主人公、頼られたので就職を決意。
※投稿後、稼働条件についての修正実施
――――――――――
どうもです。この度、正式にクリシュナ王国の庇護を極秘裏に受ける予定と相成りました。正体不明の少女です。
なんで『予定』なのかと言うと、とりあえず私がこの国に属する旨はシギュン様に了解を貰っているものの、私の身分をでっち上げるためにいろいろ動いている最中なのだそうで。今の私は城の人達に「なんか最近城内で姿を見かけるようになった、シギュン様が庇護してる訳有りっぽい気の毒な少女」ということで認知されています。まあ……嘘は付いてないですね。
で、私としてはまず事前に約束してもらっていた事柄の一部として、真っ先に知識の習得に務めることを目標としました。とりあえず思いついたのを片っ端から列挙すると――
・私について
・この国について
・この世界について
・文化について(文字や言語含む)
・アテネスとの戦争について
・ゴーレムについて
・
・古代文明(?)について
……
これ以外にもまだまだあります。さー片っ端から疑問を片付けちゃるーと意気込んで突撃していったのも束の間、シギュン様からストップがかかりました。
彼女曰く、先日この都市を襲撃したアテネスのゴーレム部隊が周辺の峡谷のどこかに潜んでいるらしく、早急になんとかする必要がある。その為に私の疑問を解消するのは後回しにして、早急に今必要な調査を実施すると言い渡されました。
……ビックリしましたよ。なにせその時の言葉――あれは命令に限り無く近かったのですから。私に不服はありませんが、この前の優しいイメージとはえらい違いです。「問答無用でやってもらうぞ、オラァ」ってニュアンスで、どことなく雰囲気が固くて怖かったですし……彼女に何があったのでしょうか。
「私達の目標は、可能であるならば敵新型ゴーレム部隊の全機撃破。最低でもクリシュナからの排除となります」
アテネスのゴーレム部隊の撃破――つまりはゼスさん達を倒すということだ。放置しておくのはやっぱり駄目なのだろう。
「今は私達にとって急務なのは、アテネスの圧倒的な戦力に対抗する為の手段の確保。単純にアテネスとクリシュナの物量に大きな開きがあるという理由もあるけれど――」
ふむふむ。
「目下の問題は敵の新型ゴゥレムとクリシュナが実戦配備しているゴゥレムが戦闘を行っても、機体性能――特に速度が違い過ぎて対応出来ないということなのよ。翻弄されて一方的な攻撃を許し、こちらがなんとか包囲陣を整えようとしても陣形が完成する前に逃走を許してしまう。当然、追撃も不可能」
あの黄色いゴーレムのことですね。味方のゴーレムのスピードがどの程度か知識が無いのでなんとも言えませんが、そう言われるといざ間近で会敵した時に手の打ちようがなさそうに聞こえます。相手の不意をついて遠距離から先制攻撃を実施して初撃で仕留めるか、相手の目標が判明しているのであれば罠を用意して待ち伏せるという手段を取ることもできますが。
「……ただ例外がある。あの
なるほど。それが今回の話に繋がるのですね。
「今持ち上がっている戦術プランとしては、まず我が軍の斥候部隊が敵ゴゥレム部隊の詳細な潜伏位置を特定。然る後、その周囲か移動予測ルート上にこちらのゴゥレム部隊を配置、敵を包囲しそのまま殲滅するという流れになっていますが……こちらの動きを察知されて敵の反撃と脱出を許してしまう事態は十分考えられます」
でしょうね。そもそも敵が隠れている場所を特定する段階でも相当難度が高い上、警戒の隙を突いて包囲するのはもっと厳しそうです。
「そこで、ライガットと
確かに、あの黒銀のゴーレムの機動力と馬力ならば敵の新型ゴーレムに対抗出来るでしょう。実際には一対一でも相当手こずって何とか倒したというのが実態の筈ですが、そこは現在作っている装備とやらに期待しましょう。
……でもその声色は微妙に不満なんですかね、シギュン様。
「従って、今回貴女には貴女にしか出来ない
事情は分かりましたが、いきなり協力しろとおっしゃられても困ります、シギュン様。なにせ私は前回の襲撃の時だって、ただあの狭いスペースに潜り込んでただけなんですけど。理由も分からずに。
「貴女が何も知らないのは承知しています。だからこそ調べるのよ」
シギュン様は私の意図を先取りしてそう締めくくります。あ、確信しました。この人、今は私を子供扱いする気が一切ありません。
―――――
私と
調査一日目……シギュン様との会話を終えて、そのまま調査に入ります。
場所はゴーレム用ハンガーの一角。そこには黒銀のフレームを備えたゴーレム、昨日までは荒野でシートに覆われている状態だった筈ですのに、何でここに?
