『それ』は、ゆっくりと部屋の中に忍び込んできた。
黒い影のようなその体は、ベッドの上で寝ている縁と仗助の顔を覗き込むと、さらに体色の黒が鮮やかになっていく。
そして、仗助に狙いを定めると、口の部分が笑っているかのように開く。
血のように赤い口が、嗤う。
その時-…
「ドラァ!」
「ギッ!!」
寸での所で拳をかわし、それはまるで爬虫類のように壁に張り付く。
「ったく……安眠妨害だっつーのよぉ……。」
そういいながら、仗助は軽く首を回しながら起き上がり、それを見据える。
それは、再び赤い口を大きく開く。
だらんと、何か模様のようなものが刻まれた舌がその口から垂れ下がる。
今度は嗤っていない。
むしろ、怒っている様であった。
「ったくよぉ…何なんだオメーは……。」
そういいながら身構えると、それは大きく腕を広げる。
その腕からヒレのようなものが伸びる。
「ギィィィィィィィィィッ!!」
「っ…!?」
古いドアの軋むような鳴き声を上げ、それはそのヒレを大きく振るう。
それは空気を切り裂き、僅かにかすった仗助の頬を傷つけた。
「ってぇ……。」
思わず声を漏らすも、その目はしっかりとそれを捉えていた。
それは壁から降り、その腕のヒレを仗助に向けたまま身じろぎ一つしない。
じりじりとにじり寄るそれから、一定の位置を保つように仗助は後退する。
しかし、後ろには縁が寝ている。
あまり後ろへは下がり続けられない。
(どーすっか…な……。)
不意に、ドアが視界の隅に入る。
(あそこまで…なんとか、いければ……。)
相手に気づかれないよう、後退しながら進路をドアのほうへと少しずつ変更していく。
相手はまだ気づいていないようで、時折短く鳴きながら仗助へじりじりとよってくる。
だんだんと背後に扉が近づく。
そして、ついには背中がドアに付く。
「(来た…ッ!)ドラァ!!」
「ギッ……!?」
ドアを破り、外へ飛び出す。
すかさず、相手も仗助を追って部屋から飛び出した。
その間に、ドアはクレイジーダイヤモンドの力によって元通りに収まっていた。
「ギィィ……ッ!」
それの目が爛々と輝き、仗助をにらむ。
仗助は再び身構えると、それと対峙する。
「縁に近づけさすわけにいかねーからな……。」
「ギィィィィ……!」
それは腕のヒレの切っ先を仗助に向け、姿勢を低くし、一気に飛び掛る。
それにあわせるように、仗助は拳を繰り出した。
「ギィィィィィィィィィィッ!!」
「ドララララララララァーッ!!」
二つの影が交差する。