自転車で学校まで戻ってきた靖子は、教室へ走りこむ。
まだ校庭で遊んでいる生徒もいるが、それもまばらだ。
6時になると校門はしまってしまう。
あと40分もあるが、早めに見つけて帰ろうと、靖子は自分の席へ駆け寄る。
机の中を覗くと、朝のHRの時間に読む本に、プリントが下敷きになっていた。
「あったー…」
安堵の息を吐くと、靖子はそのプリントを持ってきた手提げに入れると、小走りに昇降口へ向かう。
「あら、上条さん?」
「あ、優奈せんせー!」
「どうしたの?忘れ物?」
「えへへ…。」
「大丈夫?一人で…先生、送っていこうか?」
「大丈夫ですよ!自転車できたし!」
「そう…?…そうだ、何かあったら学校に電話するのよ?」
「はーい!!」
優奈と別れると、靖子は自転車に再び跨り、家に向かって走り出した。
■■■
『それ』は、飢えた獣のようにうめいていた。
理性の光をなくした目は、ぎょろぎょろと動き、『それ』は獲物を探すように目の前の道を見つめていた。
すると、自転車の車輪の音がする。
『それ』はその音に導かれるように、道へ飛び出していった。
「!!?」
靖子は思わず急ブレーキを掛けた。
目の前に、何かが飛び出してきた。
夕闇が迫るその道の中で、『それ』は四つんばいで靖子の目の前に立ち塞がる。
「な、なに…?」
靖子の声が震える。
『それ』はじりじりと、靖子ににじり寄っていく。
「グルルルル…。」
犬のうめき声のような声が、『それ』の口から漏れる。
ギラリと、目が強い光を放つと同時に、『それ』は靖子に飛び掛ってきた。
「きゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
周りの空気を切り裂くような叫びを上がる。
その時-…
「ドラァーッ!」
「!?」
誰かが『それ』を殴り飛ばした。
それにあっけに取られていた靖子の肩に誰かの手が触れ、靖子の体はびくっと震えた。
「…?」
「大丈夫?」
髪をポニーテールに結い上げた女の人が、靖子を覗き込んでいた。
靖子は小さくうなずく。
「よかった」というと、その女性は顔を上げて先ほど「それ」がいたほうを向いた。
靖子もそちらを見る。
「子供相手によォー、本気になってんじゃねーっすよ。」
背の高い男性が、靖子と女性をかばう様に立っていた。
『それ』は口から血をたらしながら起き上がり、男性をにらみつけた。
「グゥゥゥゥゥ……!」
「…まだやんのか?」
うなり声を上げながらにらみ付ける『それ』に、男性は身構えた。
地面を蹴る音と、『それ』の雄叫びが響く。
「グゥゥゥゥルァァァァァァァッッッ!!!!」
「ドララララララーーーーッ!!」
『それ』の牙が届く前に、『それ』は殴り飛ばされ、地面に強く打ち付けられた。
くるっと男性を振り向くと、ふっと息を吐く。
「仗助。」
「あぁ、縁…そっちの子も大丈夫かよ?」
「ぇ、あ…は、はい…。」