主人公起きるも何も出来ず。
(むにゃむにゃ……ふぁ……)
不覚にもいつの間にか寝てしまったようですよ、私は。お天道様が既に登っているのか、窓の外は明るんでいるようで。
いやまあ、あれからなんとか拘束から抜け出せないかとか、物音をたてて誰かに気付いてもらえるか試行錯誤とかしてたんですが、ことごとく無駄に終わってしまいました。仕方ないので眠くなったので不貞寝したところまでは覚えてるんですけれども。どうしようもありませんでしたし。
さて、状況はあれから好転しているのかと確認してみれば、ものの見事に変化していません。ずっとこのままっていうのは流石に嫌なんで、早い所何とかしないといけないのですが。
(お?)
私が内心うんうん呻きながら悶えていると、何やら扉の向こうから物音が聞こえてきました。
扉が開いて入ってきたのは……おー、たぶん女の人です。変な兜のような被り物して変わった格好してて顔がよく見えませぬが。よくある髭面の盗賊みたいなのが来たらどうしようかと思ってましたので、若干警戒するに留めます。
この女性、起きてる私を見て少しだけ驚いた様子ですね。微笑んでこちらに話しかけてきました。
「@*¥#&%(あら、起きてたの? おはよう、お嬢さん)」
(に、日本語じゃないのにちゃんと意味が分かるって……)
摩訶不思議なことに、この女の人が何を言ってるのかは分からないのに、意味が頭の中に浮かんでくるという謎現象に直面しています。……これも、あの女神のせいということで無理矢理納得するしかないんでしょうか。ありがたいのは確かですが、素直に納得できません。
言ってることは(おそらく)何の変哲も無い、ごく普通の挨拶でした。私はポケーとしながら部屋に入ってきた女性を見ていたのですが、テーブルの上に何やら荷物を置いたその人はそのままこちらに近寄って額とか腕とか脚に触ったり口の中覗いたりしてきました。くすぐったいですが、特に抵抗する理由もないので為すがままにされています。
「特に錯乱したりとかはしてなさそうね、とても大人しいし、これなら大丈夫でしょう」
? 小声だったせいか、脳内翻訳が不十分でよく分かりませんでした。一通り私を調べ終えた様子の女の人は、私の手取り足取りし始めます。何してるんだろう?
(! おー、ありがたいです見知らぬお姉さん!)
なんと四肢の拘束を解いてくれているではありませんか。ということは、別に虜囚や罪人という身分ではないのだろう。良かった良かった。……あれ? じゃあ、なんで拘束されてたんでしょうか?
それはさておき、感謝の意はちゃんと伝えましょう。日本人じゃないようなのでお辞儀がちゃんと通じればいいんですが。
「――(ペコペコ)」
「……あなた、もしかして話せないの?」
「(コクコク)」
「そう……」
相槌を打ってその言葉を肯定すると、女性の目が……なんかこう、すごく痛ましいものを見る感じに変化してしまった。気まずいです。
そのままの流れで、お姉さんが手渡してくれた濡れタオルでゴシゴシと顔を擦ります。はぁーさっぱりさっぱり、幸せです。
「そう言えば、あなたが起きたらシギュン様にお伝えするよう仰せつかっていたのよね。実は凄くやんごとなき家のお嬢様だったりする?」
タオルを返しつつ即座に否定しようとしたものの、正直自分のことすらよく分からないので肯定も否定もできません。
あざとく首をかしげるに留めると、お姉さんは笑いながら頭を撫でてきました。心地良いです。もっとお願いします!
それに偉い人の名前らしきものもゲットしました。シギュン様ですかー、ふーん、女の人の名前ですかね?
(聞いたことあるような、ないような……はて?)
とりあえずお姉さんに自分の様子を見るようにあれこれ言ってくれていた人のようなので、後で会いに行ってお礼をしに行きたいとお願いしましょう。
そのままお姉さんに手を取ってもらって寝台から下ります。さあさあ、記念すべきこの世界での第一歩です。
――ベチャ!
