投稿は昼だけど、書いてるのは深夜なんだ。
絶賛二徹中であります。
やったね!もう少しで有野に勝てるよ!
1
魔法学園の授業は入学式の翌日から始まる。
ただし、さすがに初日から授業の進行予定が未聞のままで始めるのは些か性急なので、
初日はオリエンテーションという名のガイダンス(担当教師の紹介やカリキュラムの説明)が行われるとのこと。
そして、その授業を直後に控えたHR。
本日のホームルームは平常時と違い、少し長めに取ってある。
長いのか。面倒くさいな。
などという、安直な理由で昼寝という手段を用いて完全スルーを決め込んだ俺。
そして今は長いホームルームも終わり、ちょっとした休み時間。
この次の一時限目からは早速、魔法学園の授業のオリエンテーションが開始する。
しかし、魔法学園などというお題目を掲げてはいるが、カリキュラムは至って普通。
とのことらしい。
さて、ここで魔法学園授業科目11科目を紹介しよう。
現代文学。
古典文学。
応用数理。
応用幾何学。
物理学。
化学。
地学。
生物学。
外国語選択科目。
魔法選択講義。
魔法実習。
どこが普通だよ。
普通なところが半分もねえよ。
どこの専門大学いったらこんな授業受けれんだよ。
と、いうわけでキチガイみたいなカリキュラムを受けさせられる未来が確定した俺だが。
まあ、楽しくやっていこうと思う(絶望的な目)。
キーンコーンカーンコーン。
――というお決まりの音は鳴らずに、代わりに全く聞いたこともないようなヒーリング系の
音楽がなったが、これが恐らくこの学園における授業開始のチャイムだろう。
ああ、カルチャーショックカルチャーショック。
かくして、魔法学園に入学して初の授業と相なった。
2
Time Flies.
和訳:光陰矢の如し。
という訳で時間は飛びに飛んで昼休み。
ちなみにキングクリム〇ンは使ってない。
昼休みは4時限目の後で、
1時限1時間換算で休みも少しずつ挟んでるため4時間ちょいという時間を俺は体感したにも関わらず、
僅か一瞬で時間跳躍。
こまめな章替えスキップの便利さを痛感。
そして、こんな学園でも昼休みというインターバルが存在するのに対して僅かに心の癒しを見出した俺だった。
そんな訳で昼休み。
俺はリア充か非リア充かと問われれば、どちらかというとリア充という部類に入って
ので、妹(←重要)の寵と彼女(←重要)の巫仙と親友(?)の車座くんと俺の席に固まって一緒に教室で楽しく会
話していた。
「へぇ、この嬢ちゃんが陵の妹か」
車座が俺の隣に座った妹を見て、温かい目でそう言った。
妹は褒められたからか後頭部を摩り、えへへー、と恥ずかしそうに目を細めた。
「まあな。可愛いだろ」
俺自慢の妹だ。
「おうおう、えらい別嬪さんやな」
「おいおい車座クン。そういう目で妹を見るのはアウトだ。ねじ切るぞオラ」
呼吸をするようなオーバーキル宣言だった。
「見よらん見よらん!気のせいや」
「陵さん、少し殺気を収めてくださいな」
「おっと、失礼」
いかんいかん。
妹のことになるとつい殺意の波動が出ちゃうんだ。
てへっ☆
「もう、おにーちゃんは…」
「…これじゃ、シスコン神やな」
「おいおい、アメリカ合衆国中西部の州みたいなあだ名つけてんじゃねえぞ」
ウィスコンシン、みたいな?
