黒龍を宿した少女(ドラゴンとは言ってない) 作:コカ・と栗鼠
森林公園とでもいうべきそれなりに広大な公園が在る。住宅街の端っこの方に境界線のように存在するそこは、まさしく確かに境界線だ。
気取った言い回しをするならば、日常と非日常の境界線。
設定されたルートで森林内を暫く歩けば、ぽっかりと拓いた場所に出る。まるで忌避するように木々が避けていながら、上空からは木々の枝葉が邪魔して決して除くことは叶わない。
そんな場所に、小洒落たホテルのような洋館が建っている。
名前なんて特に無いが、敢えて言うなら万魔殿とか伏魔殿とか。我ながら上手いネーミングと思いながらも、聞かれた時の反応が怖いから口に出したことはない。何より我が家がそんなのとか気が滅入る。……今さらだけどね。
廃教会を辞したあと、アーシアちゃんを我が家にご招待。予想外に大きなお家でびっくりしてるっぽいアーシアちゃんに和みつつ、私は彼女のここに至るまでの経緯を聞いた。
感想は一つ。教会の奴らってバッカじゃねーの。
この世界には『神器』と呼ばれる特殊能力らしきものがあるらしい。私も『神器』を二つばかり持っているが、読み方が違う。セイクリッド・ギアと呼称するらしい。私の? そのままジンキですが。
で。アーシアちゃんもソレを持っているらしく名前をトワイライト・ヒーリング。効果は対象を差別しない治癒だとか。
そんな能力を持ったアーシアちゃんは本人の信心深さや可愛さとか様々な要因もあって聖女とか呼ばれていたんだそうな。ーー本人の云々は私の予想だけど、たぶん当たってると思うんだ。
そんなアーシアちゃんはある日、傷付いた悪魔を癒してあげたんだそうな。アーシアちゃんに救われた悪魔は感謝しながら何処ぞかへと去っていき。
悪魔を癒した。という一点のみを理由に聖女から魔女へと貶められ、教会を放逐されたそうだ。
「よし。ちょっとバチカンに討ち入りしてきますね」
普段は温厚で争い事を好まない瑠々子さんもこれには怒りが有頂天。
フル武装プラス援軍招聘を算段しながら立ち上がった私をアーシアちゃんが止めてくる。だーいじょうぶ。最悪私一人でも嫌がらせを十二分にした後に無傷で帰宅することくらいはよゆーよゆー。言うなればピクニック感覚。何せこの身は無敵のそれ。痛み自体はそれなりに感じるものの、その程度はエスニックな刺激と大差ない。某社長ばりにずっと俺のターンとかも可能。え? そういうことでない? 落ち着け? ふむー。アーシアちゃんの顔を立てて仕方なく座り直す。
話を戻し、その後は堕天使のレイナーレさんなる方に拾って頂いて今に至るということらしい。
ここまでの話を聞いて、色々と感想はあるもののそれはひとまず置いといて。私の中で決定事項ではあるものの、肝心のアーシアちゃん本人から同意を得ていない事案にはたと気づく。
「話はわかりました。同情はアーシアちゃんへの侮辱ですし何より私が嫌いなトップテンのランクイン概念。なのでこの話は終了です。ですので今後のことなのですが、どうでしょう。アーシアちゃん、私とここに住みませんか? 勿論、件のレイナーレさんにはきちんと話て許可をもぎ取ります。確かにシスターであるアーシアちゃんとしては教会の方が良いのかもしれません。しかし私としては年頃の女の子があんな廃教会に住むのはノーです。ダメです。天地神明が許可しようものならそいつらはたぶん邪神と書いてヘンタイと呼ぶ類いの悪しきもの。無効です。そもそも電気水道ガスなどのライフラインが生きてるのかも怪しいです。下手するとホームレスと大差ない可能性が微レ存。あ、ダメだこれ。考える度に問題点ばかりが出てくる。これでアーシアちゃんが嫌とか言ったら廃教会が教会跡地にクラスチェンジ必至。…………どうですかアーシアちゃん」
提案兼説得の筈が途中で思索に逸れそうになるのを何とかブレーキ。
ニッコリ微笑んでアーシアちゃんに問いかけると苦笑と供によろしくお願いしますと同意をゲット。え? 脅迫? なんのことやら。
と、言うわけで。住人一名追加の旨を同居人の方々にメールで一斉送信。あ、電池切れそう。まぁいいや。
善は急げと廃教会に取って返そうとするものの、アーシアちゃん曰く件のレイナーレさんは夜にならないと帰ってこないとのこと。今はまだ夕方。夜になるまでもうちょっとあるので、それじゃあ先にご飯にしましょうと食堂へ。
手伝いを申し出るアーシアちゃんをまぁまぁと座らせて紅茶を振る舞って厨房へ。
料理スキルが地表を疾走する私ですが無問題。食料は常に備蓄してあります。だってほら、我が家の主は何時起きるとも知れない食欲魔神。起きた時に何もないとどうなるかなんて考えたくもない。
作りおきのカレーを温めご飯とパンとナンをカートに乗せて食堂へ。
住人全て揃ってもなお席の余る無駄に広い食卓につく。
いただきます、と食べようとしたところでアーシアちゃんがお祈りをしているのを見て、「テレビで見たことあるやつだ」と、現役シスターのお祈りを見れたことに感動。じっと見てるとお祈りの済んだアーシアちゃんと目が合い、照れたようにはにかんだ彼女の仕草にイケナイ趣味に走りそうになるのを慌てて自制。あの三馬鹿どもであるまいに。
食事のあとは時間まで楽しくお喋りをして時間を潰します。
今さらですが言葉の壁は突破済みです。ドクターと彼の友人A氏共同開発のイヤーカフス型全言語完全翻訳アイテム「バベルワード=レプリカ」を、運用試験という名目の元提供してもらっていたりします。
そんな感じでお送りして今現在。
アーシアちゃんと供に廃教会へと舞い戻ってきました。
時刻は夜の九時とかたぶんそんくらい。時計をケータイに依存していた私はケータイが使えなくなると時間の確認すらままならない。腕時計を持つべきかなと考えつつも、すぐ壊れそうだから保留。とにかくお外は真っ暗です。こんな時間にならないと帰ってこないレイナーレさんなる方はどんな人なのでしょうか。
「ごめーんくださーいっ」
いつぞやの如く蹴破り押し入る私。夜分なので元気に挨拶しつつも声量は抑えてます。近所迷惑ですもんね。それくらいの常識は私にだってあるのです。
ワイルドなお宅訪問についてアーシアちゃんがあわあわしていますが大丈夫。ワールドワイルドな観点からすれば討ち入りはこの方法こそがマナー。ほら、映画とかでもよく見る光景でしょ? ちょっと具体的なタイトルは出てきませんが。
私の答えに勉強になりますと感心するアーシアちゃん。……なにこの娘ちょrーー純真過ぎる。もうちょっと他人を疑うことを覚えないと悪いやつに簡単に騙されそうなんですが。これは私が守らないと!
