鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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遅くなりました、すみません。

今回、ダッシュが多いです。気を付けてください。


第肆話 屋上ノ影 -time camellia-

1

 

魔法実習でなんかいろいろとやらかしちゃったこの俺白鵺陵は、

 

各メディアにおいてラブコメの聖地と称される生徒会室に来ている。

 

ただしその内情は、『ラブコメの聖地』というチープで陳腐な二つ名に反して、

 

 

 

 

 

――修羅場と化していた。

 

 

すまん。語弊があったな。

 

 

 

 

 

ただの修羅だ。

 

 

「で、最大限手加減した雷を撃ったつもりだったけど、思いの外その威力が強すぎて的を壊しちゃったと」

 

 

「(  ― ―)( _ _)コクリ」

 

 

「あの的ねえ。結っっ構、高いのよ。なんせ魔法吸収装置(ウィザーディングアブソーバー)をコンパクト化して詰め込んであるんだから」

 

 

「(´・ω・`)ショボン」

 

 

「金額にして――そうねえ、こんくらい」

 

 

そう言って、愛神先輩は指を立てて金額を示した。

 

高ッ!!

 

高すぎんだろ!何だよ、その法外な金額は!

 

想像よりも三桁ぐらい多いじゃねーか!!

 

 

「(;´Д`)ウェーン」

 

 

「まあ、今回はこちらの配慮が至らなかったのも原因の一環だし。

 

 今回は生徒会の予算でなんとか捻出してみるけど」

 

 

「(  ― ―)( _ _)(  ― ―)( _ _)コクコク」

 

 

て、天使だ!

 

天使がいらっしゃる!

 

 

「( ;∀;)パァ」

 

 

「ちょっと。表情だけじゃ伝わらないわよ。ちゃんと言葉にしないと」

 

 

そうだな。

 

この感情は筆舌に尽くしがたいものだが、言葉にしなければこの想いは伝わらないのだ。

 

 

「こんな私めの失態に対し、これほどの善処、感謝の極み、ご慈愛痛み入ります愛神様」

 

 

「さ、様!?」

 

 

愛神先輩は驚きのご様子だが、構わない。

 

どうにかしてこの感謝の気持ちを伝えねば。

 

 

「かくなる上は愛神様を主神として奉り、私のみならず末代まで崇敬させる所存です」

 

 

「そ、そこまでしなくていいわよ」

 

 

愛神先輩にドン引きされてしまった。

 

うーむ、ショック。こと信仰心の厚さにおいては俺の右に出る者はいないと自負しているのだが。

 

その証左にこの妹信仰あり、である。

 

 

「ハッハッハ。面白いなぁ、君は」

 

 

と、軽快な笑い声の主は愛神先輩の隣に座っていた。

 

首の付け根まである長い黒髪を後ろで結んだ、如何にもパンクそうな風体の男だ。

 

勿論、初見である。

 

 

「おっと、これは紹介が遅れたな。俺は東破魔蜉蝣(とうはまかげろう)という。

 

 つっても、光の屈折現象の方の『カゲロウ』じゃあねえぜ。

 

 カゲロウ目の不完全変態を行う有翅類の方の『カゲロウ』だ。

 

 一応、この学園の風紀委員長を務めている者だ」

 

 

「…どうも」

 

 

 

 

小難しい名前の紹介をする人だった。

 

正直、抜錨します!の方の陽炎しか思い浮かばなかったぜ。

 

というか陽炎型駆逐艦めちゃくちゃかわいいよな。

 

ちなみに俺は九番艦の天津風推し。

 

ネコ耳ツインテール+絶対領域とか何それ。誘ってんの?

 

 

「ちなみにこれでも四神の一角を任されてたりする。知ってるかな?」

 

 

「ええ、存じ上げてますよ」

 

 

四神。

 

いつだか触れた十神眷属の補佐役、というよりは守護役を務める四天王的存在。

 

古代中国思想の四神になぞらえた四柱の瑞獣――『白虎』『青龍』『玄武』『朱雀』を司る四家のことを指す。

 

何で、日本の八百万の眷属たる十神眷属を古代中国の獣で守らせてんだよ。

 

と、疑問に思う方々。

 

俺も知らん。

 

とりあえず、多くの日本人が信仰している仏教だって元々は大陸文化だった、という理屈で納得してくれ。

 

そして、この東破魔蜉蝣――風紀委員長。

 

彼の帰属する『東破魔』家は四神のうち、東方の守護獣たる『白虎』を司っているのだ。

 