「ところで陵」
「何だ」
「儂は自分の妹、なんて呼べばいいんや?」
車座がそう訊いてきた。
「はあ?普通に黒鵺さんでええやろ」
「いや、それやと距離感あるさかい。やけど儂はシスコン神の兄の前で妹を下の名前読みするような
死に急ぎではあらんし…
ほんなら、『妹はん』でええか」
「いいんじゃねえの?」
しかし、よくよく考えてみれば。
黒鵺寵との兄妹性をアピールできるという点においては悪くない。
車座にしてはいい判断だ。
などと、談笑を繰り広げていたところで、
一つ問題が発生した。
そしてその渦中にいるのが、我が妹たる黒鵺寵である。
俺の自慢の妹は、その類い稀なる愛くるしい幼顔とあどけない仕草により、既に彼女の所属するBクラス内で多く
のファン層を獲得していた。
それ自体は兄としても鼻が高いのだが、
その弊害として少し困った集団が生まれてしまった。
いわゆる、追っかけだ。
妹に、ハートを完全に掴まれてしまった非リア共が、ほいほいと釣られて行く先々に付き纏ってくるのだ。
というか憑き纏う、って感じ。
その有様はまるで、
電灯に群がる蛾のような。
あるいはゴキブリホ〇ホイに自ら足を突っ込むGのような。
引く手数多が高じてしまった、そのストーカー染みた追っかけに妹は最近頭を悩ませているのであった。
そのため本来ならば、兄という身分として妹の護衛の為に一肌脱ぐべきなのだろうが、
如何せん俺はFクラス、ランク外
ここで余計な茶々を入れてしまえば妹の学園生活に支障を来す可能性もある、という危惧からなかなか手を出せず
にいる。
本当は殺してやりたいのが本音だ。
で、その追っかけの奴らは驚くべきことに我らFクラスにずかずかと上がり込み、開口一番、
「おい!『
「身の程を弁えろ!」
と怒鳴った。
これには他のクラスメイト達もたちまち委縮。
教室内には気まずい沈黙が流れた。
絡んできたのは男子生徒四名。
全員Bの連中だろう。
でも、俺らを貶せる程度には自らの力を過信しているわけだから上級以上は確実だろう。
ガキか。
「うるさいのぉ、自分!誰と一緒におったってええやろが!」
「ちなみに言っておきますが、『
このような多くの耳目を集める場ではタブーですわよ」
車座は売り言葉に買い言葉、巫仙は冷静に男子生徒たちを窘める。
「お前らみたいな三下なんかと一緒にいると、黒鵺さんの質まで下がるんだよ!」
お前、俺の妹のなんだよ。
兄を置いて何勝手に妹の人となり決めてんだよ。
「黒鵺さんは俺たちみたいな人と一緒にいるべきだ、そうだろう黒鵺さん?」
あのー、目の前に義兄いるんですけど…見えてます?
風貌、風体、語調は悪くない(礼儀は最悪だが)彼らは恐らく親の脛を齧ってるセレブのボンボンがいいところだ
ろう。
ったく、いつの時代も貴族連中は下の人たちからは平気で物を奪ってもいいと勘違いしている節がある。
ノブレスオブリージュは全うしやがれ。
「そういうのは本人が決めるこっちゃ、言ったれ妹はん」
おい、車座。地味に妹を階級抗争の矢面に立たせてんじゃねえ。
「え、いや…寵はその…差別はよくないと思います。
寵だって本来は――」
車座に無理やり言わされる羽目となった妹もたどたどしくだが、中立の立場を表明する。
「いいんだよ黒鵺さん、そんな魔法使いとすら認めてもらえない
我が妹の言葉を遮るように男子生徒は諭すように言った。
男女関わらずこの言い方には相当むかつくものがある。
これには今まで堪えに堪えていた車座がキレた。
既にキレまくっていたように見えたが、激情型の車座はあれでも随分堪えていた方だ。
「じゃかあしい!!他人に自分らの考えを押し付けんな!!
もう我慢出来ん!いっちょドンパチやったろやないか!!」
ついに車座が宣戦布告した。
いかんな。
車座は怒りで我を見失っているようだが、冷静に考えてもみろ。
相手は上級以上の魔法使いが四人。
対してこっちは最下級魔法使いが一人、ランク外がニ人。
仮に我が妹が加わってくれるとしても戦力比はさして変わらない。
しかも場所が悪い。
きちんと正規の魔法実習室を使うのならまだしも、こいつらは今にでもおっ始めんとばかりに戦闘の構えをとっている。
狭小空間じゃ実戦経験の少ない俺たちの方が分が悪い。地の利って奴だ。
技術力でも経験力でも負けるんじゃあ勝ち目はあまり無い。
――仕方ない。
ここは、俺が出るしかないな。
ついでに我が妹にも兄としての尊厳を示さねば。
「おい」
「何だ」
いきなり睨まれた。
怖い怖い。
「お前ら落ち着け。車座もだ」
「しかしだな、陵!」
「やめろ。非正規の場での魔法行使は校則違反。厳重に罰せられるぞ」
俺が重い声音でそう脅すと、車座と男子生徒たちも渋々と言った様子で闘気を収めた。
「…お前、何様だ」
男子生徒の一人が突っかかって来る。
俺は韜晦することもなく答えた。
「黒鵺寵の兄――白鵺陵だ。苗字から察せられるとおり義理の、だがな」
「兄…」
男子生徒たちは押し黙る。
身内が相手となっては流石に退くべきと思ったのか。
だが、
「こんな出来の悪い、落ちぶれ魔法使いが兄じゃあ、随分な汚点だろうな」
捨て台詞と言わんばかりに男子生徒が毒を吐く。
その台詞には俺もぶちギレそうだった。
いや、もう既に、かもしれない。
頭の中で何かが切れた、というのは使い古されたベタな表現だが、確かに。
俺はその何かが切れてしまう寸前で立ち止まった。
表情にも言動にも出すことなく、滾る怒りの感情を抑え込む。
殺意の波動は出てないよな?
