壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ


 ライガット氏、奮戦し村人を逃がすも昏倒


025. 急進追跡

――――――――――

 

 

 

 

 

「――っあんの馬鹿が! また命令無視を!!」

 

 ライガットさんがド派手に部隊から脱走を果たした直後、盛大に舞う砂埃に塗れながらナルヴィ隊長が怒鳴ります。いやーはっはっは、激怒しておりますよ。私はその左手に捕まえられたまま。いい加減手放してくれないかな……

 弟であるレガッツさんを助けに行くと言い放って飛び出していったライガットさんに追いつく手段は無い。デルフィングの機動力は現存するどのゴーレムや車両であっても凌いでいるのだから。

 

 おまけに、その脱走の過程自体がとんでもなくまずかった。今の光景を見ていた周囲の軍人の皆さんが一斉に騒ぎ始めています。

 

「なんだ!? 今飛び出していったゴゥレムは!?」

「弟を助けに行くと聞こえたが……まさか!」

「ここに来て脱走者だと! どこの新兵だ!?」

「例の古代ゴゥレムだよ! あの跳躍見ただろうが!」

「魔力無者がッ! 古代ゴゥレムを動かせるからと調子に乗りやがったな!!」

「ライガットが単独で弟を助けに行っただと!?」

「馬鹿な……国家の重要戦力であるあのゴゥレムを独断で持ちだしたというのかッ!?」

「つッ……! あの野郎ッ!!」

「だから監視を付けておくべきだと私は――!」

 

 うわぁ……案の定、ライガットさんに対するヘイトが猛烈な勢いで溜まりまくっております。殆どの人達のおでこに青筋が浮かんでいるのが凄まじい。

 ライガットさん、戻ったら袋叩きに遭わないといいんですが……無理ですね。シギュン様に匿ってもらえませんかね……

 前回の命令無視はバルド将軍の部隊を救援するためだったのでまだ見逃してもらえる可能性はありますが、今回のそれは言い逃れのしようもなくライガットさんの独断・我欲に依るものです。

 しかも王都への籠城に入ろうというこの局面……王都を守護する予定を放り出しているのですからマズイどころではありませんよ……

 

「……皆落ち着け! ――密偵にデルフィングを捕捉させる。クロザワを呼んでくれ!」

「は!!」

 

 一同を窘めたバルド将軍は近くに居た伝令さんにクロザワなる人物を呼ぶようです。……ん? 黒沢?

 

……

 

「――我らではあの速度には追いつくことは出来ません。あのゴゥレムが夜間動かず、我らが夜通し最大限の時間継続して走行を続けたとしても捕捉できるかは微妙なところです」

 

 そしてバルド呼ばれて召喚されたクロザワ殿は、私がこの世界で目にする二人目の日本人っぽいお方でした。いやはや、意外と居るものですね。

 見た目は痩せ型で鋭い目つきの三白眼をした中年という感じのこの人……密偵の方ですよね? よくバイクで走り回ったり崖上で敵に見つからないように偵察とかしてる人達。

 

「……致し方あるまい。クロザワは派遣する人員を集めてくれ……今ライガットとデルフィングを失うわけにはいかん」

 

 ……ふむ。バルド将軍はペグー山の麓の村へ部隊を派遣するつもりのようです。

 表情には出ていませんがこの人にとってもむざむざボルキュス将軍の所へ向かわなければならないのは痛恨の極みでしょう。

 

「しかしバルド将軍! 我々は王都への退避命令を受けております! ここでライガットの故郷とやらに救援を差し向けてしまえば、我々も奴同様に王都からの命令を無視する形に……いいえ! それだけでなく本隊が文字通り全滅する危険すら出てきます!」

 

 そんなバルド将軍に側近のお方の一人が唾を飛ばしながら反対しています。

 ……そうなんですよね。いや、ごもっともです。

 今私達が安全に王都への帰還ルートを採れているのは、ボルキュス将軍率いるアテネスのゴーレム部隊百台超がペグー山への迂回ルートをとっているからに他なりません。

 それなのに、そのボルキュス将軍が向かっている地点へたかだか三十台程度のゴーレムしか残っていない自分達が向かっても、あっという間に磨り潰されるのみです。

 さらに言えば、このバルド将軍本隊が壊滅してしまえば今後の王都ビノンテンでの籠城作戦にも支障をきたします。トゥル将軍が負傷して動けない今、もう一人の将軍であるバルド将軍を失う訳にもいきません。

