壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 君、今日からデルフィング。
 私、もうすぐ名前貰えそうだけど死にそうな雰囲気。


008. 強襲邂逅

――――――――

 

 

(――見つけた!)

 

 地平線の向こうで微かに確認出来る光を確認し、クローズアップ。隊列を組んで移動しているのはあの黄色いアテネスのゴーレムだ。

 

「――敵――4台か!!」

 

 同じく敵機の映像を確認したライガットさんが叫ぶ。彼らをどうするのか、この人の意思は固まっているのでしょうか?

 それにしても、作戦では渓谷地帯でアテネスのゴーレム部隊を包囲殲滅する予定でしたというのに……

 

(あんな平地の真ん中を堂々と移動しているということは、やはりというべきか包囲に失敗して、脱出を許してしまったようですね……)

 

 武器にも機体にも殆ど損傷が無いのです。意外とあっさり逃げられてしまったのだろう――そう移動中の敵を観察して判断する。

 高速移動中なので距離は直ぐ詰まってしまう。距離が離れている間に出来る限り戦う相手の情報は得ておきたいのですが……

 む、デルフィングを発見されたようだ。あわよくばもう少し距離が詰められるかと思っていましたが、殿のゴーレムが目ざとく後方を確認してましたね。盛大に土埃を舞い上げながらの移動なので、視界に入れられたらそれなりに遠くからでも用意に見つかってしまうのは当然か。

 ゆっくり考える時間も無く敵機に迫る。ライガットさんの選択は――歯を食いしばりそのまま突撃を敢行。

 

 こちらに一番近い、殿のゴーレムがその場で立ち止まってデルフィングを銃で迎撃してきていますが――この機体にその対応は悪手です!

 いくら迎撃を目論んでいるとしても、このデルフィング多重装甲形態の進行ルート上で動きを止めるのは自殺行為というもの。

 確かに本機の正面に位置取ればこちらに弾を当てることは比較的容易かもしれません。ですが走行中のこの機体に対して適当に弾をばら撒いたところで、僅かに装甲の表面を抉る程度が関の山です。まず間違いなく貫くことは出来ません。

 

 相対距離がゼロになり、視覚が一瞬だけ敵ゴーレムの黄色いカラーで埋まる。続いて轟音と衝撃。

 私は想像よりも軽い衝撃に若干拍子抜けしつつ、こんなものかと敵の評価を少し下げる。正直、こんなにあっさり仕留められるとは思っていなかった。

 ――適当なタイミングで迎撃を諦めて本機の正面から逃げていれば、ちょっとだけ寿命が伸びたものを。

 

「……死んだか……死んだだろうな……悪く思うなッ……!」

 

 後方で散らばるゴーレムのスクラップを横目に流し、ライガットさんが吐き捨てるように呟く。私は前方に立ちすくむ次の目標を見定めています。

 しっかりと意識して人の命を奪ったのはこれが最初ですが、おそらく今後何人も何人も殺すことになるというのに大丈夫だろうか? 無理矢理罪悪感を振り切ろうとしているようですが、声色を聞く限り完全には割り切れていないような……

 私ですか? ライガットさんに全部おまかせという状態ではありますが、相手が敵戦闘員という時点で容赦するつもりはありません。倒すべき相手という事以外に何も考えてません。ここは戦場で私は戦うことに慣れておらず、それが出来ないとこっちが死んでしまいます。先日は体たらくっぷりを発揮しましたが、思いの外私のメンタルは早く順応してくれたようで助かりました。

 ……ただ相手と面と向かい合ってしまったら、上手くこなせる自信はありませんが。

 そういえばこうして容赦無く敵ゴーレムの内一台を粉砕した訳なんですが、ゼスさんはどのゴーレムに搭乗しているんでしょうかね? もし今轢き潰したゴーレムがそれだったとしたら――

 

「ゼスなら――躱されてた……!」

 

