壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 セフィ退場。



030. 輪転星墜 - Rygart -

――――――――――

 

 

 

「――……デル……」

 

 大地の奥深くまで続く暗黒に飲み込まれていった、古代ゴゥレムの名を呼ぶ。

 渓谷の底は見えない……例え昼間であっても、その最奥を望むことすらできないだろう。それほどその断崖は暗く、深かった。

 この高さだ……今頃はもう、落下の衝撃でバラバラになってしまっているだろう。

 

(『ライガットさん――』)

 

「……セフィ……」

 

 デルの中に残っていた、地獄の底に消える間際に俺の名を呼んだ少女の顔が脳裏に浮かぶ。

 脱出……出来たとは思えない……セフィは、デルと運命を共にした……

 俺とデルフィングと一緒にここまで戦ってきた相棒が……俺がここまで、こんな所にまで引っ張ってきてしまってせいで……死んだ……

 

「……消沈しているところ悪いが、前言撤回だライガット」

 

 膝をついて崖下に目を向けていた俺の背後に、ジルグの声がかかる。何だ……こいつも、今何が起こったのか理解して――

 

「約束は――果たせそうにない」

 

 その言葉に背後を振り返る。

 両手を上げるジルグの視線の先……いつの間にか、俺達を見渡せる位置に何十台ものゴゥレムが集結していた。戦闘か、今の地盤が崩れた轟音を耳にして寄ってきたのか……

 全てアテネスのゴゥレムだ。もう俺達が無事にビノンテンに帰れる可能性は、無い。

 

「……問答無用で銃殺されたくなければ、お前も両手を上げることだな」

 

 ジルグの諦観に満ちた声に従い、俺はノロノロと両手を上げた。

 

 

――――

 

 

 ――満月がベクトリア峠を照らす中、そこは今やアテネス軍の駐屯地と言ってもよい風景に変貌していた。

 手錠と鎖で拘束され立たされている俺とジルグを取り囲むように、数多くのアテネス兵共やゴゥレムが居並んでいるのだ。

 さらに俺達の正面には、黒く威厳に満ちた重ゴゥレム……そしてその目前には鷹揚な表情で肘掛け椅子に座る一人の男――あれが、ボルキュス……

 右目を眼帯で覆った、壮年の男だ。残虐非道で知られ、デルフィングと一騎討ちで戦い、そして勝ってみせる程のゴゥレム戦闘の達人でもある。

 

「……あ……」

 

 俺は、俺と同じく手錠で拘束されてこの場に歩かされてきた、見覚えのある二人の姿を認めた。

 

(ナイルと……ロギン……無事だったのか……)

 

 二人はどうやら俺達より前にアテネス軍に捕らえられていたらしい。若干憔悴した表情だが、特に大きな怪我もない様子だった。

 現時点でミレニル部隊で命を落としてしまったのは、セフィ一人だったようだ。

 

 この尋問の場に唯一いない隊員であるナルヴィは、俺達がアテネスの連中に発見された直後、敵に気づかれること無く逃げおおせることに成功したらしい……この場に居合わせていないということは、そういうことだ。

 しかし、この状況では絶対にナルヴィは俺達を助けることなど出来はしない……せめて彼女だけでも無事にビノンテンまで逃げてくれればいいのだが……

 

「――……」

「……!?」

 

 話しかけようとした俺を制するように、ロギンが首を振って見せる。何だ……

 

「座れ!」

 

 アテネス兵が俺達の肩を上から押さえる。素直にその場に座り、そいつが離れたタイミングでロギンが口を開いた。

 

「……全員、何も聞いていないフリをしてくれ……」

 

 そう前振りをして、小声でロギンは話し始める。どうやら、周りのアテネスの人間には聞かれたくない話のようだ。

 

「……私が捕まった時……衛兵達の噂話が耳に入った。奴ら……いや、ボルキュス将軍が“デルフィング(異形のゴゥレム)の搭乗士を処刑しようとしている”……!」

 

 そうか……ボルキュスが……俺を……

 

「……当然、奴らは私達に搭乗士について尋問をしてくるだろう……が、全員絶対に黙秘を貫いてくれ! ……頼む!!」

 

 ……何故、ボルキュスは俺を殺そうとしているのだろうか……? 何故、俺に拘る?

