ようやくペグー山まで辿り着いたセフィ一行。
ピンチのデルフィングを助けるべく彼らの奮闘が始まる――
※途中視点変更あり
――――
「――ロギン! 撃て!!」
隊長殿が十分に敵別働隊が離れたタイミングを見計らい、狙撃手に合図を送る。すぐさま銃弾が二発発射された。
丁度分解用工具がハッチに接触しかけていたところだった。運がいい。
それと今のを合図に偵察隊の攻撃も始まったはず……まあ一応彼らの幸運を祈っておこう。
銃弾はあの機体を拘束していた巨兵の二台に命中した。なんだかんだ言って見事命中させている。それぞれ足と腕の装甲を抉る程度だったが……いい腕だ。
こちらの攻撃を察知した敵軍が動き出す。間もなく狙撃体勢をとっていたこちらの土色の巨兵を発見したようだ。
「今だ!! セフィ、やれ!!」
「……了解」
右腕を真っ直ぐ正面に伸ばし、左手を沿え集中する。あの機体からの感覚情報だと、銃撃が命中した二台の体躯が浮き、他の二台も若干拘束が緩んでいる――十分だ。
その内一台には左腕を操作し足払いを掛け、もう一台には右足を動かしてキックを叩き込む。機体が動き始めたことに気付いた敵が再び押さえ込もうとするが、遅い。
残る二台も転倒させ、かけられていた鎖を引っ張って最後の一台も引き摺り倒す。これでようやく立ち上がれる……
ついでだ。近場に転倒している五台に行き掛けの駄賃とばかりに蹴りを入れ、それぞれの頭部か脚部を破壊する。これで追跡できまい。
そのまま他の巨兵共が銃撃してくるのを躱させる……邪魔だ。二度、三度と跳躍させてこちらに移動させ、自分のすぐ側のスペースに着地させた。
『――はッ!!! こ、ここは!? な、ナルヴィ!? それにセフィも――』
……丁度今の着地時の衝撃でパイロットが覚醒したようだ。やれやれ今頃お目覚めとは。
「ライガット!? 目が覚めたのか――くッ、説明は後だ! 今はとにかく退却する!! ナイル兄、セフィを頼む!!」
『あいよ! セフィちゃん乗んな!!』
緑色の機体が私に巨大な掌を伸ばし、隊長殿は私をその上に乗せると自分の機体に潜り込む。
遠慮無くその上に座らせてもらい太い指を掴んで身体を固定する。途端に、猛烈な疲労感が身体を襲った。
『じょ、状況が分からん…… そうだ! ボルキュスは!?』
『さっさと動け馬鹿者!! お前を追って敵の部隊がこちらに接近しているんだ! ――クロザワ殿!?』
そこへ偵察隊が逃走中の現地民を引き連れて戻ってきた。追跡してきた部隊への奇襲は無事成功したようだった。
「ナルヴィ殿! すまないが走れない人間をそちらのゴゥレムに乗せてやってくれ!」
『分かった! ロギンは後方警戒と牽制! ナイル兄とライガットは村人の移動を補佐!』
『『了解!』』『りょ、了解!』
「ありがたい! そら! 走れる人間は走って逃げるんだ! あと少し走って橋を越えればひとまず安全な所へ出られる!」
姿勢を低くした各機の後頭部や掌に数人の人間が乗せられていく。足腰の弱まった老性体や、怪我をして動けない者達のようだ。
『おばあちゃん、しっかり掴まった? セフィちゃんもゴゥレムの指に掴まったか? 動くよ!? いい?』
『い、意外と神経使うなこれ……トリガーは手放しておかないと潰しちまいそうだ……』
『全員は乗せられない! 走れる人は走って!!』
全員が一丸となって動き、南方へ向かい逃走を開始する。後方からは凄まじい数の軍勢が迫ってきていた――
――――――――――
――デルフィングを回収、逃走を開始してから間もなく、私達は峡谷に架かる橋まで辿り着きました。
逃走する村人さんたちが橋を渡っている一方、橋の周囲では偵察隊の皆さんがせっせと走り回ったり、工兵の方達は橋の上から橋脚にロープでぶら下がって何やら作業中だったり……ああ忙しそう。
『悪いけど手早く頼むぜ……もうそろそろ追っ手が来ちまう……』
『無駄口叩かないで警戒! 全員急いでるに決まってるでしょ!!』
橋の向こう側に残って殿を務めているのはナルヴィ隊長とナイル義兄様です。ロギンさんは既に橋を渡って、ロングプレスガンで二人を援護出来る位置についています。
ちなみにデルフィングは敵の銃撃を阻める大岩の向こう側に退避済み。私はその岩の脇で後方を監視中だったりします。一応ね。
「作業完了、いけます!」
「よし、我々も撤退だ。ナルヴィ殿!」
『わかった!』
『よっしゃ!』
ようやく仕込みが完了したようです。既にすぐそこまで敵のゴーレム部隊が接近して来ています。際どいタイミングでしたね……
橋を渡り、私が隠れる大岩を周り込むように二人のゴーレムが撤退します。敵部隊からはプレスガンが盛大に撃ち込まれてきています。のわー! 見学してる場合じゃなかった!