 ……だ、そうです。ライガットさんは別に無差別に敵を殺している訳ではなく、単純にこの人はゼスさんの技量を信じていたのでしょう。ゼスさんだったらあんな単純な突進は通用しない。だからあの程度で死ぬようなら絶対にゼスさんではない、と。

 

「くそッ、責任なんて感じるかよッ!! 俺はダンの顔さえ知らないんだ!!」

 

 ああ、案の定ダンさんの死を完全に割り切ることが出来ず引きずっています。あの指揮官め、余計な一言を言ってくれたものである。帰ったらささやかな報復を実行してくれようぞ。

 ライガットさんは――少なくとも後悔はしているのだろう。どこかで割りきらないと精神的に保たないんじゃないだろうか?

 私に彼のメンタルケアなんて可能だろうか――未来に不穏な影を感じつつも、私は一旦その思考を打ち切る。今は兎に角生き残るのが第一、戦いに集中しなければ。

 

 一台目を粉砕してそのまま他の三台に突っ込んでいくものの、直前で躱されてしまった。反応が良い。やはり一台目はただ運が良かったとみなすべきか、もうこれ以上敵をこの形態では倒せないかな……

 

「ッヌオオォォォォォッ!!」

 

 デルフィングはライガットさんによって機体を反転されつつ急制動をかける。敵の位置を確認して、再び突進。

 それに対して敵の反応は――迎撃!? てっきり回避か逃走に注力するものと思っていたので正直驚いてます。

 先程突進が回避された時点で考えた通り、この形態でのこれ以上の戦果は期待できません。基本的に今のデルフィングは真っ直ぐ突っ込むだけなので、マタドールの如く横か上に逃げられたら即座に追撃出来ませんからね。

 私達としては、彼らがこちらの攻撃を避け続けることに集中するという方針を採ることも想定に入っている。その場合、デルフィングは相手の脱出を妨害するように撹乱を続け足止めを行い、後続の味方の到着を待つことになっていますが……

 デルフィングから見て、敵部隊の後衛に当たる位置の二台が銃を撃ってくる。

 ……しかし、思いの外デルフィングに命中していない。当たってもデルフィングにしてみれば行動に全く支障が出ないレベルの攻撃です。

 

(これは、ひょっとしたら後一台位なら――)

 

 あわよくば、とそんなことを考えましたが、そうは問屋が卸しません。

 少し遅れて発砲を開始した前衛の一台――その攻撃が当たった瞬間です。今までとはレベルが違う衝撃が機体の中にも響きます。しかも音の発生源から判断して二発、三発と続く攻撃の着弾点がほぼ同じ箇所に集中しているようです。

 

(げ……)

「――クッ!!」

 

 私の額から一筋の冷や汗が流れる。ライガットさんの表情が一気に険しくなりました。

 おそらくですが、最初に潰した一台や後衛の二台とは違って、あのゴーレムは高威力の銃を装備していたのでしょう。その上射撃も上手く、狙い目も正確です。もしかして、あの前衛を務めているゴーレムに搭乗しているのがゼスさんでしょうか?

 そうこうしている内に頭部左側と左肩上部の追加装甲があっさりと引き剥がされたようですし、実際ヤバイ。

 ライガットさんもデルフィングをやや前傾姿勢にして被弾面積を狭くし、両手の盾も前に構えて守備を固めることで凌ごうとしてますが、その頼りの盾も瞬く間にボロボロになっていきます。

 

「も、保たねえ……!!」

 

 ライガットさんも焦っているようですが、しかしこのまま突進を続行する以外採れる戦術はありません。回避運動に入ったり多重装甲をパージしても、この距離と位置では集中砲火を貰ってしまいます。

 その時、不意に断続的に響いていた衝撃が収まりました。どうやら敵機はリロード動作中のようで、銃身を上に向けている様子。

 

「ッ!!」

 

