壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 からくも荒野での戦闘を乗り越えた二人。
 その最中、勝手に恩義を感じた少女の奮闘が今後始まるといいなぁ……


※前半のみクレオ視点となります。


009. 捕虜騒動

―――――

 

 

 ――私は、クレオ・サーブラフといいます。まだまだ未熟者ではありますが、これでも栄えあるアテネスの軍人です。

 

 アテネスのイリオス連邦兵軍学校では落ちこぼれだった私ですが、運良く新型ゴゥレム“エルテーミス”を動かすことが出来たのが契機となり、友達のリィと一緒に早期卒業を認められました。そして尊敬するゼス様が隊長を務めるゴゥレム部隊である、ワルキウレス部隊に入隊。

 私達は敵国クリシュナでの任務にあたっていたのですが、先日の一戦において、私はあと少しというところで戦域からの離脱に失敗。捕虜としてただ一人王都ビノンテンに連行されてしまいました。

 ……情けなさで胸が一杯です。私達を率いてくれていたゼス様や戦死したリィ達に顔向けができません。ですが、幸いゼス様とエレクトさんは無事にアテネスへの撤退に成功したと思われます。それだけでも私が犠牲になった意味はあるよね? リィ……

 

 現在、私は拘束されてクリシュナ国王の御前に引き出されています。玉座から私を虫ケラのように見下ろす視線……流石は蛮族の王ですね。大方、私をどう料理するのか考えているのでしょう。

 クリシュナでは捕虜は人間扱いされないというのは周知の事実です。80年前の独立大戦時代にクリシュナに捕らわれた人達は手足を切り落とされ、それを国に送りつけられていたそうです。果ては民間人の虐殺さえ平然と行う、紛れも無い野蛮人たちの国です。

 そして今の私は捕虜――おそらく、遠くない内に過去の彼らと同様の扱いを受けるでしょう。

 

(そうなったら……おかーさんとばあちゃ……泣いちゃうかな……)

 

 故郷の大好きな人達の顔を思い出し、思わず悲しくなってしまいましたが顔に出す訳にはいきません。これ以上隙を見せるのは御免です。

 

「……動いていいの?」

「んあ……頭がガンガンするだけだよ……」

(――あの男……!)

 

 部屋の隅で女の人と話をしている、ある男に目を向けます。“黒銀”のすぐ傍に佇んでいた、あのブロンド癖っ毛の男――エルテーミスから引き摺り出され、拘束された際に私はあの男の姿を見ていました。

 

(――あいつが“黒銀”の……ゼス様……リィ達を……!!)

 

 間違いありません……、あの男こそ憎き“黒銀”のゴゥレムに乗って私達のワルキウレス部隊を滅茶苦茶にした張本人!

 

(あの時に……殺しておくべきでした……)

 

 ゼス様の機体から引き剥がす為に沈黙させたところでクリシュナの増援が来てしまったのでそのまま捨て置いたのですが……しかし、今はどうしようもありません。冷静にチャンスを待つしかありません。

 これから私には口に出すことさえ恐ろしい尋問が待っていることでしょう。こ、怖いですが、そんなことでは挫けません!

 

(……どんな拷問をされても、何も喋らない!!! いざとなったら頭を壁に打ちつけて死ねばいい……!)

 

 ここに来るまでに、うっかり年齢が十二歳であることを喋ってしまいましたが、これ以上は何も情報を漏らしません!

 

「……貴女は気を失ったりしなかったのよね? 怪我とかは大丈夫?」

「――(コクリ)」

「ああ……俺だけ気絶しちまうとはみっともねえ……」

 

 ……それにしても、あの女の子の存在が謎です。

 あの男の傍に立っている、おそらくは私よりも歳下の、変わった髪色の女の子――彼女もまた“黒銀”の傍に居た人間です。その為、“黒銀”に何かしら関係している人物であるのは確か――だと思う。

 外見はちょっと……いいえ、本当に凄く可愛いちっちゃな女の子で、杖をついているということは身体が不自由なのかな?

 この場に立ち会っているので、一応軍人なのかなとは思うのですが……

 

(……そう言えば、エレクトさんに何か合図を送ってたような――実は……アテネスの工作員、とか……?)

