鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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随分時間が経ってすいません

秋イベと、冬イベの準備してました(艦これの話です)

ついでにリアルも忙しくて…

相当更新ペース落ちましたね、すみませぬ


第玖話 弱者ノ詮択 -Accept or Deny-

1

 

 

2083年、4月22日。

 

魔法学園系列の某病院。

 

その208号病室の前に、俺ら、つまりは俺と我が愛し妹と巫仙と車座はいた。

 

 

「……」「……」「……」「……」

 

 

数秒に渡る、無言の瞬き会話(アイコンタクト)

 

静寂のうちに飛び交う言葉なき錯綜。

 

その末に三対一という結果になり、俺が選ばれた。くそぅ、民主主義めぇ……

 

俺は恐る恐るといった体でドアをノック。

 

 

「どうぞ」

 

 

すぐさま不愛想な返事が来る。

 

数秒後、ピーと無機質な電子音、プシューとわずかな空気圧搾音とともに機械的なスライドドアが開く。

 

中からは薬品独特の匂いがする――という前時代的はことはない。

 

院内の内壁には、きちんと抗臭作用のある特殊塗料の塗装が施されているようだ。

 

室内は真っ白で清潔感の漂う装いの中、奥のほうにベッドが一台据えられていた。

 

リクライニング仕様のそれを仰角45°程起き上がらせ、彼女は凭れかかっていた。

 

サファイアブルーの髪の奥から、同色の双眸がこちらを睨んでいた。

 

 

「どうも、Fクラスの皆さん。こんなザマの私を笑いに来たってわけ。あら、あなたは確か――」

 

 

彼女は、妹に視線を遣る。

 

 

「どうも久しぶりね、黒鵺寵さん。F連中とつるんでるだなんてBクラスを見限ったのかしら」

 

 

そう、吐き捨てる。

 

随分と、皮肉というか当てこすりを言えるじゃないか。

 

まぁ、なんというか――

 

 

「なんというか、元気そうだな。メイスィ・グレイ」

 

 

「皮肉かしら、白鵺陵」

 

 

「そんな意図はないが」

 

 

会って早々にこの険悪ムード。皮肉ならお互いさまだ、とも言いたくなるが。

 

我慢我慢。出掛かったその言葉を呑み込む。

 

 

「俺は別にお前と論争とか口論をしに来たわけじゃあない。ただの見舞いだ」

 

 

ほら、と俺は右手に携えた花束を見せてやる。

 

グレイは渋面を作ると、顔をぷい、と背けた。

 

彼女としても、これ以上言い合う気はない。その意思表示だろうか。

 

 

「んでまぁ、見舞いがてら聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「嘘ね。そっちが本命でしょ」

 

 

うわ、早々にばれたった。ま、いいんだけど。

 

 

「いいわ、質問次第だけどもやぶさかではないわ」

 

 

ほぉ、許可ゲッツ。

 

ならば根掘り葉掘りアスクユーと相成ろうか。

 

 

「お前を襲った奴について情報を仔細開示してもらおうか」

 

 

聞くと、グレイはわざとらしさが見え見えの驚き顔を見せた。

 

何だよ、その顔。地味にイラっとくるんだが。

 

今考えたことと全く同じことを言ってみる。

 

 

「いえ別に。私が見るに貴方は他人に起こったことをいちいち気にするタイプではないと思ったのよ。

 

 不過干渉主義って言ったらいいのかしら」

 

 

「はッ、いやいや違うぜ。

 

 聞くが、もしお前のペットが、ある時、庭で惨殺体になってるのを見かけたとしたら、お前はソイツの身に何が起こったのか気になったりしないのか」

 

 

俺は皮肉めいた口調で言う。

 

グレイが、表情をしかめていくのが分かった。

 

癇に障ったのか。

 

とりあえず、釈明はしておこう。あくまでイノセンスであると。

 

 

「いんや、言葉の綾って奴だぜ」

 

 

すると何をミスったのか、グレイはことさら機嫌を悪くした。

 

 

「言うわね。貴方、皮肉の達人?