 それを好機と見てライガットさんは操縦桿のトリガーを引き絞り、全身の装甲をパージ。両腕をクロスさせ、右腕に装着していた大剣を左手で、左腕に装着していた長剣を右手でしっかりと掴みます。地味に凄いような……

 

「ゼスーーー!!!」

 

 既に相対しているのがゼスさんだと確信しているのでしょう。搭乗席にライガットさんの声が轟き、力強くデルフィングが地面を蹴り急加速――一気に軽量化を成し遂げた恩恵でその速度はこの機体本来の水準に向上している。

 そのまま即座にゼスさんのゴーレムとの距離を詰めます。ゼスさんが銃のリロードを完了していない以上、この機会を逃す訳にはいきません!

 デルフィングが左手に掴んだ大剣を振り下ろすように突き出します。狙うのは――銃! 無力化狙いですね、了解です!

 この距離、タイミングならいける――そう私は思いました。

 

(――は、あれ?) 

 

 しかし、狙っていた銃もそれを握る黄色いゴーレムも、私の視界から掻き消えます。

 

(何が――!?)

 

 一瞬そう考えましたが、視界の端に影を認め何が起こったのを理解しました。大剣が命中する直前、ゼスさんは紙一重でそれを躱しデルフィングの脇を通り抜けていたのです。

 私はとしては愕然とする他ありません。あの距離と勢いで迫って躱されるとは……此方側の不覚というよりはゼスさんの判断と技量を褒めるべきなのでしょう。

 千載一遇の好機を逃してしまった以上、なんとか状況のリカバリーを図るしかありません――ですが空中ではどうすることも出来ません。このまま着地した瞬間、前後から集中砲火を喰らい、そのまま――

 

(か、かくなる上は防御体勢をとって何とか……)

 

 そうすることしか私は思いつきませんでした。デルフィングも自動操縦で着地体勢に入ってしまっていますから、着地後のダメージを抑える対応を考えるのが妥当の筈です。

 ですが、この私の背後で奮起する男は大人しく袋叩きにあうつもりは一切無かったようで……

 

「ぐ、ンヌゥゥゥゥッ――」

 

 ライガットさんの操作でデルフィングの緊急自動姿勢制御はキャンセル――「え、そんなこと出来たの?」とか考える私の思考など置いてけぼりにして、なんと地面に突き刺した大剣の腹を足場代わりにして踏み切り、そして反転跳躍って、は? えええー!?

 

「――ぬあああああぁぁぁぁッ!!!」

 

 私があたふたと慌てて、身体が落ちないようシートにしがみつきます。(よくよく考えたら身体の固定はバッチリなので不要だったのですが)

 そのままデルフィングは残った右手の長剣を構え、宙返りの要領で逆転した視界に構わずゼスさんのゴーレムの方へ――なんでしょうこのアクロバット!?

 対して、リロードを完了していたゼスさんからデルフィングを撃ち落とそうと正確に射撃が飛んでくるあたり、彼の状況判断力も凄過ぎて……

 

「ぐぎぎぎぎッがああああああッ!!」

 

 逆さまになった姿勢で滅多撃ちにされつつも、デルフィングがなんとか振りきった、半ばで砕かれた長剣の刃がゴーレムの胸部装甲に食い込んでいき――あ。

 

『――おおおおおおおおああああああああ!!』

 

 砕けるゴーレムの胸からゼスさんの声が漏れているのを聞いて、ああ、もう手遅れで――

 

「ッ!?」

 

 その声を聞いたライガットさんは咄嗟に長剣の柄を手放しますが、ガッチリと胸に長剣の残骸を食い込ませたゼスさんのゴーレムは、そのまま仰向けに倒れ込んでしまいました。

 

「――ッ!」

「ッ――し、しまッ……!! ゼスッ……!!? おいっゼスッ!!!」

 

 着地の衝撃に息を詰まらせながらもライガットさんが必死に呼びかけますが、黄色のゴーレムはピクリとも動きません。慌てて身を起こしつつデルフィングをゼスさんのゴーレムに近付けます。

 そんな私達の視界に飛び込んできたのは、先程まで後衛に徹していたアテネスのゴーレムの一台。

 

「えっ!!?」

「――!?(うぇ!?)」

 

 走り幅跳びのようにこちらに向かってジャンプして――えっ、跳び蹴り?

