鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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2ヶ月ほど開いてしまいました。

すみません、現実世界で多忙でした。

では久々の投稿ですどうぞ。


第捌話 電子ノ皇帝 -Electron Kaiser -

 

 

 

咢埜開耶(あぎとのさくや)は、魔法学園第11期生の特待生である。

 

彼女は一般生徒同様、試験を受けてでの正規の入学ではなく、いわば魔法学園側から声のかけられたスカウトのような形でこの学園に入った。

 

そして彼女は引き籠りである。

 

真性の引き籠りである。

 

入学当初より通常授業に参加したためしはなく、ずっと情報演算処理室に籠りっぱなしで、

 

出席記録には未だ空白以外の部分がない。

 

尚、現在もその記録を更新中である。

 

では何故、そんな不良生徒が退学にならないのか。

 

勿論、学園が呼んだ特待生だからでもあるが、その最たる要因を挙げるならば、

 

彼女の保有する『特殊魔法』にあるだろう。

 

『特殊魔法』は、使用者の数だけ存在し、そのいずれもが例外なく、既存の魔法概念を逸脱したものだが、

 

こと咢埜開耶の『特殊魔法』に関しては、群を抜いていると言っていい。

 

もし、特殊魔法を強さでランク付けできるとしたら、咢埜開耶のそれは間違いなく上位――最上位に位置すると言ってもいい。

 

彼女の『特殊魔法』は――『電界干渉(サイバー・ハンズ)』。

 

電子や電波、電磁波などの様々な電場上のものに介入できる魔法だ。

 

その一例としては、オンラインネットワークを介したハッキングだったり、

 

光磁気ストレージ内の情報を引き出したり、ダミーの電波を流したり、他の電波通信に介入出来たり、

 

電磁場を操って、金属物質を操ったりとなんでもござれだ。

 

そんな万能な彼女。

 

而して、問題点が一つ。

 

奇抜でトチ狂った…もとい斬新で個性的で時代の一歩先を行くファッションセンスだ。

 

あるときは全身に包帯を巻きつけた、どこぞの志○雄とかく○らちゃんみたいな格好で登校し、

 

またあるときは学園指定の制服を胸元でカットし、どこぞの纏○子みたいな格好で中庭をふらついていたところを風紀委員に拿捕された。

 

他にもVラインをチラ見せしてくる、もはやR-18も厭わない穴開きジーパンや、

 

上着の上から下着を着用するという、なんともアバンギャルドでエポックメーキングな服装をしていた、

 

などという報告が方々で上がっている(彼女は引き籠りだが、所用で買い物に出かけたりすることは間々あるらしい。といっても非常に稀だ)。

 

何故、国家権力に逮捕されないのかが不思議でたまらない。

 

さて、第二情報処理室まで来た俺、彼女は今回、何を着用しているのか?

 

あわよくば、薄衣一枚でも羽織っていてほしい。

 

 

1

 

 

「………」

 

 

ドアの前に立つ。

 

ドアはカードキーロック。専用のカードキーがないと入室不可。

 

そのカードキーは一年と少し前、即ち彼女が入学したときから貸し切り状態だ。

 

ドアの横には液晶つきの内線が設置され、それで中の人間と通信できるようになっている。

 

俺がそれに触れようとしたとき。

 

ガチャ。

 

何かの外れる音がしたされた。

 

ドアノブを捻ってみる。手応えあり。ロックは解除されているようだ。

 

恐る恐る…でもなく、ナチュラルに入室する俺。

 

物々しく、大仰に開いたドアの奥は、夜のような暗闇で、冷蔵庫の中のように冷えていた。

 

今が猛暑なら大歓迎だろう。あるいはサウナの後とか。

 

この異常なほどの寒さは、当然だが、コンピューターの冷却のためだ。

 

部屋に入ると、まず真正面に、往年の映画に出てくるような浮遊タイプの巨大ホログラムディスプレイ。

 

その周囲を囲み、さながら守護神の如く鎮座するコンピューターの数々。

 

最新鋭の業務用コンピューターに始まり、国の専門機関に置いていそうな量子コンピューター、スカラー型・ベクトル型一体スパコンもある。

 

さながら電子機器の要塞のようだ。

 

その中の一台、100テラバイト級大容量外部ハードの陰に隠れるようにして、ホログラムボードをいじっている人影を目視。

 

近づくと、ディスプレイの反射光で半身が照らし出され、その委細を確認できる。

 

体格は俺よりも小柄。

 

頭髪は黒髪から色の抜け落ちたような灰色。

 

開襟の夏制服、しかし前のボタンは全開になっており、下にはスク水を着用しているようだった。

 

 

「先輩、咢埜開耶先輩…なんともファンタスティックでアバンチュールなものをお召しのようで」

 