『よし! やれ!!』
『『了解!』』
敵のゴーレムが橋の渡り始めたタイミングでナルヴィ隊長が合図、それを受けてナイル義兄様とロギンさんのゴーレムが橋脚に繋がるワイヤー(石英製)を引っ張ります。
橋の方から連続して甲高い音が響き、さらにナルヴィ隊長は大岩から半身の姿勢で橋脚にプレスガンを連射。
そして周囲一帯に凄まじい轟音が響き渡ります。敵部隊の足止め目的に橋落としを実行したのです。
事前に橋を支える要所を破壊してあったのか、元々いざという時に落としやすい構造になっていたのかは分かりませんが、複数の敵のゴーレムの重量が掛かった今なら比較的落としやすいというものです。
『全軍止まれー!!』
峡谷の向こう側から、崩れた橋を前にしたゴーレムが警告を発します。最初に橋の上に居た二台以外は落ちずに難を逃れたようです。
『ナイル? 何を……』
『ま、ちょっとばかし意趣返しをな』
ナイル義兄様はゴーレムで大岩をよじ登ると、敵の軍勢に向かって手を振り始めました。露骨過ぎる挑発です。見なくても大岩の向こう側で猛烈な怒気が膨れ上がっているのが分かります。
『う、撃てェ!!!!』
当然とばかりにこちらの大岩にプレスガンの銃弾が雨あられと降り注ぎますが、ナイル義兄様はさっさと下に降りてしまっています。頭上からパラパラと小石が降ってくるのは迷惑ですの。
『ナイル兄――』
『手間を掛けずにあいつらの思考能力を奪って、ついでに無駄弾を撃たせてやってるんだ。お前も文句無いだろ!』
流石はナイル義兄様ですね。普段は頼りなく見えても戦闘が絡むと機転がききます。
私達にしてみれば、あの敵部隊には一秒でも無駄な時間と装備を浪費していただくに越したことありませんからね。
……でもさっき意趣返しって言ってたような?
『……事前に一言くらいは言ってよ、もう……』
ナルヴィ隊長も一応はナイル義兄様の行動に戦術的価値を認めたようです。何事かをぶつくさ呟いていますが。
『へっへへ……さ! おばあちゃん達はこの人達と行ってね!』
ナイル義兄様はゴーレムを跪かせると、足元の村人さんたちに偵察隊の人についていくよう示します。その人達にお礼言われて照れくさそう。女の人だけじゃなくて、ご老体にも優しかったんですね、義兄様。
『クロザワ殿、敵がこちら側に迂回するのにどのぐらい時間がかかると予想しますか?』
「ざっと四、五時間だな」
橋一つ落としてそれだけ時間が稼げれば儲けものです。あとはどれだけ逃走距離を稼げるか、ということになるのですが……
『……ライガットォ、後で私から話がある……覚悟しておけ!』
……うおぉ、恐。地獄の底から響いているような声でしたよ。
彼女にしてみれば溜まりに溜まった鬱憤を晴らす機会がやっときたのです。当然でしょう。
『……俺は今、話がある……』
『何……?』
……? ライガットさんはそんなナルヴィ隊長に怯えるでもなく、やけに暗い声で呟きます。何か、嫌な予感がしますね……
――――――
「――え? じゃあ、村長以外の村の人間は誰も死なずに済んだのか?」
「ええ、あの人たちが私達を追ってきたアテネスの兵隊をやっつけてくれたからね。あの時はもう駄目かと思ったけど……」
「そうか……良かった……」
「村でもあんたが来てくれて助かったよ……」
「ああ、ライガット、格好良かったぜ!」
デルフィングから降り、俺は村の皆から話を聞いていた。ナルヴィが偵察隊の人間と今後の進路を打ち合わせしていて時間が出来たからだ。ミーティングの他にも、こうして大人しくしていなければならない重大な理由があるのだが……
そのついでに、村人へアテネスの軍勢が攻めてきた辺りのことを言って聞かせて説明している。なんでも村長からはみんな何も聞いていなかったらしい。……ま、俺も知らなかったしな。
そして幸運な事に、村の人間の被害は一人だけに留まった。やはりデルフィングで駆けつけておいて良かった。そうでなかったら全員死んでいたか拐われていただろう。
