壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ


 セフィ、置いてけぼりにされる。


 ※ライガット氏視点から


024. 単騎決戦 - Rygart -

――――――――――

 

 

「――えっと、現在地がここだから……東に見えるあの山がこれで……ああ、あそこに渓谷と橋か……だったらこっちに迂回するよりはそのまま飛び越えた方が速いな。デルなら問題無いだろう。よし……あと少しだ……」

 

 薄闇の中、目の前に広がる雄大な光景をつぶさに見渡しながら、俺は携帯食をガリガリと囓る。大して美味くもないが、腹に何か入れておかないと日中体力が保たない。水で無理矢理胃に流し込んで腹に収める。セフィはよくこんな味気無いものを美味そうにコリコリと囓れるもんだな……干し肉とかならまだ分かるんだが。

 今俺が何をしているかというと、ここから自分の村であるペグー山の麓への移動ルートを模索しているのだ。地図を見るのはナルヴィやセフィ程得意じゃないけど、これだけ見晴らしが良ければ周囲の地形を把握することも容易い。問題無く進路をとれるだろう。

 

 オッサンの大隊に混ざり王都への撤退を行っていたミレニル部隊から一人脱走した俺は、デルフィングを活動限界ギリギリまで動かしては安全な場所で隠れるように待機、動かしては待機を繰り返し続けてここまで移動してきた。

 現在地であるそこそこ高さのある山岳の頂上までなんとか辿り着いた時点でデルフィングが活動限界に近付き、そしてさらに本格的な夜闇が訪れる時間となった。

 デルフィングの目ならば多少は夜でも視界は効くが、もしペグー山へのルートを見誤り道に迷ったりでもしてしまったらそれこそ余計な時間を食う羽目になるし、仮にその辺りの峡谷から落下でもしてしまったらレガッツを助けに行くどころか自分がお陀仏だ。

 故に俺はデルフィングを動かさず大人しく夜が明けるのを待つしか無かった。レガッツを助けに行こうと逸る気持ちを無理矢理押さえつけて搭乗席で仮眠を取り、操縦の疲労を落とした。

 

 そして夜が明ける気配を感じて外に出たのがついさっきだ。うっかり足元が断崖絶壁なのを失念しかけ、危うく下界に落っこちそうになったのは正直死ぬかと思ったもんだ……

 高所の冷たい空気の中で軽く身体を動かして目を完全に覚まし、俺はだんだん弱まってきた暗さをこれ幸いと地図を広げ、これから辿る道筋を確認していたのだ。そのついでに携帯食で栄養補給も済ませている。

 

(……しかし我ながら無茶したもんだな。……戻ったらナルヴィに罰として何されるか分かったもんじゃねえ。またプレスガン乱射されながら追い回されるのは勘弁だぜ……)

 

 今更ながら身震いする。レガッツの危機の為、あろうことかミレニル部隊から脱走してきてしまったのはやり過ぎだったか?

 だがあのままナルヴィの言いなりになってバルドのオッサンに任せて適当なゴゥレムをペグー山まで急行させたとしても、ファブニルの足では二日は掛かる距離だった……ボルキュスが進む経路を考えると間に合うとは思えない。

 おまけにあの村の村長はこれまで国の命令なり勧告なりを大抵無視してきたからな……それにレガッツも大人しく他人の言うことに従うような素直な性格じゃないのも俺を不安にさせる要因だ。

 

 あの脱走間際のナルヴィの顔を思い出すと寒気がしてくるぜ……

 

(俺、シギュンとの約束通りビノンテンに生きて帰れても、その後処刑されるんじゃなかろうか……)

 

 そんなことを考えざるを得ない。

 

 さらに都合の悪いことに、セフィがデルフィングが降りていたタイミングで脱走を図ってしまったのはどう考えても失敗だった。身柄をナルヴィに先に抑えられてしまったのでどうしようもなかったが……

 一応俺一人でもこいつを動かす訓練をしてきてはいたが、いざデルフィングで実戦を自分一人でやるとなるとどうしても不安が残る。

 あいつが乗っていないとほんの僅かだがデルフィングの性能が落ちてしまうのは、こいつを操縦している俺にとってははっきりと感じられる事だ。見た目の動きは同じように見えてもその実、力強さやちょっとした挙動で確実に差が出ているのが嫌でも理解できてしまう。