 

「なんだい、褒め言葉かな」

 

 

突然の来訪者に、素知らぬ顔で応対する咢埜先輩。

 

 

「確か、この学園は制服着用が規則だった気もするのですが」

 

 

「私は『特待生』だからね。そういった校則、規則、一切合切適用されないんだよ」

 

 

特待生…

 

入試を受けて入学する正規の生徒とは違い、学園が、人材登用を目的にスカウトした生徒、

 

つまり学園側から『お願いします。入ってください』と頼まれ、入学した生徒たちだ。

 

 

「まあいいです、実は先輩に少し御頼みがございまして」

 

 

「ふーん…」

 

 

俺がそう告げるや否や、咢埜先輩は、さながら骨董品の品評会のように俺を眇める。

 

少しして。

 

 

「君の頼みを聞くのもやぶさかではない」

 

 

随分と尊大な態度をとられたものだ。

 

まあ、仕方もあるまい。俺が下手に出てるのは事実だし。

 

 

「話してみなよ」

 

 

「ええ、実は緋狩澤=シャルンホルスト=光に関する情報を可能な限り調べてもらいのですが」

 

 

「…待ってて。今、学園のデータを照会してあげるよ」

 

 

咢埜先輩は早速、ホログラムのタッチボードに手を伸ばす。

 

 

「いえ、違います」

 

 

俺はそう述べた。

 

咢埜先輩はさも頭上に疑問符を浮かべたかのような表情だ。

 

 

「そのくらいの情報ならうちの伝で調べています。

 

 俺が知りたいのは――

 

 

 

 

 

 ――彼女の過去の経歴、ドイツ軍に所属していたころの情報です」

 

 

「!」

 

 

咢埜先輩は須臾ほどの時間、顔を驚愕にこわばらせた。

 

 

「本気…?」

 

 

「ええ…生憎、うちには一国の軍部から情報を盗める程度の技術者がいませんでして」

 

 

 

彼女は暫時、沈思黙考する。

 

そして、徐々に彼女は、その口元に不気味な薄ら笑いを貼り付けていった。

 

『面白い』とでも言いたげな。

 

無窮の闇を様々な機械に取り付けられたライトが照らす中、静寂は蔓延し、

 

コンピューターの駆動音だけが聞こえる。

 

そして、ついに、

 

 

「緋狩澤=シャルンホルスト=光…ね」

 

 

咢埜先輩が口を開いた。

 

 

「昨日、メイスィ=フランデンブルグ=グレイがここを訪れたのは勿論知っているだろう?」

 

 

「ええ、そうですけど…どうでもいいのですけど、何故断定が?」

 

 

俺が率直な疑問を訪ねると、咢埜先輩は当然、と言わんばかりの口調で言った。

 

 

「昨日の戦いは見させてもらっていた。監視カメラをハッキングさせてもらってね」

 

 

本来ならば、犯罪行為で、刑事判決をも辞さないような行為を、咢埜先輩はそれがさながら神が定めた

 

秩序(ルール)であったかのように語った。

 

俺もあえて何も言うまい。そんなことより話を進めるべきだ。

 

 

「話を切ってすみません。どうぞ続けてください」

 

 

咢埜先輩は、話を再開する。

 

 

「さて私は彼女、メイスィ=フランデンブルグ=グレイから、当然、君たちのクラスの代表・不動車座についての調査を依頼された。

 

 他のクラスもそうだった。C、D、Eクラス。本来ならば彼女の足元どころか靴底にすら及ばない相手にも彼女は調査を求めた、警戒心のなさせたことか。

 

 まあ、それで君たちFクラスに負けたってのは、なんとも皮肉なものだけれどねぇ。

 

 しかし、彼女が唯一調査を依頼しなかった人物がいる。

 

 緋狩澤=シャルンホルスト=光だよ。」

 

 

ここで、咢埜先輩は話を切る。

 

別段、もったいぶった話でもないと俺は高をくくったのだが…

 

 

「私の魔法は電脳最強。おそらく、この世界において私が踏み込めない情報は、アナログ情報か『罪創りの仔(ウマニタス)』ぐらいだよ」

 

 

そういってのける咢埜先輩?