唯一アテネスの兵士に殺されてしまった村長には悪いが……元々村長が退避勧告を受け入れていればこんなことにはなっていなかったんだ。それに村長は村を丸ごとアテネスに売り渡そうという提案を持ち掛けて殺されたらしいし……半ば自業自得というものだろう。
「――皆さん! 準備が整いました! 付いて来て下さい!」
偵察隊の兵士達がやって来た。村人の避難についてはこいつらに後を任せることになっている。
ここから避難先であるビノンテンまではそれなりに距離がある……俺が五日間歩き続けて行き倒れかけてまでも辿り着けなかったからな。こいつら偵察隊の兵士達は皆サバイバルに長けていると何処かで聞いたことがあるし、ここはアテにさせてもらおう。彼らの支援が無ければ着の身着のまま逃げ出してきた村のみんなではどうなっていたことか……
「……じゃあみんな、あの人達についていけば安全だから……気をつけてな」
「あんたもね、ライガット」
「……おう」
何人かと別れの挨拶を交わし、みんなは移動を開始した。やれやれ。
そこで他の村人と一緒に王都に避難するはずのレガッツが動かずに俺をじっと見つめているのに気付いた。一体どうしたんだコイツ……?
「レガッツ、お前も早く――」
「……何やってんだよ……お前……」
「……あ!?」
「……軍人になって……ゴゥレムに乗って……何やってんだよ?」
あー……何だいつもの癇癪か。
こいつ、俺が何かする度に怒鳴ったり詰問したりするからな……全く、こんな非常時に……
「……レガッツよう~~今はお前の癇癪に付き合ってるヒマは――」
「…………ま……」
「ま?」
「……ま……魔力に……め、目覚めちまった……のか?」
……そうか、そうだったな。 そういえば俺がデルフィングを操縦出来ること、こいつ知っちまったんだった。
そうなればレガッツが俺に魔力が宿ったと勘違いするのも無理は無い……だからレガッツはただ一人の魔力無者として孤立するのかもって邪推してんのか。
「それはねーよ」
こういう誤解はさっさと解いておくに限る。事実、俺が魔力に目覚めることなんて有り得ないしな。
「……そ、そうか……じゃあ何でゴゥレムに乗れてんだよ……?」
「それについては俺にもよくわかんねーんだ」
「……なら、あの女なんなんだよ……」
「……女?」
何のことだ?
「……ほら……あの女……なんかさっきからこっち睨んでるんだ……」
レガッツがチラリと視線で示した方を見る。そこには杖をついてこちらに視線を送る小柄な少女が――
「あ、ああー……成程……」
セフィの事かよ。
確かにさっきから俺達ガン見してるな。無表情だがレガッツには睨んでいるように見えるようだ。あまり他人に慣れていないこいつにしてみれば居心地が悪いに違いない。
「別にあれは睨んでる訳じゃねーよ。たぶんお前が俺の弟だから見てるだけだろ」
「……何でだよ……?」
「あの子、セフィっつってな、今の俺の相棒……みてーなもんなんだ」
「……本当に……何やってんだよ……お前……」
確かに、あんな女の子と相棒組んでる軍人なんて疑問に思わない方がおかしいか。
「……ま、今度王都で紹介してやるさ。ちなみにあの子、俺らと同じ
「な……ほ、本当かよ!?」
「お、おう……」
やけに食付きが良いな……まあ、俺達兄弟以外の
「とにかく、たまには俺の言うこと聞いて村のみんなと逃げてくれ。王都でまた会おうぜ」
「……分かった、絶対だからな」
ふう、漸く納得しやがったか。我が弟ながら手強いやつだ。
「――レガッツ!」
村のみんなの方へ歩いて行く弟の名前を呼ぶ。
「……その、気を付けろよ……」
レガッツは少しだけ立ち止まってこちらに顔だけで振り返り、そして去っていった。
俺はレガッツと村のみんなに手を振って見送る。後は彼らが無事にビノンテンまで辿り着いてくれることを祈るしかない。
「……ふぅ……ッ!? あでぇッ!?」
そんな俺の右足に凄まじい痛みが走る。な、何だぁッ!?