 

「大部隊で向かえば速度が落ちる……長時間稼働に長けたゴゥレム乗りを少数選抜し、偵察部隊と共に送り込む――」

「それでも間に合うとは思えません! みすみすそやつらを死地へ追いやるようなもの……デルフィングはもう諦めて見捨ててしまうのが賢明というものです!!」

 

 当然というか、バルド将軍を中心として展開されている議論は紛糾しております。

 今後の戦いのためにもデルフィングは回収したい、然れども迎えに行けばそこには敵の大部隊がお待ちかね。さらに全力でペグー山に向かっても既にライガットさんがやられてしまっている可能性もあるのですからしょうがないんですが。

 

「――バルド将軍、我々ミレニル部隊がライガット及びデルフィングの回収に向かいます。許可を!」

 

 そこへ、サッと挙手して立候補したのは我らがミレニル部隊のナルヴィ隊長。あらやだ、義姉様ってばやっぱり男前。

 

「む、しかし君たちは――」

「将軍! お言葉ですが、我々ミレニル部隊の隊員は全員、平均を超えるゴゥレムの長時間稼働を可能としています。それに元は部隊単独でビノンテンより西部国境に向けて出陣していたので、少数での長距離移動に必要な装備も粗方揃っています」

「ふむ……」

 

 そう言われるとバルド将軍としては否定しにくいでしょうね。

 当然ですが、バルド将軍本隊のように何十台もゴーレムが連なって進軍するのと、当初のミレニル部隊のように数台のゴーレムが進軍するのとでは求められる装備や必要となる物品も違ってきます。

 斥候等少数のゴーレム部隊の場合、各々の人員が搭乗席に背嚢を持ち込んだり、適当なゴーレムに食料や水を纏めたマガジンを一つ装備させれば大抵はそれで事足ります。

 ですがバルド将軍本隊のような規模の部隊となると、食料・水・修理用の石英や衛生救護用品などを満載したカーゴトレーラーが複数の輜重用ゴーレムによって牽引、運用されております。他のゴーレムは最低限の水や武器弾薬だけを持てばいい運びなんです。

 そのお陰で暖かくて美味しいご飯が大部隊だといただけたり、衛生的な簡易トイレが使えたりするのですが……この話はここまでとしましょう。

 

 ナルヴィ隊長が言いたいのは、少数部隊での行軍用の装備が既に用意されているので、最低限の準備作業でミレニル部隊は出陣できますよ、ということなんです。

 おまけに部隊員のゴーレム乗り全員(私除く)が若くて生きが良いのが揃っているので、体力的にもある程度の無茶がきく上、各々が保持する魔力の量が多いので休憩控えめの長時間移動も苦になりにくいのです。

 ……あの“若くて腕の良い”というミレニル部隊員の募集条件がこんなところでも良い方向に働いております。これも万事塞翁が馬というやつでしょう。

 稼働時間が足を引っ張るデルフィングが離脱しているのも、休憩時間を少なめに出来るという点ではメリットになりますね。今はそのデルフィングを追尾するために動かなくてはならないので本末転倒というものですが……

 

 ……というかそもそもデルフィングを効率良く運用する為のミレニル部隊だというのに、肝心のデルフィングが単独離脱というのもおかしな話です。

 

「それに……元々奴はミレニル部隊の人間です。我らこそがライガットを連れ戻さなければクリシュナ全軍に示しがつきません! デルフィングの回収は我々に任せ、バルド将軍本隊は予定通り王都へ撤退すべきでしょう」

 

 ああ、それもありましたか。ナルヴィ隊長としては切実なところでしょう。

 

