壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 転生したようだ。寝起きドッキリには黄色のロボットを


※今回は殆ど原作と差異がありませぬ
 原作主人公ことライガットさんが主役機に初めて乗った日をほぼ描写してます。
 オリジナル要素は微量のため、ご了承ください。



001. 魔力無者 - Rygart -

「おわらぁッ!?」

 

 突如、轟音とともに俺を襲ったのは盛大な地響きだった。立っていた足場が崩れ落ち、俺は咄嗟に目前の古代巨兵(アンダー・ゴゥレム)に取り付いて難を逃れたのだが……

 

「ライガット!!」

「おッ、おお……」

 

 背後から、この国クリシュナの国王にして、自身の友人であるホルスの声が響く。

 どうやらお互いに健在であるようで一安心……と言いたいところだが、正直一杯一杯で軽口を叩く余裕すら無い。落下しないようになんとか姿勢を保つ。

 この穴凹の深さが何メイルあるかは知らないが、このまま落ちてしまったら無事では済まないのは確かだ!

 石英採掘場の入り口、即ち上方からは盛大に音が響いている。こうなった原因があそこにあるのは予想がつくのだが、何が起こっているのかはここでは全く判断が出来なかった。

 その状態で四苦八苦していると、階上から兵士が数人駆け下りてきたのに気付く。

 

「陛下ッ! ご無事ですかッ!!」

「俺は問題無い! ライガットを助けてくれ!!」

 

 流石はホズル、実にありがたいお言葉だ。あー兵士諸君、出来れば早めに頼む!

 

「む……微妙に遠いな……」

「ハシゴがいるぞ!」

 

 そんな兵士達の声を聞き若干絶望しながらも、宙ぶらりんとなっていた足を必死に伸ばす。このゴゥレムの内部に入り込める搭乗口(?)がそこに有ったはず。何はともあれ、この不安定な状態から脱することが先決だった。

 

「陛下! とにかく城まで避難してください!!」

「くっ、しかし……」

 

 慌ただしく、ホズルの身柄を移そうと促す声が響く。周囲の壁面からパラパラと破片が舞っているようであるし、この場所ももはや安全とは言い難いのだろう。ホズルは俺の危機的状況を見て逡巡しているようだ。

 

(ありがたい、ひっじょーにありがたいのだが)

 

「い、行けよ! 後で助けてくれればいい!! ……お前は国王なんだぞ!!」

 

 どうにか足に体重を掛けられる姿勢をとり、冷や汗をかきながら俺は声を張り上げる。正直早いところ救って欲しいのが本音だが、どう考えても王であるホズルの安全を先に確保するべきだった。兵士達も俺みたいな一般人よりも優先して動くことは明白だ。

 

「ささ! 陛下!! お早く!」

「ッ……」

「頑張れよ! すぐ助けてやるからな!」

 

 ホズルと兵士達はこちらの様子を気にしながらも、足早に階段を駆け上がって行く。

 

「ふぅ……頑張りますよ~! だから早く助けに来てくれよ?」

 

 そんな彼らの後ろ姿を見ながら、俺は体をゴゥレムの内部に移してやっと一息つきながら独りごちる。ホント、早いとこ頼むぜ。

 と、そこでカチッという小音と共に唐突に何かの部品を掴んでいた左手の抵抗が無くなった。

 

「のぉわッ!?」

 

 そのまま姿勢を崩し、そのまま中に滑りこんでしまう。幸い、柔らかい感触の物体が体を受け止める形になったので、怪我などはせずに済んだ。が、俺の受難は止まらなかった。バタンという音と共に視界は真っ暗になってしまった。先程まで掴んでいたハッチ(?)が閉じてしまったらしい。

 

「う…………」

 

 突然の暗闇に焦り、何も見えないのにも関わらず周囲に視線を這わせる。とりあえず閉じてしまったハッチを開放するべく背後の壁をどつく。しかし、ハッチはびくともしなかった。

 

「……くっ、調べてた奴がこじ開けやがったのか? 噛んでる……」

 

 どうやら、今すぐにここから脱出する、という訳にはいかなくなったようだった。

 焦りながらも思考を巡らせる。密閉された狭い空間――とくれば、まず想像する危機的要素と言えば……

 

「……どうする? このまま窒息……!?」

 

 冗談じゃねぇ! 何か、何か無いか!? 空気穴とか、中から外に脱出するスイッチとかさぁ!