使命感を新たにふんわか和んでいるとドヤドヤと神父っぽい感じの方々がご登場。皆さん何やら喚きながら手に手に武器っぽいものを持って物々しい。えっと、とりあえずいっぺんに喋られてもわかりません。さすがの翻訳機も雑音を逐一拾うのは無理っぽい感じーーって、あれ? 聞こえなくなった。目の前の方々は変わらず何か言ってる様子なのに。
壊れた? と思いちょっと耳からカフスを外して見るとピコピコ点滅してる。あ、ノイズキャンセラー起動してる。
「あの! レ、レイナーレ様はいらっしゃいますか?」
ぼさっとしてる私を横に問いかけるアーシアちゃん。なんか神父さんズが今度はアーシアちゃんに何か言ってるが、いかんせん何を言ってるやらさっぱり。
だけど、なんとなく罵倒とかの嫌な空気を感じる。イラッとしてきたところで聞きなれた声が聞こえてきた。
「五月蝿いわね! 何時までもたもたやってるのよ! 邪魔者ならさっさとーー……」
ヒステリックに喚きながら出てきたのは何時ぞやの黒羽露出さん。
「レイナーレ様……」
え、この人ーー人じゃないけどーーが例のレイナーレさん? あー、そう言えばミッテルトちゃんの名前は聞いたけどその他の人の名前聞いてなかったわ。
そのレイナーレさんは何やらすっごい狼狽えながら私を見ていてアーシアちゃんが目に入っていないご様子。どうしたんだろうね?
「な、何しに来たのかしら?」
「そんなに構えないでください。ただアーシアちゃんを頂くための許可を貰いにきただけですよ?」
「なーー!?」
愕然とするレイナーレさん。え、なんですのん? そんなにビックリすること言ったかな。
ふむ。とちょっとシンキングタイム。…………なるほど。得体の知れないアウターにアーシアちゃんが食べられるかもしれないとか、そんな風に危機感を抱いているに違いない。
「安心してください。別にアーシアちゃんを取って食おうとかそういう意図はありません。ただ単純に、友達として、アーシアちゃんみたいな美少女がこんな廃墟で寝泊まりするという事実に、あくまでも友人として危機感を抱いたので我が家に居候してもらおうと、そう考えた次第です。まったく、微塵も、完膚なきまでに善意ですっ!」
誤解を解くべく力説する私。きっとこの思いはレイナーレさんに届く筈ーーあ、そうだ。
「同じ理由からミッテルトちゃんもプリーズ。美少女がこんな廃墟に居るのダメ、絶対」
レイナーレさんがここに居るということはお仲間であるミッテルトちゃんも同様であることは確定的に明らか。最近なんか避けられてる感じがするけど、合法的にこっち側に抱き込めばこっちのもんよぐへへへ。
そんなゲスい考えが透けて見えているのか、レイナーレさんはなんとも言えない表情で懊悩している。え、いやそんなまさか。私今めっちゃポーカーフェイスなうな筈。
横に居るアーシアちゃんに目を向ければ小首を傾げて疑問符を浮かべている。なにこの娘本当にかわいい。
「ーーっ、ああ、もうッ‼ いいわよ勝手にしなさいよばーかばーか!」
キッ、と顔を上げたレイナーレさんは私を射殺さんばかりに睨み付けた後、何故かヤケクソ気味に言い捨てて何処かへと飛んでいった。
なんか、目尻に涙が光ってた気がするんですが。え? ちょ、え? なんですの?
一連の問答のどこに彼女をあそこまで追い詰める要素がったのか。まるっきり理解できないのだけれども。
けれども、まぁ、とりあえず。
アーシアちゃんげっとだぜー?
この小説は作者の息抜き用だからくっそ不定期なんじゃ、すまんな!
っていう言い訳。
待ってくれていた方、本当に申し訳ありません。
追記
話数表記間違ってました恥ずかし