二度目になるが、俺は兄妹云々の問題に関してはかなりナーバスなのだ。
直情的と言ってもいい。
それが少し心配だった。
それでもどうにか沸騰するような感情を落ち着けた俺は、極めて冷静に、理性的に男子生徒たちに対応した。
「兄妹感情は抜きにして、妹は俺たちと一緒にいたいと言っている。
ならばそこは本人の意思を尊重すべきじゃないか?
それを無理やり引き剥がすのは褒められたことじゃあねえぞ」
俺が言うと、男子生徒が食って掛かった。
「別に、俺たちは無理強いしてるわけじゃない。ただ、お前らみたいな落魄した奴らと
一緒にいるのは黒鵺さんにとってもいいことじゃないと言っているんだ。
朱に交われば赤くなる、という言葉ぐらい知ってるだろう」
「それだったらお前らみたいな差別的思考を持った奴らと一緒にいた方が妹の教育上悪い、と
兄の観点で言わせてもらうがな」
と、そこまで言って、俺も相手を主観的な意見挑発してるような言い方をしているのに気付く。
いかんいかん、これじゃあアイツらと同じじゃあないか。
「それに、お前らは後からずかずかと割り込んできた癖に邪魔になっているという自覚がないのか。
少なくともこの状況で妹と一緒になれたとしても雰囲気を悪くしたままだというのは自明だろう」
俺はなおも続ける。
「それに中正中立を謳っている妹に対して、これ以上差別的なことを
無闇に下げるだけだ。それは、お前らにとってもクレバーじゃねえだろ」
「クッ…」
ついに相手は反駁できなかった。
完全論破の瞬間だった。
これにて白鵺劇場終幕。
あとはいい感じに丸く締めてセーフティーにお帰り頂こう。
「分かったら今回は大人しく引き返すことだ。もしかしたら別の日だったら妹もオッケーしてくれるかもしれない
ぜ」
「……」
男子生徒たちは悔しそうに己の下唇を噛んでいるが、なかなかその場を動こうとしない。
参ったなあ、だんまりか。
早く帰ってもらわないと、妹と一緒にいられる時間がどんどん短くなるんだが。
「お前ら、周り見ろ」
そう言われて男子生徒たちは俯きがちに周囲を窺う。
そこにいたのはあちこちで固まって、先ほどまで仲良く談笑したり、昼食を食べていたFクラスの面々だ。
今は全員、男子生徒たちに対し、冷やか視線な視線を送っている。
誰も際立って敵愾心を露わにはしていないこそすれ、決して歓迎はされていなかった。
つまり、彼らは孤立必至なのだ。
状況的に。場面的に。
「お前らにとっても居心地はよくねえだろ。
さあ、帰れ」
俺は棘のある言い方をせずに、優しく諭すように言った。
分かったか。諭すような口調ってのはこういう時に使うんだぞ。
「チッ…覚えてろよ!」
という捨て台詞を残し、男子生徒たちはきまり悪そうに頭を垂れたまま、足早に教室を去って行った。
少し哀れな男子生徒たちを憐憫の眼差しで見送っていると、
パチパチパチ、と。
教室のどこかから拍手の音が響いた。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ――
やがて和音のように拍手の音は重なり、
教室中に拍手喝采が響いた。
「さっすが、おにーちゃんだねっ」
やめろ、マジで嬉しいじゃねえか。
3
思いもしない拍手喝采を受け、少し恥ずかしくなった昼休みだが、その後は
楽しい昼休みを過ごせた。
続いての五時限目は『魔法選択講義』。
一回目である今回は、もちろんオリエンテーション。
今後の授業の概要と、選択科目それぞれの説明があった。
選択科目は、
魔法産業――魔法を
魔法史――簡単、魔法の歴史を学ぶ学科だ。
魔法理論――魔法発動の理論を自然科学、工学、高等数学、幾何学的観点から学ぶ学科だ。
また、次回以降は選択科目ごとに講義場所を変えるとのこと。
そして、どの学科を受けようかと考えつつ(といっても、どれも碌なものじゃなさそう)、ついに来た六時限目で
ある。
やった!これが終わればもう帰れる!