 

 人を愛玩動物に例えたり、『言葉の綾』とかいう言い訳感満載の単語使ったり。

 

 意図的としかおもえないんだけど」

 

 

「なんのことやら」

 

 

「あなたの辞書には人をイラつかせるボキャしか入ってないようね」

 

 

さらに怒気を増し、ついには額にうっすらと血管が浮かび始めたグレイ。

 

おお、こいつはやべぇ、怒髪天を衝くたぁこのことのようだ~(棒)

 

だが、終いにはグレイが折れたようで、

 

 

「分かったわ。分かった。オーケーアイアンダスタン。話せばいいんでしょ」

 

 

投げやりなセリフを吐いた。

 

 

「あ、アンダスタンは過去形の方がいいぞ」

 

 

「やかましい」

 

 

ついでに俺が余計な茶々を入れた。

 

 

「といっても、有益な情報は与えられそうにないわね」

 

 

「構わん。どんな些事でも喜んで」

 

 

正直、どんな些細な情報でもいい。零よりは一だ。情報が一でもあれば、そこからの絞りこみも可能なのだ。

 

 

「顔とか見てないわよ」

 

 

「うっわ、使え…いや、構わん」

 

 

「ねぇ今貴方絶対に、使えねぇ、とか言おうとしてたわよね!?」

 

 

語気を荒らげるグレイ。

 

い、いや、決してそんなつもりはなかったんだZE☆

 

 

「加えて言うなら何をされたかも分からないわ」

 

 

「何だよそれ、クッソ使えねぇ」

 

 

「もはや隠す気なし!?クソとか接頭語まで付いてるし」

 

 

「クソでももうちょい使えるぜ」

 

 

「あらそれは私への宣戦布告と見て宜しいので?何ならここでBF間代理戦争をしてもいいのよ」

 

 

「結果は見えたも同然だけどな♪」

 

 

「えぇ奇遇ね♪私も『貴方』が『貴方だったもの』になっている結末が見えたわ」

 

 

「やめんか自分ら。儂には日独代理戦争になる未来しか見えへんわ!」

 

 

「……ふぅ」「……ハァ」

 

 

そして一時休息、一時停戦とでも言おうか。

 

筆舌に尽くしがたい時間的間隔が経過する。

 

沈黙を破ったのはグレイ…でも俺…でもなく車座だった。

 

 

「やめてくれや、胃が痛うてたまらん」

 

 

胸の上から胃のある位置を押さえつつ車座が言う。

 

 

「お前の力とかそんなん抜きで、グレイとの抗争は見とうもない」

 

 

なんということか、対メイスィ・グレイ戦が車座のトラウマボックスとなっていた。

 

それもそうだ。全方位からドでかい水鉄砲喰らった挙げ句、その場で二分間の及ぶ息止め耐久、さらには『空気装甲』があるものの超至近距離での水蒸気爆発体験。

 

普通の人生じゃ起こることも内容なことを僅かな時間で三回も経験したのだ。

 

不随意でガクブルが来てもおかしくはない。

 

成る程これが俗に言うMRS(メイスィリアリティショック)・フィードバックって奴か。

 

 

「…貴方にとって有益かは分からないけど、その通り魔、後ろから声がかかったと思ったらいつの間にか前に居たり、攻撃の予備動作も見せずに全身を斬りつけたり、

 

 なかなか規格外だったわ。悔しいけど完敗よ」

 

 

グレイは憎々しげに呻いた。

 

それにしても…後ろから声がかかったと思ったら前に居た。

 

そのくらいだったら達人級のスニーキングスキルと気配を消す能力(ミスディレクション)さえありゃできるか。

 

る○剣の瀬田宗○郎が使ってた縮地みたいな感じ?

 

まあ、そこまで行っちゃうと古武術の奥義になっちゃうから、そこまで大それたものじゃあないんだがな。

 

多分、俺でも再現できると思う。

 

それはそれでいいんだが。問題は、攻撃の予備動作も見せずに全身を斬りつける、だ。

 

ふと、グレイの身体を見る。頭から足まで徹頭徹尾包帯が巻かれたいた。

 

顔の切り傷は少ない方だったが、乙女の顔に傷をつけるのは紳士たる俺としては頂けない。

 

うむ、確かに文字通り全身を斬りつけられている。

 

グレイも何気に元軍隊所属で、動体視力とかは鈍そうには見えないから、

 