 自分から頼りにしておきながら置き去りにする羽目になるなんて思ってもみなかったが……でも、あのタイミングを逃したらナルヴィ達に拘束されて脱走自体成立してなかっただろうし……はあ……

 

(あいつも怒ったりするんだろうか? 今までそれらしい所を見たことが無いんだが……まあ、あいつなら問題は無いかな……。何か王都の店で美味いもの食わせてやれば……俸給も出るだろうし……でも散々命令無視した俺に出るか?)

 

 仮に怒っていても、なんとかご機嫌をとれば大丈夫……だろう……うん。あいつ実際ちょっとチョロいしな。

 

 …そうだ、今一度デルフィングの武装を確認しておくか。オッサンのゴゥレム部隊の予備を融通してもらうなんてのもこの状況じゃ不可能だからな。

 

 まず防御用ということで、通常のゴゥレム用のシールドであるスクトゥム・シータ一枚。これはオッサンの部隊での余り物を分けてもらったものだ。本当はナルヴィやナイルのファブニルが装備している2層盾が良かったんだが……まあ無いよりマシか。実際これだけでも相当安心感がある

 

 唯一の遠距離武器のネイルダーツが右側のホルスター一つ分。セフィお気に入りの武器らしい。プレスガンが使えない俺にとってはこいつが生命線になる。使い所を見誤らないようにしないと……

 

 次に中距離武器であるエクステントフレイル。セフィ曰く三節棍。間合いや攻撃範囲が優秀で相手にも避けられにくく、遠心力が乗る先端部の破壊力はかなり強力だ。基本的に振り回すだけでいいので俺にとってかなり使い勝手が良い武器なんだが、構造上他の近接武器と比べるとどうしても耐久性に欠けるとシギュンには散々注意されている……いざという時に咄嗟に繰り出すくらいに思っておかないと駄目か。

 

 近接武器その一、デルフィング専用として製作された規格外の重長槍。専ら突撃用のはずだが、デルフィングの膂力ならブン回すことも出来る……訓練中には見ていた人間に呆れられたもんだな。穂先はかなりの長さと大きさと分厚さがあるので、以前のように盾としても使える……かな?

 

 そして近接武器その二、虎の子のイーストシミターだ。セフィのお気に入りの武器その二でもある。攻撃速度はサクラ近衛大隊長の言っていたようにかなりのものだし、俺もこれの扱いを特にみっちりあのオバハンに仕込まれたから、近接武器の中では一番慣れていると言っていいだろう。ただ他と比べるとデリケートな扱いを要求される武器でもあり、焦ってただ振り回すだけだと一合打ち合っただけでもあっさり折れてしまう。出来れば使わずに温存しておきたいと考えている武器だった。

 

 ――これだけだ。いや、こんなにあると言うべきか?

 出来ればどれも使わずにレガッツを救出してビノンテンまで撤退したいところだな……まだアテネスの軍勢が到達していなければいいが……

 

(……大分空が明るくなってきたな、そろそろ準備するか)

 

 遠方の山岳から強烈な光が刺し始めようとしてる。もうすぐ夜明けだ――俺の目算だと、一度休息を挟んで移動すれば調度良い塩梅で辿り着ける程度の距離まで近付けているはず……

 

 俺が行くまで無事でいろよ……レガッツ――!!

 

 

――――――――――

 

 

(――ペグー山! 見えた!)

 

 夜が明けてすぐさま出発し、先程休憩した山を超えて間もなく俺は視界にペグー山を捉えた。

 デルフィングの跳躍力を最大限活かし、猛烈な速度で接近する麓の村を確認した俺の目に飛び込んできたのは――

 

「……レガッツ!? 畜生ッ!!」

 

 村の中央広場で今まさに後頭部をアテネスの兵士に撃ちぬかれようとしている金髪のガキ――レガッツ!

 

「させるかあああああああああ!!!」

 

 俺は最後の跳躍の為に大地を蹴り、そのまま兵士共の背後に着地――広場の石畳を踏み砕き奴らをなぎ倒す。

 

(レガッツ――無事か!?)