 あの一騎討ちで、奴の恨みを買ったのか? 村の襲撃を邪魔したせいか? アラカン荒野で死んだ人間の仇? それともデルフィングの力を恐れているのか?

 

 ……どうでもいい。

 デルフィングはぶっ壊れた。

 セフィも死んだ。

 もう、俺の価値なんて……無い。

 只の魔力の使えない能無しでしかなくなっちまった……

 

 

「――さて、始めるとしよう……」

 

 ボルキュスの宣言で、俺達の運命を決めるであろう尋問が始まった。

  

――

 

「……村を保護しようとしたアテネス将兵を攻撃し、無駄に戦線と被害を拡大させた、壊れた一角を持つゴゥレムの搭乗士よ……仲間を失いたくなかったら名乗り出ろ!」

(……っ)

 

 手元のプレスガンを弄りながら、ボルキュスは俺達に告げる。この中にデルフィングの搭乗士が居ることを確信しているような口振りだった。

 ……俺達はロギンの言った通り、何も応えない。黙って目の前の地面を見つめるだけだ。

 

「……レト特務隊員」

「……は」

 

 ボルキュスに名前を呼ばれ返事をしたのはボルキュスの脇に控える、頭に包帯を巻いた若い女……あの格好はクレオと同じ……ゴゥレムの搭乗士……

 

「異形のゴゥレムの搭乗士……この中に居るのは間違いないか?」

「はい……例のゴゥレムごと崖下に落ちて転落死した可能性は否めませんが……同じ部隊に所属していたようなので、少なくともどのような人間か知っているのは間違いないと思われます」

(こいつ……)

 

 こいつが、デルフィングの搭乗士()がここにいるとボルキュスが確信する原因!

 ジルグの戦闘が始まる前に、麓に増援を呼びに行った奴らか……それともあのスペルタ部隊とやらの中で、戦闘中一言も話さず退場した遠距離銃兵(ロングガンナー)か……

 たぶん、スペルタ部隊の生き残りだな。雑兵という雰囲気じゃないし、ゴゥレムを破壊されても生き延びていたのか。

 

 ……でもこいつが言うように、デルと一緒に落ちて命を落として転落死した、セフィの事を俺の代わりに証言すれば――

 

(――馬鹿だな、俺は……)

 

 本当に、馬鹿だ。

 そんなこと――“見た目十歳に満たない女の子が、ゴゥレムのパイロットとしてお前達の仲間を皆殺しにしていました”などと証言して、事情を知らないアテネスの人間の内、一体誰が本気にするというのか。ふざけているか誤魔化していると思われて、そのまま銃殺されるのがオチだ。

 それにボルキュスが俺に向ける呪いを、死んでしまったあの子に向けることだけはしたくない――いや、しちゃいけないんだ。このまま、静かに眠らせてあげないと……

 

「……ただし、髪の黒い男はイオ大佐が直々に捕虜にし、搭乗ゴゥレムも確認済みです。今回は対象外の可能性が高いでしょう」

 

 俺達の中で唯一黒髪を持つ男――ナイルが露骨に安堵した表情になる。当然か、処刑対象から外されたのだから。

 

「よし、貴様立て!」

「は、はあ……」

 

 ボルキュスがナイルに起立を促す。このまま独房かどこかへ連れて行かれ――

 

「やれ」

「はッ」

「…………え……」

(な……)

 

 その場に立ち上がったナイルの頭に、俺達の後ろに立っていたアテネスの兵士がプレスガンを突きつけていた……何でだ!?

 

「答えろ、残ったこの三人の内……誰が例のゴゥレムの搭乗士なのかをな!」

「…………っ……く」

 

 ナイルはこの状況では銃の存在自体が恐ろしいのか、首を少しでも銃口から離そうと首をのけぞらせる。……ナイルッ!

 

「……し……知らない……」

「……」

「う、嘘じゃ……ない……ほ、本当だ……何を言っているのか……分からない……」

 

 ナイルは銃を突き付けられても俺の事を話そうとしない……

 

「――だ、そうですが、如何なさいますか? 将軍」

「……仕方あるまい……そいつはみせしめの為に死んでもらうとするか……」

 

(――――ッ!!)