「おぐうッ!?」
続いて顔面を近くの山肌に押し付けられた。く、口の中に土が……
「はうッ!? ぐがッ!?」
さらに股間と顎に何か得体の知れないものが押し付けられる感覚。
「……あら、貴方も? 奇遇ね、それになかなかいい手際じゃないの……」
「……恨み……はらさで……おくべき……か……?」
そこでようやく落ち着いた状況に視線だけで周囲を確認する……そこには俺の襟首を掴んでプレスガンを顎に押し付けているナルヴィと、俺の足に杖先を突いて股間にナイフを押し当てているセフィが……こ、こいつら、妙なコンビネーションを発揮しやがって!
「……ライガット……次、命令違反しでかしたら
「……返事(グイグイ)」
「――!(コクコク!)」
俺に頷く以外の選択肢など、そこには有るわけがなかった――
――――――――――
――ライガットさんを軽く脅してひとまず置いて行かれた事を手打ちとし、私は久々にデルフィングの副搭乗席に潜り込みました。ああ……何だか凄く落ち着く……
(……にしても、さっきの少年がライガットさんの弟……レガッツさんですか……)
ライガットさんと気難し気なやり取りをしていた少年のことを思い出します。自由奔放という感じのライガットさんとは性格が似ても似つかない、捻くれたガキンチョという感じでしたが……
そう! まだ少年ですよ少年! まだ十代前半くらいの! 今現在ライガットさんが二十五歳だからてっきり弟のレガッツさんも二十歳位だとばっかり思ってました。どれだけ歳の差がある兄弟なんでしょう?
しかも、この国では生まれてから数年経ってから魔力の強さを調べる検査を受けるという話を聞いたことがありますし、つまりお二人のご母堂はライガットさんが
うーん、お腹を痛めて産んだ子二人共が
あとはまあ、レガッツさんの性格については置いておきましょう。命からがら故郷の村から逃げ出したばかりで混乱しているのかもしれませんし、
お……そんなことを考えていたらデルフィングが稼働したようですね。視界に色々と情報が表示され始めました。
『……再稼働したか? この一時間でどれだけ動けるようになった?』
「…………て、低速……移動で……約十五分です……」
ナルヴィ隊長が外からライガットさんに確認します。ライガットさんはメチャクチャ挙動不審になりながらも活動限界までの時間を答えます。
……ちょっと脅されたくらいで怯え過ぎです。ナルヴィ義姉様も本気な訳ないじゃないですか。そうですよね?
しかし一時間の停止で十五分ですか……低速移動でこれなら対ゴーレム戦なんて七、八分も続けられないでしょう。もっと短いかも……
ええ……実は橋落としを実行した段階で、デルフィングの活動限界まで二分そこそこを切っている状態だったんですって。だから凄く言い難そうだったんですね、あの時のライガットさん。
残り三分程度の移動時間では何処に行くにしても中途半端……だから敵に追いつかれる可能性が上がるのを承知でここで我々は小休止をとっていたのです。
『よし! 行軍開始だ! ベクトリア峠を越えて王都に向かう!』
デルフィングの活動限界を把握したナルヴィ隊長が撤退ルートを決定しました。ベクトリア峠ですが……そこはかとなく高貴そうな名前の峠ですな。
……
程無く、デルフィングとファブニル三台での逃避行が始まりました。先導は偵察隊の三輪バイク二台が務めてくれます。内一台は、クロザワ殿です。
ちなみになんですが、デルフィングは現在ナルヴィ隊長のファブニルが装備していたセミスパタと、ロギンさんのファブニルが装備していたシールドをそれぞれお借りしてなんとか体裁を整えております。正統派騎士みたいな装備ですね。あとはマントが欲しいところ。
