と申します。先程は驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」
「――、――?」
ふむ。
「兵藤君、兵藤君。シスターさん、首傾げてるんですが。これ、わかってないですよね?」
「いやー、ほらあれじゃね? 突然飛び蹴りかます暴力女に警戒してるんだよ」
「言いますね。明日を無事に過ごせると思うなです」
「おい、なんだその不穏な発言」
「いえ、ただ無いこと無いこと適当に触れ回ろうかと。学園でも悪名高い変態と、物静かな女子生徒。どちらの言い分が浸透するでしょうね?」
「ぐぬぬ……」
兵藤君をぐぬらせることで若干胸がすく私。ああ言え違いますよ私胸少なくないです。
なんてお遊びはさて置いて。
なんとなく色々察してしまいましたよ。
確か悪魔は人間との契約に支障が出ないようにデフォルトで言語翻訳の術式が発言してるとか。加えて、かつての戦争で数の減った悪魔は人間を悪魔に転生させるシステムを構築したとかなんとか。つまるに、兵藤君はやっぱりあの時確かに死んで、その後で誰かの手によって悪魔に転生した、と。
ん? では何故シスターと関わりを? ……まぁ、兵藤君ですしどうせ単純な理由でしょう。
「まぁいいです。それで、兵藤君はどうしてこの金髪美少女シスターさんと? 返答次第ではもう一回蹴りを見舞うことも辞さない」
「やめい! て言うかスカートで蹴りを放つな!」
「おや、エロ魔神の癖に紳士ですね? ですが安心してください。不思議技術による謎の影によってスカートの中は絶対に見えないようになってます」
「そんなアニメじゃあるまいし……」
「ふっふっふ。では試してみますか? ちなみに、次は首を狙う所存」
「やめい! どこのグラップラーだよお前! て言うかマジで学校とキャラ違い過ぎだろ……」
「人は何時だってペルソナをつけているのです」
「中二病おぉぉぉおおお!?」
皆まで言わさずに首を刈るべく放ったハイキックは見事避けられてしまいました。残念無念。
「何しやがる!」
「ハイキックですが何か? それよりも、いい加減バカ話はやめましょう。ほら、シスターさんが蚊帳の外ですよ」
「お前が言うなよ……。はぁ。さっきの質問だけど、アーシアが困ってたから、手助けしたくてな」
「ほう。……ごめんなさい兵藤君。私はあなたを見くびっていたようです。てっきり口八丁で婦女暴行とかそういう……」
「なぁ、お前の中で俺の評価どうなってんの? さすがに泣くぞ?」
「男の泣いてる姿は純度百パーセントの鬱陶しさなので止めてください。起訴しますよ」
「素のお前を知りたくなかった……」
「あ、そう言えばケータイに翻訳アプリがあるんでした」
「フリーダム過ぎるだろ……」
何故か憔悴している兵藤君を無視してケータイをポチポチ。こういう翻訳アプリとかは頓珍漢な変換をすることが多いそうですが、ニュアンスが伝われば何とかなるでしょう。たぶん。
それではレッツトライ。
「えーと、はじめましてこんにちは。私は伊織瑠々子、兵藤君のクラスメイトです。よろしく、と」
問題なく翻訳されたディスプレイをシスターさんに見せる。
シスターさんはちょっと驚いた顔をしたあと、コクコクと首をふってくれた。かわいい。
きちんと伝わったようだと安心し、これが翻訳アプリであり、そちらもケータイに話しかけくれれば翻訳されると言うことを伝えます。
「はじめまして。私はアーシア・アルジェントと申します」
わたわたしながらも何処か一生懸命なアーシアちゃんに癒され萌えながら、ケータイを行ったり来たりさせつつお話をする。
その中で、アーシアちゃんと名前で呼ぶ許可を貰い、私のことも瑠々子と名前呼びしてみらえるようになりました。つまちはお友達になったわけです。その事で感動していたアーシアちゃんのいじらしさに、私の中の好感度メーターがそろそろヤバい。