 

 射殺される寸前で兵士の手から開放されたレガッツは、呆然とデルフィングを見上げている。

 

「レガッツ!!」

『えッ!?』

 

 デルフィングの耳が、確かにレガッツの声を捉える。やっぱナルヴィの静止を振り切ってここまで来たのは正解だった……少しでも遅れていたならレガッツは間違いなく殺されてた……!

 

「俺だ! ライガットだ! 大丈夫か!?」

『……あ……兄貴……?』

 

 少々危なっかしいが、ちゃんと俺の声を聞き分けている。良かった……

 周囲には村の皆が怯えている姿と、頭を撃ち抜かれて死んでいる村長の死体が転がっているのが見える。

 

「――てめぇら! よくもレガッツを!!」

 

 弟を殺されそうになった怒りに任せる。俺はデルフィングが握りしめる重長槍を地面に叩きつけ、邪魔な兵士共を追い散らす。てめぇら、ぜってぇ許さねぇからな!!

 

『さ、退がれーッ!!』

『――に報告を!!』

 

 慌ただしくデルから離れる兵士共と入れ替わりに姿を表したのは、この前盛大に蹴散らしたばかりの白い巨体。

 

「ゴゥレムッ! 三台!?」

 

 くそッ、さっき空からチラ見した時は確認できなかったのに――シートの下にでも隠れていたのか!?

 突然の厄介者に驚いた俺に構うことなど当然無く、ゴゥレム共はこちらに向かってプレスガンを連射してくる。

 辛うじて左手に装備していたシールドで防ぐが……弾けた銃弾が周囲に散らばっちまう。これじゃ返ってレガッツ達が危険だ。

 

「くっ……レガッツ! 村のみんなも南に逃げろ!! ビノンテンに向かって逃げるんだッ!!」

 

 俺が大声を張り上げると、我先にと村の人間達が逃走を始める。それでいい!

 アテネスの軍がここまで進攻してきているということは、この村にとって現実的な逃亡先はもうビノンテンしかない。

 他の集落ではアテネスのゴゥレム軍団に対抗できる手段は無い……まともに籠城が可能なのは王都だけなんだ!

 

「やめろクソが! 俺はこっちだ!!」

 

 俺は村の人間を巻き込まないように、広場を跳躍で離れる。デルフィングの真下でこちらを狙おうとしていたノロマに向かって重長槍を投げ落とす。

 槍の行く末を確認しないまま、俺は飛んでくる銃弾をシールドで防ぎつつ右腰のホルスターからネイルダーツを取り出し、三本ずつそれぞれ眼下のゴゥレムにお見舞いする。

 一台は盾とプレスガンに突き立つに留まったが、もう一台は頭部と胴体に命中して転倒させた……よし!

 

 デルが着地すると同時に、残る一台が近場の家屋に隠れてこちらを狙ってくる。ええいうっとおしい!

 デルを素早くステップさせ、重長槍を拾い上げると左手のシールドと合わせて防御体勢をとる。

 

「い……いける! この槍も盾としても使えるッ……!!」

 

 サクラ近衛大隊長(あのオバサン)やナルヴィがこの光景を見ればどやされるかもしれないけど……背に腹は代えられない!

 

(レガッツは!? 無事に逃げられたか!?)

 

 俺はデルに防御体勢を取らせたまま、村の南側の入り口へと視線を移す。よし、みんなちゃんと逃げ――

 

「ッ!?」

 

 安堵しかけた俺の視界に映ったものは、村から逃げ出そうとしていた村人たちの行く手を塞ぐように現れた新手のゴゥレム。それも一台二台ではない。

 ……そしてマントを纏った、忘れたくても忘れられない黒いフレームの重ゴゥレム。つまり――

 

「ボルキュス!?」

 

 あの疫病神が、最悪のタイミングで現れやがった――!!

 

(――近い――レガッツ――村のみんなも――ボルキュス――セフィ抜き――この槍を上手く使えば――ッ)

 

 瞬き一回分に満たない時間の間に思考をめまぐるしく巡らせた俺は腹を据える。ここで――ここで勝負を決めればッ!