 部下のミスは上司のミス……当たり前ですがそれはこの場合でもちゃんと適用されます。

 今回はあのライガットさんがデルフィングを使って暴走した結果なので、ある程度情状酌量の余地は生まれると思いますが、それでも周囲からのミレニル部隊に対する評価がだだ下がりしてしまうのには変わりありません。

 先日の大戦果と引き換えにしたとしても、おそらくマイナス評価のほうが強く印象に残るものでしょう。

 ナルヴィ隊長を始めとするトゥル将軍旗下の人間としても、部隊結成から早々のこんなところで評価が下がってしまうのはミレニル部隊の名前と隊員にとっての不評というだけではなく、自分を推薦してくれたトゥル将軍の顔に泥を塗るどころか排泄物を投げつけるような行いに違いありません。

 よって、脱走したライガットさんを自分達で連れ戻すことで自浄作用があることを示し、少しでも汚名返上を図ろう――ということですね。心中お察しします。いや、人ごとではないんですが……

 

 勿論、私としても異論はありません。どうにもデルフィングと離れていると落ち着かないというか不安になる身なのですし、私はあのゴーレムの副搭乗士ですからね。その責任を果たさねばなりません。

 ――何より、ライガットさんとデルフィングを無事に王都に返さなければ、シギュン様からとんでもないオシオキをされてしまう気がするのです! 故に私の身が危険! 絶対にそうなりますです!

 

「なるほど……」

「確かに……一考の余地がある」

「いや、それしかないのでは?」

「それならば仮に全滅したとしても被害も最小限で済む、か……」

「しかし優秀な人材をむざむざ向かわせるのは――」

「……構わないのではないか? 本人が立候補しているのだし」

「このまま全軍で向かうよりはマシというものか……」

「いやはやナルヴィ隊長殿、素晴らしいお考えですな!」

「将軍! ご決断を!」

「将軍ッ!!」

 

 ……概ね、バルド将軍配下の方達の反応も悪くありません。多少気に食わない発言はありますが全員話していることは真っ当ですし、ナルヴィ隊長は真っ直ぐ将軍に向かい合って返答を待っています。

 

「……よかろう。君たちミレニル部隊はデルフィングの回収に向かいたまえ」

 

 ついに、バルド将軍も折れましたね。若干渋々という様子ですがミレニル部隊の出撃を許可してくれました。

 

「ただし――」

 

 ……ん?

 

「――こちらの部隊からも偵察隊と工兵の一部を派遣し、同行させる。君たち単独での長距離移動は非効率で無理が出てくるだろうからな……彼らに支援させるとしよう」

 

 お、おおおお! 話が分かるお人じゃありませんかバルド将軍ってば!

 これで速やかなデルフィングの追跡が可能となるというものですよ。いやーラッキーですな。

 

 

 ……ここで少し情報の補足をしましょうか。

 

 デルフィングほど極端な話ではありませんが、ファブニルのような一般的なゴーレムやバイク、車両は総じて、実は連続して長時間稼働を行えず定期的に運動を停止させなければ、パーツの摩耗が発生してしまうという危険性を孕んでいます。

 石英の悪い特徴である、“熱や油に弱い”という点がそのままそれらに表れているのですよね。パーツが運動・摩擦し続けて熱が発生すると、石英が脆くなり壊れやすくなる、と……

 

 というわけで、この手のゴーレムや車両、バイクを運用する際はそれらの修理スキルを持つ工兵の方を同行させることが基本的に望ましいとされています。

 仮に長時間稼働の頃合いを間違ってパーツの摩耗が発生した場合であっても、休憩時間に彼らに頑張ってもらえれば機動性を取り戻すことができるからですな。

 

 

 短い将軍とナルヴィ隊長のやりとりの結果、バルド将軍本隊からは偵察隊十五人と工兵五人、それに結構な台数のバイクを同行してもらえることになりました。ゴーレムの追加こそありませんが、至れり尽くせりと言って良いでしょう。バルド将軍ってば見た目はスマートですが太っ腹ですね。

 ミレニル部隊はデルフィングを除く四台のゴーレムとその搭乗士四人と私……計二十五人の結構な臨時編成となってしまいました。

 