 俺は必死に辺りに手を伸ばす。真っ暗で何も見えないが、手当たり次第にいじり倒す。

 

(俺には魔力が無い……! くそっ!)

 

 こいつを動かすなんて高望みはしないから、何か安心出来る要素を俺にくれー!!

 

<ピッ>

 

「ほうっ!?」

 

 そんな俺の祈りが天に通じたのか、小気味の良い音と共に眼前に光る物体が浮かび上がった。この時俺が右手で触れていた、つややかな丸い形の石英らしき物が切っ掛けになったようだった。

 

「お~~? 光ってる……石英か? でも石英が俺に反応するわけないしなぁ?」

 

 暗闇に浮かぶ光る板を見つめながらそう考えたが、即座に頭の中で否定する。不安感から独り言をブツブツ呟きながら、次々と変化する眼前の板の表示を観察しながら、だ。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

特殊任務(Special duty)

コード0131(Code 0131)

搭乗者登録NO.02(Registration number of passenger_02)

死亡確認(Death confirmation)

全管制塔応答無し(No response from all control tower)

識別コード解除(Erase identification code)

初期化(Initialization)

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

「何だこの字は……?」

 

 次々に羅列していく文章を見ながら困惑する。表示されているのは、今まで見たことがない文字群だったからだ。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

搭乗者登録(Passenger registration)

 

NO.03?

 

[ 保留(Hold) ]  [ 登録(Entry) ]

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 そうこうしている内に、ようやく文字の羅列が終了した。

 

「羅列が止まった……のはいいが読めねーよ……? 古代語か? 小さい字は西大陸語(俺達の言語)と似てるな……くそっ、わからん!」

 

 理解し難い眼前の表示に口元をヒクつかせながらなんとか文章の解読を試みようとするが、精々俺の頭で分かるのはそれくらいで後はチンプンカンプンである。

 結局、理解をスッパリ諦めることにした。頭を切り替え、内部の観察を始める。幸い、眼前の板から十分な光量が齎されているのだ。

 

「内装も王国製にも連邦製にも似てねぇし……」

 

 以前、アッサムの士官学校で見たことがあるゴゥレムの内部を思い出しながらそう呟く。魔力は無くとも、士官としての教育は受けて杵柄は一応残っている。それくらいの事は分かった。

 事前に受けたホズルの説明通り、兎に角訳の分からないゴゥレムであることは確かだ。

 周囲をゴソゴソとあさり、目ぼしい物は無いかと目を皿のようにして探していたのだが、不意に聞こえた音に導かれるように視線を元の前方に――光る板の方に向けた。

 

「んお!? なんだ……? さっきまでと……内装が違う……?」

 

 パッと見、気付いたのはそこだ。先程までは見当たらなかった筈の位置にいつの間にやら何らかの物体が出現していたのである。それも左右対称の位置に二箇所。

 次いで光板を見ると、これまた様子が一変している。なにやら細々とした図や文字が画面一杯に並び、さらに継続的に小鳥の鳴き声のような効果音が鳴り続けていた。

 

「? ? ははッ!? もうワケわからん!!!」

 

 状況の変化に頭が付いていかず、もはや混乱の極みであった。

 さらに俺を混乱に叩き込んだのは、今度は外界から響く衝撃である。身体がこのゴゥレムごと傾き、ガラガラと岩が転がり落ちる音が外界から聞こえてくる。

 

「崩れッ…!? お、おい冗談だろッ」

 

 まずいまずいまずいまずいまずい……!! この高さから叩き落とされたら、いくらゴゥレムの内部に居るからといって無事では済まない。下手すれば命に関わる!

