第一世界ラースフェリア。
そこは、精霊の力に護られた美しき世界だった。
美しかったこの世界は、突如冥界から現れたクリーチャー、冥魔と魔王によって脅かされている。
どこかで冥魔によって人が殺され。
いつも人々が苦しんでいる世界。
徐々に深淵へ沈みかけているラースフェリアの緑豊かなフォーラ首都グリューナ近郊の小さな二階建ての家の朝から物語が始まる。
「・・・師匠がお出かけになられてから早1周間。直ぐにお戻りになるとは伺っていたのだがどうしたものか。」
髪型は銀髪で短く青い瞳を持つ青年、ジーンが心配そうに、師の帰りを今か今かと待ち焦がれてリビングのソファーに座ったまま窓の外を眺めている。その様子からだと、数日の間は眠れていないのだろう。目の下には少しクマが出来ており睡眠不足が伺える。
「少し、師匠の行った場所についての手がかりを調べよう。まずは、普段師匠の部屋には入らないのだがそこになにか手がかりがあるかもしれない。」
ジーンは立ち上がり二階にある師匠の部屋に向かうことにした。木造住宅故木の床がギシリギシリと軋む音歩くたびに鳴る。普段入ることが無い師匠の部屋へはそう遠くはなかった。『日向薫』という日本人系の名前が書かれた木札がぶら下がっている扉の前に立ったジーンは、金属製のドアノブを握り入ろうとする。
「――開いた。」
ドアノブを捻り押し出すとドアは滑らかにカチャリという乾いた音と共に開く。まるで、待っていたかのように。
扉が開くと部屋の中が見える。綺麗に整理整頓されており流石女性の部屋と呼べるほどだった。おずおずとジーンは部屋の中に入り、辺りを見回すと机の上に刀と鞘付きの革製ベルトに納刀された五本のダガーとLonginusとカバーに彫られた銀色の懐中時計と茶封筒が置かれていた。
「これは・・・?」
茶封筒を手に取りそれを繁々と眺めるがどうやら宛名もなにも書かれていないようだ。しばし観察をしていると突然手紙の表面に氷が張りピシピシという音が鳴る。やがて氷が張り終えるとパキンと砕けて、”ジーン・アバンチュール・ライゴルフへ”という蒼く光る文字が現れ、封が解ける。
「魔術で暗号化された手紙か。」
茶封筒から、白い手紙を取り出して広げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
親愛なるジーンへ
今すぐ、フレイスに向かいなさい。
時計と、刀と、ダガーは、あなたに預けます。
きっと、役に立つはずです。
ごめんなさい。
日向薫
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走り書きされた手紙を読んだジーンはダガーが収められたベルトと刀を装備し、懐中時計を見つめる。
「師匠・・・。」
師であり、親代わりである薫を見送った日を思い出す。
◇
「ジーン。今日は、フレイスまで大事な用事がありますので少し家を空けます。」
白雪のような白く美しい髪で長さは肩くらいまでのショートロングヘアの黒い瞳の色をし整った顔立ちの30代くらいの女性が、ジーンが作ったフレンチトーストを食べながら向かい合って食事を共にしているジーンに向かって話を切り出す。
「フレイス、ですか。お帰りは遅いのでしょうか?」
ジーンがそう問いかけると、薫は少し微妙。といった表情をし
「わかりません。状況によっては時間がかかることもあります。が本日中にはなんとか・・・。」
その答えにすこし不安そうな表情を浮かべるジーン。
「師匠が戦争に参加されないのならどんな用事でもいいです。私自身としては、もう、家族は失いたくないので…。」
ジーンの言葉に彼の辛い過去を知る薫は物思いに耽るように窓の外の景色を眺める。
「そう、そうですね…。もう、15年前になるのですね。村を冥魔に襲われて、私達グリューナ第三騎士団が駆けつけた時には、意識を失ったあなた以外は生きていなかったあの惨劇から・・・。」
頷くジーンは、力を込めて薫に語りかけた。
「はい、師匠達が駆けつけるのがもう少し遅かったら、私の人生は3歳で終わっていました。だから、すごく感謝しています。だからこそ、唯一の家族である師匠を失うのが怖いです。」
薫は、俯き呟く。
「・・・・・・・さい。」
よく聞き取れなかったジーンは、首を傾げる。
「?なにか言いましたか?」
そんなジーンに自分の言葉が聴こえなかったことに安堵と罪悪感が混じった薫は、出来る限りの笑顔を作った。
「もうひとつください。」
「はい。師匠が望むのなら。」
こうして朝食を終え、師匠は用事に向かった。
◇
「まさか、師匠は・・・。冥魔との戦争に向かったのでは・・・?」
そんな嫌な答えがジーンの口から溢れた。”嗚呼、なんて勝手な人なんだ。なんで、あのとき止めなかったんだ。”と師匠の行動を責める気持ちと察せれなかった自分の不甲斐なさが入り混じりジーンは自己嫌悪した。だが、そんなことは後ででいい。まず自分がしなければならないことがある。
「・・・行こう。あの人を探しに。炎の都フレイスへ。」