なんて、六時限目をワクワクしながら受ける人も少なくないはず。
という訳で、六時限目は『魔法実習』である。
やっと魔法学園らしい科目である。
これは一般高校でいうところの保健体育だ。
多分違うけど。
場所は変わって『魔法実習室』。
そのうちの『第一魔法速度実習室』。
魔法の強度を決める三つの要素、
これの教練が行わる教室だ。
その教室で、俺らは魔法の高速発動訓練を行っていた。
では、どうすれば魔法をより早く発動できるのか。
という問いには、『イメージを鍛える』しかないと答えておく。
そもそも魔法自体、イメージの延長線上の産物である。
魔法の威力、効果適用範囲、発動遅延、魔法の生成座標、
とここまで語っておきながら、俺は魔法の構造について全くもって微塵も注釈を入れてないことに気付いた。
ので、説明しよう。
俺らが操る(正確には俺は使えない)魔法は、RPGゲームみたいに『〇属性』とか『毒』とか『麻痺』とか
そんな安直に済まされるものではない。
いや、正確には『〇属性』というのは正しいかもしれない。
なにせ魔法の主体というか根幹は『
即ち――地、水、火、風、空、である。
俺の専門分野である、陰陽五行説――木、火、土、金、水、でなかったのは少し残念だった。
とはいえ魔法は『
それに付随する現代科学で証明された現象、いわゆる『
たとえば、『
エトセトラエトセトラ。
そのような
そして重要視されるのが、それらを決定するまでの処理
いかに高速に精密かつ高威力の魔法を繰り出せるか。
魔法使いとしての真価が問われる要素である。
ちまちまのろのろと魔法を練ってても相手は待ってくれないものなのだ。
と、いう訳で舞台は『第一魔法速度実習室』である。
その『第5射撃レーン』で俺ら――俺、巫仙、車座は仲良く並んでいた。
順番は車座→俺→巫仙の順だ。
魔法訓練室の内壁は
これは、万一魔法の暴発が起こった場合を想定した予防措置である。
さらには万難を排するため監督の教師もついている。
これは不正などの有無をチェックするためという意味合いの方が大きいが。
万全を期した対応である。
『計測終了。計測結果。魔法発動から
というアナウンスが聞こえた。
俺の前々々列の生徒の計測が終了したようだ。
と同時にレーンの奥のディスプレイに生徒の出席番号や名前とともに『2.17sec +0.48sec』という数字が表示される。
この『2.17sec』は勿論生徒の記録秒数で、その隣の『+0.48sec』というのは
そのクラスの平均記録(この場合の平均記録とは入試時に計測したもの)との差である。
つまり、前々々列の生徒は平均記録よりも0.48秒上回っているということであり、このFクラスの平均記録秒数
は2.65秒である。
計測を終えた生徒が最前列を離れ、列が流れ、俺の前々列の生徒の計測が始まった。
「なあ、車座」
「何や」
「そういえば、まだ聞いたことも見たこともないが、お前ってどんな魔法使うんだ?」
そう訊くと、車座は恐縮したように答える。
「別に自慢できるほどのモンでもあらへん。ちょっとした空気砲や」
「空気砲?」
空気砲ってあれか?
あのド〇えもんの?