衝動的な行動に出そうになる自分を必死に押さえる。私は時と場合と人を見て臨機応変変幻自在に対応を千変万化させる器用な女。この程度造作もないのです。
すてーいすてーい、と落ち着きながらハブっていた兵藤君に声をかけて移動する。
何でもアーシアちゃんは最近この街に着たばかりで道に迷っていたらしい。
目的地はこの街唯一の教会。
正直に白状すると、「え、あったっけ?」と言うのが私の感想です。
だけど兵藤君が言うには有るらしい。ただ廃教会という有り様らしいが。うーん、アーシアちゃんみたいなかわいい娘に廃教会とか……。なんだろうね、なんかキナ臭い。
兵藤君とアーシアちゃんが談笑しているのを眺めながら、思考は今後の私の動きについて思いを馳せる。
私は気のせいとして思考を放棄することが嫌いだ。それが根拠のない勘でも、その可能性がちょっとでもあるならそれに対処するようにしている。勿論、全部が全部という訳ではない。私自身や、私の気に入った誰かのためだけだ。
私はアーシア・アルジェントという少女を気に入ってしまった。これはミッテルトやそれ以外の誰かに今まで懐いたことのあるそれとは別種だ。
純粋に、アーシア・アルジェントという一人の人間の少女を気に入ったのだ。理屈なんか無い。ただ、この少女が幸いを得るためならば、私は――
「彼処がアーシアの目的地の教会だ。で、ここまで来て悪いんだが、俺用事思い出しちゃってさ。ここで帰らせてもらうよ」
思考の海に沈みかけた私を、兵藤君の言葉がサルベージする。
アーシアちゃんが何かを言っていたが、兵藤君は引き攣った笑顔のまま別れを告げて去っていった。良く良く見れば脂汗を流していたことから、どうにも教会が苦手らしい。これはもう確定だ。
兵藤一誠という人間は、悪魔に転生した。
だからどうしたのかという話でもあるが。
例えば。そう、悪魔でも例え話。アーシアちゃんが人間を辞める事になったら、私はたぶんキレると思う。何故かは解らない。だが、たぶん、きっと。
それはさておき。兵藤君の代わり、というわけでもないけど、私はアーシアちゃんを廃教会まで送ることにした。
――したのだが……。なんだ此所。探知系の感覚が鈍い私でもそうと解る位に澱んでいる。
気持ち悪い。こんな所にアーシアちゃんを置いて帰る?
……無い。却下だ。有り得ない。ここは既に悪しき場所だ。桜先輩なら――名護屋河桜先輩だったら、問答無用かつ即行
で燃やすレベル。
「アーシアちゃん。ここはヤバい。一端私の家に着てくれない?」
突然の私の申し出に、アーシアちゃんは戸惑っているとうだった。
無理もない。恐らく、この感覚は私たちみたいな“外側と内側”を知る者にしか解らない感覚だ。これは口で説明が出来ない、多分に感覚的なもの。
どうにかならないかと説得を試みたが、アーシアちゃんはついに首を縦に振らなかった。無理矢理連れていく、つまりは拐っていくという方法も脳裏を掠めたが、それはアーシアちゃんの意思を踏み躙る行為だ。他の誰でも気にしないが、本気で気に入ってしまったアーシアちゃんにそんなことはしたくない。
「……わかった。じゃあ代わりにコレを持っておいて」
そういって黒い小瓶を渡す。
首を傾げるアーシアちゃんに簡単な説明をする。
「お守りの代わりだと思ってほしい。困ったら事態、危険な状況になったら迷わず割って。そうすれば、大抵の事はなんとかなるから」
必死な私に圧されてか、アーシアちゃんは怪しげなそれを大事そうにポケットに入れてくれた。
よし。これで次善策にはなる。
後は何事も無いことを祈り。その一方で何があっても最速で動けるようにしておこう。
ちっぱいは正義