 

「ぬッ!!!」

 

 気が抜けていた私達を、これまでにない大規模な衝撃が襲います。

 後ろに突き飛ばされた格好になるデルフィングは、素早く自動姿勢制御を実行し膝立ちの姿勢でなんとか着地しますが…

 

「くッ…こいつ!?」

(い、今跳び蹴りかましましたか――このゴーレム!?)

 

 ライガットさんは驚き混じりに機体を立ち上がらせようとしましたが、視界に映っているのは――今度は足の裏ぁ!?

 直後に激しく視界が乱れ、後方への浮遊感を感じるとともに何をされたのか理解します。

 

(う、後ろ廻し蹴りですか!?)

 

 低姿勢からの強襲――ゴーレムで本当の意味で格闘戦をするとは……器用な……

 短い空中散歩を楽しんだデルフィングでしたが、そのまま地面に叩きつけられます。

 

「――ッ!!(あいたー!!)」

 

 私は着地時に後頭部をシートに打ち付けて涙目です。柔らかいんで怪我はしなくて済んだはずですが、流石に落下の衝撃を全ては殺せません。

 しばらくウンウン悶えていましたが、なんとか復活すると少しばかり朦朧とする意識で状況の確認を行います。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

<搭乗者NO.03> ― <意識消失>

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

(デルフィングが動かないと思ったらライガットさんがさっきのショックで気絶してましたか。これはピンチですね……)

 

 視界に浮かぶウィンドウのおかげでライガットさんの容態が正確に分かるのはありがたいです。気を失っているだけで命に別状は無いようですね。

 続いて機体の自己診断……ほっ良かった、フレームに被害はありません。頭部にゴーレムの蹴りなんて食らってしまいましたから、最悪首無しデルになっているのを覚悟していました。

 次に私は身を起こして外の状況を確認します。むぅ、背鰭が地面に突き刺さって起こしにくい……

 私から見て右方には激しく立ち昇る土埃。煙幕並みに濃いですね。ここからは何が起こっているのか……時折ガインガインと何かを打ち合う音が聴こえるということは戦闘中? あの中で?

 

(増援がやっと来たのでしょうか……さっきのとんでもない攻撃してきた機体が応戦中ですかね……?)

 

 今度は左方にカメラを向ける。倒れるゼスさんのゴーレムに覆い被さるように一台の黄色いゴーレムが――

 

(んー……?)

 

 何してるんでしょう? よく見えないので少し近付いてっと――どうやらゼスさんのゴーレムの胸部装甲を掴んでいるみたいなんですが……

 あれ? そう言えば、どうして私はデルフィングを普通に動かせているのでしょう。ライガットさんちゃんと席についてるのに。無意識でしたので今の今まで気にしていませんでしたが。

 

(……あれですかね、ライガットさんが気絶してしまったので、代わりにお前動かせよ、的な)

 

 たぶんそうなのだろう。またデルフィングの可動原理の謎を一つ解明してしまった。でもこんな土壇場では有難いどころか逆に――

 

「――むぅッ!? き、貴様ァッ!!」

 

 それ見たことか、覆い被さっていた方のゴーレムの頭部がこちらを向いて気が付かれてしまいました。あ、まずい。私はゴーレム戦闘からっきしなんですよー!!

 すわ戦闘再開かと焦って身構えようとしましたが、こちらを見た姿勢のまま黄色のゴーレムは動きません……あれれ?

 

(……いや、動けないのでしょうか?)