 

「――やってやるぞ!! てめぇが消えれば全部終わるんだ!! ボルキュス!!」

 

 そう――こいつさえ消えればレガッツ達は助かる! もっと言えば当面の間クリシュナも危機を凌げる……ならばッ!!

 俺はデルに重長槍を正面に据えた突撃体勢を取らせると、そのまま一気にボルキュスへと距離を縮めるため跳躍した。

 

『かッ構え!!』

『将軍ッ! 危険です! お下がりください!!』

 

 ボルキュスの周りのゴゥレムが喚き、こちらにプレスガンの銃口を向ける――!? ボルキュスがあの得体のしれない鞭状武器で隣の奴の銃を壊した!? 何だ!?

 

『全軍攻撃禁止!! 手を出したものは処刑だ! 全軍、私が死ぬまで石になれッ!』

(なっ……)

 

 つまり、俺と奴との一騎討ち……好都合だが――ッ!

 

「ふっざけやがってえええええ!!」

 

 舐め腐りやがって! 吠え面かかせてやる!

 俺は空中で槍を左手に持ち替えると開いた右手にネイルダーツを握らせ、黒いゴゥレム目掛けて投擲――チッ、反応が速い! 最小限の動きで避けられた!

 即座に槍を右手に構え直し、叩きつけるように振るうが……動きを見切られたのか躱され、そのまま後ろにデルフィングの体躯を流されてしまう。

 

『大槍を振るうとはなッ! はははははは!!』

 

 戦っている最中だというのに大声で笑いやがる――こちとら無様で結構だってんだッ!

 

『しかし着地の間隙はぬえんぞ!!』

 

 そう言いながら着地しようとするデルの背後から襲い掛かってくるボルキュス――クソがッ!

 左手を操り着地と同時にエクステントフレイルをホルスターから展開――そのままデルの頭上越しに背後に叩きつける。どうだッ!?

 

『ほう……』

 

 エクステントフレイルは奴が構えていた十字剣に絡みつくように直撃し、完全に破壊した。そのまま横薙ぎに振るって追撃を試みるが、今度はボルキュスのあの鞭のような武器で絡められ、防がれてしまった。上等だ! このまま押し込んで――

 

『ふっ、多関節武器同士の戦いでは私の方に分があるようだな!』

「何ッ!?」

 

 ボルキュスはそう言い放つや否や鞭を自分の方へ引き戻すようにエクステントフレイルを連結している鎖に擦り付け、一瞬で三つに分解する。

 

「ちッ……」

 

 ならば本命の槍を――と右手に握ったままだった重長槍を突き出すものの、今度はわざとゴゥレムを後ろに倒すことで避けやがる。

 おまけとばかりに足の仕込みプレスガンを穂先より柔らかい柄に集中連射され、鞭でとどめを刺すかのようにまた分解――どんだけ精密な射撃しやがるんだこの野郎。

 ボルキュスのゴゥレムは仰向けに寝転んでいる無防備な状態だが……柄だけになってしまった槍と、只の短い棒と化したエクステントフレイルを構える間抜けなポーズのまま静止するデルフィング……くそっどうする!?

 

『……ふふふふ、どうした……? 私は倒れたままだぞ? 殺るなら今だ!!』

(こいつ……ッ!)

 

 不気味な挑発に寒気を覚えた俺は、その発生源を潰すべく両手の残骸を逆手持ちに持ち替え、そのままこいつの頭に振り下ろ――ッ!?

 

『……ち』

 

 あ、あぶねッ!

 

(こいつ、腕を絡め取ろうとしやがった――!!)

 

 咄嗟に振り下ろそうとしていた両腕を止めて鞭の一撃を躱したが、両手に握っていた残骸が短くなってやがる……ギリギリじゃねーか、油断も隙もねぇ!

 そのままボルキュスはデルフィングに足払いをかけ、体勢を崩したところを鞭で襲ってくる。畜生ッ!

 

「くッ……!」

 

 なんとかデルフィングにバックステップさせ鞭の攻撃範囲から逃れるが……どうにもならねえ。

 

(駄目だ……あの武器の間合いに入ると攻撃する隙が殆ど無い――なら!)