メインの立会人は当然のことながらシギュン様と、さらにもう一人――
「よ、元気にしてたか?」
私の頭を撫でている友情厚きブロンド男ことライガットさんです。この前と違って、表面上は幾分元気に見えます。彼もこの調査に付き合ってくれるようですね。
この人はこの間の一件で軍人としてヒゲ将軍ことバルド将軍の旗下に入り、正式にこのゴーレムの搭乗士となることが決定したと伺っています。任命式は近日中に執り行われるとの話です。
「
微笑ましく交流を深める私達二人を見ながら話し始めるシギュン様。
「では、まずは外からこの機体を見て、気になることはあるかしら?」
「――?」
……見て?
「貴女、まともにこのゴゥレムを外から見たことないでしょう?」
「――(コクリ)」
そう言えばそうでしたね。ライガットさんに身体を支えてもらいながら、ゴーレムの周囲を観察しはじめます。
「今は私達が改修して追加した、仮留めの軽装甲を全て排除した状態なの。ちなみに発見時に装備していた外部装甲は全て腐食して気泡だらけだったわ、インナーフレームを除いて」
ちょっと離れた位置に並べて置かれているパーツ群のことだろう。ははあ、ということはこの状態が一番素に近いということですね。
――推定千年前のゴーレム。よく動いているものだと感心します。
全高が目測10メートル弱。頭部と腰部等が灰色、折れた角と背鰭のようなパーツが白、それ以外のインナーフレームが大体黒銀。こうして見ると全体としては細身のような印象を受けます。装甲を外したので尚更そう見える。肩なんか見た目ただの枠だし。
頭部には折れ曲がった形状の溝――今は暗いですが、稼働時には赤いラインが走るはずです。口のように見えるのは……排熱機構? よく分からない。
胸部左側のフレームには損傷箇所。銃身を押し付けられて接射を受けた部分だ。穴が開いているほどではないものの、表層が若干歪んで見える。
特徴的なのはやはり折れたような角と背鰭。ああして付いているからには何かしらの意味があるものなのでしょうけれど、今となってはその正体は不明で推測するしかさそうである……
私の印象としては、見ていて何となく
「それで、どうだったかしら?」
シギュン様にそう訊かれたので、とりあえず自分の頭と背中を叩いて見せる。
「一番気になったのがその部分ということ? ふむ……」
言葉が話せたらもっと自分の考えを細かく伝えられるのだが。
「……いいでしょう。では、次に進みます。ライガット、その子を副搭乗席に」
「おう」
ああ、私の個人スペースは副搭乗席という呼称になったようです。いいんじゃないでしょうか、シンプルで。ライガットさんに抱えられてタラップを登りながらの感想である。
……そう言えば今更なんですが、この国の科学技術のレベルに激しく違和感を覚えています。だってゴーレムという大型直立二足歩行できるロボットを造る超技術を行使してるかと思えば、パソコンとか電話とか通信機の類は一回も見てないです。都市の雰囲気もちぐはぐというか、バイクや車はあれど航空機は影も形も見えない。
あと、やたら石材で作られているものが多い。なんでわざわざこんな物をってレベルです。これまた不思議。
いずれ詳しくその辺りのことについても誰かに訊きたいとは思っていますが……今考えることではありませんね、とりあえずこの調査に集中しましょう。
ライガットさんが機体後部のハッチを開放し、そのまま私の身体は搭乗席の中へ。ずりずりと四つん這いになりながら進み、副搭乗席に滑り込む。背後にはライガットさんとシギュン様が一緒に搭乗席の中に入ってきた。抱えられてた私が言うのもなんなんですが、お二人の距離ちょっと近過ぎやしませんかね?