 

 ボルキュスは鷹揚に頷くと、実にくだらないとばかりにナイルに……俺達に脅しをかけてくる――『もういい、死ね』とでも言わんばかりに。

 

「…………し……しっ……」

「よし……そうだ、知っているのならば答えろ。あのゴゥレムの搭乗士は誰か? それを答えさえすれば――貴様は助かるかもしれんぞ?」

 

 恐怖に堪えきれなくなったのかナイルの口から声が漏れ、尋問兵が穏やかにナイルの発言を促す。……限界か。

 

「…………し……」

(……終わり、か……)

 

 

 

 

 

「…………し……知らない……」

 

 ナイルはそれだけを言うと、その場に力なく座り込み、それきり両目と口を固く閉ざしてしまった。ナイル……お前は……

 

「――よし……やれ!!」

 

 ボルキュスの処刑執行の号令が下る――クソッ……俺はッ!!

 

「……まッ……待ってくれ!」

「……」

「…………待ってくれ……」

 

 ……俺は堪らず声を張り上げた。ナイルは……無事だ。プレスガンの引き金が引かれる寸前だったらしい。

 ナイル……ロギン……お前の覚悟と忠告を無視する形になってすまん……

 

 ……だが……もう……いい……いいんだ。

 

「…………し……知っている……」

 

 ――そう、俺は知っている。

 デルフィング(異形のゴゥレム)でこれまで多くのアテネスの人間を殺してきた人間を。

 仲間である少女を見殺しにして、そして今また仲間を死に追いやっている搭乗士を。

 そう、それは他でもない――

 

「…………お……俺が……俺が……」

 

 そう、俺が――

 

 

 

 

 

「――俺が……その搭乗士だ……」

 

(……え)

 

 俺は伏せていた顔を上げ横に顔を向ける。俺が自供する前に、こいつが自らが搭乗士だと言い放った。

 

「――そう……俺があのゴゥレムの搭乗士……ライガットだ!」

 

 そこにはゆっくりと立ち上がり、俺の代わりにデルの搭乗士として名乗り出た男――ジルグが居た。

 

「……よし! ここまで歩け!!」

 

 兵士に命令され、ジルグは前に進み出る。

 

(…………な……んで……)

 

 俺はジルグの背中を見て、ただそれだけを考える。

 

 ――どうして、ここでジルグが立つ?

 ――どうして、お前がライガット()の名を騙る?

 ――どうして、お前が俺の代わりに殺されようとしている!?

 

「待て!! ジル――ッ!?」

 

 ジルグを呼び止めようとした瞬間、意識が――な、何が……

 

「~~~~ッ!?」

「何をしているかッ!! 貴様ァッ!!」

 

 朦朧としている意識をなんとか繋ぎ止めながら地面に倒れこんでいるらしい俺の目はまともに見えない……隣で何か殴りつけるような音が聴こえる……くそッしっかりしろ!

 

「…………い……いいのか……?」

「……」

「いいのか……? これで……」

「……ああ」

 

 立ち止まったジルグとロギンの会話……俺、ロギンに殴られたのか!?

 

「……将軍に……何か伝えておく事が……あるか?」

「無い――だが、そいつには伝えておいてくれ。もう意識が無いようだからな」

 

 待て……待て! ……一体何の真似だ! ジルグ!?

 か、身体が動かねえ――くそッ! 動け! 動け! あいつを止めろ!

 

「……お前の言うとおりだ。何でも出来ると思ってるし、それは今でも変わらない。……だが、俺には一つだけどうしても出来ないことがあるとわかった」

 

 身体が動かず、俺はなんとか目だけを動かして前を見る。

 ジルグ……待て……頼むから待ってくれ!