なにせ、拘束から逃げ出してきた時に武装全部置いてきたらしいので仕方ありません。(しかもライガットさん曰く、「全部ボルキュス相手に使い果たしたか、壊された」らしい。ライガットさんの無駄遣いを咎めるべきか、相手を務めたボルキュス将軍の強さを賞賛するべきか……)
ナルヴィ隊長は(弾切れが心配になりますが)接近戦もプレスガンオンリーでまだなんとかなるにせよ、ちょっと問題ありそうなのがロギンさんです。
彼はロングプレスガン使い……要は狙撃手です。障害物の少ない平地では盾で防御を固めつつ狙撃という戦法を取ることになるのですが、その盾が無くては敵の攻撃を避けながら撃つという戦法を取らざるを得なくなりますからね。移動しながら狙い撃つって相当難しいし命中率も落ちます。デルフィングの副搭乗士としてはありがたい話なんですが、やっぱり心配です……
ベクトリア峠へ向かう道中で村人さん達と他の偵察隊、工兵の方達とは別行動となりました。村人さんたちの護衛戦力がかなり手薄になるのは心配ですが、それよりも非常に目立つゴーレム四台と一緒に行動するほうがリスクが大きいようです。
彼らの幸運を祈りましょう。……なんか最近、私ってばよく何かに祈ってるなー。
『……ライガット、残り稼働時間は?』
「……五分切った」
『よし、少しペースを落とそう』
控えめな砂埃を立てながら、一路ベクトリア峠目指して行軍します。やはり残り時間が心もとない……
途中もう一台の三輪バイクとも別行動となり、ついにミレニル部隊とクロザワ殿だけになってしまいました。最後まであの人にはお世話になりっぱなしです。
デルフィングを派手に動かして、単騎で距離を稼ぐのも有りだとは思うのですが……敵のゴーレム部隊が近辺に潜む可能性が否定出来ない今、他の皆と離れるのは危険過ぎるのです。いざという時に守ってもらえませんので。
「……そういえば……ジルグは? 姿が見えないけど……」
ライガットさんのその一言で、私を含めた他の部隊員四人に緊張が走ります。思い出したくもない、という感覚です。
『行軍中に行方をくらました……』
「は、はぁ!?」
「……事実……昨晩……突然に」
『隊員六人中二人が脱走する部隊ってのもすげーよなあ……なあ、ナルヴィ』
『…………』
……今頃、ジルグ殿は何してるんだか。どうせろくな事じゃないんだろうけど。
……
「――だ、駄目だ……止まる……」
ライガットさんが不安そうな声で呟きます。見れば残り稼働時間は二分弱……確かにそろそろ落ち着いて小休止できる場所を見繕わないといけません。
『……よし、ここいらで休憩だ!』
渋々、といった感じでナルヴィ隊長が号令を出し、全員がその場に立ち止まります。
ここがベクトリア峠とやらでしょうか……段差や岩場が多くて見通しが悪く、おまけに片側は断崖絶壁……おお、怖い怖い。
『では、先行して様子を見てくる』
クロザワ殿がバイクで颯爽と走り去ります。いぶし銀ですなぁ。
「……後二時間は大丈夫なんだよな?」
『あくまで目安に過ぎん! 馬鹿が!』
迂闊な発言をしてしまったライガットさんに、ナルヴィ隊長から厳しいお言葉が飛びます。ちなみに今の発言を意訳すると、「油断すんな馬鹿」となります。
――その時です。私達の耳に重い足音が届いたのは。
「え……」
ライガットさんがデルフィングの視線を音が聞こえた方向に向けます。
そこにはバラバラになった三輪バイクと、地面に倒れたままピクリともしないクロザワ殿……そしてその側には、岩場に半身を隠してこちらにプレスガンの銃口を向けるアテネスのゴーレムが――
「敵ッ!?」
『身を隠せ!!』
敵襲を察知したロギンさんが驚いて咄嗟に動けないライガットさんに警告を飛ばしつつ、ロングプレスガンを発射します。この反応の早さは流石です。
見事一撃で敵のゴーレムがプレスガンを握っていた右手を粉砕しました。その隙に私達のゴーレムは近くの岩場に身を隠します。
損傷を受けた敵のゴーレムも同様に身を隠すようですが――なぬぅ!?