 

ちゃっかりと新出語句が出たので一、二行ほどで説明。

 

罪創りの仔(ウマニタス)』…

 

魔法使い(ウィザード)及び魔法社会の存在を否定する非正規の反魔法組織。

 

魔法に依存しきった社会を、ハッキングないしクラッキングによって変えようとしているらしい。

 

 

「そしてそんな私からすれば、ドイツという一国の軍部機密なんて紙障子に等しい。

 

 そうなのにも関わらず、彼女は緋狩澤=シャルンホルスト=光の情報を得ようとは思わなかった。

 

 なぜか分かるかい?」

 

 

俺は首を横に振った。

 

それを伺うや、咢埜先輩は重々しく口を開く。

 

 

「単純に怖いからさ。彼女を、緋狩澤=シャルンホルスト=光を知ることが」

 

 

そのとき点灯していたコンピューターのライトが数台分、フッと、音もなく消えた。

 

スリープモードに移行したのだろう。

 

無窮の闇は、より一層深淵を極める。

 

 

「『好奇心は猫をも殺す』という諺があるだろう。

 

 古代エジプトにおいては、九つの魂を持つともされた猫さえ殺す好奇心が、一少女の自制心に負けたんだ。

 

 もし君が聡明なら、これがどういうことか分かるだろうさ」

 

 

「……」

 

 

俺は沈黙した。

 

 

「沈黙…私はそれを是とみたよ。つまりはそういうことだね。

 

 奇しくもメイスィ=フランデンブルグ=グレイは、緋狩澤=シャルンホルスト=光と同じドイツ国籍のドイツ出身。 

  

 彼女についての風の噂でも聞いていたんだろうね」

 

 

「……」

 

 

沈黙。

 

静寂。

 

この空間の音が闇に支配されているようだ。マシンの駆動音だけが空しく木霊する。

 

 

 

「君は、緋狩澤=シャルンホルスト=光を少々甘く見ているんじゃあない?

 

 それならば改めるべきだよ。彼女の存在は、まさしく闇の箱(ブラックボックス)だ」

 

 

さらに数秒、音が失われる感覚。

 

そして…

 

 

「ええ。再考させてもらいます」

 

 

俺は静寂の均衡を破った。

 

 

「うん…そうするといいよ」

 

 

咢埜先輩も張り詰めたような空気が緩み、多少安堵の表情が見れる。

 

有力な情報は得られなかった。

 

ここは食い下がらず、おとなしく、奥ゆかしく、引き下がるとしよう。

 

入口へ向かい、ドアの前に立つ。

 

ピッ、という電子音とともにドアが開錠された。咢埜先輩によってだ。

 

どうやらここは中からも鍵、ないし管理者の許可が必要な仕様のようだ。

 

ドアが開く。もあっ、とした春の陽気が妙に生暖かく感じられた。

 

そして俺は第二情報処理室を後にした。

 

 

2

 

 

一方そのころ。

 

白鵺陵を完全に放っておいて、夜鳥巫仙、不動車座を含めた、Fクラスのクラスメイト達は皆、完全にお祭りモードだった。

 

場所は近所の焼き肉店。

 

皆、一度私服に着替えている。

 

Fクラスの上位クラス相手への勝利、と銘打った祝賀会だった。

 

たかが学園の一イベントの一試合ごときに大げさではないか、と思うかもしれない。

 

しかし、最下位クラスが上位クラスに勝利することが、いかに奇跡か。

 

たとえるならば小人がが恐竜に勝つぐらいの成果だと思ってもらいたい。

 

ともかく、今回はFクラスの大金星であった。

 

その中でも、中心にいたのはなんといっても不動車座。

 

本日の勝者、勝利の立役者である。

 

パーティーグッズの定番『本日の主役』タスキをかけ、男女問わずちやほやされている車座は有頂天だ。

 

ここに真の立役者、白鵺陵がいたのならば『そのまま昇天してしまえ』と愚痴ることだろう。

 

しかし、本日の主役は一人怪訝そうな顔だった。

 

クラスメイトがワイワイキャッキャッと歓談する中、空気が読めていないは重々承知の上、車座は声を上げた。

 

 

「本当に儂でいいんやろうか?」

 

 

「何がだ?」

 

 

クラスメイトの一人が応じる。

 

 

「こうやってもてはやされているのが儂でよ…そもそもあの作戦を考えたんは陵やのに」

 

 

妙に悲観的な車座の言葉に、クラスメイトはそれをハッ、と笑い飛ばした。

 

 

「なーにブルーになってんだよ、車座。事実として勝利したのはお前だろ?