 

 今一度状況を見る。倒れたゼスさんの胸部装甲を両手で掴んで動かない敵ゴーレム。当然武器は手放して少し離れた地面の上。

 動かないのは、下手するとこのままゼスさんを押し潰してしまうからでしょうね。生死不明みたいですが……あれ、これってゼスさんの救助活動を思いっきり邪魔してる格好になってる!? き、気まずい……

 

(う、うーん……)

 

 とは言え、このままこうしているのは望ましくない。ライガットさんの思いを汲む意味でも私の希望を繋ぐ意味でも、なんとしてもゼスさんには生き残ってもらわなければなりません。

 一番困るのは、敵のゴーレムがゼスさんの救出を諦めてデルフィングを攻撃してくる、というパターンである。ゼスさんたぶん死ぬ。ライガットさん死ぬ。私も当然死ぬ。

 

(そ、そそそそれだけは避けないと――!)

 

 早く状況を動かさないと……このままじっとしていては相手が焦れてしまいます。ましてや近付く訳にもいきません! 手っ取り早く、これ以上こちらに戦意が無くあの方たちを見逃す意思を示すには――必死で頭を動かして現状を打破する方法を考え――考え……

 

(! そ、そうです! 思いつきましたよ! ……でもこれ、私一人めっちゃ危険……)

 

 ぐぅ……仕方ありません、リスク・オブ・マイライフというやつなのです。今、ライガットさんの命まで完全に賭け台に載せていまうのは望ましくありません。女は度胸! 元男ですがね! うん、何かが間違ってますね。

 ゆっくりとデルフィングの向きを変えて、その場に伏せさせます。こうしないと私が後で怪我するからです。搭乗口を開放して……では逝ってきます、ライガットさん。お互い明日も命があるといいですね。

 

 

――――――

 

 

『な……こ、子供だと……!?』

 

 おー戸惑ってる戸惑ってる。そんでもって声漏れてますよ、パイロットさん。

 そうです、これが私が即興で思い付いた作戦。その名も「デルフィング空っぽ、安心せい作戦」である。うわー安直ー。

 とりあえずデルフィングの中に搭乗士がいないと判断してもらえれば、一先ず安心してゼスさんの救助活動に専念してもらえるでしょう。その後は……私を殺してデルフィングを破壊するでしょうか? 外見はいたいけを通り越して病的な少女ですし、見逃してくれるとありがたいのですが。その前にライガットさんが目覚めることに期待するしかありません。

 一応デルフィングから地面に下りて機体から離れます。下りる時に転んで痛い! 歩けず四つん這いしてるので日に焼けた地面に触れてる手足熱い! でも仕方ないんです、私のミニマムボディとデルフィングのダイナマイトボディがまとめて踏んづけられるよりはマシというものです。

 

(つーか、さっさとしてください! 何時迄も固まってないで!)

 

 動かない敵ゴーレムに焦れて、ゼスさんのゴーレムを指差す。気付いてー!

 

『……かたじけない!』

(やたー!)

 

 漸くゼスさんのゴーレムに向き直って、作業を再開してくれる。メリメリと歪んだ装甲を引き剥がし、中には……原型を留めてはいるものの動かず頭から血を流したゼスさんの姿が。

 

「……(オロオロ)」

 

 い、生きてます? それとも――

 

『おおッ! 生きておられる!!』

「――!(よっしゃー!)」

 

 こちらからは確認出来ないが、ゼスさんはなんとか生存していたようである。あー良かった。

 そのままゼスさんを搭乗席のブロックごとまるごと抱え上げ、立ち上がる敵のゴーレム。

 

『……』

「――(あぅ……)」

 

 そして見下される私。

 今の私の命はこのゴーレムのパイロットさんのさじ加減一つで決まります。踏み潰されるか、撃ち殺されるか、それとも――

 

「――(ゴクリ……)」

『……クリシュナ――この……クレオ達と――も業が深いものだ……』

 

 ……お?

 

『……貴様のような幼子が戦場に出るものではない……離れられるならば早々に離れるのが身の為というものだぞ――』

 

 アテネスのゴーレムはそれだけを私に言い残し、踵を返して高台の上に跳んでいきました。

 

(……よく分かりませんが……兎に角助かったー!!)

