ライガット、初戦闘を生き延びる。ついでに変な少女を発見。
※前半部はシギュン様視点となります。
「――なるほど、ではこの少女は、あの古代巨兵《アンダー・ゴゥレム》の中に最初から居た、ということか」
「そう考えるしかないでしょう? ライガットが動かしてしまった事が切っ掛けになったのでしょうけど、内部の封印されたスペースが開放されたようね……」
発光石英が薄く照らす中、数人の男女の会話が続く。
今現在、この部屋の中に居るのは五人。
「ライガットがあの石英採掘場で乗り込んでしまった後、戦闘が終了して発見されるまで、外から入り込めるようなタイミングが無かったそうだし」
ベッドに腰掛け、傍らの存在を気にかける私。
「あ、ああ、それは間違いねぇよ。いくらなんでも、あの立ち位置で俺が気付かなかった訳がねぇしな」
壁に寄りかかって腕を組む若者は、私の……友人――ライガット。今日、色々あったせいか若干憔悴しているような雰囲気が感じられる。早く休ませてあげたいのだが、生憎後回しにすることの出来ない事柄はまだ残っている。心苦しいが、今しばらく彼には協力してもらわなければならない。
「しかし、推定千年前のアンダー・ゴゥレムなのでしょう? シギュン様」
「その間、ずっと健在だったというのか? にわかには、到底信じられぬ話だが……」
堂々と部屋の中央に立つのはクリシュナの国王ホズルと、その背後を守るように立つバルド将軍の二人。
そして、最後の一人は私達の話題の中心そのものである存在――
「ほんと、貴女は一体何者なのかしらね……」
一同の会話も届かず、滾々と眠り続ける謎の少女である。
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私がこの子の存在を確認したあと、なんとかライガットには少女を周りの人間に隠しつつこの部屋に運んでもらった。勿論私も手を尽くした。
幼いとは言え、気絶した女の子――なんと、ほとんど裸同然だった――を抱えている姿は衆目に晒す訳にはいかない。この少女の存在がどうと言うのもあるが、単純にライガット個人の今後の名誉に関わる。
――小柄な子で良かった。思ったよりもスムーズに事は運べたようだし。
「……シギュン、君はこの子が古代人の生き残りだと言いたいのか?」
「可能性の一つとしては考えてるわ」
ホズルが私に確認するように口を開く。私としてもその考えはあったのだが、それも幾つか考えた仮設の一つだ、という表現に留めてその内容を肯定する。
「あれ? でも確か、あのアンダー・ゴゥレムの搭乗者だった古代人って……」
若干顔色を悪くしながら口を挟んできたのはライガット。大方、今日見たモノを思い出したのだろう。意外と繊細な人間である彼らしい反応だった。
「ええ、あのゴゥレムの搭乗席で完全にミイラ化した状態で発見されてる。貴方も見たようね」
「……じゃあ、なんでこの子は生きてるんだ?」
「あのゴゥレムの隠されたスペースに、そういった延命する仕組みが存在している……とか。それこそこの子のみを対象にして、千年を超えてそのままの状態を留めることすら可能とする」
「あ、ありえねぇ……」
ライガットはブツブツとそのまま顎をさすりながら思案にふけり始めた。自分が納得しがたい事実を素直に受け止められないようだった。
……まあ、その気持も分かるのだが、私は更に突飛な仮説を一同に示す。
「もしくは、この子は人間ではない」
「……はあっ?」
「人間サイズの、ほぼ完璧に外見を人を模した
「それこそ……って話だな、ちゃんと呼吸してるし、肌だって柔らかいし、これで生き物じゃないって言われてもなぁ……」
ライガットはそう言いながらベッドに歩み寄り、眠り続ける幼女の頬をつつく。プニプニと弾力があり、とてもゴゥレムだとは思えない肌触りであるようだった。
デリカシーの欠片もない行動に私は彼を睨みつけるのだが、一向に気にせずこの子の頬をいじり続けている。……そんなに心地よいのだろうか?