 

 言うは行うより易し。参謀よりも実働のほうが難しいし、リスクも高いんだよ。

 

 自分のやったことに自信持てよ。

 

 ほらほら!陵のことはパァーッと忘れてみんなでバカ騒ぎしようぜ!」

 

 

「うぇーい!」と場を盛り上げるクラスメイト達、それに影響されてか車座も次第に勇気が持てるようになってきた。

 

 

「いよっしゃあ!今宵の主役はこの儂じゃあ!」

 

 

もはや我々の度肝を抜くほどの気持ちの変わり様である。

 

 

「自分ら!話の腰折って悪かったな!あんな低身長鬼太郎ヘアー野郎忘れて、いっちょ騒ぐで!」

 

 

もはや我々の度肝を抜くほど掌の返し様である。

 

もしこの場に陰の立役者、白鵺陵がいたのならば『そのまま骨盤まで粉砕しろ』と愚痴るに違いなかった。

 

そして、お祭り騒ぎのバカ騒ぎが始まった。

 

まずは焼き肉1時間コース延長で39人前を注文、支払いは金持ちのクラスメイトがやってくれるはず。

 

それと同時に計画していたお祭りプログラム始動。

 

まずはクラスメイト一人一人の一発芸。

 

有名人のものまねから始まり、顔芸、声真似…ハードルは徐々に高くなっていく。

 

車座はものまねに甘んじ、巫仙はなぜかパントマイムしていた(それもすごくうまかった)。

 

五時から開始された祝賀会も気づけば、朱色の蒼穹を薄墨が染めるような時間帯になっていた。

 

しかし、祭りは終わらない。

 

告白もどきや腐女子なら歓喜しそうなBLプレイ、逆の百合プレイ(無論、常識の範囲内で)

 

公然猥褻物陳列罪もかくやと言わんばかりの裸芸まで始まった(当の生徒は翌日、後悔の念に苛まれることと相成った)。

 

焼き肉も追加注文。

 

カルビにハラミ、タン塩、レバー、マルチョウ、シマチョウ、ハツなど、様々な肉の山が運ばれてくる。

 

ドリンクも、お冷やに烏龍茶、アイスコーヒー、オレンジジュース、ジンジャーエール、コーラ。

 

虹のようにカラフルな飲料の河を次々と消費していく。

 

かくして蛙鳴蝉騒、喧騒の充溢した時間は過ぎていく、魔法都市・神城市の夜は更けていく…

 

 

3

 

 

時刻は午後9時。

 

流石に深夜まで青少年が焼き肉屋で飲み食いしていては倫理上よくない。

 

とのことでクラスメイト一同は店を追い出され、方々に帰宅している最中だった。

 

勿論、この夜鳥巫仙もご多分に漏れず、現在、白鵺・黒鵺宅への帰路を急いでいるのだった。

 

彼女、夜鳥巫仙の本宅は白鵺達の住まう家ではない。

 

彼女は別にアパートの一室に居を構えているのだ。

 

それでも彼女は、白鵺・黒鵺宅に足繁く通い、その度に宿泊しており、

 

その頻度は最近では週に2、3ほどである。

 

今宵は、白鵺兄妹の家に邪魔するにあたっては

、兄妹のために何か食べるものを買っておくべきだろうと、

 

巫仙は近くのコンビニエンスストアに寄り、二人分購入した(自分の分は買っていない。焼き肉でお腹がいっぱいなのだ)。

 

かくして田舎道を通り、白鵺兄妹宅へ行き着く巫仙。

 

玄関まで行き、チャイムを押した。

 

ピーンポーンという聞き馴染みのある音が、間接照明と屋内の電気で明るく照らされた夜闇に反響する。

 

ほどなくして、家主、の妹である黒鵺寵がドアを開けて現れた。

 

 

「あっ、巫仙さん!こんばんはです!」

 

 

可愛げな声で寵が応対した。

 

やっぱりこの娘は可愛いなー、守ってやりたいなー、と一種の母性めいた感情が過ぎる。

 

 

「夜分にお邪魔して申し訳ありません」

 

 

と、遅滞した訪問を謝罪しつつ、いつも白鵺両名宅に訪問する際には、当然と化していた反応が伺えず、巫仙は問うた。

 

 

「あら、陵さんはまだ帰ってらっしゃらないのですか?」

 

 

「あー、おにーちゃんはスーパーに夜食のデザートを買いにいってますよ」

 

 

「あらあら、デザートでしたら私、買って参りましたのに…」

 

 

と、巫仙は手に提げたコンビニエンスストアのレジ袋を見せた。

 

寵はそれを惜しそうに見つめた。

 

 

「あちゃちゃー…行くのを少し急がせすぎたかな~」

 

 

遺憾、といった声を上げる。

 

 

「ま、いっか!そのうちおにーちゃんも帰ってくるだろうし、先に食べてようよ!」

 

 

と、いそいそと家の中に戻る寵。

 

そんな彼女に追従しつつ、この娘もこの娘で気持ちの切り替えが早いなー、と思った巫仙だった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

白鵺・黒鵺宅にお邪魔して早速、買ってきたデザートを食べることと相成った。

 

巫仙が買ってきたものは、いづれも溶けたり、温くなったり、冷めたりするようなものなので、

 

