「そうか…よかったぜー。」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、仗助は靖子の頭をわしわしと撫でた。
縁は立ち上がると、先ほどアスファルトにたたきつけられた『それ』に視線を向けた。
びくびくと痙攣していた『それ』は、ぐったりとアスファルトの上に身を横たえた。
縁は、注意深く近づく。
すると、『それ』を覆っていた漆黒の体毛がぞぞぞっと引いていき、その下から白い肌が覗いた。
「え!?」
縁の声が響く。
そこに倒れていたのは、靖子とそう変わらない年頃の少女だった。
「…スタンドが暴走したのかしら…。」
縁はそう呟きながら、その少女の首筋に指を当てて脈を取る。
微かに脈が伝わってくるのを感じ、縁は小さく息を吐いた。
「おい、縁~…そいつ大丈夫かぁ?」
「ん、なんとか生きてるわ。」
二人の会話を聞きながら、靖子はその少女の顔を覗き込んだ。
「…真衣ちゃん…?」
それは、去年まで同じクラスだった真衣(まい)だった。
春休みがあけてから登校しておらず、隣のクラスの担任が心配していたのを思い出した。
「知り合いなの?」
「…うん」
「じゃー、とりあえず治さないといけねーよな…。」
「治す…?」
不思議そうに首をかしげる靖子を尻目に、仗助は真衣の近くへ膝をつく。
仗助の背後から、先ほど異形の姿になっていた真衣を殴り飛ばした「何か」が再び現れ、真衣に触れる。
すると、真衣の体の傷はきれいに消えていた。
だが、目を覚ますまで安心できないというように、仗助と縁は真衣の顔を覗き込んでいた。
しばらくすると真衣は目を覚ました。
先ほどまでのことを覚えていないようで、きょとんとして辺りを見回していた。
そんな真衣に、靖子は「帰り道で会って、一緒に帰る途中で真衣が転んでしまい、気絶した真衣を偶然通りかかった二人が介抱してくれた」と説明した。
その説明でどうやら真衣は納得したようで、真衣は仗助と縁にお礼を言うとふらふらと歩いていった。
そんな真衣を見送ってから、靖子ははっとした。
「あ!…い、今何時ですか!?」
「今?…ええと、5時50分ね。」
「きゃあああ!も、もう帰らないと!」
あわてて立ち上がり、靖子は倒れていた自転車を起こす。
そして、仗助と縁にぺこりと頭を下げ、立ち去ろうとした。
「…あ…ねぇ!」
その時、縁が呼び止めた。
靖子は、その声に一度立ち止まると「何ですか?」と言う様に首を傾げてみせた。
「あなた、名前は?」
知らない人にいきなり名前を聞かれ、靖子は戸惑ったが、相手は悪い人ではない…そう感じていた。
靖子は少し間を置いて、口を開いた。
「靖子…上条靖子です!」
「…!上条…靖子…?」
靖子の名を聞くと、縁と仗助は顔を見合す。
靖子は不思議そうに首をかしげる。
「…どうかしました?」
「!!ああ、ううん…なんでもないの…靖子ちゃん、気をつけて帰ってね…?」
「はい!ありがとうございました!」
そういうと、靖子は自転車に跨り、走り出した。
それを見送り、二人はしばらく立ちすくみ、お互いの顔を見合わせていた。
「…まさかあの子が…。」
「あぁ…DIOの娘かもしれない子…なんてな…。」
見えなくなった靖子が行った道を見つめ、二人は呟く。
そんな二人の間を、風が吹き抜けていく。
まるでこれから起こる「何か」を予感させるように…。
―上条靖子・完―