 

 俺は両手に握ったままだった武器の残骸を放り投げると、ホルスターから取り出したネイルダーツを両手に三本ずつ握りこませる。泣いても笑っても、これで残されたネイルダーツは最後だ。

 

「こうなったら――デルフィングの最大馬力で防ぐ物ごと沈めてやる!!!!」

 

 これが今の俺に出来る最強の遠距離攻撃、両足を地に付けたこの状態ならまず外すことはないし威力も十分ある。たとえ防御されても、その防御ごと粉砕してやる!

 

「ぬおおおぉ!!」

 

 上段から一気に両腕を振り下ろし、計六本のネイルダーツを奴の上半身目掛け纏めてお見舞いしてやる。

 

『しょッ……将軍――ッ!!』

 

 ボルキュスの部下共の悲鳴が響く。投擲したネイルダーツは確かに奴の胸の辺りに命中し、そして後方へ仰向けに突き倒したのだ。

 

(……やった……か……!?)

 

 固唾を呑んで倒れたゴゥレムを睨みつける。手応えはあ――!?

 俺の期待に反し、倒したはずのゴゥレムがムクリと起き上がる……駄目か……

 

『……ふふふふ、咄嗟にヒュケリオンを宙に浮かせて正解だったようだ……大地にしがみつき、まともに守ろうとしていたら衝撃を吸収し過ぎてフレームごとやられていただろうな……』

 

 そう言いながらボルキュスのゴゥレムがマントの中から取り出したのは、ネイルダーツが深々と突き刺さって崩れ落ちようとしているシールド……あのマントの下で全部防御されていたのか……!

 

「ッ…………」

 

 中身が空になったネイルダーツのホルスターをパージする。辺りにはボルキュスを称える兵士共の歓声が響き渡っている。いつの間にか、周囲をアテネスの軍勢に完全に固められていた。歩兵、ゴゥレム選り取りみどりだ。ちっとも嬉しくねえ……

 どうする……この状況……あと俺に出来るのは……

 

(……もうイーストシミターしか武器が残ってねえ……セフィもいない以上、近接戦闘にしてもどこまでやれるか……くそッ……ここまで……か……?)

 

 どうする……? 退くか……!?

 

『……さて……その動き……既存の石英靭帯では絶対に不可能だ! おそらく古代技術の産物……これはオーランドが動く材料になるかもしれん……!!』

「な……」

 

 オーランドだと!? なんであの国の名前がここで出てくる!?

 駄目だ。これ以上ここに留まるのはまずい……やはり脱出を――

 

『とりあえず……村民を一人ずつ踏み潰してみるか……』

 

 離脱を考えた俺の逃げ道を防ぐようにボルキュスがそう呟く。

 

(村民を……レガッツを……潰す……?)

 

 それは――それだけは絶対にさせない――!!

 

『潰せッ!!』

『……了解!』

「やッ――やめろッー!!!!」

 

 もう迷っていられる場合なんかじゃねえ! 俺は最後に残されたイーストシミターを腰の鞘から取り出し、今まさにレガッツ達を踏みつぶそうとしていたゴゥレムを跳躍しながら斬りつけ吹き飛ばす。

 

『こ、こいつッ……!』

 

 こちらにプレスガンを向けるゴゥレムに狙いを定め、俺はイーストシミターを収めていた鞘を取り外し、そいつ目掛けてぶん投げる。十分に威力の乗ったそれは相手の頭部を破壊することに成功した。

 

『くははははははッ、退けえッ!!』

 

 ボルキュスの号令で周囲のアテネスの奴らが後退するのを横目に見つつ、俺は村のみんなを庇う位置に着地しイーストシミターを構える。これ以上手出しさせてたまるか!

 

「みんな逃げろっつってんだろ!! ここは俺が塞ぐから!! 速く!」

 

 俺が拡声器を通して呼びかけると、蜘蛛の子を散らすようにレガッツ達が走りだす。そうだ……上手く逃げてくれよ……

 道を塞ぐ格好となるデルフィングに、部下のゴゥレムから新しい十字剣を受け取ったボルキュスのゴゥレムが一歩一歩近付いて来る。

 

(これ以上先に進ませる訳には――)

 

 その為に必要なのはここでボルキュスを仕留めることだ。みんなを守るためにはそれしかない。

 俺は乱れた息を整え、サクラ近衛大隊長に仕込まれたイーストシミターを使ったにわか剣術を思い出し、右下段に構えさせる。俺の剣が、どこまでこのバケモンに通じるか……試してやる!