冷蔵庫ないし電子レンジを使えばいいのだが、しかし、早く食す分には、悪いことは無いだろう。

 

というわけで、早速、夜食後のデザートタイムと相成った。

 

まず最初に取り出したのは、皆さんご存知の製菓メーカー・グリ○から発売されているチューブ型アイス・○ピコだ。

 

単品購入である。

 

 

「わーい!パ○コだぁー!」

 

 

と、喜悦する寵。

 

私の分は?私の分は?!とせがんでくるので、巫仙はレジ袋をガサゴソと弄り、それを取り出す。

 

デンタルヘルス○アと明記されたそれを。

 

 

「ってそれ歯磨き粉じゃん!確かにチューブだけどさ!こう…両者の間には相容れない一線てのがあるよね!?」

 

 

間断なく突っ込む寵。

 

やっぱりこの娘可愛いなー、と再度思いつつ、冗談です、と言う巫仙。

 

良かったー、だよね、という寵。

 

 

「寵のはこちらです」

 

 

再びレジ袋を弄り、今度はれっきとしたパピ○を取り出す巫仙。

 

 

「この歯磨き粉は陵さんにでも差し上げましょう」

 

 

「この流れだと歯磨き粉をおにーちゃんに食べさせようとしているようにしか聞こえないんだけど大丈夫だよね!?」

 

 

「宇宙飛行士の方たちは船内で口を濯げないので歯磨き粉を飲み込んでいるらしいですので大丈夫でしょう」

 

 

「アウトだよ!宇宙飛行士の人たちが飲んでるのはちゃんと飲み込める仕様なの!まぁ…その歯磨き粉にも害は無いとは思うけどさ!」

 

 

と、寵が叫ぶのを半ば無視しつつ、冷凍庫に歯磨き粉を突っ込む巫仙。

 

翌日にはキンキンに冷えた歯磨き粉が出来上がっていることだろう。

 

 

「さて、氷菓子を食して少しさむくなりましたので、一つ、温かいものでも召し上がりませんか?」

 

 

と提案すると、

 

 

「お、なになに?」

 

 

と乗ってくる寵。

 

巫仙は再びレジ袋に手を突っ込んで弄ると、こんどはお椀大のプラスチックカップを取り出した。

 

同じくプラスチック製の蓋を開けると、中から一斉に湯気が立ち上り、

 

中から仄かに漂う芳醇な香り。

 

これは…

 

 

「おでんだぁ!」

 

 

正解。国民的ファストフード・コンビニおでんである。

 

その中では巾着、卵、ちくわぶ、牛スジ、大根など様々な定番メニューが食べて食べて!

 

と言わんばかりに自己主張していた。

 

 

「寵さんのはこちらです」

 

 

と、巫仙はまたまたレジ袋を漁る。

 

寵は嫌な予感を覚えたが、巫仙が取り出したのは至ってノーマルなコンビニおでん。

 

寵は安堵のため息をついた。

 

パチンと割り箸を雑に割り、気分を高揚させながら蓋を取る。

 

中に広がっているのはヴァリエーション豊かなコンビニおでんの数々――

 

 

 

 

 

――ではなかった。

 

そこに広がっていたのは、あろうことか、しらたきの魔窟だった。

 

お椀程度のサイズのカップの中に、しらたきがこれでもかと言うほどギュウギュウに圧縮されていた。

 

もはや、しらたきの大地である。

 

さらには体積の割に凄まじい表面積を誇るそれによって、

 

おでんのスープは徹底的に吸い尽くされ、その分の容積で、しらたきはブヨブヨと気持ち悪いほどに膨満していた。

 

正直言って…エグい。

 

当の巫仙はどこ吹く風で巾着をちびちびと食べていた。

 

 

「あの…巫仙さん。これ…なんすか?」

 

 

思わず口調を崩し、意気消沈と突っ込む寵。

 

そんな寵とおでんの中身を見比べ、あっ、と声を上げる巫仙。

 

 

「間違えましたわ」

 

 

と、本日何度目のレジ袋を漁り、中から外面だけは同じおでんを取り出す。

 

 

「それは陵さんのです」

 

 

と言いつつ、それを寵のもつおでん――否、しらたきの魔窟と取り替える。

 

今再び、巫仙から貰ったコンビニおでんを開ける。

 

中身はまたしもしらたきの連隊――などてはなく、ちゃんと巾着や卵など、他の具材も入ったノーマルなおでんだった。

 

これほど普通のおでんを恋しいと思ったことはない、と一人感慨に耽る寵だった…

 

…ん?