 

 ……ううん、流石にその可能性は無いと思う。他国に潜り込ませるにしては彼女の容貌は目立ち過ぎます。

 それにあのタイミングであの場所に居たということは、彼女もまた“黒銀”に乗っていたということです。それはつまり、彼女もまたリィ達の仇であるということになるんですが……

 

(でも……)

 

 あのブロンド男とは違って、私にはあの子がとても自分でそんなことをするような子供には見えません。“黒銀”のようなゴゥレムを動かせるとも思えません。

 

(……捕虜は人間扱いされない国だし……ひょっとしたら愛玩用としてあの男の毒牙に……あ、あんな小さな子が……どうしよう……)

 

 いつの間にかこちらを見ていた彼女達と私は視線を交わしながら、私はどうにか彼女の境遇を確かめられないかと考えるのでした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「――奴らは国土を蹂躙し国王軍兵の命を奪った!! あの小娘を厳しい拷問にかけるべき――む、なんだ小娘!? 何か文句でもあると言うのか!!」

「……! ……!(ブンブン)」

 

 あるに決まってます! そんなこと許せるはず無いじゃないですか! このアンポンタンめ!! ホントに貴方将軍なんですか!?

 そりゃあ、あれだけ派手にクリシュナ(うち)のゴーレムを何台も潰してしまった人間を見逃せないというのは間違い無いです。私もそれをやったのが如何にも外道っぽい人だったならば、拷問なり調教なりなんなりとどうぞというポジションをとることだってやぶさかではありません。

 つまり今の私の意見がただの我侭なのは理解しています。理解していますが――うー! やっぱり彼女を傷つけてまで情報を得ようというのは納得できません。

 くぅ、未だに軍入隊予定な一般人扱いのこの身が憎い……何言っても説得力が持たせられません。

 

 ちなみにここは王城の会議室です。現在は先日の戦いで捕虜にしたあのクレオさん(推定)を今後どう扱うかという議題について評議しています。

 私がこの場にいるのは一応あの戦いで戦功があったって認められたから、だそうです。ライガットさんの補助という形で。それをネタに私も彼と同じ様に重騎士の身分として軍にねじ込む予定らしいですよ。

 一応、ここに来るまでにシギュン様に彼女の助命はお願いしておいたのですが、さて――

 

「……ナルヴィ上等重騎士、君が今回の捕虜獲得に大きく貢献した。意見を聞かせてくれ」

 

 バルド将軍が話を振ったのは、あの戦いで離脱寸前のクレオさんのゴーレムの脚を撃ち抜いた女騎士さんであるナルヴィさんです。肌の色も相まって、まさに黒い女豹というか活発な印象を受ける女の人ですね。

 くっ……確かにこの人が居なければクレオさんが捕まる結果にはならなかったでしょう。ナルヴィさんは、先程からクレオさんをとにかく拷問にかけようとするこの小太り将軍ことトゥル将軍旗下に所属しているらしいので、このままでは本当に彼女があんな拷問やこんな拷問にかけられてしまいます!

 

「……バルド将軍、我が隊は敵部隊捕捉にまったく貢献していません!」

 

 ……と思っていたんですが、あれ?

 

「今回のような戦闘で功を主張するなど王国軍騎士にあるまじきハイエナ行為。よって私がこの評議に参加する資格があるとは思えませんが……」

 

 へー、この世界ハイエナちゃんと居るんだ。それともまた脳内変換が働いてそれらしい文言を当ててるだけですかね?

 んーと、このナルヴィさん、典型的な猛進軍人らしい小太り将軍の部下とは思えないほど謙虚というか慎ましいというか、トップを支える右腕の性格ってところですか。でも戦場では派手に登場して過激に口上叫んでたしなぁ……そう考えると結構似たり寄ったりかも。

 

「よく行ったナルヴィ!! それでこそ王国軍騎士!!」

 

 ……え? それで納得しちゃうんですか将軍閣下?