「なにそれすっごく萌えるんだけど」
「何、大したほどのモンやない。
ただ空気を圧縮して、二、三気圧程度の圧縮空気を作るんや。
あとはソイツを発散させて飛ばすだけや。エアーコンプレッサーと同じ原理やな。
ついでにソイツに炎や水とかの
俗にいう、ファイアーボールとかウォーターボールみたいなモンにするんや」
「よし、百聞は一見に如かずだ。すぐにやれ」
それめっちゃワクワクする奴ですやん。
俺にもそういう時期があった。
詳細な例を挙げれば、某横スクロールアクションゲームの配管工よろしく火の玉を頑張って出そうとしていた時期が。
と、期待を膨らませていると車座の前列の生徒の計測が終わった。
結果は平均に僅かに及ばず。
残念だったな、さあ代われ。
そして車座が発射台に立つ。
「さあ放て。お前の内に秘めし
「分かっとる」
そう言って、車座は発射台の傍に設置された小型端末器を操作する。
と言ってもリストから本人名を選択し、『計測開始』のボタンを押すだけだが。
仕組み的にはこの『計測開始』のボタンを押すと、カウントが始まると同時にダーツの的のような標的が出現し、
それを目がけて魔法を当てる。
無論、的の方にも
標的までの距離は25mという設定。命中と同時にカウントストップ。そこから記録が算出されるのだ。
「じゃあ、始めるで」
車座は『計測開始』のボタンに手をかける。
「ああ、やれ」
「ほな」
車座の手が端末のディスプレイに触れた。
同時に――
「
車座が何か小声でぶつぶつとそれも早口で呟いた。
これはいわゆる詠唱だ。
先ほど、魔法はイメージの延長戦上の産物と説明しただろう。
しかし、車座のような下級魔法使いにはそのイメージの確立が困難な嫌いがある。
ならばどうするか。
言葉にするしかない。
言葉によってイメージを具象化することで、『話す』に加え、自分のその声を『聞く』という
二重の確認作業ができるのだ。
このイメージの具象化を助けるプロセスを『詠唱』と呼ぶのだ。
勿論、百戦錬磨、海千山千、プロフェッショナル、ベテランの魔法使いにもなると、
こんな面倒くさい確認作業なんて無用の長物なので必要としなくなる。
そんな訳で、それでも零コンマ数秒以下の早いスピードで詠唱を済ませた車座は手を前方に翳す。
この行為も一種の確認作業。
魔法の生成座標の確定にはこういう目安があった方がいいのだ。
そして無論、プロの魔法使いは一切のノーモーションで不意打ちのような魔法を繰り出すことができる。
瞬間――
車座の掌の前には詳細図…否、小サイズの火の玉が出来上がった。
思うんだけど、あれって熱くないの?
昔から見てるアニメの中の人達って結構平気で炎を体に纏うけど、あれって火傷しないんだろうか。
例えば、サ◯ジのディアブ◯ジャンプとか豪◯寺のファイアートル〇ードとか炎髪灼眼のフレ〇ムヘイズことシャ〇ちゃんみたいな。
見てるこっちがバーニングだ。
失礼、話しが逸れたな。
車座により生成された火の玉。
現在は圧縮した空気に火の恩恵を乗せたってところか。
あとはそれを放つだけだ。
「撃つでえ!」
そう叫んで、車座は目の前の火の玉を一気に発射――発散させた。
車座の元を離れた火球は鮮やかな緋色の尾を引き、標的に命中――
――しなかった。
しねえのかよ!
あらぬ方向へ飛んでいった車座の火球は標的より大きく右に逸れて壁に直撃し、あえなく霧散した。
「このノーコン」
「ええやん。ファイアーボール見れたやろ」
「そりゃそうだが…」
まあ、それに関しては儲けもんだ。
車座の投擲に計測機械が算出した記録は『No Record』。
当たり前だった。
「さ、次は自分の番や」
自分の失敗などどこ吹く風、車座はさっさと俺に振ってきた。
「ったく、わあったよ」
と、悪態つきながら射撃台に上るまでは良かったが、そこである問題に気付いた。
あれ?俺、魔法使えないんですけど?
俺が使えるのは魔法じゃない。
俗にいうところの『陰陽術』だ。そして後ろの巫仙さんは『巫術』。
つまり魔法なんて全くの専門外。お門違いだ。
じゃあ、何でそんなお門違いの問題外な俺が
陰陽術・巫術――魔法社会ではこれらを総じて『古代魔法』と呼ぶ。いや、魔法じゃないんすけど――の
稀有性・希少性からだ。
この魔法学園は魔法使いの養成だけでなく、魔法の研究なども行っているそうだから、
俺らみたいな『古代魔法』術者はできるだけ取り込んでおきたいのだろう。
という訳で、彼の舞神千歳学園長直々に補欠入学の許しを頂いているのだった。
話しが長くなったな。
要約しよう。
魔法、ツカエナイ。
どうしよう。
これ、監督教師に言って、やめさせて頂いた方がいいだろうか。
なんて言ったらいいんだ。
『魔法使えないからできましぇーん』ってか。
アホか。
仮にも魔法産業の草分けたる国家機関で何抜かしとんじゃ。
恐らく学園長の方から教師の方にも話は伝わっていると思うが、万一の場合はかなり説明と釈明が面倒くさいもの
になる。
どう説明するんだ。魔法学園なのに魔法使えないって。
しかも俺の横じゃあ車座が、俺の魔法を楽しみに見物している。
後ろを振り向けば後続の生徒たちも大勢いる。
このレーンに並んでいるのは決して俺たちだけではないのだ。
ここであまりもたついていると後ろからのバッシングに耐え切れない。
そうだ!