 焦りから激しい動悸に襲われる。手も足も出せないのがひたすらもどかしい……!

 そんなことを考えた矢先、今度はけたたましい警告音が鳴り響くと共に、凄まじい勢いで体全体が前に――上から下に押し付けられる。

 

「ごおおおおお!!?」

 

 ――う、打ち上げられたッ!?

 

 今の俺の状態からそう判断し、咄嗟に両手で左右のレバー――おそらくは操縦桿か何か――を握りしめたのだが、妙な手応えを感じるそれを勢い良く引っ張ってしまう。

 次に聞こえたのは甲高い……そう、石英を盛大に叩き割ったような音と、ズンという盛大な衝撃。

 

「グェッ!?」

 

 次々と俺を襲う事態に目を回しながら、どうにかこうにか気を取り直して目を開けると、前方に見えたのは黄色いカラーリングの……ゴゥレム!?

 細かい意匠と、何よりその左肩のパーツに描かれた十字盾の紋章……ってことは!

 

「アテネスのゴゥレムぅ!?」

 

 ついさっき、このクリシュナの国境を超えて侵犯していると教えられた大国アテネスの機体!

 俺は眼前に表示されているその様相に怯えて咄嗟に身を引いた――のだが、何かが足に引っかかった。ペダルらしきそれに連動するように、おそらくは跪いた姿勢をとっていたこのゴゥレムは立ち上がり、一歩後退する。

 ……で、さっきまでこのゴゥレムの右足があった位置には……アテネスのゴゥレムのプレスガンが。

 

「あ」

 

 ヤバイと考えると同時に、相手のゴゥレムはそのプレスガンを構え直す。その銃口は当然のことながらこちらを向いている。

 

「はあッ……!」

 

 独特の銃声と同時に銃弾が発射される。

 

(俺――死――ッ!? ?)

 

 機体ごと撃ち貫かれる運命を一瞬で想像したものの、俺の乗っているゴゥレムは軽い衝撃で姿勢を崩すに留まった。幸いなことに、横倒しになることもなかったようである。

 

(た、助かっ……!?)

 

 そんなことを考えていた矢先、アテネスのゴゥレムがプレスガンのマガジンを交換している光景が見えている。おそらくは対ゴゥレム用の威力の高い弾。

 自分に迫る、明確な死を齎す存在……それに恐怖して震える俺は、必死で頭を巡らせる。

 

(あ、足のペダルを引いたら……後ろにさがった……さがった……!!)

 

 ――とくれば!

 

「じゃあ前だ!!!」

 

 アテネスのゴゥレムがマガジンを交換し終え、再び銃身を俺に突き出したと同時に、俺は右足のペダルを思い切り蹴りつける! すると予測通り、このゴゥレムは前方に飛び込むように前進した。

 

(うおッ!?)

 

 身体に猛烈な加速に伴う圧力が掛かるが、堪えて前方のゴゥレムを睨みつける。急激に距離が縮まるそれはプレスガンを乱射しており、時折このゴゥレムに散発的な衝撃が来る……が、無視!

 

「ぐおぉッ!?」

 

 そのまま体当たりを敢行する。突進の勢いでゴゥレムを崖の壁面に叩きつけると、相手はそのまま力が抜けたように動かなくなってしまった。

 俺のゴゥレムはその場にゆっくりと立ち上がる。

 

「――助かった……」

 

 助かった――大きくため息をつきながら、何よりもそのことに安堵する。あの穴の中の落下の危機から始まって、そのままアテネスのゴゥレムとの戦闘なんて……冗談じゃない!

