「ぐ…ッ!」
「仗助!?」
僅かに、だが確実に、真衣の牙は仗助の右の二の腕に食い込んだ。
仗助は、思わず腕を押さえて少し後ずさった。
抑えた手の隙間から、鮮血が零れ落ちる。
その血を見た途端、靖子の胸がどくんと脈打つ。
そして、それに呼応するように靖子のスタンドはカッと目を見開いた。
そんな様子に気が付いた縁は、驚いたように靖子に声をかける。
「靖子ちゃん?何を…。」
そう声をかけられたのと同時に、靖子は弾かれたように走り出した。
その走り出した靖子を目にした真衣は、標的を靖子に変えて駆け出す。
「ちょっ…靖子ちゃん!?」
捕まえようとした縁の手をすり抜け、人気のない道へと靖子は駆けていく。
「な、何なのよ…ッ!」
縁はそう言いながら、仗助に視線を向ける。
縁と目があった仗助は「追いかけろ」と視線で訴える。
それに頷くと、縁は靖子と真衣が向かっていった道へ走っていった。
■■■
靖子は人っ子一人通らない寂しい道を、ひたすら走っていた。
逃げようとしているわけではない。
ただ頭に浮かんだ『考え』を実行するには、真衣を二人から引き離さなければと考えた。
もしその『考え』が失敗すれば、二人に矛先が向かうのは当然。
そう考えている合間にも、背後から聞こえる爪がアスファルトを蹴って走る音がだんだん近付いてくる。
(早く…ッ!)
そう思った瞬間―…
「グゥアアアアアアッ!」
雄叫びが聞こえた。
それと同時に振り向くと、真衣の牙が自分に迫っていた。
「ッ!(今だ…ッ)」
靖子のスタンドが手のひらを真衣の目の前にさらす。
それに気を取られた瞬間、その手のひらがストロボのように強く輝いた。
「ッ!?ギョウウウウンッ」
いきなりの目潰しに驚き、真衣は思わず地面に落ちる。
そんな真衣の前に立ち、靖子は息を整えながら身構える。
「もう、許さないからッ!仗助お兄ちゃんのこと、怪我させて…私、許さないからねッ!」
そんな靖子の声など耳に届いていないかのように、真衣は再び起き上がり、飛びかかろうと靖子を睨みつける。
「グルァァァァァァァァッ!!」
真衣が再び地面を蹴り、牙を靖子の首に突き立てようと飛びかかる。
「無駄ぁ!」
その声と同時に、靖子のスタンドの拳が、真衣の左頬に突き刺さった。
「無駄ッ!無駄ッ!はぁ…ッ…無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無ッ駄…ッ…!」
無我夢中で何度も何度も、拳を繰り出す。
その猛攻に、真衣は血を流しながらアスファルトに倒れた。
息切れしながら、倒れた真衣を見下ろし、近付こうとした靖子の肩を誰かが掴んだ。
■■■
走っていった靖子を追いかけてきた縁は、倒れている真衣と、息を切らして立ち尽くしている靖子を見、そしてその靖子の肩を掴んでいた人物を見て驚きのあまり立ち止まった。
「じょ…承太郎さん…!?」
そこに立っていたのは、もう少し後に来ると聞いていた承太郎だった。
立ち尽くす縁に、追いついた仗助は縁の視線の先を見て、同じように立ち止まる。
「承太郎さん!?まだ、来るの先じゃあなかったすか…?」
「あぁ…早めに到着した…。」
そういいながら、承太郎は靖子を見下ろす。
靖子は、息を整えながら少しおびえたような目で承太郎を見上げる。
それに気づいたのか、承太郎は靖子の肩から手を離した。
その途端、靖子は今までの緊張から解き放たれたように崩れ落ち、その場に座り込んだ。
「…こいつ、承太郎さんが?」
「いや…彼女だ…。」
「え!?」
承太郎の答えに、縁と仗助はお互いに目を見合わせ、座り込んでしまった靖子へと視線を移す。
そんな二人をそのままに、承太郎は倒れている真衣に近づいて仰向けにさせる。
すると、首筋に何か黒いものが付いているのを見つけ、承太郎はそれを指で触る。
「ッ!?」
痺れるような感覚が指先から走った後、その黒いものは消えうせた。
それと同時に、真衣は小さくうめき声をもらす。
「…さっきのは…いや、それより治療が最優先か…おい、仗助。」
「へ?あぁ…。」
承太郎に呼ばれ一瞬何かと考えた仗助だが、すぐに真衣を見てうなずき、クレイジーダイヤモンドで真衣の怪我を治療する。
それを見た靖子は、はっとして真衣の元へ近寄る。
「真衣ちゃん…真衣ちゃん、大丈夫…?」
「う…ううん…?」
「よかった…。」
安堵の息を吐く靖子を、真衣は不思議そうに見つめていたが、すぐに何かを思い出したように思いっきり頭を下げた。
「ま…真衣ちゃん?」
「ごめんね、靖子ちゃん…私、へんなことしちゃったんだよね…私…。」
涙をためて謝る真衣を見て、靖子はその背中を撫でながら答える。
「…大丈夫だよ…真衣ちゃん…。」
そんな様子を、少しはなれた木の上で眺めている影が一つ。
その影は、木の枝に座ってつまらなそうに足をぷらぷらと揺らしていた。
「あーあ、もう終わっちゃった。」
しかし、それは口元に笑みをたたえて次の言葉をつむぐ。
「で・も~♪おもちゃは、まだまだいっぱいあるもんね…待っててね、靖子ちゃん?」
その影は、楽しげにそういうとそこから煙のように消えた。