うん、薄暗いが視界にウィンドウが表示される。主搭乗席(ライガットさんのシート)に備えられた折りたたみ式のモニタにも同様のウィンドウが表示されたようである。稼働できずともそれ用のエネルギーは供給されている証拠であろう。映っているのは……<冷却中>と<強制待機状態>の表示。シギュン様に見せられた紙片の記載と同じものだ。それに<待機時間>が――残り約1200分だから約20時間、と……なるほど。
「この文章の意味、貴女分かるって言ってたわよね?」
「……ホントなのか? このワケ分からん文字をこの子が?」
「ええ、本人も認めているし」
「マジか……でも話せないんじゃ、どうやって――」
「これよ」
ズイと私の頭上に差し出されたのは、バインダーに留められた紙束と筆記具。絵……ですか。別にいいんですが、絵心は無いんでそこのところは勘弁願います。
私はそれを受け取って、まずは日本語を書き書き、その横に説明用の絵を悩みながら描き描き。
「……これは火? その上に水――湯気も出てるし、ああ、お湯のことね。それを扇いで……冷ましてる? お湯の部分を手で隠したってことは、直接は関係しないということ? ……『冷ます』? これでいいの?」
「こっちは……ロープで人が雁字搦めにされてる? ん? おっと、人じゃなくてこのゴゥレムか。矢印と数字は――ええと、こっちの絵では拘束が無くなって開放されてるってことは……」
「数字が時間を表しているようだし、この数字が減り続けてゼロになったら、再度このゴゥレムを動かせるようになるということね、たぶん。上の文章は『停止』じゃないかしら。それなら今までのゴゥレムの挙動と一致するし」
「――(コクコク)」
「お、当たりっぽいな。おお、なんとか通じるもんだな!」
「――ゴゥレム……冷やす……外側はなんとも……じゃあ内部で――」
漸く出た調査の成果にライガットさんは感心、シギュン様は黙考中である。ついでに言ってしまいますが、これまでの翻訳の遣り取りは滅茶苦茶簡略化して表現した話の流れであって、この結果に至るまでに相当時間を使ったということを断っておきます。私の絵が下手糞だということも地味に響いています。早めに声をなんとかしたい、そうすれば今後こんな苦労はしなくて良くなるのですが……
戯れにライガットさんがお手本を描いていたりもします。見せてもらいましたが、雑ながらも特徴がよく分かって凄くお上手でした。今度絵の描き方を教えてもらいましょうか?
「……その視線で何を考えているかは何となく分かるけれども、止めておきなさい。それは士官学校時代の授業をサボった分の時間を費やした成果だから」
「………(は、はぁ……)」
「ちょ! おま!?」
「それで、他にはこのような表示は出せる? 幾つかライガットが弄って動かしたり消したりしてしまったものもあるみたいなのよ」
「俺のせいかよ……」
……たぶん、問題は無いだろう。ちなみに、あの主搭乗席のモニタ、ライガットさんだけが操作できるタッチパネルも兼ねているようです。機能的ですね。
シギュン様のリクエストに応えてメニューっぽい物を呼び出そうとするが……反応が無かった。あれー?
「……ここからは明日にしましょう、機体を稼働できる状態でも見てみないと」
若干冷たくなったように感じられるシギュン様の視線が後頭部に突き刺さる。結局、今日の成果は微々たるものに終わった。終わってしまった。
「よく休んでおいてね、明日が本命よ」
私は冷や汗をかきながらあてにならない神様に祈る。即ち、「どうか、明日には調査が進展しますように」である。
―――――
そして翌日、ゴーレムの再稼働が可能となる時刻を待って調査が再開されました。またライガットさんに支えてもらいながら副搭乗席に乗り込みます。
何も起こらなかったらどうしようなどとそれまでは考えていましたが、幸運にも天は私に味方してくれたようです。私が席に滑り込んだと同時に、身体を固定される気配が……。
「おー!」
「――やはり……」
視覚にゴーレムのカメラが捉えた外部映像が重ねて表示される。背後の主搭乗席でも折りたたみ式のモニタと左右のレバーも展開されたようだ。
嬉しくなって調子に乗る。続いて、昨日は反応しなかったメニュー項目を確認してみた。なんとちらりと視線を向けて意識するだけで反応してくれた、あら便利。まだ時折反応がないアイコンがあったが、とにかく手当たり次第漁ってみる。
「色々ポンポン出てくるな。……ま、全然意味分からんが」
「……全ての文章を解読していく余裕は無いわ。貴女の目から見て、重要そうなものだけピックアップしてくれないかしら?」
そう言われましても――えーと、うーん……お!
