着地した仗助は、僅かにふらつきながら相手のほうへ向き直る。
相手に拳を叩き込んだのはいいものの、相手のヒレがその腕を切り付けていった。
押さえる手の間から、血がぽたぽたと零れ落ちる。
「ギィィ…。」
再び、それが手を高く掲げて狙いを定める。
仗助は、押さえる腕を放し、痛みに顔をしかめつつ相手と対峙した。
その時-…
「仗助…!?」
部屋の戸が開かれ、そこから縁が飛び出してきた。
先ほどのドアが壊れる音で目を覚ましたようだ。
「ばっ…来るな!縁!」
「で、でも…!!」
そのやり取りを見ていた、それは、顔を悲しげにぐしゃりと顰める。
そして-…
「ギィィィィ…!」
悲しげな響きを含んだ声を上げると、窓へ向かって猛スピードで動き、それを追いかけようとした仗助たちを振り切り、窓のガラスをすり抜けて、外へと消えていった。
「な…?」
「…逃げた、の…?」
「縁の能力を知らないから、不利だと思って逃げたのか…?」
「…あ!それより…腕…。」
「あぁ?これくらいへーきだっつの…とりあえず、戻ろうぜ…・」
■■■
次の日、敵スタンド思しきものに襲われたということを、仗助は承太郎に伝えた。
「…まだ目覚めたばかりなのかもしれないな…。」
「まだ、うまく扱えないってことっすか?」
「その可能性はあるだろうな…。」
仗助たちがそんな会話をしているころ、瑞希は自室で横たわっていた。
学校へ行く時間は当に過ぎている。
しかし、学校へ行く気力は皆無だった。
親には、体調が悪いから休むとだけ告げ、少しだけ朝食を食べて部屋に戻ってからは、一度も部屋から動けずにいた。
-昨日の夢は最悪だった。
あの男を…仗助を追い詰めたと思ったのに、寸でで出てきてしまった縁を見ると、どうしても体が動かなくなり、思わずその場を飛び出していた。
「あれは、現実…?」
実際、夢だとは思わなくなってきていた。
大体、仗助という男は名前と声は知っていても、姿は知らなかった。
なのに、夢の中ではその姿を見て、そしてそれが仗助だと認識していた。
「…いるの…?」
僅かに体を起こし、背後に目を向ける。
すると、壁際にあの黒い影のようなものがたたずんでいるのが分かった。
怖さは無い。
むしろ、安心した。
そして、理解した。
「あの子が言っていた力…『ダークメルヒェン』…それは…あなただったのね…。」
その呟きに答えるように、それは「ギィィ」と返事をした。
そして、瑞希は再び昨日の光景を思い出す。
もう少しで、勝てたかもしれない。
あのとき、縁さんが出てこなければ、勝機はあったかもしれない。
そう思うと、再び胸の中にどす黒い思いがこみ上げてくる。
それに呼応するように、ダークメルヒェンは黒く、そして大ききなっていく。
瑞希はゆらりと起き上がり、そっと部屋を出る。
父親は仕事だし、母親もパートに出ていて、家には瑞希しかいない。
それを確認すると、瑞希は家を出る。
その後ろを、ダークメルヒェンはゆっくりと付いていく…。