聞くには、『白虎』の一族は戦闘派過激集団の集まりって風の噂で聞いたんですけど大丈夫ですよね(震え声)。

 

 

「ほう、君が…愛神が言うには、速射実習場の的を燃えカスに変えたクレイジーな後輩と聞いているが」

 

 

「何つう紹介してんすか」

 

 

「アハハ~」

 

 

俺は恨めし気に愛神先輩を睨んだ。

 

それに気づいた先輩は棒読みしながら、ナチュラルに目線を逸らしてきた。

 

オイこら逃げんなや。

 

 

「別にわざとじゃあないんすよ」

 

 

「それはちゃんと聞いてるよ。にしても君が『古代魔法』使いか…

 

 風の噂には聞いていたが――何たって、俺んとこにはなかなか情報が回ってこないんだよ――まさか、

 

 こんなに早く邂逅できるとは。

 

 縁は異なもの乙なもの、とはよく言ったものだな」

 

 

「味なもの、です」

 

 

縁は異なもの味なもの、だ。

 

何だよ、乙って。

 

一瞬それっぽいって思ってしまったじゃねーか。

 

 

「おい」

 

 

と、右隣から随分と威嚇的に声をかけられた。

 

耳元をねぶるような恐ろしいどすの利いた声である。

 

突然だったので、普通にビクってなってしまった。

 

やめてくれよぉ。ただでさえ生徒会室とアウェーの洗礼を受けてんのにこれ以上の脅かし要素は…

 

 

禍酒(まがさか)先生…」

 

 

禍酒呪里(まがさかじゅり)――先生。

 

俺の所属するFクラスの担任、兼学年主任を務めている。

 

一応、言っておく。女性だ。

 

外見年齢は24、5歳ぐらい(ということにしないと殺られる、割とマジで)。

 

名前から察せられるとおり、彼女もまたへんちくりんな名家のお嬢様らしい。

 

ナニコノガッコウ、ナンカコワイ。

 

見た目は道端ですれ違ったら振り返って二度見してしまうぐらいの美人。

 

しかし、残念なことに言葉づかいと酒癖と男運が悪い(同窓生談)。

 

同窓会で店中の酒を全て飲みつくしたという伝説がある。

 

酒呑童子かよ。

 

一瞬、名は体を表すってこのことか、って思っちまったじゃねえか。

 

()々しい()飲み…やば、俺上手くね?

 

 

「おい、白鵺。お前今、猛烈に失礼なことを考えなかったか?」

 

 

ギロッ、と人殺ぐらい余裕でできそうな鋭利な眼差しでこちらを睥睨する禍酒先生。

 

こわっ、心読んだのかよ、この人。

 

さとりさんなの?第三の眼(サードアイ)でも持ってるの?

 

幻想郷へいってらっしゃい。

 

 

「そ…そんなことはござりません」

 

 

俺は変な口調になりながらも委縮して否定する。

 

僅か数秒で身も心も屈伏。なにこの人、ギアスにでも目覚めたの?

 

まあ…見ての通り、俺はこの人が苦手である。

 

理由は簡単。普通に怖いから。

 

だって見てみろよぉ…いたいけな小動物を殺戮せんと狙いを定めているあの双眸。

 

先生!トラの輸入はワシントン条約で禁止されてます!!ってこの人が先生だったわ。

 

 

「君は器物損害の件で説教されにきてるんだ。馴れ馴れしく歓談してるんじゃない」

 

 

依然、睨みを利かせたまま告げる禍酒先生。

 

ゾクッとするぜ。

 

 

「いや、失礼。彼と話すと楽しいもので」

 

 

と、会って十分も経ってない、東破魔先輩が諫めるように言った。

 

禍酒先生は「ふん」と鼻を鳴らし、顎を突き出してみせる。

 

 

「続けろ」

 

 

「はい」

 

 

さしもの愛神先輩も禍酒先生は得意ではないのか苦笑しながら応じる。

 

 

「えーとね、白鵺くん。ともかく今回の件は生徒会の自費負担で済むようやりくりするから、

 

 とりあえずもうこんなことないようにしておいてね。先生方にも再度、説明を図るから」

 

 

「…うっす」

 

 

あぁ、俺ってたくさんの人にたくさんの迷惑をかけて生きてるんだな。

 

申し訳ない限りだ。

 

と、俺は今更の如く感傷に浸る。

 

要するに、愛神先輩マジ大天使。

 

天使長(ミカエル)ってますわ、ホント。

 

 

