露伴に無理やり連れてこられていた康一は、何もすることも無いので雪魅の街中を見て歩いていた。
そんな時、不意に肩を叩かれる。
何かと思って振り向くと、見知らぬ少女が立っていた。
相手に何か用かと尋ねようと口を開きかけた康一だったが、彼女のくぐもった声を聞くと意識が遠のいていった。
それから数分後、町内を散歩していた縁はふらふらと歩く康一を見て、手を振りながら声を掛けた。
「あれー?康一君じゃーん?散歩ー?」
その声に一度康一は振り向いたが、何故か何も言わずにそのまま歩き出してしまった。
不審に思った縁は、それをぱたぱた追いかける。
「こーいーちくーん?」
無言で走る康一だが、コンパスの長さが圧倒的に違う縁にすぐに追いつかれてしまった。
追いついた縁は、その康一の肩に手をぽんと置く。
その途端、まるで憑き物が落ちたかのように、康一はその場に崩れ落ちた。
それに驚いた縁は康一をゆさゆさと揺らして起こそうとする。
その時、縁は気づかなかった。
康一の耳から、何か細いものが抜け、そのまま風に飛ばされるように消えていったことに…。
■■■
「うう、ん…?」
「あ、気づいた…大丈夫?」
「あ、あれ…縁さん…?どうして此処に…?」
「それはこっちの台詞だよ~。なんで私を見て逃げたわけ?」
「え…?逃げた…?」
「逃げたじゃない。」
「本当に、逃げた?」
「逃げたよ。」
うんうんと頷いて答える縁に、康一は困ったように頭をかく。
そんな康一の様子に、縁は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
「…覚えてないんだ…。」
「は…?」
「誰かに肩を叩かれて、何か言われた後から…記憶が飛んでる。」
困ったような口調で言う康一に、縁は何度か瞬きをしてから口を開いた。
「ほんとーーーーーに、覚えてない?」
「本当に覚えてないんだよ。」
「…ねぇ、それってさ…このごろ多いからできれば違っててほしいけど…。」
「…スタンドかも…?」
康一の言葉に、苦笑を浮かべながら縁は頷く。
「とりあえず、ホテルに帰ろ…?」
「そうだね…。」
■■■
そのころ、あの時康一の肩を叩いた少女は裏路地でぼんやりしていた。
その顔は、包帯でぐるぐるに巻かれ、目と鼻、口以外はすべて隠されている。
「…またやっちゃった。」
悲しげな声を漏らすと、少女はふらふらと歩き出す。
縁と仗助の泊まっている部屋にやってきた康一は、二人と共に町の地図を見ながらその少女に声を掛けられた場所に印をつけていた。
「…あれ、露伴先生は?」
「かほりさんと出かけたみたい…。」
縁と康一がそんな話をしている傍らで、仗助は康一がつけた印と縁のつけたしるしまでの間の道を指でなぞる。
「んで、ここで話しかけられて…縁のいた、ここまで気づいたら来ていた…ってことでいいか?」
「うん…気が付いたら…。」
「そりゃ変だな…。」
そんな話をしていた三人の部屋の扉が、急にノックされる。
何事かと思い、縁は立ち上がってスコープを覗く。
そして小さく「あ?」と呟くと、扉を開ける。
すると、足早に露伴が部屋に入り込んできた。
「ろ、露伴先生…?」
「どーしたんすか…?」
「…あれ…?先生、かほりさんは…?」
3人に一気に話しかけられるものの、康一の「かほり」という言葉にはっとしたように露伴は顔をしかめる。
「…いなくなった。」
「「「はい!?」」」
思わず、3人の声が重なる。
露伴の目には、珍しく焦りが浮かんでいた。
「…誰かに声を掛けられたらしくてな…それに答えて振り返った…なかなか追いついてこないと思ったら、消えていた…。」
「…それって…?」
露伴の言葉に、仗助と縁の視線が康一に向けられる。
その視線に気づき、康一は小さく頷いた。
「…露伴先生…それ、さっき僕も同じ目に遭いましたよ。」
「何!?」
「これでスタンド関係ってことははっきりしたわねー…。」
「あぁ…。」
■■■
かほりは、ぼんやりと霞がかったような頭で目の前を見つめていた。
思うこととは反対に、体はどんどんと進んでいく。
(早く…先生のところに…帰らないと…。)
そう思っても体の自由が利かない。
そのうち、川が目の前に見えてきた。
すると、勝手に口が開く。
「…きれい…でも…。」
そう呟くと、体は別な方向へと向かって歩いていく。
商店街の方向だ。
アーケード街の中を、どこかの店に寄るでもなくゆらゆらと歩いていく。
(先生…。)
再び消えそうになる意識の中で、かほりは露伴のことを思った。
「かほり!」
露伴の声が、背後で響く。
振り向く間もなく、かほりは背中から抱きすくめられた。
その途端、かほりの意識は一気に覚醒に向かう。
「せ、先生…み…見られてますよ…?」
「構わん、見られるくらいは全然な。」
真っ赤になってうろたえるかほりの耳から、康一の耳から抜けて言ったのと同じものが抜けていく。
追いかけてきた仗助たちがその耳から抜けた物を見つけると、露伴たちを置いてそれを追いかけていく。
「先生…追いかけないと…。」
「…それもそうだな…。」
名残惜しそうにかほりの体から離れると、そのかほりの手を取って走り出す。