 

「お前なら……お前らなら簡単に出来る事なんだろうが……俺にはどうも度し難い」

「……何だ、それは?」

 

 待て……待ってくれ……

 俺はもう用済み……死んでも構わない人間なんだ……そんな俺の代わりに……お前が死ぬ必要なんてないんだ……

 

「――――だ!」

「……」

「……あともう一つ……こっちも大したことではないが……――」

「……」

 

 ……待……て……

 

「―――ま、どっちも冗談だ……飽きたから先に行く……じゃあな――」

 

 

 

 

 

 

 

 ――そこからは、俺はただジルグを見ていることしか出来なかった。

 

 一歩一歩、前へ歩き――

 気怠そうに腰を上げたボルキュスに銃口を向けられ――

 

 

 

 

 そして、呆気無く眉間を撃ち抜かれてジルグが死んだ瞬間を――

 

 

 

 

―――――

 

 

(――今日で……二日か……)

 

 俺は格子の隙間からぼんやりと空を眺める。少しだけ欠けた月が夜空に浮かんでいるのが見える。

 

 ジルグがボルキュスに処刑されてから既に二日も経っていた。その間、俺達はずっとこの狭苦しい空間でただ時を過ごしているだけの存在と化している。

 あの後俺達は兵士達に引っ立てられ、三人揃ってこの簡易牢に叩きこまれていた。俺達を皆殺しにする気はなかったらしい。

 この簡易牢の中は高さが一メイル程しか無く、立つことは当然出来ない……俺達は必然的に、座るか寝るかという姿勢を強制される。牢というよりは、檻と表現したほうが正しいか。

 すぐそこには看守役の兵士がプレスガンを持ち警備している。鍵を開ける手段もないし、脱走など望むべくもない。

 

 俺は専ら、その中で格子に近い位置に座って空を眺めるか、自分が腰を落としている地面を見ている。今は他人を見ることが辛かった。

 一緒に居る仲間二人を見れば嫌でも死んでしまった二人を思い出すし、牢の外を時折歩いて行くアテネスの連中を見れば、俺の中にあの時芽生えた憎しみが際限無く高まっていくのを感じる。

 

 そう……心底他人が憎いと思ったのは、俺にとってこれが人生で初めてだった。それまで、他人を羨んだり嫌な思いをすることはあっても、人を恨むことなど一度も無かったのに……

 

 

 ――アテネスが憎い。

 

 クリシュナを攻め、ゼスや俺達が敵味方に分かれて戦う羽目になった元凶である国……元をさらに辿ればオーランドも怪しいが。

 こいつらがクリシュナを進攻して来なければ……俺はずっとあの山の麓で畑を耕し、弟と二人で呑気に暮らしていられたのだろう。……今はもう、手が届かない生活であるかのように思える。

 

 

 ――ボルキュスが憎い。

 

 俺はジルグを殺した男――ボルキュスの顔を決して忘れない。

 なんでも無い事のように俺達の命を手球に取り、ジルグの頭を撃ち抜いて薄ら笑いを浮かべていたあの野郎の(ツラ)は死んでも忘れねえ……忘れてたまるか……

 

 

 ――そして今は他の何よりも、こんなことになってしまった原因を作ったライガット・アロー()自身が憎かった。

 

 俺が真っ先にデルの搭乗士だと名乗り出ていれば、ジルグは死なずに済んだ。

 俺が不用意に崖際でデルを止めたり、セフィを搭乗席に残したままにして外に出たりしなければ、あの子だって死なずに済んだんだ。

 俺がレガッツを助けるために脱走なんてしてこなければ、仲間たちがここまで来る必要すら無かった。

 俺がデルで敵を蹴散らさなければ、俺がボルキュスに執着されることも無かった。

 

(そう――みんな俺が……俺さえいなければ……)

 

 ……いや、そもそも俺がクリシュナを守るために戦おうとしていなければ。

 

(そうだ……俺みたいな価値も根性も無しときた人間が、軍人として国のために戦おうなんて大それたことを考えた時点で、そもそも間違っていた――)

 

「――なあロギン……起きてるか?」

「……どうした……?」

 

 俺が自分の過去の迂闊な決断の数々を悔いていると、不意に地面に寝転がっていたナイルから声が上がった。ロギンも、俯せていた顔を少しだけ持ち上げる。ジルグの処刑以来、俺達は何一つ会話を交わしていなかった。

 

「俺達……どうなるんだろうな……」

「……少なくとも……処刑はされんだろうがな……」

 