「よかったな、白鵺。おかげでお前の家も破産しなくて済むぞ」

 

 

規模はオーバーだが、悪戯で言っているわけではない。

 

リアルに起こりうる話だったのだ。

 

ありがとう。おかげさまで兄妹ともども生きながることができます。

 

と、俺は心の中で拝む。

 

 

「一件落着だな。ところでだ…」

 

 

東破魔先輩は唐突に話を打ち切ってきた。

 

なんだろうか。説教エクストラステージは勘弁してください。

 

今の俺なら中ボス・パチュリーで逝く自信がある。

 

 

「聞きたいことがあったんだ。猛烈に」

 

 

まずは説教エクストラステージでないことに感謝。

 

中ボスの白澤けーねも攻略不可な状態だったんで。

 

果たして、『聞きたいこと』とは全体如何なるものか、と疑問が湧く。

 

すると、俺から向かって東破魔先輩の左側に座っていた愛神先輩が口を開いた。

 

 

「それは私もよ。多分同じことじゃないかしら」

 

 

「うむ、まあそうだな…というか、この状況で思い浮かぶ疑問と言えば必然とひとつに絞られる」

 

 

東破魔先輩も同意する。

 

次いで、互いに顔を見合わせ、代表するように愛神先輩が問うた。

 

 

「聞いていいかしら。あなたの出したという、その雷撃。一体どんな原理で出したの?」

 

 

案外、素朴きわまりない疑問だった。

 

原理?そんなもの…ピャー!といってカー!だよ。まるで長○監督みたいな説明だな。

 

 

「何故、そんなことを聞くんです?」

 

 

俺は訊いた。

 

その言葉に愛神先輩は目を白黒させた様子で言い返した。

 

 

「いや、何故も何も…

 

 雷という概念を『魔法』で再現するのは現時点での技術力じゃ()()()と言われているのよ」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

その発言にこそ驚いた。

 

俺の方が目が白黒だ。モノクロームすぎて昭和初期の映画フィルムみたいになってる。

 

俺はてっきり、魔法技術の発展した現代ならば雷というありふれた自然現象の一つや二つぐらい

 

再現できると思っていたのだ。

 

俺はそのことを愛神先輩に言う。

 

 

「白鵺くん。

 

 『ドッペルゲンガー現象』や『シュレーティンガーの猫』、『ツングースカ大爆発』などの

 

 あくまでも人工的作為の介入が認められた現象ならばまだしも、『雷』というのは圧倒的無作為。

 

 完全なる純度100%の自然現象なの。

 

 こんな魔法の蔓延した世の中でも一部では未だ霊験あらたかなものだと言われてるわ。

 

 (いか)()というぐらいだからね。

 

 あなたの神道でもそうでしょう。

 

 鳴神様という神の存在もあるわけだし。

 

 つまり、『雷』というのは一見単純そうに見えて実は複雑な繊維質みたいなもので、

 

 現代の()()を以てしてもその原理は完全に解明されてはいないわ。」

 

 

そうだったのか。

 

俺は『電気?小学校で習っただろ』という安直な理由で魔法でも雷は再現できると勝手に思いこみ、

 

ふっつーに使ってしまったが、あれ魔法業界じゃ未開の技術だったのね。

 

わーすごい、俺は時代の最先端を征く!

 

って、それやばくね?!

 

つまり俺は、再現が現状不可能とされた魔法をいとも簡単に行使してみせた訳だろ?

 

――たくさんの衆目の面前で。

 

大丈夫だろうか?明日辺り政府の役人とか黒ずくめの男たちが来ないことを祈るばかりだ。

 

 

「まあ、それはいいとして」

 

 

東破魔先輩は逸れた話題を元に戻した。

 

 

「その原理を教えてもらえないか」

 

 

「原理…そうですね」

 

 

俺はしばしの間、悩んだ。

 

どのように説明すべきか考えていたからだ。

 

なにせ、ことのたねはあくまでも霊妙なものであり、現実的に科学的に即していないからだ。

 

長考の末、恐らく理解してもらえないだろうが、俺は一つの単語を発した。

 

 

「『式神』…ですかね」

 

 

「『式神』?」

 

 

案の定、知らなかったようだ。

 

それもそう、一昔前ならば陰陽術、巫術、召喚術や口寄せともに今ほど退廃してはいなかったので

 

少なくとも『聞いたことはある』程度の認識はあっただろうが、

 

現在は()()が発展し、栄えた世の中。

 

『古代魔法』と称されるような呪術の用語なんて知っている方が逆にすごい。

 