「結局、よく分からないということですかな……」
「ええ、あとはこの子が目を覚ましたら、直接尋ねて確認する他無いでしょうね」
バルド将軍は、簡潔に今後の方針を纏めてくれる。ちなみにこの人がこの場に居合わせているのは、ここに来る前に事の次第を短く伝えてあったホズルが連れて来たからである。
私としても、ホズル個人に対する忠誠心があり、何より既にライガットと面識が在ってお互いある程度打ち解けているらしいとあって、反対する理由は無かった。会って間もない関係で、彼が
この人がいてくれて助かった……、名将との誉れも高いこの人なら迂闊な言動をすることも無いであろうし、どう動けばこの国の、ホズルやライガット――ひいては眠り続けるこの子の為になるのか考えてくれることだろう。
「兎に角……、この事は一切他言無用です。この四人だけで事実を共有して……他の者には、私の遠い親戚の子供だとでも説明しましょう」
「それは構いませぬが……その背景はなんと?」
「元々アッサムで生活していたけれどアテネスとの戦争で両親を失って、そこから私を頼ってどうにか落ち延びてきた、とか。その際情緒不安定になって現在様子を見ているとも」
「説得力ねー……絶対疑われんぞ」
呆れたような口調でライガットは口を出してくるが、当然そんなことは言われなくても分かっている。
「どの道、多少無理矢理でも口裏合わせは必要よ。今後、私達がこの子をどう扱うかによっても変わるでしょうけど、ありのままを伝えるにはこの子の存在はあまりに特異過ぎる」
もっとも、口裏合わせを行うにしても、ちゃんと会話が成立すればの話だが。本来ならこのような少女に期待する内容ではない。
改めてこの女の子を観察する。身長はパッと見、1.5メイルほど。年齢も高く見積もってせいぜい十代前半がいいところ。
髪の毛は橙色と桃色を混ぜたような不思議な色合いで、襟元までその髪の毛を垂らしている。薄暗いが全体的に華奢で、肌は一度も日に当たったことが無いのではと思われるほど色素が薄かった。
容貌はまだ幼さが存分に表れており、保護欲を誘うようなものなのだけれども、将来的に美人になることは間違い無い。なにせ肌のキメ細やかさや睫毛の一本一本に至るまで瑕疵無く完璧なまで美しさがにじみ出ているというか……私自身よく分からないが人間離れした美しさとでも言うべきか。
そして――
「……仕方ねぇんだろうけど、なんともヤバイ絵面なんだよなぁ……これで、もしなんでもなかったら、絶対に俺らに対しての第一印象悪くなるぞ……」
ライガットは視線を少女の顔からベッドからはみ出ている
「私も不要だとは思うけれど、念の為――本当に念の為に、こうした処置はしておくべきではあるのよ。……本当に不本意なのだけれど」
「話を聞く限りでは、この娘子が見た目通りの存在とは思えませぬ。用心に越したことはないでしょう」
バルド将軍が私の考えを肯定してくれる。私としても若干心苦しくは思っていたのだが、幾分気が楽になった。なんよせよ、こんな女の子に――それも寝ている間にすることではない。
「いきなり暴れ出して怪我をされたり、勝手に城内を彷徨かれても困るでしょうし。致し方無いでしょう」
彼女の格好があまりに目の毒なので侍女に頼んで持って来てもらった病衣類を軽く着せたのだが、パッと見た限りでは人体実験を控えた哀れな犠牲者のような姿になってしまっている。
「では、そろそろ戻るとするか、将軍」
「承知しました」
「……もう行っちまうのか?」
私達に背を向け、部屋から出ようとするホズル達をライガットが批難するような口調で引き止める。即ち、「この状況を放置していくとは無責任!」とでも考えているのだろう。ホズルはその視線を受けて苦笑いしつつも、言葉を補足する。
「……俺とて心苦しくはあるが、事情が事情だ。それにアテネスのゴゥレムの件もある。抜け出してきた仕事を放り出す訳にもいかんしな。行くぞ」
「はっ」
そう言い残して、ホズルとバルド将軍は部屋から退出した。さてと……
「私も何時迄もここで時間を潰す訳にもいかないし、侍女に定期的に様子を見させるに留めましょう。さ、行きましょうライガット」
「行くって、何処にだよ?」
「勿論ハンガーよ。この子のこともそうだけど……今何よりも一番手を付けなければならないのは、あのアンダー・ゴゥレムよ。今、無反応系石英をあのゴゥレム用に研磨させているわ」
「はぁ……? アイツが? あの後、搭乗席の光が消えて完全に動かなくなったんだろ? もう使い道が無いから解体するって聞いたぞ」
「……ええ、それなんだけど――」
私とてこの女の子に対しての興味は尽きないが、目先の危機の方が問題だった。気乗りしない様子のライガットを引っ張って部屋から退出する。
ただ眠り続ける少女一人を残して。
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(――んぁ?)
何か物音を聞いたような気がして、私は目を覚ました。瞼を開けると同時に黄色と白を混ぜたような弱い光が目に飛び込んでくる。それ即ち、視覚が正常に働く状態である、ということだった。
極々普通に目を覚ましたことに内心感動しながら目の前の光景を眺める。仰向けに寝ている状態で一切動いていないので、俗に言う『知らない天井』云々かんぬんという状態だ。
(うーん、前回目を覚ました時にとっても衝撃的な出来事が在ったような気がするんですが……)
そう。確か私は――
(ああ、あの黄色い人型ロボット(?)の顔面どアップを目の前にして、あまりの刺激の強さに速攻で意識を失ったようですね……おそらくですけど)
超々長期間の寝起きにしては派手過ぎて心臓が止まるかと思った。自分にあるかは知らないけれど。
とは言え、待ちに待った新展開である。改めて自分の今現在の状態を確認することにした。
(視覚はいわずもがなバッチリですね、一点の曇りすらありません。聴覚も大丈夫、何処からか風音とか聞こえますし。どことなく清潔感のある匂いに……ああ、自分の唾液の味を感じる事が出来るというだけでこんなに感動する日が来るとは思いませんでした……おー、久々過ぎて感覚自体忘れかけてましたけど、なんと五体満足のようですよ! やりましたね、イェイ!)
