瑞希の足は、無意識のうちに縁たちの宿泊している南黄ホテルへと向かっていた。
まるで導かれるように、瑞希はそちらへと向かっていく。
「あれぇ?」
不意に聞こえた声に、瑞希は顔を上げる。
そこには、髪をまとめながらホテルから出てきた縁の姿があった。
縁は、瑞希の姿を見とめると、不思議そうに首をかしげながら言葉を紡ぐ。
「瑞希ちゃん?あれ、今日学校…?」
「あ、ちょっと…休んで…。」
「あ、そうなの?大丈夫?」
「はい…あの、縁さん。」
「なに…ッ…!!」
瑞希に呼ばれ、気を緩めた瞬間、ダークメルヒェンの拳が縁の鳩尾に叩き込まれる。
思ってもいない攻撃に、縁は簡単に崩れ落ちた。
「ごめんなさい、縁さん…手荒な真似は、したくなかったんですけど…。」
ダークメルヒェンに縁を担ぎ上げさせながら、瑞希は言葉を紡ぐ。
「でも、こうでもしないとあの男も一緒に来ちゃいそうだから。」
そういいながら来た道とはまた別のほうへと歩き出した瑞希。
その光景を薄れ行く意識の中で見つめながら、縁は手にしていた櫛をその場に落とした。
それを少し離れた場所から、息を潜めて、メモリーが見つめていた。
■■■
「縁ー?…ありゃ…?」
それから10分ほどして、戻ってくるのが遅い縁を心配し、外へ仗助がやってきた。
しかし、そこにいるであろう縁の姿が何処にもない。
「すれ違ったか…ん?」
そういって戻ろうとした仗助の足元を、ちょろちょろと黒いものが動いている。
しゃがんでみてみると、それは縁のスタンドのメモリーだった。
「あぁ?おま…俺んとこ来ても意味ねーだろ…っておい?」
仗助がそう声を掛けた途端、メモリーは「ついてこい」と言わんばかりにちょこちょこと歩き出す。
何事かと思い、仗助が付いていくと、目の前に見覚えのある櫛が落ちていた。
「…こりゃあ…縁の…って、まさか!」
慌てて周囲を見回す。
しかし、縁の影も形も周りには見えない。
メモリーはその櫛の周りをぐるぐると回り、そして仗助を見上げる。
「…奴の狙いは…縁…?」
そうなのだとしたら、かなり迂闊だった。
何故さっき、一緒に外に出てやらなかったんだろう。
そんな思いにとらわれていると、背後で聞き覚えのある声がした。
「あ、仗助さんだ。」
「あ、ほんとだー。」
振り向くとそこには、靖子と真衣が立っていた。
二人とも、不思議そうな顔で仗助を見上げている。
聞けばその日は午前授業だったらしい。
「…何かあったんですか?」
何かを感じ取ったように、靖子が仗助に尋ねる。
靖子の言葉に、仗助は縁がいなくなった事を二人に告げた。
■■■
(う…ううん…?)
そのころ、縁はぼんやりとだが覚醒していた。
見える天井は見慣れないものだ。
そして、微かに埃の臭いが鼻につく。
(此処は…て、あれ?…声が…でない…?)
此処が何処か確かめようとするが、なぜか体が鉛のように重く感じ、動くことが出来ない。
それどころか、声が一言も発せられないのだ。
必死に、先ほどのことを思い出そうとする。
しかし、霞が掛かったようにぼんやりとして、思考がはっきりしない。
「起きました?」
不意に、声がした。
「手荒なまねして、ごめんなさいね…縁さん。」
暗がりから現れたのは、瑞希だった。
背後には、その動きに合わせるように濃い紫色の外套を羽織った何者かが付き従っている。
「ッ…!?」
「あ、あんまり騒がれないように轡をはめさせて貰ってます…ごめんなさいね。」
そういいながら、瑞希は縁の上に覆いかぶさる。
「!!?」
「細いだけじゃないんですね…すごい、しっかりしてる…。」
そう呟く瑞希の指が、縁の腰のラインをなぞる。
そして、喉仏の辺りに、瑞希の唇が押し当てられた。
(ッ…ゃ…だ…!…誰、か…助けて…仗助…ぇ!)
縁が仗助の名を心の中で叫んだのと同時に、縁たちのいる空間に轟音が響き渡った。