『――ッ!!』
「ロギンッ!!」
敵のゴーレムが隠れたのと同じタイミングで、その後方から四台のゴーレムが姿を現してプレスガンを斉射してきましたよ!? いつの間にあんなに……
敵の銃弾は全て身を晒していたロギンさんのゴーレムに集中し、その右腕を完全に破壊しました。ロギンさんは素早く私達からは離れた岩場に隠れたようです。
『ロギンッ……大丈夫!?』
『……問題無い、戦闘は続行できる……』
腕一本失っても問題ないそうです。タフですねーあの人。
ロングプレスガンが無傷らしいのも幸いでしたね。ロギンさんって実は銃を撃つときって左利きなんですよね。お陰で武器と利き腕を失わずに済んでます。
とは言え、両手でロングプレスガンを撃てなくなってしまったのは不便でしょう。実質的にロギンさんは戦力ダウンです。
クロザワ殿は――駄目ですね、さっきから全く動いていません。注視してみれば分かりますが、足が変な方向に曲がってしまっています。
恐らくはさっきのゴーレムに蹴飛ばされたか撃たれたか……いずれにせよ亡くなられたと見るべきでしょう……畜生……
(あいつら……許さん!)
私は密かに殺意を高めます。会ってから日が浅いとはいえ、恩人の命を目の前で奪われて黙ってはいられません……おっと。
(駄目……感情で殺しては……そう、今は無視……ただ生き残る為に頭を動かす……)
……ふう、落ち着きました。瞬間的に頭に血が上ってしまいそうになりました。
しかしこれは堪えますね……ごめんなさい、クロザワ殿……
『どうなってやがる!! 何でこんな所に敵が!!』
『追撃隊とは無関係の別働隊と接触してしまったようだ……敵影は微かに見えていたのも含めて七! 敵も小隊だ、突破出来る!』
困惑するナイル義兄様の疑問にすぐさま返答するナルヴィ隊長。……私は五台しか敵機を確認できていません。ここから見えない位置に潜んでいるのか、まだ遠方にいるのか。いずれにしろ私はまだまだ未熟ということです。
敵は七台、こちらは四台……デルフィングも居ることですし、確かにやってやれないことはありません。
ただ問題は……
『ライガット! 稼働時間は!?』
「……一分切った」
……最悪です。ここに来てこの稼働時間では何も出来ないじゃないですか。
『……よし! 二人はデルフィングから降りて退避しろ! 出来るだけデルフィングから離れろ!!』
「……くッ……わ、わかった……行くぞ、セフィ!」
……仕方ありません。このままだと棒立ちのまま攻撃されるか捕縛されてしまいますからね。
私はライガットさんにおぶさってデルフィングから跳び降ります。岩陰から周囲を観察し、タイミングを見て戦域から離脱を――!?
「ナルヴィ!!」
ライガットさんが鋭く警告を発します。ナルヴィ隊長が身を隠していた岩場の向こうから飛び出してきた奇妙な重ゴーレムが出現したのです。
そのゴーレムは鋸か裁断機のような両腕を持ったゴーレムで、まるでワニが口を閉ざすかのようにナルヴィ隊長のファブニルの左腕に喰い付き、瞬時にそのまま肩の位置で切断してしまいました。
(しゅ……趣味悪!)
なんともえげつないゴーレムです。ちょっとあれには乗りたくない。そして相手にしたくない。
ナルヴィ隊長はシールドを失い、そしてそんな彼女に重ゴーレムが再度襲いかかります。危ない!
しかしそこは我らがナルヴィ義姉様。右手で構えていたプレスガンを脇に挟み込むと、地面に落ちていた左腕の残骸を踏みつけ手元にシールドを浮かび上がらせそのまま右手に装着――さらにそれを構えて重ゴーレム目掛けて突進します。……やっぱり只者ではないですね、ナルヴィ隊長。
重ゴーレムは両腕から銃弾を発射して応戦――また仕込み銃ですか――ナルヴィ隊長は盾を粉砕されながらも崖まで重ゴーレムを追いつめ、そのまま道連れに崖下へ――お、お義姉様あああああ!!
……あ、崖向こうからプレスガンを連射する音が……落ちながら戦っている模様です。ライガットさんが一瞬だけ崖下を覗きこみ、それに私も便乗します。少し低い位置に平坦な地形があるようなのでナルヴィ隊長が落下死するということはないでしょう。
『ナルヴィ!』
『ロギン! ナルヴィは自分で何とか出来る! 今は前方の敵に集中してくれ!! 突破されたら全滅だぞ!!』
『……くっ……了解!』
ナルヴィ隊長がいなくなってしまったので、副隊長的存在であるロギンさんが代わりに指揮を執るのかと思いきや、隊長がいなくなって動揺したのかナイル義兄様がロギンさんに指示を出しています。
……意外と突発的なピンチやプレッシャーに弱い人ですね、ロギンさんって。
(って、のんびり観察してる場合ではありませんでした!)