 

「古来日本より用いられてきた呪術の一つです。主に陰陽術で用いられます。

 

 陰陽師により使役される鬼神、またその術法を言います。識神、式鬼神とも言いますね」

 

 

「うーむ」

 

 

東破魔先輩は顎に手を当て、考え込む。

 

 

「それはつまり、『西洋魔法』などにおける『使い魔(ファミリア)』のようなものという解釈でいいのか?」

 

 

と、東破魔先輩は自説を口にする。

 

『西洋魔法』というものを折り合いに出したように魔法使い(ウィザード)たちは意外にもそれに通ずる

 

知識を持ち合わせている。

 

理由としては、現代における魔法のオリジナルとして西洋魔法が礼賛されているからだ。

 

 

「ええ、あながち間違ってはいません」

 

 

俺はそれに首肯した。

 

 

「唯一の相違点を述べるのであれば、『使い魔』のベースは主に普通の動物を基にしますが、

 

 『式神』はそのほとんどが妖魔・怪異であることが多いです」

 

 

例えば、天狗とか雷獣とか妖狐とか。

 

まあ、今の時代、そんなことを口にすれば、笑いの種にされたり、頭のおかしい人と思われたりするのは

 

自明だろうが。

 

ふと、東破魔先輩の顔を窺う。

 

その顔は未だしこりの取れていない、判然としていないような顔をしていた。

 

 

「俺はその、『式神』として『雷獣』という妖魔を従えています」

 

 

――雷獣。

 

雷とともに地上に現れるという幻獣の一種だ。

 

 

「雷獣…()()か。しかし、その雷獣を従えているのと、君が雷撃術式を使えるのに何らかの

 

 関係性があるのは察せられるが、一体どうやって」

 

 

「ええとですね。術者と式神は目に見えない霊的共有経路でつながっているんです。

 

 これによって術者と式神の間で霊力や五感を共有したりできるんです。

 

 それで俺と雷獣で()を共有してるんですよ」

 

 

「術式の共有…?!そんなことが…」

 

 

東破魔先輩は驚いた様子でこちらを見た。

 

 

「ええとですね。説明が難しいな…式神を使役する場合、原則的に『契約』が必要になるんですけど、

 

 その契約っていうのは家系ごとにいろいろ違ってくるんです。

 

 それでうちの家系の場合、契約に際して137条の厳格な規律があるんですが、

 

 その一つに『術者・式神は相互の術を共有しろ』っていう内容のがあるんですよ。

 

 それにこの術の共有ってのは数多ある家系の中でも結構珍しいみたいですよ」

 

 

俺は一旦、語り終えて、ふぅと息を吐く。

 

 

「…白鵺」

 

 

ここで口を開いたのは禍酒先生だった。

 

 

「随分饒舌にしゃべってくれてありがとう、というところだが、そういうのを部外者に安易に

 

 話してもいいのか?」

 

 

俺はええ、と応じる。

 

 

「この程度のことは大抵の陰陽師家も知っていますし、情報統制のレベルも下から三番目程度です」

 

 

最高機密なんてのもあるが、そういうのは耳にでもすれば歴史自体から抹消されるのだから恐ろしい。

 

 

「そうか」

 

 

禍酒先生はあっさりと退いた。

 

続いて東破魔先輩が開口する。

 

 

「なるほど有意義な話が聞けた。如何せん魔法至上主義な世界だからそういう話はなかなか聞かないものでな。

 

 いやぁ、井の中の(かえる)大海を知らず、とはこのことだな」

 

 

「先輩、『かえる』じゃなくて『かわず』です」

 

 

惜しい!

 

漢字は同じだが、読み方が違ったようだ。

 

もしかして先輩、ことわざが苦手?

 

 

「そうね。全くもってちんぷんかんぷんだったけど、まあ面白かったわ」

 

 

と、愛神先輩。

 

「おい、時間返せ」と思ったが、まあ先輩相手にそんなこと言えるわけもなく閉口した。

 

ていうかさっき、ふんふん、とかへぇ~、とか地味に相槌ち打ってくれてたけど、

 

あれって生返事ならぬ生相槌ちだったの?