 

 

「ってそれおにーちゃんの!?それこそおにーちゃん食べたら死んじゃうよ!しらたきに体内の水分全て吸収されて死んじゃうよ!」

 

「大丈夫ですわ。しらたきの中に水分が入ってますので…」

 

 

寵を諭そうとする巫仙。

 

 

「あ…そうか」

 

 

納得する寵。

 

 

「って納得しちゃダメ、私!普通に見た目気持ち悪いし、多分食感も気持ち悪いから!」

 

 

自分で自分に突っ込む寵。

 

あー、やっぱり、可愛いなー。

 

 

と、寵が一人突っ込んでいる最中、巫仙は一直線に冷蔵庫へ向かい…

 

 

 

 

 

それを冷凍庫へぶち込んだ。

 

 

「アウトー!現行犯アウトー!」

 

 

寵の抵抗虚しく、冷凍庫に封印される日本おでん軍所属しらたき連隊。

 

兄が一瞬にして散華する姿が目に浮かんだ寵だった。

 

それにしても恐ろしいほどの陵イジり、陵イジりのオーソリティーとでも言おうか、

 

この夜鳥巫仙である。

 

なんやかんやで一日が過ぎていく。 

 

世界は、薄墨を流したように溶暗し、無間なる海のような夜の底へ落ちていった。

 

 

4

 

 

翌日、魔法学園第一学年Bクラス。

 

普段ならば、穏健で高貴で気品漂うBクラスには、言いしれない鬼気とも殺気ともとれるピリピリと肌に焼けつくような空気が流れていた。

 

一触即発、もしも誰かがこの教室内で火器を使おうものなら即座爆発といったような雰囲気だ。

 

その異様なまでの空気の発生源は、誰あろう、メイスィ=フランデンブルグ=グレイである。

 

原因は明白だった。昨日のクラス対抗代表模擬魔戦である。

 

それにてメイスィは格下のFクラスのさらに三下、不動車座に敗北を喫しているのだ。

 

挙句に、敗軍の将の責務と言わんばかりに、せっかく高値で雇った情報屋も取られてしまった。

 

それだけでもこのうえない屈辱であるのに、昨日の敗北を引きずってか、クラスメイトが侮蔑・嘲笑の感情を自分に向けてくるように感じるのだ。

 

おまけに今日は誰からも話しかけられていない。

 

いつも周りに人の絶えない彼女が今日に限って、である。

 

これはもう皆から下に見られているとしか思えない。

 

今朝方からずっとそれが続いている。

 

クラスメイトのみならず、一学年全員が、学園全員に蔑まれ、嘲笑われているように思えるのだ。

 

勿論、それは彼女の勝手な思い込み、言うなら被害妄想、自意識過剰である。

 

メイスィのクラスメイトは別段、彼女を侮蔑・嘲笑しているわけでなく、単に彼女を心配しているだけであり、

 

彼女に話しかけてこないのも、彼女を気遣って、そっとしておいているだけである。

 

それらを全て負のイメージに変えてしまうのは、彼女の神経質さゆえか。

 

とにもかくにも現在のメイスィ=フランデンブルグ=グレイは、憤然たる様子でささくれたっているのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

六限も過ぎたが、いつまで経っても機嫌を直さず、不貞腐れた様子のメイスィにクラスメイトもほとほと呆れ果てたのか、

 

ついにや彼女のことを気にもかけすらしなくなった。

 

そして彼女の被害妄想ないし自意識過剰によって、彼女のうちにはだんだんと負の感情がわだかまっていく。

 

負の悪循環(スパイラル)だ。

 

そして放課後になっても彼女はこの調子のままだった。

 

クラスメイト達が、この後の事、好きなアーティストの話題、週末の予定について楽しそうに談話している中、

 

いまだ怒気を放散させながら教室に居座る。

 

数時間後、メイスィは不機嫌そうに立ち上がり、教室を退室する。

 

生徒たちが部活動やらなんやらで三々五々、せわしなく行き交う校門までの道のりを苛立たしげに、舌打ち混じりに通過する。

 

時間は夕暮れ時。

 

橙色の染料で染められたような天蓋に、赤いガラス玉のような夕日が地平線の彼方に落ちかけている。

 

東の空を濃紺の闇が支配しつつある。

 

メイスィはそんな美しい情景に目もくれず、憤怒に歯噛みした形相で学園を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

メイスィはホテル暮らしだ。

 

市街の一等地の高級ホテルから学園に通っている。

 

メイスィは依然、苛立っている。

 

彼女は思った。

 

仮にホテルの自室に戻り、天然本黒檀(エポニー)製のベッドフレーム、ポケットコイル式マットレスで設えられた高級ベッドに飛び込んで、潜り込んだとして、

 

この鬱憤を晴らせるだろうか?

