夜間飛行   作:おわる美砂

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夜間飛行~ヴィジュアルⅢ・その1~

「ただいま~…。」

「靖子!」

 

6時ちょうどに家にたどり着いた靖子の疲れたような声を聞きつけ、リビングから千鶴子が飛び出してきた。

千鶴子は、靖子を見ると駆け寄ってきて、強く抱きしめた。

 

「ま…ママ…。」

「靖子…!よかった、無事で…心配してたのよ…!」

「…ごめんなさい…。」

 

目を潤ませてそう語る千鶴子を見て、靖子は申し訳なさそうに小さな声で謝罪する。

そんな靖子の頭をゆっくり撫でながら、千鶴子は靖子と視線を合わせる。

 

「いいのよ…次からは、家に誰かいるときだけにして…?」

「うん…わかった…。」

「ん…じゃあ、手洗いうがいしてきなさい?」

「はーい!」

 

靖子の背中をぽんぽんと軽く叩き、千鶴子はそう促した。

靖子はうなずくと、洗面所へぱたぱたと駆けていった。

 

「…ぁ…。」

 

靖子は、手を洗いながらあることに気がついた。

 

(…あの人たち、私と同じだったのかな…?)

 

仗助と呼ばれていた男性は、背後に自分と同じように『誰か』がいた。

縁と呼ばれた女性には見当たらなかったが、彼女もそれを見えているようだった。

 

「…ちゃんと聞けばよかった。」

 

自分の後ろにいるのが、彼らと同じ『それ』なら、初めて自分以外に『誰か』が背後にいる人を見たことになる。

今まで、背後にいる女性が自分にしか見えないのが『普通』だった靖子にとっては、初めて自分以外の『見える』存在かもしれない。

そう思うと、また会いたいと思う気持ちがあるのだが…。

 

(…でも、ママを心配させちゃうよね…)

 

先ほどの千鶴子の様子を思うと、会ってもいいものかと靖子は悩んでしまった。

 

「靖子?」

「!な、なに?」

 

夕飯時、ぼんやりと考え事をしている靖子に、千鶴子は不思議そうに首をかしげる。

今夜は俊也の帰りが遅いため、二人だけの夕飯である。

 

「どうかしたの?」

「ううん…なんでもな…」

 

そこまで言いかけたとき、電話が鳴り始めた。

 

「あら、パパかしら…?」

 

そういって千鶴子が立ち上がり、受話器を取る。

それを見ながら、靖子は味噌汁をすすっていた。

 

「はい、上条ですが…ええ…靖子はうちの娘ですけれど……え?ああ、そうなんですか…?」

 

どうやら、自分のことのようだ。

なんだろうと首をかしげていると、千鶴子が電話を保留にして、こちらに顔を向けた。

 

「靖子、落し物を拾ったって人から電話よ?」

「落し物…?」

 

先ほどのことを頭の中でめぐらせる。

そして、倒れたときにかごから落ちたかばんを、拾わないで帰ってきてしまったのを思い出した。

 

「…あ!」

「ふふふ、おっちょこちょうねぇ…」

「…その人、何だって?」

「ああ、そうそう…届けたほうがいいですか?って。」

 

もしかしたら、聞きたいことを聞けるかもしれない。

そう思った靖子は、すぐにこう答えた。

 

「うん、届けてくださいって。」

「はーい、分かったわ。」

 

千鶴子はそんな靖子の考えは露知らず、電話の保留を解除すると、電話の向こうの相手に「届けていただけますか?」と返事をした。

 

■■■

 

仗助と縁は、その電話の後すぐに上条家に向かった。

まさか、カバンを落としていくとは思っても見なかったが、これで繋がりができれば…と考えていた。

 

「…仗助が顔出したら怖がられると思う。」

「ぁー…それはあれか、でかいからとかか?」

「そうそう、それに何か悪い勘違いされそう。」

「どーゆー意味だよぉー。」

「とにかく、私が先に立つから!」

 

そんなことを言い合っていると、上条家が見えてきた。

縁は靖子のカバンを持つと、上条家の呼び鈴を押した。

しばらくすると、インターフォン越しに先ほど電話に出た、靖子の母と思しき人物の声が聞こえてきた。

 

「はーい?」

「あ、先ほど電話したものですが…。」

「ああ!ちょっとお待ちくださいね!」

 

インターフォンが切れると、少ししてから玄関が開いた。

扉の向こうから、靖子が顔を覗かせていた。

 

「あ…。」

「やっぱり、お姉さんたちだったんだ。」

 

二人の姿を認めると、靖子はにっこりと微笑んだ。

縁は、その笑顔に答えるように微笑を浮かべると、相手の視線に合わせるようにしゃがむ。

 

「はい、これ…大事なもの入ってるんじゃない?」

「うん!今日渡さなきゃいけないプリント!」

「そう、届けられてよかったわ。」

 

そんな会話をしていると、靖子の肩に手が置かれた。

縁が視線を上げると、母親らしき人物が靖子の背後に立っていた。

 

「ママ。」

「届けてもらって、よかったわね?」

「うん!」

 

その様子を見て、縁は立ち上がる。

そして、軽く頭を下げる。

 

「どうも、ありがとうございました…。」

「いえいえ、こちらこそ夜分遅くに…そろそろ失礼しますね。」

「あ…。」

 

靖子は自分の背後の女性のことを聞きたかったが、千鶴子がいてはなかなか切り出せなった。

そんな靖子を尻目に、千鶴子は縁たちに尋ねた。

 

「上がっていきません?」

「いえ、そんな…もう遅いですし、落し物を届けに着ただけですから。」

「…じゃあ、何処にお住まいか教えていただけますか…?」

「あ、えと…私たち、ここに住んでるわけでは…ちょっと事情がありまして、南黄ホテルに滞在してます。」

「そうでしたか…あ、お引止めしてすみません。」

「いえいえ…では、失礼します。じゃあね、靖子ちゃん。お休み。」

 

そういって縁は靖子にウィンクして見せた。

靖子は一瞬、それが何を意味するのか分からなかったが「南黄ホテルに連絡すればいい」ということだと理解すると、にっこり笑ってうなずいた。

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