「ッ!?(ぐぇッ!?)」
「だ、大丈夫!? お嬢ちゃん!!」
ふ、ふふふ、一歩目から不覚にも転んでしまいましたよ私。あれー、お、おっかしーなー。
なんとかお姉さんに支えてもらってなんとか立つ……のですが、既に両足がプルプルと震えてるんですが。どれだけ貧弱なんでしょうこの新しい身体。
(ああっ、お姉さんの私を見る目がますます痛ましげに……)
結局我慢できず、寝台に腰掛けることで難を逃れます。幸い痛みは強くありませんが、派手にぶつけた額が気になって擦ります。
そんな様子の私を見かねたお姉さんが親切にも、小さめの鏡(なんかゴツイ)を差し出してくれました。折角なので貸してもらって自分の顔を確認します。
(――うわぉ、美少女がここにいますよ)
鏡に映った私の顔は、あどけなさと美しさが同居した可愛い女の子のものでした。将来は深窓の令嬢として大事にちやほやされて生きるか、数々の陰謀に巻き込まれて波瀾万丈な生き方をするか……という印象を受けます。
ちょっと残念なのは若干額が赤くなっているのと、むっつり無表情であるせいだろう。笑ったらさぞ華やかで周りの人間を魅了して回りそうだ。
(淡いブルーの瞳と、それにしても変わった髪の毛ですねー。オレンジとピンクの間の子のような髪色でボブって、外見で淫乱ピンクのそしりを受けるかは微妙なところですよ。……おや?)
実にくだらないことを私が考えていると、遠くから轟音が響いてきました。それとこれはサイレンでしょうか? お姉さんの顔色が変わったこともあり、外の様子が気になって仕方がありません。何やら遠くから男の人の叫び声も流れてきますし。
『――は今、敵攻撃を受け――! ――戒ランク・ラムダ――外出中の市民――か礼拝堂に避難し――!』
敵? 攻撃? 市民?
(戦争中? ここは何処かの都市? そして攻撃を受けている? こんな警告を行うということは、奇襲でもされたのでしょうか。やはりというべきか、相応に物騒な所であることは確かですね)
断片的に聞こえた警告から、自分なりに状況を推測します。
(――――ッ!?)
その時、私は何処から怪しい電波を受信しました。
いえ、あくまで比喩表現ですが。何となく気になって引きつけられるというか、そんなレベルなんですけど。ですがどうにも無視しがたい衝動です。ですが、今の自分ではどうにもなりません。
「ど、どうしたの? お嬢ちゃん?」
「……」
落ち着きが無くなったお姉さんの袖を引っ張り、私はまず自分を指差し、そのまま扉を指します。……ジェスチャーが伝わるかは分かりませんが、声が出せない以上は肉体言語で意思疎通を試みるのみです。
要領を得ない表情の女性を見かねて、もう一度繰り返します。
「……お外に行きたいの?」
「(コクコク)」
(その通りです!)
察しが良い人で助かります、ホント。
――――――――――
「――え? こ、こっちでいいのかしら?」
「(コクコク)」
大体の方向しか示せずに申し訳ありません……ですが今は貴方だけが頼りです。
私は先程まで居た部屋から脱出して、絶賛移動中です。もっとも歩けませんので、先程のお姉さんにおぶさって運んでもらっています。
(あ、丁度いい位置に窓がありますね)
私は軽くお姉さんの肩を叩いて立ち止まってもらい、そのまま私の頭に電波を送っている発信源があると思われる場所を指します。何かの施設だとは思うのですが……
「……ハンガー? どうしてあんな場所に行きたいのかしら?」
ハンガー……ということは格納施設か。大型のロボットが存在する世界のようだし、おそらくそれ用だろうとアタリをつける。
そこを指差し、再度肩を小突いて催促する。後はこの人にお任せだ。目的地がはっきりしたおかげか、お姉さんの移動スピードも心なしか早足になった気がする。
いや、私だって安全な場所に連れて行ってもらうべきだっていうのは分かるんですよ。男だった時の体ならともかく、この貧弱少女ボディに何か期待してもしょうがありませんし。ロボットのハンガーなんて、行ってもせいぜい見学するだけで現場の人達にとっては確実に邪魔になる存在じゃないですか。
(ですが私の第六感が叫ぶのですよね。早く行こうって)
いくつかの廊下を駆け抜け、階段を駆け下り、ようやく目的地に到着しました。施設の中に入ると、ズシンズシンと物々しいな足音があちこちから聞こえます。
(お、お、おーロボットです! ロボットが歩いてます!)
