かほりの耳から抜けたそれは、風に舞う紙のような動きで、どこかへと向かって飛んでいく。
仗助たちはそれを懸命に追いかける。
すると、それが不意に路地裏へと入る道へ曲がった。
「そっち曲がった!」
「こっちか!」
その道に飛び込むと、電柱の影に誰かがうずくまっている。
用心しながら、その人物に近づくと、うずくまって項垂れている少女の姿が仗助たちの目に入った。
「…おい…?」
あまりにも拍子抜けした仗助は、短く声を掛ける。
その声にびくっと震え、その少女はおずおずと仗助たちを見上げた。
「…!?」
少女の顔を見て、仗助たちは息を飲んだ。
その顔は、包帯に覆われて表情が読み取れない。
しかし、その包帯から覗く目には僅かに涙が浮かんでいる。
「…お前が…やってたのか…?」
「…さい…。」
「え?」
「ごめん…なさい…。」
そういうと、少女はその包帯から覗く目を手で覆い、泣き始めてしまった。
それに戸惑い、仗助と縁、康一は顔を見合わせる。
「見つかったのか?」
3人が戸惑っていると、かほりの手を引いて露伴がやってきた。
そして、3人の間から泣いているその少女を見ると、次いで3人を見る。
「…なんでこいつは泣いてるんだ?」
「さぁ…?」
■■■
ようやく落ち着いたころに、かほりが少女に問いかける。
「どうしてあんなことを…?」
その声に、目を擦りながら少女は震える声で答える。
「…外を見たくて。」
「外を…?」
不思議そうに、かほりは後ろで聞いている仗助たちのほうを向いて首を傾げる。
そんな様子を気にすることなく、少女は言葉を続ける。
「…私、顔がきれいじゃないから…外に出るのが怖くて…でも、外が見たくなると…たまに…こういうことしちゃって…いけないって、分かってるけどでも…。」
また泣き出しそうな少女の背中を撫でながら、かほりはゆっくり語りかける。
「…その力、いつからあるの…?」
「分からない…気が付いたら…出来るようになってたの…。」
「そう…それを、こういう風に使うのはいけないって分かってるのね?」
「うん…。」
項垂れたまま返事をする少女の肩を、そっとかほりは抱き寄せる。
それにびくっと震え、かほりを見上げる。
「きっとね、自信がないからそういう使い方をしちゃうんだと思うの…どうして、自分をきれいじゃないって思うの?」
「…だって…お継母さんが…。」
その言葉を聞くと、かほりはこれは何か根深いものがあると理解した。
そして、にっこりと微笑んで少女に語りかける。
「…ねぇ、ちょっと付いてきてくれる?」
「え…?」
「あなたがこういう使い方をしなくなるためには、自信をつけることだと思うから。」
■■■
「先生、仗助さんたちの部屋で待っててくださいね?」
「あぁ…何をするつもりだ?」
「あの子の顔、見てみようかと…最初、私だけが見たほうがいいんじゃないかと思って。」
「あぁ…なるほどな。」
少女を連れてホテルに戻ってきたかほりは、自分の部屋で少女の素顔を見ることにした。
しかし、やはり長い間顔を隠してきた少女はなかなか踏ん切りがつかないのか、包帯を解こうとしない。
「…やっぱり怖いです…。」
「大丈夫よ!」
ぽん、と少女のとなりに腰かけ、にっこり微笑む。
そして、優しく少女の頭を撫でながら語り掛ける。
「おかあさんに、ずっと言われてきたらそう思うのも仕方ないと思う…でもね…それを克服するのって、大事だと思うの。」
「克服…?」
「そう…あんな風に力を使うと、悲しいでしょう?」
「うん。」
「自分の力で、外を見たほうがずっと嬉しいと思う。」
「…うん。」
「大丈夫、あなたならきっと乗り越えられる…私が手伝うよ。」
「…分かりました…やって、みます…。」
意を決したように包帯に手を掛ける。
震える手で、ゆっくりと包帯を解いていく。
はらりはらりと包帯が膝の上に落ちていき、少しずつ少女の顔があらわになっていく。
「…え…?」
かほりは思わず息を呑んだ。
そこには、幼さが残る美しい顔があった。
「あなた…綺麗よ…。」
「え?」
「すごい綺麗!」
そういうと、呆気に取られている少女の手を取り、部屋を飛び出す。
そして、仗助たちの部屋の扉をノックした。
「??」
「皆もそう言うわ。絶対よ。」
にっこり微笑んでそう語りかけたのと同時に、部屋の扉が開いた。
その扉を開けた縁は、その少女の顔を見て目を丸くした。
「うっそぉ!?美少女じゃん!?」
縁のその声に、仗助たちが入り口までやってくると思わず固まってしまう。
「…グレート。」
「ほー…。」
「ちっとも隠す必要ないよ…。」
その言葉に、恥ずかしそうに俯く。
そんな少女の肩を、ぽんとかほりが叩く。
「ね…?あなた、綺麗なんだよ。」
「知らなかった…。」
「これからは、胸張って外に出ていいのよ。」
そのかほりの言葉に、ようやく少女は顔を上げてはにかんだ笑みを浮かべ、小さく頷く。
そして、少女に名前を聞くのを忘れていたのを思い出し、かほりは問いかけた。
「そういえば…あなた、お名前は?」
その言葉に、少しきょとんとした顔をしたが、少女はすぐにそれに答える。
「…黒沢まほろです…。」
「そう、まほろちゃん…これからは、もう大丈夫よね?」
「はい!」
嬉しそうに頷くまほろに、かほりは笑みを浮かべてそれを見つめていた。
そして、ホテルの下までまほろを送るために部屋を出て行った。
それを見送った仗助たちだが、不意に思ったことを縁が露伴に尋ねた。
「…そういえば、先生はそんなにすごい反応じゃなかったですね。」
「かほりのほうがいい。」
「…ああ、そうですか…」
-レディ・ファントム完-
元は3話構成でしたが、最低文字数に引っかかったので1と2を合わせました。
レディ・ファントム
本体:黒沢まほろ
ステータス:破壊力:E/ スピード:C/ 持続力:C/ 射程距離:B / 精密動作性:C/ 成長性:B
能力:声をかけ、それに答えた相手の顔、もしくは意識を奪い、相手に一定時間なりすます。
元ネタ:北村薫【レディ・ジョーカー】を文字って