 

否、晴らせはしまい。

 

この怒りはちょっとやそっとのむかつき、苛立ちとは異をなす純然たる瞋恚(しんい)の具現である。

 

そう簡単に解消されてなるものか。

 

ここまでくると不条理ともとれる怒りを胸中に、メイスィは足音高く歩を進めた。

 

雑踏も鳴りを潜めた小径、メイスィは瞬間的に歩みを止めた。

 

なぜならば、彼女は現在進行形で不審ともいえる事象に遭遇しているからだ。

 

その舞台は荒廃した神社である。

 

現代的技術の発展した市街地に神社とは何たるアンマッチか、と思うやも知れない。

 

しかし、魔法の発展したこの時代、魔力の蒐集源として重宝するため、

 

神社並びにその他の霊的魔的オブジェクトは国による保存法によって丁重に保護されているのだ。

 

故に都市中に寺社仏閣があるのも何ら奇怪なことではない。

 

とはいっても中には改修工事も行なわれず、やれ古風だ高古だと謳われ、時代の躍進の錆として頽廃していくのはなんと皮肉なことだろうか。

 

とにもかくにも、彼女がその動向を否応なく停止させられた理由は、

 

保護対象たるべき名も知らぬその神社で、本来ならばあるはずのない、あってはいけない()が発生しているからだ。

 

 

 

 

 

それは、()()()

 

 

 

 

 

ドガン!バタン!

 

神聖なる神々の祀られし場所にて、悪辣な破壊音が生まれているのだ。

 

なんとも異質極まるものか。

 

何なんだこの音は。自然倒壊ならば何の問題にもならないだろうが、それが人の手によるものならば、

 

器物損害、魔的建造物保存法違反により、禁固刑においては重罪を掛けられるだろう。

 

こんな残虐を働く悪人をこの世界にのさばらせておくわけにはいかない。

 

そんな正義感が働いたメイスィは単騎、神社内に参入した。

 

 

 

 

――そこで目にした光景は悲惨たるものだった。

 

参道の石畳はめくり返り、両脇の石灯篭は全て叩き折られている。

 

景観のためか、これまた霊的魔的意味があるのか、神社の各所に植えられていた樹木も余すことなく薪炭材のように細切れに粉砕されていた。

 

本殿は原型が分からなくなるほどに破壊され、瓦礫の山と帰していた。

 

この神社内において、本来の機能を果たしているものはただの一つとしてなかった。

 

明らかに人為的なものだ。

 

決して自然に起きたものではない。

 

 

(……ッ!!!)

 

 

メイスィは緊張に身構える。

 

これはただの愉快犯や陳腐な破壊集団のやることじゃあない。

 

徹底的な破壊。

 

微塵も現状を維持させないような破壊。

 

これは、純粋な破壊意思を以てして執行されたかのような破壊だ。

 

これをやった奴は狂っている。

 

そう思考の海に落ち、理論を展開させていると、

 

 

 

 

 

「君、なんでこんなとこにいるんだい」

 

 

 

 

 

突如、背後から声が掛けられた。

 

メイスィは神速の挙動で振り向く。

 

と、その刹那的時間の中でメイスィは閃く。

 

何を自分は怖がっているのだ。

 

自分が入ってきたとき、まだ破壊音は続いていた。

 

つまり犯人は自分の前にいる。

 

後ろにいるはずはない。

 

ならば今、自分に声をかけたのは通りすがり、この惨状を目撃した通行人ないし警官と考えるのが妥当だろう。

 

なぁにをビビッているんだ私は。

 

自然、安堵の感情が過ぎる。

 

メイスィの恐怖も現在、この状況では自分が犯人と思われないか、という心配にいつしか上書きされていた。

 

 

 

 

 

――勿論、そんなもの、ものの数秒で崩れ去る。

 

 

 

 

 

完全に後ろを振り向く。

 

その先には、この惨状に慌てふためく人影が――

 

 

 

 

 

――いなかった。

 

ここで、彼女は、

 

来たのが一般人なら、説明は後回し、まずは犯人の拿捕。

 

警官なら協力して逮捕。

 

という淡い未来予想図をかくも簡単に瓦解させられていた。

 

 

「……………え?」

 

 

その時、

 

 

 

 

 

「こっちだよ」

 

 

 

 

 

背後、つまり先ほどまで自分の向いていた方向からかかる、

 

絶望へ誘う死神めいた声音。

 

急いで振り向く。

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「~~~!!」

 

身の危険を感じ、高速で後方に飛び退る。

 

そして、その予感は的中した。

 

先程まで立っていた場所、紙製のアナログ書籍のページのごとく捲れ上がっていた石畳が、

 

一瞬にして、爆砕。粉塵に変えられていた。

 

巻き上がった粉塵は互いの視界を塞ぐ。

 

メイスィはその時間を使って様々な思考まで及ばせた。

 

もしも危険を感知するのが一瞬でも遅れていれば…

 

考える必要もない、というかしたくない想像まで及んで、身の毛がよだつ。

 

メイスィは内心で首を振り、考えを途絶させる。

 

今はそんな想像をしている暇などない。

 

運良く与えられた猶予を、こんなことに使っていいはずがない。

 

 

(私に与えられた選択肢は二つ…逃げるか戦うか…)

 

 

逃走か闘争か…

 

両極端の選択肢の狭間で葛藤するメイスィ。

 

しかし、葛藤する時間もそんなに与えられていない。

 

決断は即決即断だ!