(外部音声出力……)
荒野でのダンさんとの遣り取りや、女性搭乗士の声を思い出す。
……これはライガットさんに試してもらうべきだろうと判断し、彼の隣へ移動する。
「え……このちっさい絵がどうかしたのか? この横長の三角形を押す――じゃなくて擦ればいいのか? 右から左に?」
「――(コクコク)」
私の指示通り、ゲージを目一杯左に伸ばしてもらう。
「『……色が変わるだけで特に何も――って、これ俺の声か!?』」
結構な音量でハンガー内部にライガットさんの声が響き渡ったようだ。外から兵士さんたちがざわめいている声が聴こえる。
「『……拡声器よ、ライガット。その計器で音量は調整出来るのでしょう。試しに逆に操作してみて』」
「『ああ……』あー、あー、――なるほど……」
よしよし、幸先はいい。次にロボットの重要項目……とくれば主機や動力源。核関連とアタリはつけているのだが、それらに関する情報は閲覧出来なかった。……なんで?
次にカメラの機能を確認。視界の拡大縮小とか、暗視装置っぽいものがありました。試したらライガットさん喜んでます。シギュン様はまた考えこんでる。
<外部メイン冷却炉 エラー>
<循環式内蔵冷却炉 稼働中>
一際目立つ消せない項目。内容は――まあ、見ればピンときますよね。どうやらこのゴーレム、外付けの冷却装置を別に装備して運用するのが本来の在り方のようです。今動いている機体内蔵の冷却炉はあくまで予備・補助扱いであって、その為長時間は動かせない、と。ようやく活動時間の短さに納得出来ました。
(この子の『背鰭』も
このゴーレムが見つかった場所の近辺に、その外部メイン冷却炉とやらが眠っていたりするんだろうか? 現存しているならなんとか回収出来ないかな……
(あとは……搭乗者のデータですか……)
バイタル診断、識別コード、予測運用スキル……最初はエラー表示でしたが、ライガットさんにお願いして搭乗席についてもらうと問題なくなりました。あ、スキルがまたちょっと上がってます。
他の機体運用者のデータは無かった。ライガットさんが三人目だとしたら後二人は居た筈だが。
そして、機体の自己状態診断結果(一部のみのようだ)に環境診断結果、各部の自動稼働状態、外部との交信状態……
(うーん……)
思っていたよりも内容を確認できる項目が少なかった。というか私が情報を閲覧しようとすると、システム側に拒否されて弾かれてしまったような感触がある。
(武装関連の項目とか、<
そう、私個人のデータも見当たらなかった。残念ながら、そのあたりについては別の方法を考えなければならない。
(……でも、何が目的でこんなロボットを作ったんでしょうね、千年前の人達は)
本体には最低限基本的な機能を盛り込み、本格的な行動に必要な装備は外付け。一応は外部と通信・連携して行動するようではありますが……落ち着いたらシギュン様と意見を交わしてみましょう。何か私見を持っているかもしれません。
一通りの情報を伝えるには私のボディ・ランゲージは未熟なので、なんとか冷却炉についてだけは伝えることにしました。活動時間に密接に関わるものですから。これまた時間がかかりましたが、どうにかこうにか理解してもらえた、かな?
シギュン様もずっと消えないこの<循環式内蔵冷却炉>のウィンドウは気になっていたのが、彼女の側で認識している詳細を教えて頂けました。
「一旦、この計器の赤の部分が完全に広がってしまうと、約24時間は稼働不能ということは言ったと思うけれど――」
う、うーんと……よく分からなくなってきたので、自分の考察を絡めてこのゴーレムの稼働原理を脳内で纏めてみることにした。
1.活動限界時間という表記だが厳密には時間ではなく、機体を動かした際に内部に発生する熱量の測定結果。それをオーバーヒートの直前まで迫る時間に換算して表示している。
2.初期の活動限界時間は約三十分。機体の各部を動かすと減少し、激しく動かすとさらに限界時間が短くなる。最短十分程度まで短縮するらしい。
3.稼働した状態であっても、機体を動かさなければ活動限界への影響は抑えられる(無くなりはしない)。そして、稼働停止させれば内部の冷却装置が動いて活動限界時間は増える。ただし回復する活動時間は一時間につき高負荷稼働換算で約五~十分、低負荷機動換算だと十五~二十分。仮に活動限界時間を費やし尽くす直前に停止させたとすると、全快状態まで最低約二時間と推測。
4.活動限界時間がゼロになる=冷却が追いつかなくなってオーバーヒート寸前まで動いてしまうと、臨界緊急停止状態に陥りそこからさらに丸一日の強制停止。
(……ということは、一回限界間際まで動かす度に二~三時間程度のインターバルを挟む方法を採れば、最も効率良い時間辺りの稼働時間が確保出来るということですよね? 状況にもよるでしょうが……)
大事なことですし、忘れないようにしっかり覚えてお二人にも伝えておきましょう。下手に限界まで動き続けると貴重な稼働時間が確保できなくなる事態になってしまうようですし。そして言うまでもなくこの説明、無茶苦茶時間掛かった。大体はシギュン様も察しがついていたらしいですけれど。
「……分かりました。では次で一先ずは最後よ。貴女、その席でこのゴゥレムを動かせるか試して頂戴」
「む……」
「――!?」
ライガットさんはそれを聞いて険しい表情、そして私は驚いてます。というか、今の今まで自分がこの子を動かすという考えを全く持っていなかったことに気付きました。
我が身の期待に若干ワクワクしています。ですがそうは言われても、この席に手足を置くところはあれどライガットさんの席みたいにレバーやペダルという訳ではないし……メニューを操作した時のようにひたすら念じてみる。動けー! 歩けー!
