4月も終わり、5月の日差しが降り注ぐ雪魅町に、再び来訪者がやってきた。
その三人のうち、一人は一刻も早くといった風に歩いていたが、他の二人はまるでそれに引きずられるようにつれて歩かれていた。
「せ、先生…そこまで、急がなくても。」
「何言ってる…ほら、さっさと行くぞ二人とも。」
「先生」といわれた男は、そう言いながら二人をタクシーに押し込むと、矢継ぎ早に行き先を告げ、発進させた。
「ぁー…ちょっと、散歩行ってくるわ。」
そういって南黄ホテルの部屋から出た縁が玄関を出ると、丁度タクシーがホテル前に止まった。
そして、そのタクシーから降りてきた面々に思わず立ち止まる。
「…ろ…露伴先生?…と、康一君とかほりさん。」
そこに現れた、思っても見ない来訪者に立ち尽くすが、露伴の射るような視線にはっとなって首をゆるく振る。
「ど、どうしたんですか…?」
「…どうしたもこうしたもない、仗助はここにいるのか?」
「へ?ま、まぁ…いますけど…?」
「不本意だが、力を借りに来た。」
「ぇえ!?」
■■■
露伴が此処へ来ることになった理由は、数日前に遡る。
康一の家に居候している露伴が、間借りしている部屋で雪魅町に関するニュースを見ていたときだ。
そのニュースを見終わり、一度部屋を出て戻ってきたとき、テレビの乗った台の非常に低い位置に赤い文字で「みて」と書かれていた。
その生乾きの赤いインクのようなもので書かれた文字を、最初は家の者の悪戯だろうと思った露伴は、ティッシュでそれをふき取ってすぐに忘れていた。
が、それはそれだけでは終わらなかった。
露伴が目を話した隙に、いろいろな場所にその「みて」の文字は書かれていた。
それは、自分しか家にいないときにも起こった。
(…これは…ただことじゃない…。)
ようやくそのことに気が付いた露伴は、最初に同じ部屋で寝起きしているかほりにたずねた。
「『みて』ですか?」
「あぁ…誰かの悪戯かと思っていたんだが、そうじゃないようだ…。」
「…じゃあ、それを一度見せてもらってもいいですか?」
「ああ。」
そういうと、二人は一度部屋を出て少し間をおいて再び部屋に戻る。
すると、鏡面台の鏡の一番右下に生乾きの「みて」の文字が現れていた。
「…これだ。」
「本当ですね…ん…?」
不思議そうにその鏡に近づいたかほりは、その生乾きの文字を指で擦り、その指に付いたインクのようなものを鼻に近づけて臭いを嗅ぐ。
「…先生、これ…インクじゃないですよ。」
少し震える声で、かほりはそう告げた。
「インクじゃない?じゃあ…。」
「これ…血です…。」
「ッ!?」
嫌な予感がする。
露伴は扉の方へ振り向き、低い位置に視線を向ける。
そこには、今まで無かったその「みて」の文字がいくつも躍っていた。
「…先生、これ…。」
「…まさか、スタンドが関係している…ということか?」
■■■
「…それで、突き詰めていったら此処の町のニュースを見てからだ、と?」
「そうだ。そうしたら、仗助たちがこの町にいると聞いたからな…。」
「あぁ、それで…。」
そういいながら、縁はかほりや康一に視線を移す。
あまりにも急な長旅だったのだろう、二人とも魂を抜かれたかのようにぐったりしていた。
「…露伴先生、お部屋とってあるんですか?」
「…あぁ、かほりが。」
「私が手配しました…。」
「(大変だな、かほりさんも)じゃあ、とりあえずお部屋にいって色々整えてきたらいいんじゃないですか?」
「それもそうか…ほら、二人とも行くぞ。」
再び、二人を引きずるように引き連れてホテルに入っていく露伴を見送り、縁は軽くため息をついた。
そして、ポケットからケータイを取り出すと、仗助の番号に発信する。
『んー?どうした、縁?』
「なんかさ、露伴先生が来てる。」
『は!?…な、何でだよ…。』
「スタンド関連みたい…。」
かほりさんの設定
六峰かほり(ろくみね -)
年齢:露伴の1個下
スタンド:フィールライク"ヘヴン"(スタンドの持つ鏡に移した相手に自分の傷を、または自分に相手の傷を移す。体力の回復はない。)
露伴の担当編集(4部以降は出版社を退社し、岸辺家の住み込み家政婦)。
前任との引き継ぎの関係で露伴宅を訪れた際、淹れたコーヒーが気に入られて強制的に専属として住み込まされる。
元々は調理系の仕事に就きたいと思っていたため、料理が得意。
また、他の家事もそつなくこなす。
幼い頃に父を亡くし、その後すぐに母が失踪したため、大叔母に4歳まで、大叔母がなくなってからは伯母に育てられている。
六峰家はその筋では有名な占い師の一族で、彼女を育てていた大叔母はその中でも天才と言われていた。
で、その4歳までは杜王にいた。