大興奮である。前世ではついぞ見ることが叶わなかった、大型の人型ロボットが何機も歩く光景を眼下に見下ろしています。
高さは目測で十メートルくらいだろうか。創作物で見たことのあるロボットと比較して言うならば、これまたずいぶんと重厚感たっぷりでゴツイ印象を受けるロボットでした。
ちなみに、現在私が居るのは作業用のタラップの上です。地べたにそのまま居るのはロボットに蹴っ飛ばされそうで何かと危なそうでしたし、きっとお姉さんが考慮してくれたのでしょう。
それとですが、私が気絶する前に見た黄色いロボットはこの中にはいないようです。怖かったので若干トラウマになってます。
……あ、お姉さん、もうおんぶはもう結構です。重かったですよね? スイマセン。いい塩梅の手すりもありますし、掴まれば多分歩けますのでここからは自分でなんとかします。
「シギュン様!」
私を背後に下ろしたお姉さんが声を張り上げます。視線の先の高所監視席っぽい場所に佇んでいた数人の内、金髪の女性がこちらに向き直りました。
あの人がシギュン様とやらですか? これまたフードとローブに短パンとは変わった格好してますけど、金髪碧眼の美人さんです。周りの兵士さんたち(?)にちやほやされているようなので、確実に偉い人であろう。
「あら? 貴方は確か……」
「はい、お世話を仰せつかっていた――」
お姉さんの背後からヒョイと顔をのぞかせて周りをキョロキョロ。よく見ると細かい差異があるロボットたちを観察します。
その内の一機。他とは違う特徴的なシルエット。黒銀色のフレームを持ったロボットの、赤いラインが走る頭部を見て、私は――
(――あれだ)
タラップの手すりに捕まりつつ、一歩一歩ゆっくりと踏み出します。歩き方を忘れてしまい、それを思い出しつつ、といった調子ではありますが。
「――ッ!? その子は!」
シギュンという個体が目を見張って私を見る。どうでもいい。
「な、なんだ? 子供?」
兜をかぶった男性体が戸惑っている。もっともな言葉だとは思うが、今は人モドキなんぞに構ってはいられない。
(邪魔、そこをどけ)
何やら後ろで人モドキ共が驚き囀っているが無視します。取り押さえられる前に事を運んでしまいましょう。
これ以上は足場が無く、進めない位置にたどり着いた私が右手を伸ばすと、ロボットは腰を落として背中をタラップの高さに合わせて動いてくれます。目の前には開いたままのハッチ。
――実に好都合。ちょっぴり情けないですが手すりから手を離し、匍匐姿勢をとってコックピットらしき空間に入り込みます。ロボットのコックピットと言えば、胸か背中か股間の部分にあるというのが相場だが、このサイズだと胴体部くらいしか考えられないので恐らく間違いないのです。
「くそッ! こいつ、なんで急に動きが……!?」
その中に居たのは、モニターらしきものを睨みながら焦っている様子のブロンド癖っ毛の若い男の人だった。背後に居る私にまだ気付いていないと見える。
このロボットのパイロットさんだろう。私は動きを止め、その背中を思わずじぃーと見つめる。何故か、見ているだけでほっとする気がした。
この安心感に身を委ねたい気持ちを振りきって、お兄さんの脇を更に奥に。はいそこ、ちょっと通りますよ。
「のわっ!? お、お前なんでここに!? ちょっと何処に――って、まさか」
ちらりとお兄さんの顔を横目で確認する。この人は随分感情表現が分かり易い類の人間であるようで、いきなり視界に入ってきた私に一々驚いている。微笑ましい限りだ。
そしてこの搭乗席の奥に……あった。
そこが私の××だ。足先から小さい身体を滑りこませると、自動で各所が保護・固定されるのを確認します。
(ふぅー……)
深く息を吐き出しながら両手をそれぞれ定位置のデバイスにそえる。甲高い稼動音を響かせて、ロボットが勢い良く立ち上がった。
背後でブロンド癖っ毛お兄さんが驚いているのが分かる。この子のパイロットならもうちょっとシャキっとしてください。この子は貴方の操作を待ってますよ。
凝らしたこの目に映るのは、この巨兵の赤眼が睨む世界。搭乗席の展開型モニターとは違って、私の方は視界がそのままこのロボットのカメラと捉えた映像が、私本来の視界に重なって表示されている。網膜投影というヤツだろうか? 原理はよく分からないが凄く便利だ。
――そこでようやく、私は思い至りました。
(はっ!? なんで私はいきなり戦闘用っぽいロボットに乗り込んでるんですか! 阿呆ですか!?)
無論、いろいろと既に手遅れだったのですが。
▼今回のまとめ・追記事項
1.ご都合主義万歳
2.やっぱ主人公は頭おかしい
3.デルは複座機にされました
次回、宜しくお願いします。