一応、お二人には機体から離れてもらっているが……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
揺れる視界にガクンという衝撃。私は――賭けに勝ちましたよ!
「おー……」
「――動いた……やっぱり彼女も……」
動かせた、確かに私一人でもこの子を動かせました。一歩一歩この子が踏み出す度に感動の嵐です!
……が、問題が一つ――
「? なあ、シギュン」
「……何?」
「動くのはいいんだが、なんか……動きが鈍くねーか?」
「……もうちょっと、素早く動かしても構わないのよ?」
シギュン様がそう呼びかけてくるが、残念既に全力なんです。
そう。ライガットさんが話しているように、なんと私の思考操作だと一歩踏み出すのに二、三秒ほどかかっちゃってます。
(遅っ! なんですか! 牛並です!)
牛に失礼なことを考えつつあまりの遅さに焦れてしまい、ハンガー内であるにもかかわらずつい「本気で走れ」とか念じてしまいましたが、変わらずゆったりのったり歩くだけです。
その上、私が操縦していた状態でライガットさんに搭乗席に着いてもらうと、私の操作が一切機体に反映されなくなりました。機体制御の優先度はライガットさん>
「……これでは彼女に戦闘は無理ね。短距離の移動か整備の時に姿勢変更と維持、それからパーツの保持程度ならなんとか、というところかしら……」
「残念だったなー、練習すれば俺みたいにコイツを扱えるかもしれんぞー」
そう言って頭撫でて慰めてくれるのは気持ち良いですし嬉しいんですか――どうして貴方もちょっぴり嬉しそうなんでしょうかね、ライガットさん!?
うーん、確かにもうちょっと時間を掛けてこの操作に馴染めれば、とは思うんですが。
「それは無理。まともに動かせるのがライガットだけだと判明した以上、今後の操縦訓練はライガットを優先する方が懸命だわ。ただでさえ稼働時間に難があるのだから」
「……そうだな、まあこんな小さな女の子に任せるほうが間違ってるよな」
だ、そうです。若干悔しいですが、この子を使っての戦闘は完全にライガットさんにお任せするということになります。
あと私が動かすペースなら活動時間に影響が無いということが分かりました。というかそれほど超スローペースだということなんでしょう。
……あれ? ということは、私がこの子に搭乗する意味が完全に無い? あ、同じことをシギュン様も考えていたようです。確かに前線に出しても意味無いなら私は引っ込めておいたほうが安心でしょうしね。
「……いや、そうでもない」
? なんでしょう、ライガットさんが少々残念そうに呟いてます。
「俺の体感だと、この子が乗ってる状態だとこのゴゥレム、何と言うか動きが良い。
ホ、ホントですかそれ!?