「……では、ここからはこちらが先導を務める。よろしく頼むぞ」

「クロザワ殿! お力をお借りします!!」

 

 そう言って居並ぶミレニル部隊員の前に進み出てナルヴィ隊長と握手したのは、先程将軍に召喚されたミスタークロザワ殿でした。

 この人、偵察隊の斥候の方達の中でも偉い人なんじゃないでしょうか? いいんでしょうかね……

 

「くそッ……ライガットの野郎……マジで許せねぇ……せっかく安全な王都に戻れると思った矢先に脱走なんぞしやがって……」

「……文句を言うなナイル」

 

 お気持はわかりますが……どうか堪えてくださいませナイル義兄様。後でライガットさんを一発殴っても私が許可します。シギュン様に見つからないところで制裁を加えて下さいな。

 そして気苦労お察しします。ロギンさん。後で孤児院の胃薬を進呈しましょう。

 

「……ククッ」

(ビクッ)

 

 ううう、相変わらずジルグ殿は不気味です。なんか先日の夜から妙な雰囲気なんですよね……

 何が楽しいのか分かりませんが、空を見て薄ら笑いを浮かべております。おお怖い怖い……

 

「……あ、すみませんがクロザワ殿。お手数ですがこの子をクロザワ殿のバイクに同乗させていただけませんか? 我々だと厳しいものがありまして……」

(――およ?)

 

 ナルヴィ隊長はそう言うと、隣に突っ立っていた私の両脇を持ち上げてずずいとクロザワ殿の前に押し出しました。……猫の子じゃないんですから、ナルヴィ義姉様。

 ま、確かにデルフィングが離脱してしまった今、私はクロザワ殿のバイクに相乗りさせて頂く他ないでしょう。

 ゴーレムの搭乗席に二人乗りや三人乗りも出来なくはないらしいのですが……閉鎖的な空間で二人きりというのはどうかと考えられていますし、それにいざ戦闘機動を行う際は絶対に搭乗士の方の邪魔になってしまいますので。

 あとはゴーレムのお手々とか肩の上に乗せるという方法もありますが……不安定な上に落ちると最低でも重傷は確定ですので避けるのが無難でしょう。緊急時のみとられる人員輸送方法です。

 

「……承知した。この娘は私の後ろに乗せる。振り落とされないように固定するから動かないように」

「ありがとうございます! クロザワ殿!」

「……よろ……しく……」

「うむ」

 

 いかにも怪しい子供である私に対して何も言わないクロザワ殿はやり手ですね。私の好感度が上がりましたよ。手際よくベルトのようなもので私の身体をクロザワ殿の背中に固定してもらいます。

 おっ、意外と背中が広いんですねクロザワ殿。久しく見ていなかったお父さんの背中というやつです。ライガットさんの背中はどちらかと言うと気のいいお兄さんって感じですね。

 

『……では、行ってまいります!』

「……頼むぞナルヴィ君、幸運を祈る」

『はッ!! ミレニル部隊、出陣します!!』

 

 各自補給を済ませてゴーレムに乗り込み、いつぞや王都を出た時のようにナルヴィ隊長が号令を出しますが、その時とは構成が全く違う臨時部隊として私達は出発しました。

 此度目指すのはここから北東、ペグー山の麓の集落です。

 

 初めて乗るバイクの振動を場違いに楽しみつつ、私達一同はデルフィングを追って走り続けます。

 

 

……

 

 

「……」

「――バルド将軍?」

「……副将軍を呼んでくれ」

「は? は、はいッ!」

 

 そんなやりとりが私達が発った後の陣地で交わされていたこともつゆ知らず、私達は一路デルフィングの後を追って北方へと進軍して行ったのです。

 

 

――――――――――

 

 

 ――ペグー山への進軍は極めて順調に進行した、と言って良いでしょう。

 

 流石は偵察部隊のお偉いさんというか、クロザワ殿が適宜目的地であるペグー山への最短ルートを見極め、私達への移動指示と先導を行ってくれます。お陰で敵に動きを察知されることも、道に迷うこともなく進むことができましたよ。