 ついに、ボルキュスが俺の間合いギリギリで停止する。お互い暫く睨み合っていたが――

 

「ッ――!!」

 

 意を決してこちらが先手を取る。下段からの斬り上げを叩き込むが、案の定避けられた。だろうなッ!

 続く鞭の連撃をイーストシミターの柄頭や鍔で弾いて躱す。触れただけで石英を削り取るこいつは素手で掴むわけには絶対にいかない。

 俺はイーストシミターを中段に構え直し、そのまま素早く距離を詰める。奴の対応は――左腕に仕込んだプレスガンと鞭……野郎! まだあんなもん仕込んでやがったのか!

 対応できる距離じゃない――俺は銃撃を無視してそのまま突き進む。銃撃は胸の、鞭は左腕の追加装甲でそれぞれ防ぐ。胸の装甲が剥がされたが――今は構うな!

 

「刀身を……滑らせろッ!!!」

 

 サクラ近衛大隊長とセフィの助言を思い起こし、刀身を滑らせるように斜め上に引き上げる。

 俺の渾身の一撃は、散々俺を苦しみ続けた鞭を中程で両断した……やっとまともに攻撃を叩き込めた。

 俺はそのままボルキュスの十字剣と打ち合う。都合三回目の斬り合いで、俺のイーストシミターが十字剣を叩き斬る。

 

 よし……これで得物を粗方破壊できた……!

 

『しょ……将軍ッ……!』

『ま、まずい……ヒュケリオンが押されている……!』

『くそ! 処刑されてもいい! 将軍を援護する!!』

『動くなッ!! 命令違反だぞッ!!』

 

 外野がゴチャゴチャと小五月蝿い……無視だ。構ってなどいられない。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 雄叫びを上げながら下段から一気に斬り上げ両断して――

 

(う、あ……?)

 

 俺が刀身を跳ね上げようとした瞬間、ボルキュスのゴゥレムはその場で姿勢を低く変化させる。

 それに合わせ、俺も刀身を僅かに下方に動かしたのだが……そこでボルキュスはなぜか両手をこちらに突き出してきた。

 

(な……!?)

 

 ボルキュスの意図が分からず混乱する俺は兎に角目の前のゴゥレムを叩き切ろうとするも、刀身が上る直前にデルフィングの両肩を押さえつけられて――何!?

 

(ボルキュス――消えた!?)

 

 突如として目前から掻き消えたゴゥレム――何処に……

 

(視界の端に映っているのは……両肩に……手? って、まさか……!)

 

 こいつ、デルの上半身を使って前転を――!

 慌てて背後に向き直ろうとする俺だったが、そのせいで姿勢を崩した瞬間、突然目の前に出現したのは、先程確かに破壊した筈の鞭状武器。

 

(ぐ……お……――) 

 

 機体全体を襲ったその衝撃が俺の身体をも貫き、さらに地面に叩きつけられたことを悟った瞬間、俺の意識は途絶えた――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「――陽動に容易に掛かり、そして使いもしない。直線的に相手を追い回すだけ――間合いの変化にも対応できない――おまけに不器用で洗練されていない挙動――」

 

 スコルピオンテイルの一撃で倒れ伏した、目前の異形のゴゥレムを見下ろしそう評する。つくづく期待外れな搭乗士だった。

 

「すっかり冷めてしまったよ……貴様はつまらん!」

 

 馬鹿は馬鹿でも、もはや相手にする価値もないほどくだらん類の馬鹿だったとはな。求めていたものとは程遠い……

 価値が有るのは搭乗士ではなくこの異形のゴゥレムそのものでしかなかったのだ。……そちらは確保しておく必要がある。

 

「そのゴゥレムを押さえろ! 鎖だけでは駄目だ! 五台がかりで押さえ込め! デスエルゴゥレム隊! こいつをなるべく傷付けずに本国へ輸送しろ!!」

 