 機体越しとは言え、俺に叩きつけられていた相手のプレッシャーを思い返す。よくもまぁ今も命が繋がっているものだ。

 

「……死んでねーだろうな……」

 

 そんな安心感を感じる一方で、ピクリともしないアテネスのゴゥレムを見遣りながらそう独りごちる。盾に機体をぶつけたお陰か、相手のゴゥレムの本体には大きな損傷は無いようだったが。

 やはりというべきか、俺は命の遣り取りをする度胸など備わっていない。俺は兵士ですら無く、一介の農民である。それが例え、俺の命を狙う相手だとしても。

 

「って、待てよ……! 生きてたら生きてたで……目醒ましたらどうしよう」

 

 先程は勢いで行動して、首尾良く無力化出来たから良いものの、再びこのゴゥレムと相対したら今度はどのような展開になるか分かったものじゃない!

 焦りで周囲を見回すと、このゴゥレムは機体の向きを変える。少し前には大破したクリシュナのゴゥレムと……そいつの武器だったと思われる、ゴゥレム用の直剣が地面に突き刺さっていた。

 

「左足のペダルで方向……? 上のレバーで上半身……か……」

 

 落ち着いて操作出来るようになると、俺の四肢がそれぞれ触れている部分が機体の挙動に直結していることに気付く。足のペダルで機体の向きを変えたり、歩いたりといった動作を行えることから、そう外れた考えでは無いだろう。

 突き刺さった直剣の傍まで俺のゴゥレムが移動する。とりあえず次はこのゴゥレムにそいつを持たせたい……のだが。

 

「どうやったら握るんだ……?」

 

 右腕の制御はこの右手のレバーで……という考え通り、ゴゥレムの右手をその直剣の柄まで伸ばすことは出来たのだが、機体の掌は広げられた状態である。これでは持てない。

 

「んー……お!」

 

 人差し指がかかった引き金(?)を引き絞ると、巨大な掌が直剣の柄を逆手で握りしめる。そのまま上に持ち上げ、剣を地面から抜くことが出来た。

 

「よしよし、これで暫くは凌げ――る訳ないか……」

 

 武器を得られたことに安堵するも、戦闘もゴゥレムの操縦もままならない俺が持ったところで、大した意味は無いだろうな。

 ……それにしても、魔力の無い魔力無者(アン・ソーサラー)である俺でも動かせるこのゴゥレムって一体なんなんだ?

 

(単純に手動のみで動かせるみたいだし……)

 

 そのまま、ゴゥレムの周囲を光板を通した光景で確認する。今気付いたが、この板にはこのゴゥレムの『目』が見た光景がそのまま映しだされているようであった。

 少し離れた位置には、脇を兵士に固められた友人が確認出来る……って、おいおい!

 

「ホズルッ!! 何してんだ早く逃げろ! それと助けを呼んで来てくれよ!?」

 

 何時までたっても動こうとしない、我らが王に向けて声を張り上げる。急場の危機を脱したとは言え、このゴゥレムがまたいつ動き出すか分かったものではなく、そうなったら俺では対処出来ない!

 つーか、切実にお願いします!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

不特定生物A-0005(Unspecified living thing A-0001) / 熱源 : 037(Heat source 037)

 

不特定生物A-0004(Unspecified living thing B-0002) / 熱源 : 036(Heat source 036)

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 佇むホズルと兵士達の横には、また訳の分からない文字が表示されているし……何だってんだ?

 

「ん!?」

 

 その時、ホズルの様子がおかしいことに気が付く。何処か焦っているような表情で、このゴゥレムに何事かを叫んでいるようで――

 

『ライガット!! 後ろだ!!』

 

 その声が耳に届くのとほぼ同時に、ゴゥレムの視界の端で影を捉えた。……って、あれはさっきのアテネスのゴゥレムと同じ!?