それを以てして、知覚速度を超越するレベルの高速の剣戟。

 

おそらく音速の3倍近くはいるんじゃあないか?超電○砲かよ。

 

巫仙さんの抜刀速度でも音速の一歩手前ぐらいだし、そもそも超音速の運動に()()()人間の肉体が追い付けるはずがない。

 

恐らく引きちぎれる。となると肉体強化のできる魔法使い(ウィザード)か、あるいは……

 

 

「ねえ」

 

 

思考に耽る俺の脳を引き戻したのはグレイの声である。

 

 

「見舞いに来てもらってる身分で悪いんだけど……いつまで居る気?」

 

 

ぶすっとした表情で膠なく告げるグレイ。

 

 

「何だ、長居しちゃ迷惑か?」

 

 

「いや、そんなんじゃなくて」

 

 

グレイは親指を立てると、壁の方に向け、上下に振っている。

 

指した方向を見ろと?

 

その指を追うように俺は視線を上げた。

 

そこにあったのは壁掛け時計。

 

其が刻みし時刻は、8時半少し前。

 

魔法学園の始業時刻はーー8時半。

 

……察した。

 

バタバタバタ!

 

このあと俺が花束を投げ捨て、ノータイムで病室を後にしたのは言うまでもない。

 

 

2

 

 

時刻、9時02分。

 

勿論遅刻だ。当たり前だろ(開き直り)

 

慌てて教室に駆け込む俺らを睨み付ける禍酒先生の修羅のごときEvil Eyes(比喩なし)。

 

なるほどここは阿鼻地獄だったのか。

 

コンマ数秒で発動した俺の土下座(地球とキッス)によって何とか二人を見逃してもらい、この俺、白鵺陵は自ら死地へ。

 

泣いた赤鬼が涙でバイカル湖を造るレベルの自己犠牲。

 

天にまします我らが父もきっと感激の極みに違いない。

 

そして現在の俺はと言うとーー

 

 

「さて、聞かせてもらおうか。一体全体どんな理由があって、30分も遅刻したのか」

 

 

「グレイさんの見舞いに行ってました(棒)」

 

 

やはり、というか尋問されていた。

 

 

「見舞いに行くのは結構。賞賛されて然るべき行為…だが、それで遅刻したら本末転倒だよな?」

 

 

「そーですね(棒)」

 

 

「お前は私を舐めているのか?」

 

 

「いえー決して(棒)」

 

 

「ならばその棒読みを今すぐやめろ」

 

 

「イエス・マイ・ロード!」

 

 

「よし、シバくか」

 

 

即座に禍酒先生の鉄拳が射出準備段階に以降する。

 

俺は素早く居直り、

 

 

「ちょま、タンマタンマ!今のご時世、体罰はヤバイです!」

 

 

「安心しろ、うちは国家機関故に少しはグレーゾーンの融通も利くってものさ」

 

 

「アウトー、がっつりブラックだよ!」

 

 

「ようし、歯を食いしばれ!」

 

 

「いやぁぁぁ!」

 

 

俺は鉄拳制裁も間近と腹をくくった。

 

だが、予想に反して怒りの鉄槌が下されることはなかった。

 

 

「いいだろう」

 

 

そこには胸の前で腕組みをした禍酒先生がいた。

 

実力行為は行われなかったものの、その身体からは戦意…というかもはや殺気のオーラが漂っている。

 

おそろしいですわあー。

 

 

「それで、メイスィ・グレイに話を聞きに行ったのだろう?どんな情報を聞けた?」

 

 

「いや、特に…」

 

 

本当だ。

 

大して手応えのある情報は得られなかったと言えよう。

 

 

「そうですね…強いて言うなら通り魔は気配を消す、ないし抜き足のテクニックに長け、一瞬で身体中を切り刻む剣速を生み出す筋力、またその速度に耐えうる肉体強度を持っていますね」

 

 

俺はグレイから聞いた話を脳内で要点だけかいつまんで要約して伝えた。

 

 

「人物像は?」

 

 

「はっきりとは不明、ただ彼女は通り魔と一時至近距離で向かい合ったようです、

 