 

 賭けに勝ちましたよ、女神様! 敵のパイロットさんが優しい人っぽくて助かりました! 声だけしか分かりませんが、いつか会えたら恩返ししましょう、そうしましょう! 

 ――ゼスさんの身柄をこちらで抑えられなかったのだけがあれですが、ゼスさん無事、ライガットさん無事、デルフィング健在、そして何より私無事と、結果だけを見ればほぼパーフェクトである。

 

 深く安堵の息を付くと、背後からゴーレムが銃を連射する音が……あ、そう言えば戦闘中っぽかったですね、忘れてました。

 大分落ち着いていた土埃の向こうに見えたもの――それは、空中でムーンサルトらしき妙技を決めながらクリシュナのファブニルから放たれる銃撃を躱している元気な黄色いゴーレムの姿が――

 

(って、はあー!? な、なんですか無茶苦茶な機動!?)

 

 ライガットさんも大概だが、あのアテネスのゴーレムはそれ以上である。今やってる着地姿勢から身体捻ってファブニルの頭部を剣で斬り砕いて、そのまま相手を踏み台にして次のファブニルに襲いかかる動きなんか超流麗です。感動的なほどに。

 

『――将軍、後方にッ!!』

『……』

 

 そして飛び跳ねるアテネスのゴーレムが向かった先は、一体だけ混ざった色違いのファブニル。どうやら作戦開始前にライガットさんに余計な一言を言ってくれやがったあの指揮官のようですが――将軍?

 その指揮官機は相手が放った蹴りを構えた盾で受け止め、同時に振り下ろされた直剣を銃剣で絡め取って……折った!?

 

『――たった一台にここまで撹乱されるとは……』

 

 そして響くダンディな声。あれ、ひょっとしてあの人、実は凄い人だったりします?

 そのまま相手の体勢を崩して自前の剣で右腕を切り飛ばして、おおー凄い凄い……何と言うか、派手に動くワケじゃないんですが洗練された堅実な強さというか……

 

『クレオ!!!』

 

 後ろから唐突に届いたのは、先程の親切なゴーレムのパイロットさんがお仲間を呼ぶ声。へー、あの滅茶苦茶な機動をしてる人がクレオさん、ふむ。

 

『! エレクトさん!!』

『隊長の救出は成功――退却だッ!!』

『了解!!』

(おー、可愛らしい声です)

 

 散々クリシュナのゴーレム部隊を掻き回したクレオさん(仮)は凄く若い女の人であるようだ。うーむ、なぜか大変気になる。そしてエレクトさんね、記憶記憶……

 そのまま退却行動に移ったクレオさん(仮)は、クリシュナの陣中であることを利用してるみたいですね、ファブニルを盾にしながら動いてます。

 

『足で追い込め!! 銃に頼りすぎるな!!』

 

 周囲を固めているならありですけど……だけどたぶん、あのゴーレムは――

 

『――跳んでッ、エルテーミスッ!!』

 

 戦場に似合わない声で気合を入れたらしいクレオさん(仮)。案の定まんまと包囲の穴を付いてこちらの方に跳び出してきます。デルフィングほどではありませんが、驚異的な跳躍力ですね。

 

『くそぉッ! なんて跳躍だ!!』

『撃て!! 撃てッ!!』

 

 置いて行かれた格好のファブニル部隊ですが、懸命に照準を合わせてアテネスのゴーレムを撃ちまくってます。数撃ちゃ当たる状態です。実際何発か当たってます。

 

『よ、よし……離脱しろ! クレオ!!』

 

 エレクトさん(仮)からもささやかなエールが届けられます。実は私も内心応援しています。理由ですか? ……まぁ色々です。

 

『く……バルド将軍ッ!!』

『射程外に逃げられます!! ――くそッ……』

 

 そしてエレクトさん(仮)が待つ高台に迫るアテネスのゴーレム。もうここまで来ればクリシュナのゴーレム部隊による追撃も届きません。……ん? バルド将軍?