 新たに現れたそのゴゥレムに向き直ろうとするも、そいつは瞬時に射撃体勢をとり、プレスガンを発射する。

 

「う゛ッ!!!! (お、重い!!?)」

 

 先程倒したゴゥレムの銃撃よりも遥かに強力なそれは、一撃で機体全体を右後ろに引き倒す程で、そのまま幾度も立て続けに俺のゴゥレムを衝撃が襲い、満足にこいつを動かせない俺はそのまま撃ち倒されてしまう。

 

「ぐっ……!!」

 

 幸いホズル達を巻き込まずに地面に倒れこんだ形になったようだが、衝撃で息が詰まってしまいこちらに接近するゴゥレムに何の対処も出来ない。俺は意識を失いそうになるも、なんとか堪える。

 ……そのまま近づいてきたアテネスのゴゥレムはホズルにプレスガンの銃口を向けた。どうやら、搭乗者がホズルに話しかけているようだった。

 

『……久しぶりだな、ホズル! ――いや、クリシュナ9世!!』

『その声……ゼスか!』

『動くなよ、クリシュナ9世!! 貴様を拘束する。だがその前に……』

 

 ホズルに向けていたプレスガンの銃口を、今度は倒れた俺のゴゥレムに向ける。

 

『待てゼス! そいつにはライガットが乗ってるんだ!!』

 

 焦ったホズルの声が聞こえる……が、な、なんだって?

 

「くっ……ゼス?」

 

『……? くだらん時間稼ぎはよせ。あいつがゴゥレムを動かせる訳がない』

 

(そ、そう言えばこの声は確かに、アイツの――) 

 

 その瞬間、俺の脳裏に浮かぶのはアッサムの士官学校で共に過ごしたあのカタブツの姿。

 

『ホズル……! 貴様を捕らえればこの愚かな攻略戦は終わる。貴様をここで逃がす訳にはいかん! 貴様が戯言を言う人間でない事はよく知っているが……ライガットがここに居るはずがない!!』

 

(そりゃ、ごもっともなんだがッ……!)

 

 倒れる俺のゴゥレムに向けられる巨大なプレスガンに力がこもる。

 

「や、やめろッ! ゼスッ!!」

 

 俺は咄嗟に機体の左腕を動かし、プレスガンの銃口を逸らすと同時に銃弾が発射され、俺のゴゥレム頭部すぐ横の地面が大きく抉られた! あ、アブねぇ!!

 

「ゼスッ! 俺だッ! くっ……!! 聞こえないのかッ……!?」

 

 必死で声を張り上げるも、外には俺の声が届かないのか、ゼスは俺に殺気を向けてきた。

 

「くっ、やめろっつってんだろ!!」

 

 その殺気に導かれるように俺は機体を起こし、ずっと右手に保持していた剣をゼスのゴゥレムが構えるプレスガンに振るう。

 プレスガンに備えられた銃剣で俺の一撃を防いだゼスにはやはり俺の声は届かないのか、流れるような挙動で俺のゴゥレムの左脇腹に左腕の盾を叩きつけてきた。

 

「ふッ!?」

 

 その衝撃で、大きく俺のゴゥレムの姿勢が揺らぎ、そのまま地面に向かって倒れこむ。そのままゼスのゴゥレムは俺にプレスガンを向けている!?

 

(し――死ぬ……)

 

 どうにもならない状態でそんなことを俺は考えたが、ゼスのゴゥレムは俺を撃つことなく、盾を奴の右側に向かって構える。その盾が抉られ、研磨された石英を砕く大きな音が聞こえた。

 

(た、助かった……)

 

 ゼスに見逃された形になった俺のゴゥレムがそのまま地面に倒れこむ。

 俺の耳には激しい地鳴りが聞こえている。……いや、地鳴りではなく、クリシュナのゴゥレム部隊が駆ける足音だ。

 

『陛下ーー!!』

『バルド将軍ッ!!』

 

 多数のクリシュナのゴゥレムにつるべ撃ちにされるかと思われたゼスのゴゥレムは、その場を跳び離れると崖に背を預ける形で動かないアテネスのゴゥレムを庇う位置で盾を構え、そのまま応戦する。恐ろしい事に、ゼスのゴゥレムが放った銃弾はクリシュナのゴゥレムが装備する盾ごと相手のゴゥレムを貫通しているようである。

 

『例の大口径の銃を使う魔道戦士かッ!!! 盾に角度をつけよ! もろに受けると貫通するぞ!!!』

 