 顔つきは典型的なモンゴロイドの東洋人、モンゴルや中華圏、日系人のそれとは違うので恐らく日本人。

 

 声は女性のような高い声だったけれども恐らく男のそれ、これは変声の可能性もあるので信憑性に欠けますが。

 

 虹彩の色は、まあ黒ですね。体格ですが、向き合ったときにさほど目線の高さが変わらなかったので、彼女の目線の高さから比較して、身長推測167cm、誤差はプラス5cmほどかと。

 

 以上がグレイの証言から得られた犯人像ですね」

 

 

俺はぺらぺらと早口で捲し立てる、長文をだらだらと話すのはキャラじゃないんだ。

 

禍酒先生は、ほうほうと感心した様子で、

 

 

「うむ、よくもまああんな状況下でそれほど正確な情報を集まれたと賞賛してやりたいところだが、その程度の情報じゃあ絞り込みもままならないだろうな」

 

 

そう言った。

 

いや、全くその通りだった。

 

何せ、さっきの情報に当てはまる奴なんて神城市内でもゴロゴロいるはずだ。

 

禍酒先生は数秒間、気難しい顔をして黙り込むと、

 

 

「構わんさ、グレイの件に関しては我々教師団か受け持つ。お前は車座のサポートに勤しむことだ」

 

 

禍酒先生は、溜まりに溜まった嫌な雰囲気を掻き消すように努めて大声を張り、言った。

 

それはその通りだ。目下の重要案件はクラス対抗代表模擬魔戦における我がクラスの優勝だ。

 

グレイの襲撃も捨て置けない事態だが、それは教師の皆々様が何とかしてくれると言うし、今はそれに甘えよう。

 

 

「さあ次は準決勝、Aクラスはシード権が与えられるから自動的にお前らの相手はDクラスだ。

  

 だが、昨日の様子だと今回も行けそうなんじゃないか」

 

 

「まあ、相手は特にといって他と異にする点のない典型的な火力重点、力押しの炎属性の使い手ですからね。

 

 車座の空気装甲は耐熱仕様もありますから、まずただの物理戦になるのは確かでしょう。

 

 それなら多少の体術の心得があるという車座が圧倒的有利ですね。

 

 念のため、俺が幾つか有効戦法を教えてやったので、万に一つはないでしょう。

 

 相手もBクラスに勝ったとはいえ、たかがFクラスと油断している部分もあるでしょうし」

 

 

早口で告げる俺の言葉を聞いて、禍酒先生は、ははッと豪放に笑った。

 

 

「いやあ、やはりお前は面白い奴だな」

 

 

「そうですか?」

 

 

「あぁそうさ、5年ほどこの学園で教鞭を執ってきたが、お前みたいに上位クラスに歯向かう奴は初めてだ」

 

 

「今まで居なかった方が俺は不思議で不思議で堪りませんね。

 

 確かにこの学園はヒエラルキーが明確とされ、下位層が差別を受ける風潮にあるというのは下位層の人間からしてみれば非難轟々でしょうが、

 

 よくよく考えてみれば今回の模擬魔戦のように下位層が上位層に対し、きちんと能力で打ち勝つという機会平等性はあるのですから、

 

 現在の理不尽ともいえるヒエラルキーもその結果によるものなら致し方ないでしょう。

 

 上位層と下位層の間には歴然とした能力差があるのに勝てるわけがない。何が機会の平等だ、と言われるかもしれませんけど、

 

 それはバカ正直に戦ったらそうなるでしょうし。弱者が強者に勇気だ、愛だ、結束だなんかで勝てるわけがないです。

 

 弱者が強者に勝つには、今回みたいに賢しく知恵と謀略を巡らせて、車座みたいな潜在的能力を如何に生かすかが肝なんですよ

 

 そうすりゃヒエラルキーなんて幾らでもひっくり返るし、今までだって下位層が上位層に『ねぇ今どんな気持ち?』って言う機会なんて幾らでもあったんですから」

 

 

珍しく饒舌に喋り終えると、禍酒先生は感慨深い顔をして俺を見ていた。

 

 

「お前みたいな奴がもう少しいたら世界は面白くなるのかもしれないな」

 

 

「十分今でも面白いですよ、先生」

 

 