巫仙だ!巫仙に助けを請おう。
彼女なら俺と同じ境遇なうえ、頭も切れるし、この場の最適な切り抜け方を授かれるはず!
Hi!巫仙!我助求!
ん?巫仙さんはどうやら
えーっと、なになに。
『ふ ぁ い と』
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいッ!!!
確かに字面的に頑張る気が出まくるような文面ではあるが、巫仙さん!?
確実にこれ、俺を見捨ててません!?
というか、あなたもその渦中ですよー!
巫仙さーん!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、愛する彼女との命綱を完全に失ってしまった俺だが、唯一生き残った理性で
とりあえず適当な術かましてこの場を切り抜けようという、ハッタリ作戦に走ることに決まった。
最悪、監督教師に目をつけられるかもだが、そんときはそんとき。
きっと巫仙さんが助けてくれるはず(棒)。
という訳で、俺は陰陽術の中でも結構手軽に、簡単に出せる技を披露することに至った。
何を披露するかと言えば、俺の従える式神のうちの『雷獣』の力を借りた『雷撃術式』である。
電撃は魔法の方でもなかなか珍しいものでもない。
そもそも電流は導体間で自由電子が正極に引きつけられることで発生するため(多分)、
電荷とか電場を上手い感じに操作すれば再現できると思う。
詳しいことは知らん。
だって俺、理数系じゃねえし。
といっても文系でもねえし。
雷撃の威力はできる限り最小限、狙いはブレないように低出力になるよう設定した。
これなら問題なく、この速射実習も切り抜けられる!…はず。
俺は制服の胸ポケットから出した白鵺の家紋が描かれた霊符を構える。
「何やそれ」
と、車座が訊いてくるので「ただの紙切れ」だよ、と誤魔化した。
「んじゃあ計測開始」
極めて冷静に取り繕って『計測開始』のボタンを押した。
同時に、的がせり上がってくる。
『雷撃は光
これが本当の呪文だが、全部は言わない。どうせ弱体化版だし。
前半は端折って、後半だけでも言えればそれだけで術にはなる。
「紫電閃飛、急々如律令」
俺も呪文の高速詠唱を始める。
勿論、小声でだ。当たり前じゃん。恥ずかしいだろ。
自然と早口にもなる。
「変わった詠唱や――」
変わった詠唱やな、とでも言いたかったのだろうが、残念ながらその声は遮られた。
何に。
凄まじい稲光とけたたましい轟音にだ。
さらに驚愕すべきことに俺の前方では煤けた黒煙が立ち上っていた。
何か。
的が焼け焦げていたのだ。
もう察しのいい人なら状況を理解できただろう。
俺の術発動の下、霊符より発せられた唸るような雷戟が、あろうことか的を破壊してしまったのである。
何故こうなってしまったのか。
勿論、手加減した。
手心、仏心を加えて放ったつもりだ。
自分の術すらまともに統御できないほど、俺はビギナーじゃない。
自分の中でも最小限、最低限ともいえる出力で術を放ったのだが、あにはからんや。
元々の術のステータスが高すぎたのだ。
故に最小の威力でもこの有様である。
先ほど、的は
陰陽術はその対象外である。
『古代魔法』などと謳われておきながら、それは魔法の範疇に非ず。
俺は無残に燃え尽きていく標的を遠い目をして見送った。
隣の車座は口をぽかーんと開けて魂でも抜けたように茫然としている。
というかそれはクラスメイト全員だった。
うわ、監督教師までも。どうしようこの状況。
これなら正直に監督教師に打ち明けて、すごすご退場した方が十全だったかもしれない。
失策失策。
俺の後ろではただ一人平然としている巫仙がクスクスと笑みを零していた。
酷し。
ああ。
あともう一つ誤算があったのだった。
雷というのは、光速には届かないこそあれ音速よりは速い秒速150km程と聞く。
『27番 白鵺陵 計測結果――
魔法発動から
レーンのバックスクリーンにも記録が表示される。
『0.87sec +1.78sec』
かくして俺は、魔法学園史上に名を残す大記録を打ち立ててしまったのである。
現在、両手の小指一本ずつで緋想天プレイに挑戦中。
スぺカの送りと発動が地味に難関。
ダッシュをすると、マジで指痛い。
現在、自機咲夜でstage2まで到達。