 指揮官機だろうか? クリシュナのゴゥレムの内一機から指示が飛び、他のゴゥレムはそれに従っている。

 

『――リィ! 生きているか!? リィ!!』

『――ッ!! ゼス様ッ!?』

『よし、動けるなら先に退却しろ!! エレクトと合流だ!』

『……ゼ、ゼス様ッ! クリシュナ国王は!?』

『もう遅い!』

 

 ゼスの呼びかけで搭乗者が覚醒したのか、アテネスのゴゥレムが再び動き出しはじめやがった。ホズルを狙おうとしたようだが、そのホズルは既に味方のゴゥレムの分厚い陣容の、さらに奥に避難している。

 

『くッ……!!! 多重シールド……』

『リィ、退却だ! ここは峡谷になっている。後方に兵をまわされたら終わりだ。あの紋章……クリシュナの名将バルド……おそらく兵を既にまわしている……急げ!!』

 

 その言葉を最後に、アテネスのゴゥレム二機は地を蹴りこの場から離れ始めた――って!

 

「お、おい! ちょっと待てゼス!」

 

 俺は閉じてしまった搭乗口を開放するべく、後ろを向いて何度もハッチを蹴りつける。それなりに安定した姿勢で蹴っているのでただ殴るよりはマシなはず!

 

『将軍! 敵が撤退しますッ!!』

『く……深追いするな、陛下の護衛が最優先だ!』

 

 ようやくハッチが開け放たれ、俺は慌ててゴゥレムから身を乗り出すも、既にゼス達が峡谷の奥へ消えていく姿しか見えなかった。

 

「……何やってんだよ……お前」

 

 がっくりとその場で項垂れる。この期に及んで、友人が敵としてこの国に攻め入ってきたことを認めたくは無かった。それもホズルが治めるこの国に!

 

<ピーピー>

 

「……んあ?」

 

 そんな俺の耳に、さっきまで篭っていたゴゥレムの中から響く音が届いた。次いで、ガシュンガシュンという何かが蠢くような音も。

 

「……」

 

 恐る恐る、中を覗き込む。これ以上訳の分からない事態は勘弁して欲しかったのだが、確かめないことにはしょうが無い。

 

「……はっ? えっ? ええっ!?」

 

 そんな俺の目に飛び込んで来たものは――

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「――あれが噂の弟か……こんな大口径の改造銃を発砲(プレス)出来るとはな……」

「はい、保持する魔力と技能が桁外れなのでしょう」

 

 聞き覚えのある声が聞こえたので視線を向けると、そこには荒野で行き倒れていた俺を迎えに来てくれた将軍閣下――たしか、バルド将軍だっけ?――が部下と思わしき兵士達と意見を交わしている様子が見える。その前の地面には、直方体状の物体が並べられている。

 ゴゥレムのプレスガンの弾だ。先端部の四角錐がひび割れたり破損しているのは、それが敵機が撃ち出したものを回収したのだろう。

 注視すると確かに、いくつも並べられているそれらの中で一際巨大な物が混ざっている。

 

(ゼス……)

 

 将軍の言葉通りなら、あれらはゼスのゴゥレムが撃ち出した物なのだろう。道理で受けた時の衝撃が一体目のものとは段違いだったはずだ。

 今、俺は件の古代巨兵(アンダー・ゴゥレム)のすぐ傍を歩いている。正確に言うならば、転倒してしまったこの機体を何とか物資運搬用のリフトに載せて、何台かのゴゥレムで牽引している横を並んで歩いているのだ。

 周りでは兵士達が慌ただしく動き回っている。単純に、首都の目と鼻の先までアテネスのゴゥレムの侵入を許したというのは、それ程の事態なのだろう。皆どことなく顔色が悪い。

 

「ライガット!」

「……シギュン」

 

 そんな俺に話しかけてきたのは、士官学校時代から続く友人――この国の王妃、つまりはホズルの妻であるシギュンだ。

 普段はあまり見せない険しい表情をしながら俺に歩み寄ると、両手で俺の顔を弄くり始め――って、近い近い!