 

『このバカモンがッ!!』

『エレクトさんッ!!!』

 

 アテネス勢のめっちゃ嬉しそうな遣り取りです。傍から聞いてるともう親子ですかってレベルです。なんとなくほっこりした気分になって彼らを見送ります。

 

 ――そう、私は彼らの脱出は叶うとばかり思っていました。

 

 一発の銃声が響き、崩れ落ちる黄色いゴーレム。いつぞやのビノンテン襲撃の際にも似たような光景を見ていましたね。

 私の目は今しがた目前のそれが銃弾で撃ち抜かれた瞬間をバッチリ見ていました。全重量が集中していた軸足を、それも極めて絶妙なタイミングで射抜かれています。

 派手に転がっていたそのゴーレムは、ついに動きを止めました。流石に――もう彼女の脱出は絶望的ですね……

 

『――間に合ったぁ!! トゥル将軍旗下を舐めるなよ!!』

 

 これまた若い女性の声が聞こえたのでそちらに視線を向けると、小高い山のような地形から何台ものファブニルが駆け下りてくるのが見えました。

 私は知りませんでしたが、どうやら密かに別働隊が動いていたようですね……余計なことを!

 ――はっ、つい彼らに感情移入し過ぎてしまいました。いけませんね……アテネスの戦力を削れた以上、喜ばしいことのはずですのに。

 

『……ぅあ……エレ……クト……さん……』

 

 ボロボロになって倒れ伏したゴーレムから、か細い声が響きます。うっ、罪悪感が……

 

『……行って、くだ……さぃ……ゼス様を……お願いします……』

 

(う、うわあああああああッ)

 

 やめてくださいよぉ! めっちゃ心が痛むんですよぉこういうのぉ!!

 そして何ですか、この女の人めっちゃ健気じゃないですか! 自分の絶体絶命のピンチでもお仲間を思い遣って見捨てるよう進言するなんて絶対いい人ですよぉ! うわああああん!

 

『ッ…………許せ……クレオ……』

 

 エレクトさーん(仮)! 貴方も断腸の思いって感じの声で許しを請わないでくださいよおおお!

 そりゃ気持ちは分かりますよ! 動けない仲間を見捨てて自分だけ敵の大部隊から逃げなきゃいけない――私が同じ立場だったら憤慨してます。間違い無く!

 しかも見捨てる仲間が若い女性って時点で士気だだ下がりです……これだから女性が軍に入るのは好ましくないって言われるんですよね……納得です……

 

(――よし!)

 

 決めましたよ、私が全力でクリシュナの魔の手からクレオさん(仮)を守ってみせましょう! そんなもの有るか知りませんが、別に無くても構いません!

 無論、自分の力が非常に乏しいことは考慮に入れません。私にはシギュン様という強力なコネが……でもあの人基本的にライガットさんの為にしか動いてないような……大丈夫でしょうか?

 高台の黄色いゴーレムに向かって親指を立てて見せます。即ち、「後は任せろー」って感じで意味が通じればいんですが。いや何故か、エレクトさん(仮)の視線を感じた気がするんですよね。

 

『……頼むッ!!』

 

 そう最後に言い残して跳び去っていくエレクトさん(仮)のゴーレム。

 ふふふ、確かにこのお耳で聴きましたよ! 頼まれたからにはこの私、全力で勤めを果たしてみせましょう!