それでは模擬魔戦の準備もあるので、と俺は禍酒先生の下を離れ、Fクラスの控室へ向かった。

 

 

3

 

 

Dクラスとの試合が終了した。

 

結果から言おう。普通に圧勝だ。

 

特筆して語ることも無かったので割愛したが、それじゃ不満だという読者諸氏のために少しかいつまんで説明しよう。

 

開始早々、広域の火炎放射

 

 

空気装甲で余裕のガード

 

 

相手、距離を取りつつ、炎で酸素を奪っていく戦術に変更。

 

 

相手、簡単に距離を詰められる。

 

 

車座の殴打炸裂

 

 

試合終了

 

と、まぁ余裕だったわけでサァ。

 

そんな訳で相手Dクラス代表の憎々しげに退場していく様を「甘美…!」と眺めていた俺は、猛烈に自分に向けられた視線に気付いた。

 

まぁ、お察しだが。

 

もし、視線に質量があったならば俺の身体は旧劇場版の某弐号機めいて串刺しにされていたであろう、

 

そんな熱いモノをじんじんとこちらに向けているお方は…

 

緋狩澤光である。

 

この演習場は円形のドームのような形状をしており、それを取り囲むように階段状に観覧席が敷設されているのだが、

 

その配置割りがAクラスから始まり、時計回りにA、B、C…という風になっている。

 

つまり、AクラスとFクラスは隣同士になる形に配置されている。

 

故に、Aクラスのオーディエンスどもの一挙手一投足がこちらにも丸見えである。

 

Aクラスのほぼ全員が模擬魔戦に注目しているのに対し、その人物――緋狩澤光だけが俺に向けて射貫くような視線を放っていた。

 

なんだ?その視線は。

 

「私はお前と戦いたい」、「お前を倒す」みたいなものとして解釈していいのだろうか。

 

おーけーおーけー…

 

だがしかし、残念ながらお前と当たるのは車座であって、俺ではない。

 

悪いが、お前の期待にゃ応えられないね。

 

と、いつもの俺ならそう言うところだが…

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

 

いいよいいよ戦ってやるよ、本当は嫌なことこの上ないがな。

 

どうせ無理やり戦わさせされるんだしさァ…

 

それなら潔く乗ったほうがいいじゃん?

 

 

『それでは只今より決勝――AクラスとFクラスに於ける模擬魔法戦闘をの召集を行います。代表選手は各クラスの準備室へ行ってください。』

 

 

そのアナウンスは、さながら定刻に至るまでルーティンで刻まれるカウントダウンのように厳かに発せられた。

 

 

4

 

 

これまでのストーリーを起承転結で表すのならば、そのアナウンスまでが承だったといえよう。

 

そしてこれからは()だ。

 

アナウンスによる放送が終わった直後、今度は別の放送が始まった。

 

 

『補足事項です。只今からの試合は…試合規則4項例外規則第3項に基づき、出場生徒の変更が行われます』

 

 

きた――

 

放送の声の主は教師である。

 

 

『Aクラス、緋狩澤=シャルンホルスト=光の出場選手変更要請を許可し、対戦相手であるFクラス代表選手を――』

 

 

演習場内が疑惑と戸惑いから刹那的な静寂に包まれる。

 

聞こえてくるのは、放送マイクの僅かな雑音(ノイズ)

 

誰もが呼吸を止めて、そのアナウンスの続きを聞こうとしていた。

 

 

『白鵺陵に変更します』

 

 

直後、Fクラス内でどよめきが起こった。

 

否、Fクラスのみでない、全クラス、すなわち第一学年のすべての生徒にそれは波紋し、

 

全員、数秒ほど視線を彷徨わせ、一斉にこちらへ向けた。

 

前後左右上下からの視線、プラネタリウムもかくやというほどの双眸の星々。

 

もし視線に質量があったのなら俺は今、メ◯ルクウラの物量攻撃を受けた孫◯空のような状況になっていたであろう。

 

おもむろに左右を見る。

 

車座は声にこそ出していなかったが、顔面で驚きを如実に表現している。

 

巫仙は一見冷静っぽかったが、僅かに動揺の色を見せている。

 

Aクラスの緋狩澤の方を見れば、こちらを見て「どうだ、驚いたか」と言わんばかりに口角を釣り上げている。

 