 

「――よって我が旗下はこの評議を辞退する! 行くぞナルヴィ!!」

「はッ!!」

 

 そう言うと小太り――もとい、トゥル将軍はナルヴィさんを伴って颯爽と部屋から出ていっちゃいました。私としては好都合なのですが、結局よく分からない人でしたね……押しは強いけど物分かりが良いとか? うーむ……

 

「ライガット……君の意見も重要だ……」

 

 折角発言を促してくれたバルド将軍にも気づかず、ライガットさんは明後日の方向を見ながらさっきから何事かをブツブツ呟いています。一体何を――

 

「――なんてカラダだ……あれが十二歳って、アテネスはどうなってんだ……ありえんだろ、実にけしからん――ッ痛ってぇー!!」

 

 ……何を大げさな、軽く足の甲を踏みつけられただけで情けない。

 そんなこと考えてるアンタの方がけしからんですよ! 真面目な顔付きで何真剣に考えこんでるかと思ったら煩悩まみれじゃないですか! 確かに十二歳らしからぬ立派に発達したお身体でしたけど!

 元男としてはあのナイスバディに注目する気持ちも分かりますが、今は彼女が五体満足で生き延びられるかという瀬戸際なんですからもうちょっとシャキッとして欲しかったです。

 はあー、初めて会って以来専ら上向きだったライガットさんの印象がここに来て急降下するとは思っていませんでしたよ……はぁ……

 

「……君は……何かあるかね?」

「――!(コクリ)」

 

 おー、バルド将軍が私にもちゃんと訊いてくれました。こんなちんちくりんにも気を回せる紳士さんですね、やっぱり。

 

「……この子は捕虜の助命を私に嘆願していました。基本的に私も同じ意見です」

 

 事前にシギュン様に話を通しておいて正解でしたね、スムーズ進行です。彼女のフォローがあるかないかでは説得力が大違いですからね。

 

「それで、私()に捕虜の尋問を任せてもらえませんか? 彼女は……この子に注目していたように思えました。何らかの反応が期待できます。力押しでいっても自害されるだけだと思いますし……新型ゴゥレム再利用計画にも関係のある子なので、お願いします」

 

 最終的に、このシギュン様の要望通りに彼女の捕虜としての待遇は決定されました。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「――これ、人間も食えるのか?」

「食えるよ、味は最悪だがな」

「ふーん……」

 

 窓際に腰掛け、グラム用の餌を眺めるライガットさん。

 同じく明るい窓際をテーブル代わりに書類を処理するホズル陛下。

 そしてグラムの脇でその頭や背中を撫でたり、嘴でつつかれたりしている私。

 

(私、このお二人の邪魔になっていないでしょうか? 気にしていないようではありますが……)

 

 なんで私のような人間がこの場に居合わせているのか……それは、シギュン様のお言葉に従った為というのが理由の半分です。

 

(「――まず最初は私が彼女に尋問を行います。多人数だと彼女も警戒するでしょうし、人となりも判明していません。後日、私から貴女のことを紹介しますから、彼女の説得はその時にお願いします)」

 

 要は、邪魔だからクレオさん(仮)の尋問に付いて来るなよって言われたわけです。そうなると未だ“シギュン様の身内っぽい謎の少女”という怪しい身分から抜け出していない私は、必然的に充てがわれている部屋に篭もるくらいしかやることが無くなります。

 それで仕方無くお部屋でこの貧弱ボディの改善を図るつもりだったのですが……何故かホズル陛下から遊びに来るようにお誘いがあったのです。おそらくライガットさんのおまけとして。

 “遊ぶ”というのは言葉の綾ではありますが、ここに来てから専らグラムに遊ばれているので間違ってはいない。

 

「ほれ、拾って食え! ほれほれ」

 

 そう言いながら餌をグラムに指鉄砲で飛ばすライガットさん。暫くはじっと耐えていましたが、何回もそんなことを繰り返されるとうんざりしたのか、翼を翻し弾き飛ばすグラム。勿体無いのでそこら辺に落ちた餌は私の方で拾い集めておく。

 

「ほほッ!! 僅かながら野生のプライドが残ってたか!! ――あ……」

 

 ライガットさんにおちょくられたグラムは呆れたように窓の外へと飛んでいってしまいました。彼を撫でようとしていて空中に残った私の手が悲しい。

 なんとなく手持ち無沙汰になって、手元の餌を食べてみる。うん……確かに美味しくはないが、陛下が言うほど不味くはないと思う。もう一口。癖があるが美味しい、かも?