 そうしてひとしきりファブニルを長時間稼働限界まで動かし、時間が迫ったら機体を停止させて小休止をはさみます。

 その間に工兵の皆さんは各ゴーレムやバイクのメンテナンスを手早く実施。一方偵察隊の皆さんはバイクでルート上を先行し、障害物の察知や索敵を行う……というミレニル部隊のために赤絨毯を敷くような仕事を見事に務め上げてくれました。

 ……いや、偵察隊と工兵の皆さんの働きには脱帽モノですよ。本当に。彼らの働きがあってこその進行速度でしたからね。

 

 さらに夜になっても行軍は続行されます。デルフィングに追い付くためにはそうせざるをえないのです。

 基本的には昼間と動きは変わりませんが、やはり夜闇は天敵です。平地では然程問題にはなりませんが、険しい山地や渓谷地帯だと、崖から足を踏み外して落下死という事態も考えられます。

 その為ファブニルは行軍速度を歩く程度まで落とし、偵察隊の方々が光量を絞った発光石英でルート取りをして、それに従って進むという方法で進みます。ゴーレムの視覚は暗視もある程度効くらしいですが、補助はあるに越したことありません。

 それにナルヴィ義姉様達ゴーレムの搭乗士は休憩時間に仮眠を取ることも出来ますが、他の皆さんは凄いですね。全く睡眠を取らずに一晩中動いていたり、時にはバイクの後部座席で仮眠をとっていたりしました。訓練すれば私にも出来たりするんでしょうか?

 

 

 ――そんなこんなで何とか行軍を続けていた私達に、由々しき事態が発生してしまいました。

 

『ッ!? ジルグ止まれ! 一体何処へ行くつもりだ!!』

『少々気がかりなことが有るので……ではナルヴィ隊長、また後程――』

 

 ええ、あの鬼畜眼鏡がまたやらかしやがったのですよ。

 今回はライガットさんに倣ったかのごとく、部隊からの脱走を華麗に実施したのです。

 当然ナルヴィ隊長はジルグ殿を止めようとしましたが、脱走が実行されたのが夜間だったこともあり、エルテーミスの行方を探すことは困難を極めます。ただでさえ足が速いですからね、あのゴーレム。

 

『……そんでどーすんだ、我が妹よ。あいつまで回収すんのか? 流石に無理じゃねーの?』

『……ジルグを捜索している余裕はない。当初の予定通り、私達はペグー山へ向かう!』

 

 ナルヴィ隊長はそうナイル義兄様に返します。おそらくファブニルの搭乗席で彼女は目頭を押さえつつ、顔には苦悶の表情が浮かんでいることでしょう。

 ……まあ、それしか無いですよね。この夜間ではエルテーミスは見つからず、仮に発見出来ても逃げに徹しられてはファブニルやバイクでは絶対に追いつけません。というわけで、この場は放置するしかないのです。

 でもなんでこのタイミングで脱走!?

 

『ははははは……はぁ……これで脱走者二人目かよ……元から問題ありそうな奴らだったけど……誰かに呪われてるんじゃねーかこの部隊……愉快過ぎる……』

『…………これ以上下らない事、言わないでくれるかしらナイル兄……』

『…………』

『…………はぁ……恨むぜ……ライガットォ……ジルグゥ……!』

『……減俸で済むなら喜んで受け入れるわよ……私は……』

 

 ……流石に一同の空気が重苦しいです。ロギンさんなんか一言も発していない。

 幾らなんでも脱走者を短期間に二人も出してしまったとあっては言い逃れが出来ませんからね……王都に帰ったら司令部の糾弾だけで済めばいいのですが。特にナルヴィ隊長の苦労が偲ばれます。彼女にしてみればふんだり蹴ったりですから。

 ロギンさんに限らず、ストレスによりミレニル部隊の面々の胃は荒れまくっていることでしょう。……今度おすそ分けするために追加の胃薬買いに行こう。あと牛乳も。

 

 

……

 

 