これぞドヤ顔、といった感じだ。

 

せっかくなので「うん、知ってた」という意味を込めて嘲笑もとい微笑み返してやると、嫌そうな顔をして放送に耳を傾けていた。

 

 

「どういうことや?!」

 

 

独特のイントネーションも交え、車座は学生用のホログラム端末をせっせかとスワイプしていた。

 

プライベート・モードにしているため、車座の画面がどのようになっているかは見えないが、

 

(ホログラムという特質上、他者から見られることなどを防ぐプライバシー保護措置として、近年のホログラム端末には『プライベート・モード』が備わっており、

 

端末本体に取り付けられたアイ・センサーが距離や角度などの条件から同端末の使用者を判別し、常時自動でその使用者の眼を追尾し、そこにだけ端末の映像を伝達する仕組みとなっている)

 

おそらく生体認証と指紋認証を同時に行う認証システム(生体認証があることによって死亡した端末使用者の指紋を使って他者がアンロックできない)を解除し、

 

学生専用のページに移動し、大会規則の確認をしているのだろう。

 

 

「陵、規則何項言いよったっけ」

 

 

「4項、例外規則3項」

 

 

「どこや」

 

 

「項目の文の最後の方に(アスタリスク)と数字があるだろ。ページの最下部まで行って同じ奴のとこを見ろ」

 

 

「…あった」

 

 

どうやら見つけたようだ。

 

俺は勿論この例外規則を既知であるのだが、車座はご丁寧にこれを読んでくれた。

 

今回は流れがわかりやすいよう、4項から説明しよう。

 

曰く、

 

まず第4項――本大会に出場するクラスの代表者の申請は原則大会3日前までとし、申請後は一部の例外を除き、変更することはできない。

 

同項例外規則第2項――最上位クラスに限り下位3クラスに対し、代表者変更権を有し、またこれを申請できる権利を持つ。

 

大会運営により申請が受理された場合にのみ、この権利が有効とされ、実行される。

 

そして代表者変更の対象となる生徒は、これに対し、変更を受諾する権利と拒否する権利が与えられるが、拒否した場合は大会運営の酌量にもよるが、基本敗北と見做す。

 

はい、わかった人~!

 

うんうん、わからなかった人もう一度、言葉一つ一つを噛みしめてもう一度読んでみよう。

 

 

 

 

 

なんちゅー暴虐ルールッ!!

 

 

 

 

 

あり得ないよねぇ!

 

分かった人も分からなかった人も取り敢えずこれだけは分かれ!

 

()()()

 

内容を要約してやる。

 

 

Aクラス「俺こいつとやるのやだ、対戦者俺の選ぶやつにしろ」

 

 

Fクラス「え…いやなんすけど」

 

 

Aクラス「お前に拒否権はない」

 

 

こ れ で あ る 。

 

さらに学園直属の運営委員や教師どもらAクラスに迎合している、悪く言えばAクラスのイエスマンみたいな奴らばかりで(禍酒先生のような例外もいるが)、

 

申請といっても余程のことがない限り突っぱね返されることはない。

 

はっきし言おう、酷い!

 

これは実力主義社会の刺客による悪辣な俺ルールだ!

 

こんな弱者を顧みない強者を根底とした陰湿なルールなぞ排斥されて然るべき!

 

 

 

 

 

…と思っていた時期が俺にもありました。

 

ええ、有りましたともさ。

 

小学生の自由作文さながらに6連装エクスクラメーションマークを武装させた俺の尊い自己主張をさせては頂きましたが、

 

いいんです。

 

その件に関してはもう俺のなかでは赦されたのです。

 

あたかも十字教の聖画に描かれた慈母の如く享受したのです。

 

決して一つ前の章で偉そうなことを言った手前、あまり強気に出られないわけではないのです。

 

強者というものは地位、名誉、権力…etc.と背負うものが多大であり、同時に失敗に付きまとう損失も比例して大きい。

 

故に強者というものは完全性というものに固執し、決して失敗してはならないという悪魔の契約めいた強迫観念に基づき、

 

弱者を蹴落としてまでも現在の地位や待遇にしがみつこうとする。

 

