少女は憤っていた。
必ず、自分を邪魔するものへ、復讐してやろうと考えていた。
そんな少女に、金色の髪の少女が近づき、囁く。
「私が力を貸してあげようか?」
その、甘く誘うような響きを持つ囁きに、少女は簡単に頷く。
それを見て、金髪の少女はこの上ないくらいの可愛らしい笑顔を作り、背中に隠していた『それ』を高く翳す。
それをみて少女は身を硬くし、次いで逃れようとしたがそれよりも早く、金髪の少女が『それ』を振り下ろし、少女の胸へ突き刺す。
その痛みに声を上げる間もなく少女はそこに崩れ落ちるが、すぐに生きていることを感じて不思議そうに金髪の少女を見上げた。
「これで、あなたは力を手に入れた。」
先ほどと変わらぬ笑顔のまま、金髪の少女は言う。
そして、少女の胸に突き刺した『それ』を引き抜き、血をぺろりと舐める。
「すぐに実感するわ、あなたの力…ダークメルヒェンを。」
その言葉を聞くと、少女はまるで操られているように立ち上がり、そのまま自宅のほうへと歩き出す。
それを見送り、金髪の少女は笑みを浮かべたまま呟く。
「さぁ、新しい『おもちゃ』だよ、靖子ちゃん…あなたはこれを、どう乗り切るの?」
思わず笑いが口から漏れる。
その笑いは、無邪気な、そして残酷な笑い声だった。
■■■
「古賀さァ~ん、ちょっと来てくれるゥ?」
そのわざとらしすぎる明るい声に、帰り支度をしていた古賀瑞希(こが みずき)は体をこわばらせ、その声のしたほうへ顔を向ける。
そこには、クラスの女子同士のグループの中で一番大きいグループのリーダー的な存在である、月岡朱実(つきおか あけみ)が、数名の取り巻きと共に立っていた。
相手に気づかれないようにため息をつき、瑞希は席を立つ。
「ちょっとさぁ、今日の委員会代わりに出てよォ~…ね?」
有無を言わせない、その高圧的な物言いに瑞希は僅かに顔をしかめるが、すぐに小さく頷いた。
それを見ると、朱実はクスクスと笑いながら「ありがとねェ~」とだけ言うと、取り巻きの女子と共に教室を出て行く。
それが見えなくなると、瑞希はギリッと歯軋りをし、カバンを持つと委員会の行われている旧校舎へと走っていく。
委員会の間、瑞希は下唇をかみ締めて噴出しそうになる怒りを押さえ、委員会が終了するとすぐに部屋を飛び出し、旧校舎の奥にある、誰も使わないトイレへと駆け込み、一番奥の個室に入る。
「あンの…クソアマぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!」
個室の中で、瑞希は叫ぶ。
その声は、表まで届くことはない。
瑞希は落ち着くまで、罵詈雑言を吐き続けた。
しかし、瑞希は気が付かなかった。
罵詈雑言を吐けば吐くほど、自分の背後にいる『誰か』が黒々と大きくなり、目を爛々と光らせているということに…。
やっと落ち着いた瑞希は個室を出、もう人もまばらになった旧校舎から出ると自宅へと向かって歩き出した。
しかし、その背後にいた『誰か』は瑞姫のいくほうとは反対のほうへ、夕闇の中を泳ぐように進んでいった。