一々得られる情報に一喜一憂する。はしゃいでいると言っても過言ではなかった。
身体の各部に布のような肌触りを感じる。顔だけ特に何も感じないということは、寝床にキチンと収まっている状態なのであろう。
(? あれーお布団? ……ひょっとして、私人間? 確実に人外だと思ってましたけど、何か勘違いしてましたっけ?)
そして、今更ながらその事に気付く。あれ? そもそも何で自分を人外だと認識してたんでしたっけ?
(むー、ここは何処でしょうか?)
とりあえずこうしていても埒が開かないので、むくりと自分が寝ていたらしい寝台から上半身を起こそうとする……のだけれども、思ったように力が入らない!?
(よ、弱りました……身体を起こすことすら満足に出来ないとは……)
どうやら今の私の身体はかなりの貧弱であるようで、一生懸命腹筋背筋に力をいれるのだが、それでも身を起こすだけでかなりの重労働となってしまった。
ふぅ……どうやら、ここは特に何の変哲も無い室内であるようだが。
(今は――夜? 目に付く調度類は……ベッド、テーブル、椅子、それに電灯? ……全体的に若干古めかしいような気はしますが、どうやらそう現代と科学技術に大きな開きは無いようですね……)
強いて言えば、パソコンやテレビが見当たらないくらいでしょうかね? ホッと一息つきながら、室内の物品を見てそう思う。未来的な世界ならともかく、石器時代などに生まれ直してはたまったものではありません。電灯があるということはそれなりに科学技術も発展しているはずです! 自分の価値観が通じる世界にいるというのは妙な安心感があります。
――ジャラ
(……えっ?)
そこで私の不意を突くように響いたその音さえなければ、もっと安心出来たのだが。
不穏な物音に誘われるように自分の手首に目を向ける。薄暗い光量ですがなんとか確認を……!?
(くくく、鎖!? ……って、私拘束されてます!? 何で!? どうして!?)
なんと、起きたらきっちり拘束されていましたとさ。それも両手両足。動かせないという訳ではないのだが、この寝台から降りることは難しそうである。
……さらに目に入る自分の手首の細さ――というか、なんか全体的にちっちゃいような?
(子供……? あの女神は『転生』って言ってましたし、てっきり新生児として産まれるとばかり思ってましたけど)
あの暗黒期間は考慮に入れない。今思えば、百年千年以上に及ぶまどろみなんて、夢物語なのかと考えてしまう。というか、そう思いたい。
そして、案の定股間に感じる違和感……まあ、何の違和感も無く、自分を『俺』じゃなく『私』なんて表現してる時点で予想はついてましたけどね!
(男じゃありませんでした! 女の子です、私!)
好意的に考えるならば、自分の心身に違和感を覚えないように、私の頭の中をあの女神がなんとかしてくれてたってことでしょうか?
女として、新しい人生を生きろということなのでしょう。どの道、自分ではどうしようもありません。諦めて、現状を受け入れるしかありません……ヨヨヨ。
(とは言え、嗜好は前世と変わらず男のままっぽいんですよねー、いいんでしょうか?)
ぽやぽやとそんなことを考える。
着る服は
……さて、ここで落ち着いて考えてみましょうか。
1.女の子が独りきり
2.ベッドの上で鎖で拘束
3.今気づきましたがやたら薄い、かろうじて身体が隠せる服一枚しか着てない
(ど、どう考えても我が身の危機です……!)
当然であろう。この状況が好意的に考えられる人は頭おかしいかドMとしか思えません。
とりあえず祈るのは、私がそういったヤバイ陰謀などに巻き込まれないような人間であることである。性格容姿素性その他ひっくるめて。
ジャラジャラと左手首に繋がれている鎖を調べる。一応、布の上から固定されているようで私の身体に一定の配慮はされている……て、あれ? この鎖、何処か違和感が……
(……鉄とかじゃなくて……石で出来てる?)
かと言って脆いと言う訳ではなく、それなりに丈夫なものなのだろうが。それにしても石鎖なんて聞いたことも無い。
と、兎にも角にもこのままこうしている訳にもいきません。誰か助けてくれないかなー、と淡い期待を込めて素直に助けを求めることにした。どうか状況が悪化しませんように!
――そして判明する、新たなる新事実。
「――」
……?
「――ッ、――――!?!?」
私、声が出せませんでしたとさ。
▼今回のまとめ・追記事項
1.とりあえず不審に思われ寝てる間に拘束される
2.貧弱無口美少女に
3.精神的に不安定な状態で思考が落ち着かない
※1.5メイル = 約120cm 外見年齢は10歳程度
※獣耳と尻尾もつける案が脳内にありましたが、あまりに世界観にそぐわないと判断した為、却下。
次回、宜しくお願いします。