ええ、そうです。

 

それが有史以来の人類普遍の原理なんです、分かってるんです。

 

なので、このルールを初めて知ったとき、あまりの憤慨に車座の腕を手先が鬱血して青紫色に変色するまで握りしめたりなんかしてないんですハイ。

 

 

「なんちゅう自分勝手なルールや!自動的にAクラスが絶対有利になるように誘導しとるやんけ」

 

 

「そうともさ、完全実力主義のこの学園ならこんくらいしてくるとは思ったがな」

 

 

「あん時、自分が儂の右手の血の気退くまで橈骨動脈を握り締めてたんはそれやからかいな」

 

 

「……すまん」

 

 

「ええわ…」

 

 

俺らが大会規則のことを引き金に車座の手首についてのけじめをつけていると、

 

すると先程までしていた『対戦相手変更に際してルール変更の云々かんぬん』の話が終わったのか、

 

再び俺の名前が呼ばれ、俺はそちらに意識を戻した。

 

 

『ついては白鵺陵には、この場にてホログラムデジタルを用いた対戦相手変更に対する意思確認を行わせてもらいます』

 

 

その声に追随するように俺の目の前にホログラムモニターが現出した。

 

25cm×15cm程度のモニター上には大きめの二つのボタンが表示され、それぞれに簡素な明朝体で二文字の熟語が刻印されていた。

 

 

『何故デジタルを用いた意思確認をするのかということですが、夫れこの『クラス対抗代表者模擬魔法戦闘』は学園の行事としてのみならず、

 

生徒個々人の評価、内申、ひいては魔法使い(ウィザード)としてのレベルにも影響しますので口頭による約束という不確定事項を採用するに能わず、

 

今回このように個人の意思を記録として半永久的に保存する手段として、この方法を採らせてもらいました』

 

 

要するに紳士協約じゃあ白を切られても困るんで、絶対に文句を言わせないよう永遠に言質が残るようにするってか。

 

こえぇぜ、最近の学校。ゾクッとする。

 

アナウンス越しの教師の声を頭の中でよく反芻し、慎重に判断する――

 

までもなく、俺はモニターと対面する。

 

視界に映ったのはY/N形式にボタン上に記された二字の熟語、が二つ。

 

承諾(Accept)拒否(Deny)

 

無論、優勝が第一目標たる俺らに拒否という選択肢など元々無いも同じである。

 

この後の行動など考えるまでもないのだが、この機に俺は少し周りを見渡した。

 

一面に広がる花畑のように全景を埋め尽くす目、目、目。

 

ちょっとしたコミュ障やあがり症の奴がここに立ったらコンマ数秒で卒倒するだろう。

 

巫仙を見る。大してリアクションは得られないが、僅かに緊張した面持ちだ。

 

車座を見る。試合に出なくてすむ安堵感と空気に触発された緊張感も相まってなかなかカオスな表情をしている。

 

久しぶりに我が愛し妹を見る。ここからじゃ表情の微細は窺い知れないが、俺のことを心配してくれていると嬉しい。

 

そして緋狩澤光を見た。彼女は自らの巣に嵌まった憐れな捕食者を眇める蜘蛛を思わせる獰猛な目付きで俺を見ていた。

 

両者のようで視線が交錯する。

 

もし視線が電子を有していたら今、両者の中間点でスパーク現象が起こっていただろう。

 

思えば体感では短かったようで、今回は割と大人数の智略が張り巡らされていた。

 

ここにいない奴らだったらメイスィ・グレイや咢埜開耶先輩、ある意味だと愛神先輩もなのか?

 

Aクラスの覇道の世界か、はたまてFクラスの下剋上か。

 

幾多の策謀とあるいは死屍累々、死山血河を踏み越えた末、どちらに勝利の女神は微笑むか。

 

とまで言えば流石に大袈裟すぎるが、おそらくここでの勝敗結果は徹頭徹尾、最後の最後まで引きずられるだろう。

 

強者の蹂躙に弱者が牙を剥けるかは、多分、今に掛かっているのだ。

 

ゆっくりと視線をモニターに戻す。

 

俺は須臾も迷うことなく、

 

受諾(Accept)のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 




次回、おそらく決戦
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