 周囲の兵士共に命令して徹底的に拘束を行う。当て身で気を飛ばしたに過ぎぬので間もなく目を覚ましてしまう可能性もあるが、これだけの重量で押さえ込めば――

 

『ああそうだ……その前に搭乗口を破壊し、搭乗士を引きずり出せ……そして殺せ!』

 

 視界に入れることすら汚らわしい……さっさと搭乗士を処分するよう命令を下し、ゴゥレムの運搬を命じる。

 さらにわざわざ迂回進攻を行った目的でも有る、逃亡した現地民調達のために歩兵部隊を一つ追手として差し向ける。さして効果も期待できないが、クリシュナへの揺さぶりも兼ねている。

 村からの物資調達も併せて命じる。こちらは敵が籠城するであるビノンテン付近での陣地構築・築城に用いる為に、だ。

 

『……将軍、単騎で動かれては困りますとあれほど――』

「ふん、こんな重ゴゥレムに振り切られる護衛にも問題があるだろう?」

 

 バデス――先日戦死したアイレスと同様に、私とは長い付き合いになる禿頭の男。

 このゴゥレムの出現を察知し、同行していた護衛共々を道中置いてきてしまったのが……ようやく追い付いたか。

 

『……それにしても捕虜にせず、殺してしまわれて良いのですか? このゴゥレムの搭乗士……得難い情報を持っている可能性も――』

「構わん。戦ってみてはっきりした……あのゴゥレムの力は搭乗士のものではない。この搭乗士の戦い方にはまるでセンスを感じなかった」

 

 戦いの途中まではこのゴゥレムの異常な性能に心躍らせていたものだが……時を追う毎に休息に熱が冷めていくのを感じていた。

 

「先日のような戦いならば兎も角、強者と一対一で戦うには遥かに未熟過ぎる……ゴゥレムの膂力は驚異的だが、それにさえ注意しておけばどうということもない。お前ならともかく、イオ大佐ならまず遅れはとらん相手だ」

 

 問題は逃げに徹せられると絶対に追いつけないことだが……今日ばかりはたまたま迂回してここに進攻した私に運が向いたということだろう。この村の住民にこいつの縁者がいたに違いあるまい。あの程度の脅しさえ堪え切れんとはな。

 

「私の興味はあのエルテーミスの男に移ってしまったよ」

『それなのですが……将軍にご報告が……』

 

 耳打ちするかのようにバデスから報告を受ける。

 ……ほう、やはり今の私は運が向いていたらしい。先行偵察を実施していたゴゥレム部隊が、ここから南――クリシュナの王都であるビノンテン方面の峠付近で、あのクリシュナのエルテーミスのものらしき痕跡を発見したとのことだった。 

 

「……そうか、分かった。行くぞバデス!!」

『は! デスエルゴゥレム隊以外は共に来なさい!!』

『『『了解!』』』

 

 異形のゴゥレムを捨て置き、もと来た南西方向へと移動を開始する。まずは遅れてこちらへ向かっている後続の行軍部隊へと合流せねばならん。それに少々派手にやり合ったのでヒュケリオンのパーツ交換もせねばな、一応は。

 ……ああ、そういえばバデスがあのエルテーミス用の備えを申し出ていたな。スペルタ部隊とゴゥレムの装備変更だったか。私は暫く動けぬだろうし、さしあたって先行捜索を任せてみるか。

 

「バデス」

『……は』

「お前が言っていた件、許可する。クリシュナのエルテーミスを抑えろ」

『! 感謝します、将軍!!』

「構わん、存分にやれ」

 

 

 クリシュナのエルテーミス……くだらんやりとりで冷えた熱をお前との闘争で再び取り戻せることを期待しよう。

 

 

 

 

 

 

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.レガッツ危機一髪
2.セフィ「触手」ライ「鞭」ボル「蠍尾」
3.デル武装:もう無い
4.荒れるライガット氏
5.傷付けるな→やっぱハッチ壊せ えっ
6.ボロクソに言われるライガット氏。原作よりも弱いのです。
7.デル本体のダメージが少ないのは機体を傷付けないように将軍が手加減したから。


次回、宜しくお願いします。
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