-明るい日差しの下、幼い少女は楽しげに川辺で遊んでいた。
少女の両親は、そんな彼女を微笑みながら見つめていたが、一瞬目を離してしまった。
その瞬間、少女は誤って川へ落ちてしまった。
両親が気づいたときには、少女のいたところには少女の小さいサンダルしか落ちていなかった。
恐怖でパニックになる少女の耳に、知らない…それでいて優しく、懐かしい声が響いた。
―落ち着いて、僕の手を握って―
その声に促され、少女は手を伸ばす。
その小さな手に、誰かの…大きく、暖かい手が重なり、力強く少女を引き上げる。
…気づいたときには、少女は川の浅瀬に流れ着き、奇跡的に命を取り留めた。
しかし、長い間水に使ったせいか、長期間高熱にうなされることになった…-
■■■
靖子は、保健室で横になっていた。
貧血を起こし、始業式の最中に倒れたのだ。
靖子は、今まで見ていた夢を思い出し、窓のほうへ視線を移した。
あのとき、自分を助けてくれたのは誰だったのか、未だにわかっていない。
そして-…
あの高熱にうなされた時期を過ぎてから、靖子には自分の後ろに「他の人には見えない誰か」がいることに気がついた。
その人は、自分より年上の女性に見えた。
話しかけても、答えてはくれない…しかし、自分に危害を加えるそぶりも無いので、靖子は「守護霊」だと思うようになった。
黄色いボディスーツのような衣装に身を包み、右目は何かプレートのようなものに覆われている。
そんな彼女は、時折靖子を助けてくれた。
彼女の指先には、小さな明かりが灯るのだ。
その明かりに、靖子は幾度助けられたか分からない。
「…お姉さん。」
そう声を掛ける。
背後には確かに、その人がいた。
しかし、その声には彼女はこたえてくれない。
もう一度声を掛けようとしたその時、保健室の扉が開く音がしたので、靖子は開きかけた口を閉じて、そちらを振り向いた。
「あら、もう大丈夫なの?」
保健医の雪絵(ゆきえ)だ。
靖子が5年に上がった年に赴任してきた若い女性で、生徒には「雪先生」と呼ばれている。
「はい…今何時ですか?」
「11時よ。どうする?教室に戻る?」
「はい、もう平気みたいですから。」
「そう…一人で大丈夫?」
「もちろん!」
靖子はにっこり笑ってベッドから降り、ぺこっと頭を下げる。
「お世話になりました。」
「はいはい、無理しないでね?」
その様子にくすくす笑い、雪絵は靖子に手を振った。
それに答えるように靖子は軽く手を振り返し、ぱたぱたと教室へ戻っていく。
「あら、上条さん。もう大丈夫なの?」
教室の戸を開け顔を覗かせると、担任の優奈(ゆな)が声を掛けてきた。
靖子が小さくうなずくのを見ると、優奈は靖子に今まで配った配布物渡して、「じゃあ、席に着いて」と微笑みながら促した。
席へ向かって歩いている途中、友人たちが「大丈夫?」と声を掛けてくる。
靖子は、そんな声に「大丈夫だよ~」と返事をし、席に着いた。
それを確認すると、優奈は話を再開した。
「最近、物騒な事件が多いです。商店街への買い物や、南区へのお出かけはお父さんかお母さん、大人の人と必ず一緒に。あと、できるだけ一人で登下校しないように。」
「「「はーい!」」」
「あと、春休み中に借りた図書館の本は今月中に返却してくださいね。」
諸連絡が終わり、簡単な掃除を終えると、生徒たちは教室から出て行く。
靖子も帰ろうと、ランドセルを背負う。
そこへ、理子がやってきた。
「やすちゃん、かえろー・」
「うん、かえろっか!」