 ――一夜明けてもひたすら北上し続けた私達。ほぼ丸一日移動し続けたせいで私以外の皆さんの身体には確実に疲労感が重くのしかかってきているでしょう。

 私? 基本クロザワ殿の後ろなんで大した負担はありませんよ。

 

「ナルヴィ隊長! あれだ!」

『こちらでも確認した!』

 

 クロザワ殿が目標のペグー山が見える位置まで到達したことを教えてくれました。峠の向こう側に望める、あの綺麗な形をした山がペグー山のようです。

 あの麓にライガットさんご出身の村があるはずなんですが……さて、鬼が出るか蛇が出るかと緊張する私。

 

 そしてペグー山の麓を一望できる適当な地点を見繕い、密かにそこまで登っていった私達だったのですが――

 

「……く……遅かったか……!」

 

 ファブニルを村からは見えない位置に隠し、ナルヴィ隊長が単眼鏡を覗き込んで短く言葉を零します。そう、私達が目撃したのは多数のアテネスのゴーレムや兵隊に囲まれて、敵将のものと思しき機体と一騎討ちを繰り広げて敗北した瞬間のデルフィングの姿だったのです。

 私も偵察隊の予備の外套を借りて頭から被り、麓の村を覗き込みます。私の頭髪って非常に目立つ色なんでこうしないと見つかってしまう危険が大きいのです。

 こうしてあの人が戦っている場面に一応間に合ったということは、彼が到着してからまだ間もないという証拠なので、強行軍でここまでやってきた成果はあったと言えるのですが……それでももう少し早ければ……!

 背後から触腕での攻撃を受けたデルフィングはうつ伏せに地面に倒れ伏すと、そのまま停止してピクリともしなくなります。

 一瞬冷や汗が流れましたがどうやら機体自体に損傷はないようで、純粋に搭乗席付近に受けた衝撃の影響で中のライガットさんが気絶してしまったようですね……

 

 ……って、あんな触腕を武器として使うゴーレムなんてボルキュス将軍の機体しか私は知りませんよ!? ライガットさん、いきなり将軍と一騎討ちするなんて何考えてるんですか!?

 

『ライガット……中で気絶したのか……しかも相手はボルキュス……!』

 

 土色の頭部を出したファブニルからロギンさんの声が響く。この人のファブニルはこの地形だとカモフラージュ率が高いのでこういう偵察も出来なくはないのでしょう。

 ロギンさんだけはゴーレムから降りずにそのままなんですね。確かに全員地面に降りてしまうと、いざという時に困りそうですものね。

 

「おいおいおい……いくらデルフィングでも流石にあれはどうしようもねえだろ……なんで逃げなかったんだ……おまけに囲まれてるじゃんかよ……!」

 

 ナルヴィ隊長と同じく単眼鏡を覗き込んだナイル義兄様も絶望的な状況に焦燥を隠せていません。

 どうやらボルキュス将軍は周囲のゴーレムや兵士たちに命令して、デルフィングを徹底的に拘束し始めました。杭打ちしたゴーレム用の鎖だけでなく、直接五台のゴーレムで押さえ込まれていくデルフィング……あうあう、どうしましょう……

 案の定というか、デルフィングの異常性に気が付いてアテネス本国で研究材料にでもするつもりのようです。そりゃあアテネスと比較してかなりの小国であるクリシュナであんなゴーレムを運用していることに納得なんて出来ないでしょう。

 ということは、ひとまずデルフィングと中身のライガットさんの安全は確保されるということなのですが……このままアテネスに輸送されてしまったら、手の打ちようが――

 

「――敵の動きは?」

「敵将を含めて四十台近いゴゥレムが西南に移動を開始したけど、二十台近くは村に残ってる。あと歩兵も二百」

 

 ここの周囲を偵察していたクロザワ殿が状況を確認しに来ました。ナイル義兄様が目視で確認した内容を伝えます。

 理由は不明ですが、半分以上のゴーレムがあの場から離れつつあるのは僥倖ですね。このまま暫くやり過ごせばデルフィングの回収が楽になりそうです。依然として回収自体がかなり難しいのには変わりませんが。

 