「心無しか、だけどな」
むぅ、若干自信がなさ気ではありますが、ライガットさんは嘘を言っている訳ではないようです。これまた私自身への疑問が膨らみました。
「……そうね、戦場の真ん中でまた
んんー? よく分からないですが、ライガットさんがこの子に乗って戦場に出る時は私も基本的にセットになる方が望ましいということですよね。
「お疲れ様。お陰で捗ったわ、ありがとう」
普段と比較してちょっぴり嬉しそうな表情のシギュン様がライガットさんに抱えられた私を見ています。
……ですが、最後に私の脳裏には大きなしこりが一つ残っています。それは、最後にシギュン様や兵士の皆さんに視界向けたとき、彼らの横に浮かんでいた補足情報――
(<不特定生物>って一体……)
不穏な胸中にざわめきを感じていると、シリアスな私の思案をぶった切ってライガットさんの声が貫きました。
「そう言えば今になって訊くけど、お前の名前なんて言うんだ?」
「――(……)」
……名前、ありません。
前世の男だった時の名前は記憶に無く思い出せません。今日までなあなあで過ごしてきましたが、確かにどうしましょう……
「それにいつでも表情変わらねーし。シギュン以上の鉄面皮なんて相当だなーお前、うりうりー」
「!?」
ライガットさんが私の両頬をムニムニと弄くり回します。あ、シギュン様むっとしてる。
自分でも頬を弄って確かめてみます。本当です、笑ったりしようとしてみても表情筋が動いてませんでした。後から聞いて分かったのですが、私の顔はいつどんな時であってもむっつり無表情から変化していないとの事。いやー、道理で感情が伝わりづらかったり肉体言語の効きが甘かったわけです。これもまた、声や身体と合わせてリハビリしないといけませんね。
……あ、そう言えば大事な事を伝えるの忘れてました。シギュン様、ちょっとちょっと。
「ん? どうした?」
「……何か気になることがあるの?」
ええ、シギュン様なら言わなくても承知しているでしょうし、あくまでまずいかもというレベルなんですがね。あれ? でもよく考えたら既にゴーレムって結構――ならわざわざ言わなくても不要でしょうか? うーん、でもまあ一応伝えておきますか。あー肉体言語行使し過ぎて疲れる……
「――絶対にこのゴゥレムを壊すなって? 特に都市内では?」
こうしてまた一つ、私の謎と現状への理解が深まったのでした。
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「――第1728号二等重騎士、ライガット・アロー!」
厳かな雰囲気の中、チョビ髭の貴族様に名前を呼ばれたライガットさんが正面に進み出ます。壇上の玉座には当然ながらホズル国王陛下のお姿があります。
ここは簡単に言うならば王城内の一室、儀礼の間。そして現在はライガットさんの騎士任命式の最中です。
先日まではTシャツ姿でラフな格好だったライガットさんですが、黒を貴重とした外套を纏った正式なゴーレム搭乗士の装いに身を包んでいます。なかなかお似合いです。
ちなみに階級は二等重騎士、新たに任命されるゴーレム乗りとしてはなかなかのものだそうです。
ライガットさんは農民だったとはいえ士官学校に籍を置いていた時期もあるそうですし、その上アンダー・ゴーレムを動かせるという稀有な存在です。最近聞きましたが、他の人だと何故か動かせないらしいです。私はポンコツですし、実質彼の専用機状態です、羨ましい。
あとあと、敵ゴーレムを撃退することで絶体絶命だったホズル国王を救ったことがあり、さらに敵の新型ゴーレムの鹵獲に多大な貢献をした実績を持っています。はー、何でしょうねこの大活躍。ほんとにその時農民だったんでしょうか?
そして王と王妃両名からの個人的信頼も厚く、さらに友人同士という。……何と言うか、ここまでくると相当機運寄運に恵まれている人なのでしょう、うん。
「配属はバルド将軍旗下!
そして私はシギュン様と片手を繋いでその儀式を見守ります。入り口の脇でこっそりと、です。
あ、控えめに頷いているヒゲダンディサングラスナイスシルバーがバルド将軍ですね。人となりはよく知りませんが、ライガットさんやシギュン様のお話を聞く限り忠誠心の厚い人物だということは間違いないそうです。
恭しく跪き、ホズル陛下から礼剣を受け取るライガットさん――それを見ていたシギュン様は顔を背けてしまいました。平和に暮らしていた友人を戦争に巻き込んでいるという光景を直視し難いのかもしれません。
「……お前は……馬鹿だ……」
「知ってるよ馬鹿!」
図らずも、先日の大門で別れを告げた時の表情とは対称的です。
ホズル陛下は非常に辛そうなのを堪えて笑っているようで、逆にライガットさんは挑戦的な笑みを浮かべています。
シギュン様の手を左手に握り、この感動的で悲劇的な光景を見ながら私は考えます。
(どうか、この人達が報われるような未来を――)
そしてその鍵を握るのが――あの
▼今回のまとめ・追記事項
1.リストラ回避
2.ほぼ機体の稼働条件確認回
2.ゴゥレムではなくゴーレムとして覚えました。
3.まだ魔力の存在を知らない。そして当分知らない
次回、宜しくお願いします。
※今更ですが、本作のコンセプトを4/17付の活動報告に載せました。興味がある方はどうぞ。