チェックインを済ませた露伴は、おもむろに康一に鍵を手渡す。
「…へ?」
「康一君、君は隣の部屋だ。」
「…えと…一人で?」
「それ以外に何があると?」
さも当然というような露伴に、康一は「反論しても無駄」だと感じると、それを素直に受け取って部屋に向かった。
そのやり取りを見ていなかったかほりは、不思議そうに露伴を眺めていたが、露伴に戸を指差されればそそくさと部屋の戸を開いた。
「…!…せ、先生…。」
部屋に入り荷物をといていたかほりは、不意に露伴の背中を見ると絶句して立ち尽くす。
何事かと思い、来ていた上着を脱ぐと露伴は目を疑った。
背中には、今までのように血で文字が書かれていた。
ただ、違っていたのはその書かれている文字だった。
今まで『みて』だけだった文字は、『みつけて』に変わっていた。
「さっき、までは…なかったのに…。」
搾り出すようにやっと言葉を発したかほりの声に、露伴もはっとしてかほりを見る。
かほりの目には、明らかに怯えが浮かんでいた。
そんなかほりの腕を掴み、引き寄せながら露伴は言葉を紡ぐ。
「大丈夫だ…こいつが何を『みつけて』というのか分からないが…此処に来たのは、間違いではないということだろう…。」
■■■
「…で、露伴先生どのニュース見たんです?」
新聞の切抜きを広げながら、縁が露伴に尋ねる。
そんな縁を見、次いで辺りを見回してから怪訝そうに露伴は口を開いた。
「…その前に、仗助はどうした。」
「え?あー…なんか承太郎さんとこに行ったみたいですけど。」
「…ふん、まぁいい…僕が見たのはこれだな。」
そういうと、露伴は一つの切抜きを指差した。
4月20日付けのその記事の見出しには『小一女児行方不明』の文字が躍っている。
『町内の朱雀地区に住む江口梨佳ちゃん(7)が今月9日から行方不明になって一週間以上が過ぎ-…』という記事に、はにかんで写る少女の写真が載せられている。
「…朱雀地区は…えっと…。」
そういいながら、縁は靖子に作ってもらった簡易地図(といっても地区名と学校などしか書かれていない即席のものだが…)を取り出し、それを確認する。
「こっから歩いていけない距離じゃないですよ。」
「だが、そこにその子が今いるわけじゃないだろう。」
「そうですけど…じゃーどうするんですかー?」
そういっていると、縁の足元をちょろちょろと動くものが見えた。
縁がそれを摘み上げると、それはメモリーであった。
「ありゃ…先生、なんかヒントもって来たかもしれませんよ。」
「…じゃあ、寝てくればいいじゃないか。」
「はいはい…じゃあ後で~。」
じたばた暴れるメモリーを掴んだまま、縁はぱたぱたと部屋に戻っていた。
それを見送ると、露伴は隣に座っていたかほりの方へ向き直る。
「先生?」
「少し外を歩くか…付いて来い。」
「あ、はい…分かりました。」
露伴の言葉に、かほりはにこっと笑うとうなずいた。
■■■
縁は夢を見ていた。
それは、あの日みた夢に酷似していた。
明るい金髪の少女が、あの新聞に載っていた少女…梨佳に背後から近づく。
それに気が付いた梨佳は、不思議そうにその金髪の少女を見上げる。
その金髪の少女…顔は見えないが、口元は見えた。
少女は口元に笑みを浮かべ、梨佳を遊びに誘う。
遊び相手がいなくて退屈していた梨佳は、嬉しそうにその誘いに乗った。
しかし、梨佳は気づかなかった。
その少女の口元には邪悪な笑みが浮かんでいたことに…。
「…ッ!!」
汗だくになって縁は目を覚ました。
今、夢で見たことを忘れないうちに枕元のメモ帳に箇条書きで書き出していく。
夢で見た最後の場面を思い出し、それが何処なのか調べようとしたが、土地勘が無いためなんともできない…と思ったとき、一人頭に浮かんだ人物がいた。
それを思い出すと、縁はすぐにケータイを取ってメールを打ち始めた。