 これで命を見逃して頂いた借りを多少なり返せるというもの。人知れず私はそんな決意表明を行うのでした。

 

 デルフィングの傍でエレクトさん(仮)のゴーレムに向かってハンドサインを示すという、極めて怪しい姿を薄れゆく意識の中で見ていた、とある少女の視線に気付かず――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 大地に伏すデルフィングの傍で、私は気絶してしまったライガットさんをなんと絶賛膝枕中です。額に濡れタオル乗せちゃったりなんかして。いやー意外とやってる方も気持ちいいんですね、これ。

 え、特に深い意味はありませんよ? ただ地面にそのまま寝かされると頭痛いかなーとか、日光が寝顔に当たるのはキツイかなーって思っただけです。それだけです。

 勿論、私が自力で彼を搭乗席から引っこ抜いてくることなんて出来やしません。援軍の軍人さん達に頼んでやってもらいました。すいませんねーお手数おかけします。せっせと簡易タープまで張ってくれましたよ、この人達親切ですね。

 ついでにあのクレオさん(仮)も丁重に扱うようお願いしておきましょうかね? 今の私にとってかなりの優先事項なんです。

 む? ライガットさんも既に目が覚めつつあるみたいですね。しぱしぱ瞬きしてます。

 

「……ふむ」

 

 そんな私達の傍らには、いつぞやのヒゲダンディシルバーグラサン将軍ことバルド将軍閣下の姿が。なんとなんと、作戦開始前に発破かけてきたり、華麗にアテネスの超機動ゴーレムと立合ったあの指揮官機の中の人でもあります。道理であの強さにも納得です。

 そう言えば、私ってこのお方と直接の面識って無かったんですよね。どんな人か聞いたり、お姿を拝見したりしたことはあったんですけど。

 悪い人ではないと聞いていますので、あのお言葉も純粋にライガットさんを心配してのものだったのでしょう。ええ、とりあえずはそういうことにしておきましょうね。

 でもこの視線……ひょっとして、私の事何か知っていたりするんでしょうか? 私の事怪しむと言うよりは、なんか観察されてるような……? 兎に角今までに無い視線です。ふむ。

 

「……ゼスは……?」

 

 おや、ライガットさん完全に目が覚めたようですね。大丈夫ですよー、ちゃんと生きてますよーお仲間に回収されていきましたよー。

 

「お前にとっては朗報だ……見事に逃げられたよ」

「……そうか」

 

 あ、代わりに答えて頂いてありがとうございます、将軍閣下。そう言えば黄色ゴーレムの残骸確認してましたね。

 うーん、ゼスさんが逃走に成功したことがライガットさん個人にとって朗報だって知ってるってことはかなりの事情通ということですね。情報元は……ひょっとして陛下でしょうか?

 

「……終わった……」

 

 ライガットさんがポツリと一言。残念ですがライガットさん、これで全部終わった訳ではないんですよね……

 

「今も国境守備軍とアテネスの本隊が激突している。それを躱せたとしてもボルキュス将軍の出陣……ライガット――始まるんだ、これから」

 

 バルド将軍が諭すように口を開く。

 そう、確かにゼスさんを首尾良くアテネスに追い返しました。それは結構なんですが、ゼスさん曰く残虐非道で戦争の天才というおっかない将軍が大軍率いて攻めて来るんですよ。

 ゼスさん達はそれなりに人道的な作戦行動を展開していたようですが、これからはそうはいきません。より本腰を入れないとこのクリシュナが地獄色に染まりかねません。たぶん。

 

「……そう……か……――」

 

 ライガットさんはそれだけ呟くと瞼を閉じます。お休みですか? ごゆっくり……

 

 ……そうですね。まだ、とも、漸く、とも言えますが、今後はより本格的なアテネスとの“戦争”が始まります。

 一応今回のゼスさん達との応酬で戦果は示せていますし、私達を取り巻く状況もより業の深いものになっていくのでしょう。

 

 

 ――ま、とりあえず今はこの戦いを生き残れたことを噛み締めて休むとしましょうか、私にとってはほんの僅かな時間でしかないでしょうが。

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.オペ子+予備搭乗士的な何か
2.貧弱だけど意外と丈夫な身体
3.無意識マッチポンプ構築
4.主人公は実は人恋しかったりする
5.珍しく他人の為に身体を張る


次回、宜しくお願いします。
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