 ……あれ、そう言えばこの世界に来てから初めて物を口にした気が。

 

「――大丈夫なのか?」

「飛ぶのに飽きたら帰ってくる」

「いや、鳥じゃなくて」

 

 名前で呼んであげましょうよ、グラムとは貴方も長い付き合いの筈でしょうに。

 

「シギュンだよ! 俺を半殺しにした巨乳捕虜を寝室で囲うんだろ?」

 

 そうなのです。尋問とか言っていたのに、一体何を尋問する気なのでしょうか? シギュン様に実はそういった趣味でもあるのかと思ってしまった私はたぶん間違っている。 

 あとライガットさん、その称号はあんまりだと思いますよ。

 

「……らしいな、バルド将軍も承認したとか。……皆、シギュンに甘すぎる……」

 

 えー、陛下も他の人達とそう変わらないのでは? 実情を知りませんが、そんな感じがします。

 

「……おい、他人事みてーに……寝室だぞ……!? お前も無関係じゃないだろ……」

 

 ……そう言えばそうですね。言葉通りなら、あのクレオさん(仮)がシギュン様と一緒に、旦那さんであるホズル様とも同室で過ごすと受け取れます。

 クリシュナ国王が捕虜にとった敵国の女性(十二歳)を無理矢理寝室で手篭めにしてるとか噂になっちゃったら、結構どころかとんでもないスキャンダルになると思うんですが……下手すれば反逆起きかねないレベルの。と言うか、私だったら絶対起こす。よし、起こそう。

 

「ああ……、俺とあいつは今は寝室が別だ」

 

 反逆中断! 失礼しました陛下。信じていましたよ、私は!

 

(うむむ……となるとホズル様とシギュン様の夫婦仲は上手くいっていない?)

 

 普通ならそう考えるでしょう。――いや、お二人のどちらかが別室で寝たいと言っている可能性もありますね。シギュン様あんな性格ですし、ホズル様も国王ともなると他にお妾さんも居るでしょうし。 

 でもなぁ……シギュン様とライガットさんの日々の遣り取り見てると、あながち夫婦仲が良くないってのも間違いじゃ無いような気がしてきました。

 どう見てもちょっと身勝手な恋人に呆れつつも健気に献身する女の人って感じがするんですよねー、友人というレベルをとっくに通り越して。……不倫? でもライガットさんにはそんな甘い雰囲気なんて全く漂ってないし……シギュン様の伝わらない、伝えられない一方的な想いというか、うんうんそんな感じの。

 ビノンテンに帰ってきた時だって、早々にこの松葉杖っぽいもの(高価そう)押し付けてきましたし。「何時迄も他人におんぶに抱っこだと貴女の外聞が悪いでしょう」とか仰ってましたが、どう考えてもライガットさんにこれ以上くっつくなという意味にしかとれません。私が一番移動時にお世話になっていたのはこの人ですから。

 あと一瞬流してしまいそうになりましたですが、“今は”ということは、過去は一緒だったことがあるということですよね、陛下? どうかもげてくださいませ。

 

「~~~あ゛ぁ~~~」

「わはははははッ」

 

 不気味な声の発生源を見てみると、ライガットさんが表情を歪ませて悶え、それを見たホズル様が笑っていた。何してるんだか……

 

「ライガット君! 陛下には行政に関わる会議が……」

 

 和やかなお二人の会話に割り込んでくる年配の文官。政務なら仕方無いとは思うが、お邪魔虫は嫌われそうだ。誰にとは言わない。

 

「了解! んじゃ!」

「後で晩飯付き合えよ」

「おう」

 

 ここだけ聞くと、やっぱり王と新軍兵の会話とは到底思えませんね……気易い間柄だと言ってしまえばそれまでですが。

 

「……ち……少しばかり戦果を挙げたと思って浮かれおって……」

 

 うーん、陰口と捉えるか苦言と捉えるかは微妙なレベルの発言ですね。後者だと思いたいです。もっと頑張れ的な。でもなるべくなら私達のいないところでお願いします。今のたぶんライガットさんにも聞こえてますので。

 ホズル陛下が心配そうにライガットさんの後ろ姿を見ている。何か彼の態度に思うところがあるのでしょうか?