 

「アンダー・ゴゥレムで闘ったって本当!? 怪我は無い!? 焦点合ってる!!?」

 

 珍しく焦っているようで、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。とりあえず周りの目もあることであるし、丁重に手を離して頂くことにする。

 

「……闘ったのは一応本当、怪我は無い、焦点はちゃんと合ってる。……あのさぁ、お前ら何調べてたの? 簡単に動いたぞ、しかも手動という微妙な方法で!」

 

 俺がそう言うと、シギュンの表情は一変した。……なんと言うか、呆然としてる?

 

「……手動?」

「手動……」

 

 傍の技術士官(?)達も俺の言葉を聞いて、何やらざわつき始めた。……そんなに変なこと言ったか?

 

「あの、操縦席の右前にある小さな石英みたいなの! あれ触ったら普通に動き出したぞ?」

 

 嘘は一切言っていない。他にも色々なことはした気がするが、あれが決定的なトリガーとなってこのゴゥレムが動き出したのは間違いない。

 

(そんな事よりも……!)

 

 一息つきながら俺は、俺の言葉を聞いて何やら思案し始めたシギュンを手招きする。

 

「……何?」

「……そ、それとだな、ちょっと見て欲しいもんがある、シギュン」

 

 若干訝しげな様子のシギュンに手を貸しながら、俺達はゴゥレムの搭乗口に移動する。何やら周りの兵士達が唖然としているようだが、今はそんな事に構っていられん。

 ……というか、これ(・・)を彼らに見せてしまっていいものか、俺には判断がつかねぇ!

 俺に促されてシギュンは機体の中を入り込んだ。俺は中に入らずそのままゴゥレムの搭乗口に腰掛ける。俺が言わずとも、何を言いたいかは中を見れば一目瞭然というものだろう。

 案の定、シギュンの動きが固まった気配がした。

 

「……ライガット」

「……なんだ?」

 

 俺を疑うような声で話しかけてくれるなシギュン。やめてくれ、もう俺に余裕は一切ねーんだからさ。

 

「何処から……いつの間に連れ込んだの?」

「俺が知るか! ……戦闘が終わったら、いつの間にかそこに居たとしか言いようがねぇ!」

 

 シギュンの不穏な物言いに即座に返す。何にせよ、問題なく意図は伝わったことだろう。本当に、そうとしか言いようが無い。こんなこと、予測できる筈もない。

 

 だってさぁ……

 

 

「……一体、何なのよ……何でこんなところに女の子が……?」

「だから、俺が知るかよ……」

 

 俺が四苦八苦していた搭乗席――その奥にいつの間にか出来ていた、こじんまりとしたスペース。

 そこには、極めて特徴的な容姿の幼い女の子が気を失って、誂えたようにピッタリのシートに繋がれていたのだから。

 

「……」

「……シギュン?」

「……ライガット、このゴゥレムを格納庫に運び込んだら、直ぐにこの子を連れ出して、出来るだけ誰にも知られないように」

 

 はぁ!? このお嬢さんは何を仰る!?

 

「つ、連れ出せって、一体何処に!?」

「細かいことは私が指示したって言えば邪魔されることは無いと思う。場所は私が都合するから。とりあえず王城の開いてる部屋に……この子を隠すシートか何かも用意しないと……ひょっとしたらひょっとするかも……」

 

 再び黙考を始めたシギュン。その言葉からは案の定、新たな厄介事の匂いがプンプンしやがる!

 

「もう、勘弁してくれ……」

 

 俺はそれだけを口に出し、空を見上げる。

 今日はもう、何も考えずにこのまま柔らかいベッドに飛び込んで寝込んでしまいたい気分である。

 

 

 

 

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.原作一巻の中盤の話、ライガットさんの運命が動き出す日
2.基本漫画版、時折アニメ版描写
3.ラ「親方、ゴゥレムの中に女の子が!」
  主「ZZZZZ」


次回、宜しくお願いします。
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