前方からわんさかと敵ゴーレムが押し寄せて来ているのです。真面目にピンチです!
「う……動けねぇ……」
「……です」
敵からプレスガンの銃弾をこれでもかという勢いで撃ち込まれているため、私達はナルヴィ隊長の命令を実行できない状況に陥っています。
デルフィングから降りたはいいけど、そこから別の岩場まで移動できないんですよ。やばいですよこれは……
『ロギン! 三時!!』
『了解!』
ナイル義兄様の指示で、的確にロギンさんは敵のゴーレムを射抜いてきます。いつものロギンさんの調子に戻ってきたみたいです。
私の見立てだと、ロギンさんはどうもチームで動く時はナンバー2が似合うお人のようですね。
与えられた命令は確実にこなせるけれど、逆に人に指示を出すのが苦手っぽくてトラブルにも弱い。でもしっかりかつ素早く状況の把握は出来るお方なので、ある程度視野が広く持てるポジションなら最適――という感じです。……あ、また倒した。
『ひゅー! さすがだぜ!! 俺は敵の側面に回り込む!!』
ナイル義兄様はロギンさんにエールを送ると、脇の方から敵の方向へ進撃して行きました。頼りにしてますよ!
その時、崖下からゴーレムの転倒音が……気になったのか再度ライガットさんが覗き込みました。
(……ぎゃー! お義姉様が大ピンチじゃないですか!!)
あの重ゴーレムが立っている側でナルヴィ隊長のファブニルが仰向けになって動かなくなっています。
胴体は潰されていないのでまだ生きていらっしゃると思うのですが……どっちみち隊長が危険です!
「く……くっそ……」
ライガットさんも焦れているのかうめき声をあげています。何も出来ない状況に歯噛みしているようです。
……いえ、この人に出来ることが残っていない訳ではないんです。ないんですが……
(それをしてしまったら、もう完全に後が無くなってしまいますよね……)
とにかく、私達はひたすら隠れることしか出来ません……!
(そ、そうですよ! なんとかロギンさんに崖下の重ゴーレムを狙撃してもらえれば……)
……ですが、それでは前方の敵に対処できなくなってどっちみち全滅してしまいます。
側面に回り込んだナイル義兄様が攻撃を開始してくれれば多少の余裕は出来るかもしれませんが、何かトラブルでも発生したのか一向にナイル義兄様のファブニルが現れる気配がありません……ま、まさかナイル義兄様がやられた!?
(ば、万事休す――)
さすがにこの状況は……と私が諦めかけたその時、地面に座っていた私の身体をライガットさんが抱え上げました。
(あ、あら……?)
「すまんが付き合ってくれセフィ! ナルヴィを助けに行く!」
――――う。
(うおっしゃああああ!! 頼られましょう頼まれましょう! いいですよ最高ですよライガットさん! やったろうではありませんか!!)
どうやら賭けに出る腹を括ったらしいライガットさんの手によって、私はデルフィングの搭乗口に放り込まれます。あいてっ!
(あいたたたた……は、早く早く……)
痛みを堪えて副搭乗席に潜り込みます。同時にライガットさんも搭乗席につき、デルフィングを稼働させます。
(デルフィングの残り稼働時間は一分未満……こ、これはもう、ワンアクションしか出来ないとみるべきでしょう……)
というわけで、もう私達に崖下のナルヴィ隊長のところまで行ってあの重ゴーレムとやりあうなんていう悠長な選択肢はありえません。
つまり、私達が取れる戦法は一つのみ――
「一撃……必殺……!!」
「上等ッ!! 行くぞ!!!」
搭乗士二名の狙いが完全に一致し、デルフィングは助走をつけながら重ゴーレム目掛けて崖下にダイブ――空中で攻撃体勢を整えます!
そう、その名も――
(究極ッ! 必殺ッ! デルフィング流星キィィィィック!!)
私とライガットさんは文字通り流星の如く、ナルヴィ義姉様に迫る憎き重ゴーレム目掛けてデルフィングによる急降下攻撃を実施したのです!!
▼今回のまとめ・追記事項
1.奇襲が早まったので被害者は村人の被害者は村長だけ
2.若干会話能力が向上していたり
3.ワイヤーは柔軟系石英製
4.悩める少年レガッツ
5.技の名前は即興で深い意味は無い
次回、宜しくお願いします。