 

 

「まあ」

 

 

と、ここで禍酒先生が話を打ち切って席を立つ。

 

その歩みはドアの方に向かっている。

 

 

「随分と趣旨が変わってしまったが、とりあえず今回の件――的ドカーンは不問にしといてやる、ということだな。

 

 よかったなぁ、白鵺。生徒会長が優しくて。こんな生徒会長、滅多にいないぞ。

 

 本来ならば今頃、お前は嵐のような説教の末、生徒指導室で始末書と反省文タワー、追い打ちに多額の

 

 賠償金だったぞ」

 

 

禍酒先生は念を押すように言った。

 

ハイ、アイカミセンパイ、トテモヤサシイ。

 

もう愛神教に入信しようかな。

 

と、俺も禍酒先生に続いて席を立ち、

 

 

「愛神先輩。今回の件、ありがとうございました」

 

 

「ふふ…どういたしまして」

 

 

深く丁重に一礼すると、愛神先輩は優美に、艶やかに微笑んで、そう言った。

 

 

「?」

 

 

愛神先輩がはてな、と首をかしげる。

 

そうされて気づいた。

 

そのあまりの美しさに固まって、見蕩れてしまっていたようだ。

 

危ない危ない、ビークール。

 

俺は妹第一。マイシスターイズナンバーワンフォーミー。

 

 

「風紀委員長として一応言っとくが、あんまり問題を起こすなよ。

 

 君はトラブルメーカーっぽいからな」

 

 

「はい」

 

 

初対面でトラブルメーカーと断ぜられるのもどうだかと思うが、

 

自己分析的に本当にそうっぽいから何とも言えない。

 

俺はドアノブを握り、ドアを開け、退室する。

 

その間際にもう一度、礼をする。

 

ドアを閉める直前、

 

 

「またいらっしゃいね~」

 

 

という愛神先輩の陽気な声が聞こえたが、正直もう来たくないっす。

 

 

 

 

 

あ、でもこれどうせまた来ちまうっていうフラグだろうな。それ知ってる。

 

 

2

 

 

的ドカーンin魔法実習室の悲劇から一夜明けた翌日の昼休み。

 

昨日、校門で親切にも俺を待っててくれた妹や巫仙に憐憫の視線を向けられたような気がするのは気のせいでは

 

ないだろう。というか絶対そうだ。

 

あの視線にはマジでゾクッてしました。

 

そして今日は妹も巫仙も交友関係の構築に勤しむとのことで一緒ではない。

 

故に俺は一人、単独行動だ。

 

え、俺は友達づくりしないのかって?おい、察しろ。

 

まあ車座いるし、いいか。

 

そんな訳で俺は第一体育館裏に敷設された緑の草木が鬱蒼と茂る遊歩道でプチ森林浴をしていた。

 

森林浴は、俗に森林浴効果と呼ばれる癒しを享受できる行為だ。

 

樹木が自浄のために放出するフィトンチッドが大気中の微生物を殺菌してくれることが作用しているらしい。

 

俺が新鮮で清澄な空気を肺に取り込みながら、

 

緑色の天蓋のような木の葉の隙間から差し込む木漏れ日によりまだら模様に照らされた地面を歩いていると、

 

左右の茂み(ブッシュ)の方から何者かの気配を感じた。

 

気のせいかとも思ったが、しかし、それは徐々に肥大化し、確信に変わった。

 

――二人、だな。

 

それも、だんだんこちらに向かって進行している。

 

時間が経過するごとにその気配は累乗的に跳ね上がり、それと同時にピリピリと灼き付くような

 

殺気、というか敵意が感じられた。

 

と、ここでこれほど接近しているのに何故歩行の音が聞こえないのだろうか、という疑問が浮かんだ。

 

俺も聴力には人一倍自信があるが、それでも聞こえない。

 

抜き足ができるのだろうか。それにしても草木を踏みしだく音をほぼゼロにするのはかなり困難だ。

 

だがそれは、音の発する波の指向性を操る――『消音魔法』だろうと勝手に結論を出した。

 

音がなくても気配で距離感ぐらいは分かる。

 

そして、その二人分の気配は僅か俺の後方十メートル弱にまで接近していた。

 

俺は接近に気付いているのを悟られないために一切の不審な動きを見せず、歩行を続ける。

 

そして――

 

 

 

――来るか!