「――うッ! まずいぞナルヴィ!! 村人がこっちに逃げて来る!!」

「まずいのは分かってる! オタオタしないの!」

 

 ナイル義兄様が仰ったように、私達が待機している方向に向けて避難して来たと思われる村人さんたちが走ってくるのが見えます。

 人数は三、四十人ほどかな? 子供から老人まで必死の形相で坂道を登ってきています。

 こちらとしては村人さんたちを救助し易いという意味では幸運なのですが……お二人が言うようにマズイ状況になってしまいました。

 村人さんたちはともかく、その後ろに迫っているものが厄介以外何者でも無いんですよね。

 

「クロザワ殿、敵歩兵三十が村人を追撃――こちらに向かっていますが撃退可能ですか?」

「こちらは十五人だが地形を利用して奇襲をかければ撃退可能だ。――が、この距離だ。どうやっても敵本隊に我々の位置を察知されるだろうな」

 

 撃退ですか……可能ならば全員倒してしまうのが良いのでしょうが、こちらの戦力は不足気味。挟み込んだ上で奇襲しても撃ち漏らしが出てしまうのでしょう。

 これだけ村とそう距離が離れていないと、あそこに駐留している敵軍にはどうやったって銃声なり怒号なりでバレてしまいます。その兵士たちやゴーレムもこちらにやってくるでしょう。

 

「……」

「……! お、おいナルヴィ! お前何考えてる!? 冗談じゃないぞ!?」

 

 顎に手を当てて黙考し始めたナルヴィ隊長を見て、慌ててナイル義兄様が詰め寄ります。

 

「考えるまでもねえ……こっちはゴゥレム三台と偵察隊十五人、工兵五人、おまけにプレスガンさえ撃てない女の子一人だ! この地形で麓に突撃なんてしたら間違いなく蜂の巣……どうあがいてもライガットはもう助からねえ! 見捨てるしかない! 退却しようぜ、な!」

 

 ナイル義兄様はナルヴィ隊長にこちらの現状をまくし立てます。悲しいことに全て事実です。

 

「僭越ながら私もナイル殿と同意見だ。今、戦端を開くとゴゥレム六十台に近い敵をもろにこちらに引き込むことになる。最悪の退却戦になるだろう」

 

 ナイル義兄様に便乗するように、クロザワ殿が意見を言います。

 そうなんです。南西に移動を開始した四十台のゴーレムがこちらで発生した異常を察知して引き返してくることも十分考えられるのです。

 せめて少し時間を稼いで距離が開くのを待たないと、いざ逃げるとしても私達は後ろから非常に激しい追撃を受け続けることになります。

 

「……そして最大の問題点は、この状況下ではデルフィング救助は絶望的であり回収できる見込みが無い。故に戦端を開く意義が無いという事だ」

 

 私達の本来の任務はライガットさん及びデルフィングの回収です。それが実現不可能な状況となってしまった今では速やかに王都に撤退を開始しなければなりません。

 残念ながらデルフィングを無理に確保しに行ったとしても、ナイル義兄様の仰った通り殲滅されるだけ……出す必要の無い犠牲は出さないに越したことはない。いえ、出してはいけません。

 村人さんたちを救出し、王都への避難を支援することは辛うじて出来るかもしれませんが……それですらこちらの全滅を招くことが確定しているとしたら無視せざるを得ないでしょう。

 

「ライガットはいい奴だった。……セフィちゃんと違ってどんな奴かよく知らんし、脱走までしやがったけどさ……でも退却するしかないんだよぉ~~ナルヴィ~~」

「……ナイル兄、うっとおしいから離れて!」

 

 嘘臭い涙を流しながらナルヴィ隊長を説得しようとしているナイル義兄様……ウルトラ格好悪いです……

 しかし思っていたよりもライガットさんとミレニル部隊の隊員って、付き合い薄かったんでしょうか? ……まあ、顔合わせしてから十日足らずで仲良くなれっていうのも難しいのかもしれませんね。

 方や経験豊富な軍人、方や最近まで農民やってた魔力無者ですし、もっと言えば相性とかありますので。私が仲介してあげれば良かった。

 

「……げ」

『ナルヴィ隊長、ライガットが危険だ!』

 

 ずっと村を監視していたロギンさんと、ナルヴィ隊長に押しのけられたナイル義兄様が村の方を見て不穏な声を上げました。どうしたんでしょう……ライガットさんが危険!?