 ……その懸念は正しい、ですね。気丈に振る舞ってはいますが、あの搭乗席でのセリフを聞く限り今もライガットさんは罪の意識に苦しんでいることは確かですし。やはり何らかの形でメンタルケアは必要でしょう。

 

「――(ブンブン)」

 

 伝わるかは微妙だが、ライガットさんを指差し、頭を抱えて「あの人、悩んでいる」アピール。それを見た陛下が少し険しい目線に……

 

「……ふむ、やはりそうか。感謝する」

 

 私を見て頷く陛下。よしよし、これで何らかの手を打ってくれることだろう。

 陛下に余計な心労をかけるのはこちらとしても心苦しいが、きっと知らなかったら後で後悔すること間違いないです。ホズル様はお優しいですし。

 

「おーい、何してんだ? 行くぞー」

 

 おっと、ライガットさんを待たせてしまったようですね。陛下に一礼して、杖をつきながら部屋から退出します。さて、相変わらずやることはないし、これからどうしようかな……

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はぁ……」

「――(ほくほく)」

 

 結局、私はライガットさんにお付き合いして、こうしてゴーレムのハンガーまで来ています。これ結構いいリハビリになってるかも……

 空中渡り廊下のフェンスに身体を預けて、ライガットさんは何やらお悩みのご様子。私は彼の隣で絶賛ハンガーの見学中。フェンスが邪魔なので見晴らしは悪いですけれどね。

 ちょっと前方には、また追加装甲を外された状態になったデルフィングが固定されているのが見えます。それにハンガーのあちこちで何やら工作していたり、パーツを調べていたりする人達が所狭しと動いていて、見ていると意外と飽きないのです。……遠目に何かすんごく気になるものも見えますし。

 

「――どおッ!? 」

「――!?(ほわぁ!?)」

 

 唐突に響いたライガットさんの声に何事かと頭上を見上げる。……先程、窓から何処かに飛んでいった筈のグラムがライガットさんの後頭部に着地していた。何故こんな所に……

 

「……お……おい? 何のつもりだ……? ……重いだろ……クソ鳥が……降りろ……」

 

 怒気がふんだんに含まれた声色でグラムに告げるライガットさん。グラムはかなりの大きさなので、確かに頭に乗せるには重いかもしれない。あと爪が刺さって痛そう、ちゃんとお手入れされてるといいけど。

 うーん、流石に鳥類の感情の分析には自信がありません。一瞬だけライガットさんに視線を向けて、やっぱり無視して居座ってますし。

 

「だあーーーー!!」

 

 流石に焦れてグラムを捕まえようとするライガットさんだったが、直前で飛び立たれてまんまと逃げられてます。むぷぷぷぷ。

 

「……ちっ……何なんだ……」

 

 後頭部が気になるのか、髪に手櫛を入れながら呟くが、そこにバッサバッサと羽ばたきの音が――

 

「――ッ…………――ふいぃ~~……」

 

 追い散らすことすら諦めたのか、がっくりと肩を落としてまたフェンスに身体を預けている。

 結局ライガットさんの頭を止まり木にしたグラム……ひょっとして、元気付けようとしているのかな?

 何を思ったのかライガットさんはグラムの昔話なんか始めちゃったし……へー、雛の時から世話を……ゼスさんも、ふーん……意外。

 

「……あいつが負けるわけがないんだ。……あいつなら……逃げ切れた……はず……だ……よなあ……?」

 

 ……ゼスさんのことに考えが及んで言葉が怪しくなるライガットさん。あちゃー駄目だ、相当気に病んでるなこれ。

 そうですね、一応フォローしておくとしましょうか。エレクトさん(仮)はちゃんと生きてるって言ってましたし、致命傷があったようなことも言ってなかったし、無事に逃げられたことは間違い無いと思うし。

 

「――(コクコク)」

「……ああ……そう言えば、お前はちゃんとゼスが救出されるところを見てたんだったな……そうだな、大丈夫だよな……」

 

 うーん、イマイチ効き目が弱いが、所詮喋れない素人が施すメンタルケアなんてこんなものでしょうかね……心無しか表情明るくなった気がするし。良かった良かった。

 

 ――カシュッ

 

「ッ!?」

「――?」

 

 不意に背後から聞こえた軽い音に、やたら驚いた様子で振り向くライガットさん。不思議に思って私も後ろを向くと、そこには銃を構えたクレオさん(仮・なぜかシギュン様の装い)の姿が――

 

(――え、今の……銃声……!?)