 ……殺るならジルグを処刑したときに一緒に殺されているしな。

 でもあのバデスとかいう奴みたいに、エルテーミスの搭乗士を欲しがってる奴は他にもいるか……そうなったらまた尋問かよ。お目当てのジルグは俺の身代わりに死んじまったってのに……

 

「クリシュナとアテネスの間で捕虜の取引が成立すればビノンテンに帰還できるだろうが……それとてボルキュスが受け入れなければアテネス本国に送致されて収容所送り……強制労働という線もあり得る」

「取引か……俺の身代金なんてウチが出せる訳ねーよなぁ……陛下は温厚なお方らしいしそっちの方は期待は出来る方か……アテネスか……はあ、このまま殺されるよりはマシか……」

 

 身代金か……俺の家にそんな蓄えは無いが、俺が捕虜になってしまったことを知ればホズルやシギュンが無理矢理にでも金なりなんなりを出す気がする。

 結局、こんなところでもあいつらの世話になっちまうってのか……くそ、情けねぇ……

 

「……なぁ、お前」

「な、何だよ……」

 

 今度は俺か……名前を呼ぶわけにもいかないからお前呼ばわりも仕方ないが……どこか荒れてんな……

 

「ナ……隊長は、どうなったか知ってるか?」

「……多分……一人で逃げた……と、思う……」

 

 それ以上は言わない。この会話は、牢の前の看守役の兵士にも聞かれているだろう。俺達だけで通じる言葉で、最小限話すだけだ。 

 

「ちょっと待て……今一人っつったな……じゃあ、あいつは……」

「……死んだ、のか?」

「……ああ」

「ッ……畜生ッ!!」

 

 ナイルが髪の毛をむしるような勢いで掻き回す。こいつもセフィの事を可愛がっていたからな……ロギン共々、薄々は気付いてはいたんだろうが……

 

「……俺のゴゥレムと一緒に崖から落ちたんだ……俺は自分が助かるので精一杯で……あいつをその場に置き去りにして……」

「何だよ……それ……」

「それから……俺は捕まった……」

 

 その後のことは言うまでもない。

 

「俺が……俺が死ねば良かったんだ……あいつらじゃなくて俺が……」

「……」

「っ!」

「皆……ここで死ぬような――死んでいい奴らじゃ無かった……」

 

 ジルグは将来将軍になれた器だった。天才的なゴゥレム搭乗士として、クリシュナの人々を救い英雄にだってなれる程の力があった。あいつは確かに俺と約束したんだ……親父を、バルド将軍を超えるって。……それなのに、俺の身代わりになって死んだ。

 セフィは魔力こそ無いしいろいろ不器用だったけれど、将来が楽しみという意味では多くの人間に認められてた筈……シギュン達や部隊の仲間だってそうだろう。頭だって俺より良くていろいろなことを知りたがっていたし、何事にも一生懸命動いていた。

 ……それに時々忘れそうになってたけど、あいつは古代文明にも関わりがある人間だ。気が遠くなるほど長い年月をデルの中で一人過ごしていただろうに、こんなところでわざわざ死なせる為にあの中から引っ張りだした訳じゃないってのに!

 

「……お前、もう黙っとけ……」

「俺は――」

「黙れ!」

「ッ!」

「くそッ……マジありえねぇ……何だってんだよ……ふざけんな……」

「……ナイル」

「分かってる! おいお前!!」

 

 心底納得いかないという顔のナイルが、俺に指先を突き付けてくる。

 

「お前に一つ言っておくぞ……今後、“誰それが生きていれば”なんて言葉、俺の前で抜かしてみろ……半死人になるまでぶん殴ってやる!!」

「……」

「本当ならおっ死ぬまで殴ってやりたいところだが……んなことしたらあの子が悲しむからな……それで勘弁してやる……」

 

 その言葉を最後に俺達の会話は途切れ、狭い牢に静寂が戻った。

 

 

 

 ――俺達が牢から開放され、身柄がクリシュナに戻されることが伝えられたのは次の日の朝のことだった。

 

 

 

 

 

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.“…”多め回。皆、鬱・悲観・無気力状態ですので
2.ちゃんと用便だけは牢の外でさせてもらえます


次回、宜しくお願いします。
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