 

メイスィは目を閉じる。

 

この状況でそのような行為は自殺行為ととれるかもしれないが、別に開いていても何ら変わらないだろう。

 

脳の雑念をリセット。思考を透明化させていく。

 

脳の隅々までの意識を一点に収斂させる。

 

 

(『魔法』発動…!)

 

 

魔法開発された脳髄から分泌される魔力を脳の一点に集中…さらにはその延長上の背面にも。

 

人によって魔法発動の媒介する所は異なるが、メイスィのこの魔法に関しては、自らの背部を媒介とする。

 

背部に魔力が一極集中。

 

と、同時に彼女の周囲の空気が霞み、彼女の背中に水で生成された翼――否、頸部が生じる。

 

空気中の水蒸気が凝結し、液体化しているのだ。

 

数秒後、完全に魔法完成。

 

彼女の背部には五対十本の翼の如き、水の多頭が生えていた。

 

名を――

 

 

「『多頭の水蛇(ヒドラ)』!」

 

 

彼女の象徴たる高位の魔法が顕現していた。

 

彼女の魔法・『多頭の水蛇(ヒドラ)』の真骨頂は五対十本各々の頸部を高速振動(ヴァイブレーション)させ、頸部を振動剣(ヴァイブロブレード)のようにして振るい、

 

如何なる硬質物体をも切り裂く絶対截断の剣である。

 

 

(この『多頭の水蛇(ヒドラ)』を以てすれば、あれぐらいすぐに片づけられる…!)

 

 

メイスィは十の剣を構えつつ、眼前の粉塵を睨めつける。

 

この粉塵がある限り、相手も迂闊に手を出してはこない。

 

晴れた瞬間が勝負だ。

 

粉塵が晴れ、敵を視界に捉えた瞬間、先制攻撃で制圧してみせる…!

 

メイスィは、その瞬間を待った。

 

…数秒後。

 

粉塵が晴れていく。

 

 

(敵の足を捉えた!)

 

 

その足の位置から推定される敵座標に渾身の斬撃を打ち込む。

 

相手の損傷なんて考えている暇などなかった。

 

確実にやった…

 

と思った。

 

しかし、この時点で既に勝敗は決していた。

 

メイスィはここで自分の『多頭の水蛇(ヒドラ)』の手応えが無いことに気づいた。

 

そして、気づいたときには時すでに遅かった。

 

ぶしゃあ。

 

紅蓮の花が咲いた。

 

メイスィの身体のありとあらゆる所、多箇所から同時に生々しい鮮血が迸った。

 

さながら古傷が一斉に開いたかのようだった。

 

彼女は自分が何をされたのか理解できなかっただろう。

 

敵を仕留めたと思った。

 

しかし、手応えはなく、自分がやられていた。

 

言葉にすれば、だった二行程度しか無い現象を、而して彼女はそれを幻でも見たかのように理解できないだろう。

 

自分が何をされたのかも分からず。

 

自分に何が起きたかも分からず。

 

目の前の人間が何者かも分からず。

 

ただ澎湃と泣くことも、

 

ただ自らの愚行を悔悟することも赦されず、

 

苦痛なまでに緩慢な感覚時間の中、メイスィ=ブランデンブルク=グレイは闇の中へ意識を手放した。

 

少女が意識を失う最中、その人間の口元が動く。

 

 

「安心しなよ。殺しちゃいないさ」

 

 

人間は一人歩を進め、夜闇に溶暗していく。

 

 

「しっかし、目撃者が出るとはね…人払いの結界が安普請すぎたのか…やっぱり、やっつけ仕事はよくないね」

 

 

 

 

 

――世界が再び無窮の闇を湛える。

 

それは、かくも世界がこの脅威に瞠目したかのようだった。

 

 




どうでしたか?

第0、1章で次話に繋がるようなストーリーを、第2、3章でショートストーリーみたいなもの、第4章で次章に繋がるストーリーを書いてみました。

あと、三人称視点も増やしてみました。

下手くそだと思ったら言ってください。

それじゃあ次回もお楽しみに。
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