 

 なんか気の抜けた音というか、ズキューン! とかバァン! とかの音じゃなかったですけど、なんかそれっぽいです。

 それにこの世界の銃(人用)を撃ってるところ、初めて見ましたが、銃口の形が変だし、発砲音は軽いし、火薬の匂いしないし……空気銃とかニードルガンって奴ですか?

 ……そういえばゴーレム用の銃もどこと無く違和感ありますね、今思い返してみて気が付きましたが、マズルフラッシュ見てないとか発砲音とかいろいろな点でおかしかった気がします。

 ――って、今ライガットさん撃たれましたか!? ……あれ? でも意外と平気そう。

 

「……お前……!?」

「……えッ!? あれ……!?」

 

 ……その様子だと身体的特徴だけじゃなくてちゃんと顔も覚えていた様子ですね。なんか呆けてますが大丈夫でしょうか?

 そして撃った方のクレオさん(?)はというと、手に持った銃を弄り始めて……なんぞ……?

 

「! 弾……ないッ……」

 

 マガジンらしき部分を取り外して愕然としちゃってます。事情は分かりませんが、私達はまた九死に一生を得ていたようですよ、ライガットさん。

 

「「「動くなッ!!」」」

 

 そして暗い廊下の奥から現れる銃を構えた守備女兵の皆さんと、何故か同じ守備兵の格好をしたシギュン様が登場。え? どんな状況ですかね、これ。

 

「……ごめんねクレオ、貴女がどこまでやるか知っておきたかった……」

 

 ……むぅ、なるほど。わざとクレオさん(確定)が逃げ出しやすい状況を用意してあげて、どう行動するのか確認したと。我が身を餌にして、あー……確かに私は邪魔ですね、この場合。

 

「私、銃は怖くて撃てないの……それは護衛用にもならない威嚇用よ……」

 

 自衛用じゃなくて護衛用ってのがポイントですね、シギュン様。

 それを聞いて諦めたのか、笑顔で銃を差し出すクレオさんは大人しく拘束されています。

 

「……体技が兵軍学校で歴代最弱と言われた私なのに……銃を奪えるなんておかしいと思ったんです……やっぱり、手加減してたんですね……」

 

 お、おぅふ……彼女はちゃんと軍学校で教育を受けた人間だったのですか。とてもそうは見えませんが。

 歴代最弱の体術って、どんなもんなんでしょう? 流石に今の私ではあっさりやられる未来しか見えませんけど。

 うーん、エルテーミスとやらで大暴れしていた光景を見ている私からすると、なかなか結びつかないですね。

 守備兵さんに引っ張られていくクレオさんは私達を一瞥し(なんか、やたら可哀想な子を見るような目で見られた。久しぶりですね)、いずこかへ連れて行かれてしまいました。……大丈夫、ですよね?

 

「…………けどな……」

「ん? いてっ!」

「抵抗は、本気でしてたんだけどな……」

 

 シギュン様は完全インドア系のようですね。ライガットさんは戻ってきたグラムとまたまた戯れてます。

 

「お前なぁ……また勝手に無茶を――」

「貴方ほどでは無いわ、ライガット」

 

 そしてイチャイチャしながら歩き出すお二人、もう付き合っちゃえばいいのではないでしょうか? 倫理上の懸念は置いておきますけど。

 私は溜息をつくと、最後にハンガーの奥のそれ(・・)を一瞥して、二人の後を追うのでした。

 

 

 ――ってか二人共歩くのが速いです! もう少しゆっくりお願いします!

 

 

 

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.鬼畜外道ライガットさん(冤罪)
2.主人公、我が道を征く
3.実は人間扱いされてない可能性が微レ存?
4.漸く一人で歩けるもん状態


次回、宜しくお願いします。
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