 私やナルヴィ隊長も単眼鏡で再び村を覗き込みます。

 

 ――そこでは、アテネスのゴーレムが地に伏すデルフィングの背中に剣……ではなく、ゴーレムサイズのスコップらしき道具の先端を今にも叩き込もうとしている光景が。

 しかも狙いは搭乗口!? まさかライガットさんを機体もろとも潰す気ですか!?

 

 

(だ、駄目で――!? あがッ――!?)

 

 そのままゴーレムが腕を振り下ろしたと同時に、私の頭に激痛が走ります。

 

 

(…………うぐぅ……ぁ……――……?)

 

 …………問題ありません。

 

 パイロットは確かに気絶しているだけですね。外傷も無し。多少外部から刺激を与えてやれば目を覚ますでしょう。

 ピンポイントの攻撃故、機体の損傷はハッチのみに留まっています。気密性に若干の問題が発生しましたが、それは元からですので。

 ですがこれ以上の損傷は許容不可です……石英切断用の工具らしきものの存在を視認しました。

 

「…………隊長」

「……何――ッ!? セフィ、貴方その目――!」

「どうしたナル――うおッ!?」

 

 傍らの部隊長に向き直ります。自分だけでは手が足りない。

 

「……自分が……呼べます…………許可を……」

「よ、呼ぶって……デルフィングを!? 一体どうやって……」

「お、おい……そんなこと本当に出来んのかよ!?」

「はい……ただし……拘束の……解除を……一時的……でもいい……」

 

 巨兵五台――いえ、その内の一台は拘束用の鎖をかける作業中なので四台分ですか……あれだけの重量がかかっていては流石に脱出させるのが難しい。

 

「……ロギン、貴方がデルフィングの周りに居る敵のゴゥレムに狙撃を行うとして、どう?」

「ナルヴィ!? やる気か!?」

 

 隊長が狙撃手に確認しています。理解が早くて助かる。なるほど、それなら……

 

『す、少し待ってくれ……だ、駄目だ……私のロングプレスガンでもここからでは射程外……少し前進して射角を上げればなんとか届くが……それでも命中率はゼロに等しい……』

「あの周囲に届きさえすれば命中率はどうでもいい」

『ゼロだぞ!?』

「構わない」

『ラ……ライガットに当たるかもしれん……!』

「問題……無い……直撃でも……死なない…………」

 

 あの機体のフレームの堅牢さは並ではありません。それに例えあの銃器であってもここからの射撃では威力も減衰します。

 直撃すれば多少の損傷は受けるかもしれませんが、それだけだ。この際細かいことには目をつぶろう。

 

「どちらにしろ構わない。ロギン、ポイントに移動後――敵の別働隊が離れたら合図を送る。それとともに攻撃(アタック)開始だ。ナイル兄もゴゥレム内で待機して」

『……了解』

「お……おう!」

 

 隊長殿はむしろパイロットが死んでも構わない勢いです。私も異存ありません。今はあの機体を回収するのが先決。

 それに……このままみすみす敵方に渡してしまうよりは、いっそのことここで破壊してしまった方がいいでしょう。ついでにまとめて脅威の排除も出来ます。

 

「クロザワ殿、それと同時にこちらに接近する敵歩兵部隊の撃退と、村人の救助をお願いします」

「……承知した。後で合流しよう。――偵察隊各員、配置につけ。工兵は逃走経路の確保と敵の足止めの準備に」

 

 タイミングを合わせて現地民を救助ですか……どうせあの機体をこちらに呼び寄せるのですし構わないでしょう。

 

 

 全く……本当に手のかかるパイロットです――

 

 

 

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.ライガットさんの立場は実際超マズイってレベルじゃない
2.バルド将軍離脱フラグ
3.全員原作より喋る


次回、宜しくお願いします。
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