 

 

 

直後、後方斜め左右で膨大なパワーが弾けるのを感じた。

 

魔力だ。

 

魔法開発を受け、ウィッチクラフト活動が促されている魔法使い(ウィザード)は、

 

直感的に、第六感的に魔力の波動を感じることができるらしい。

 

俺は魔法使い(ウィザード)じゃあないが(分類的には魔法使い(ウィザード)らしいが)、

 

流石に近くで発動されれば、否が応でも分かるっていうものだ。

 

俺はそれとほぼ同時に後ろを振り向く。

 

高速での移動が故に肉眼では残像に見える二つの人の姿があった。

 

――肉体強化か。

 

筋繊維や骨の可動関節の強度を『固定(フィックス)』により一時的に上昇させ、通常の数倍の身体能力を引き出す魔法だ。

 

しかしこの術式、最近発見されたばかりの発展途上のもので、常時、各身体部位の同時魔法演算と可動肉体

 

の自己制御を要求されるため少なくとも上級魔法使い(ウィザード)しかもAランク魔法使い(ウィザード)

 

ほどじゃないと使えない芸当なのだ。

 

そして迫りくる二人のうち、一人は直線的に駆けて来、もう一人はこれまた肉体強化による跳躍

 

で俺の背後を取りに来た。

 

俺はまず、前方から直進してくる奴から片づけようと考え、動きを目で追ってると、

 

一瞬だが、その顔を確認できた。

 

そして、それは見覚えのある顔だった。

 

昨日の昼休み、Fクラス教室に乗り込み、堂々と最下級魔法使い(ウィザード)を罵倒したあの四人

 

の男子生徒の一人だ。

 

ならば恐らく後ろの奴もあいつらの一人だろう。

 

 

「喰らえッ!」

 

 

前方の男子生徒は拳を固く握りしめ、移動の動きと連動した正拳突きを放とうとしている。

 

またご多分に漏れず、この攻撃も肉体強化にて突き出す速度が増幅されているため、

 

攻撃する側からの相対速度的に見ても恐ろしいほどの速度なのだから、

 

傍から見れば亜音速レベルぐらいには見えるかもしれない。

 

当然、速度と比例して単純な威力も増えているため、当たればただの怪我じゃ済まされないだろう。

 

果たして俺はその攻撃に対し――

 

 

「おらよ!」

 

 

――突っ込んだ。

 

 

「!!」

 

 

突進したのだ。

 

破壊レベルのパンチをしようとしている相手に対して、突撃を図るのは一見愚かな行為にも思えるが、

 

このアクションには二つの有効的な利点がある。

 

まず、一つ目の利点は相手の攻撃を狂わせられること。

 

男子生徒は俺がその場に留まっている、あるいは真横か後方に回避することを想定しての攻撃をしているので、

 

俺の突撃により拳の着弾地点を狂わされ、空を切ったうえに俺を攻撃直後の無防備な懐まで潜り込ませてしまって

 

いる。

 

さらに、もう一つの利点は――

 

俺は自身の突進で男子生徒の相対速度も増加してみえるが、それは男子生徒にも同じこと。

 

男子生徒にも俺が、俺から見た男子生徒と等速で突っ込んできているように見えることだろう。

 

そしてそれは、俺も相手と同じような攻撃威力を発揮できるということだ。

 

 

「はッ!」

 

 

男子生徒の懐に潜り込んだ俺は、その鳩尾に高速の打撃を叩きこんだ。

 

 

「ぐぁッ!」

 

 

胸部には強化をしていなかったのだろう男子生徒は一瞬、

 

息を詰まらせ、攻撃を受けた箇所を押さえながらその場に倒れこんだ。

 

――まずは一人。

 

数瞬後、間髪入れずに後ろに回り込んだもう一人の男子生徒の攻撃が俺を襲った。

 

またしてもパンチだ。

 

俺は相手の右腕から放たれたその攻撃を振り向きざまに身を捩じらせて回避すると、

 

未強化につき無防備の右鎖骨にチョップを叩きこんだ。

 

 

(つう)ッ!」

 

 

男子生徒は痛む右鎖骨部を左手で押さえ、悶える。

 

ちなみに言うなら鎖骨は人体急所の一つだ。

 

しかし、それでもなお男子生徒は動けそうだったので追い討ちに大腿部にトーキックを入れた。

 

大腿部もモモカツなどと言われるように、大腿動脈なんかが通る人体急所の一つである。

 

俺は二人の男子生徒が完全に沈黙したのを見届けると、厄介ごとは勘弁と言わんばかりにその場を去ろうとする。

 

その時――

 

俺は足元の地面…否、地中に収束した魔力の波動を覚えた。

 

――しまった!

 

 

「『岩石炸裂(ガイアボム)』!」

 

 

そう叫んだのは、俺が鳩尾を殴打し、行動不能にさせた男子生徒だった。

 

事象(フェノメノン)・『発散(ラディエーション)』に地の五大元素(エレメント)を付与した。

 

多岐的に実用される(トラップ)型魔法――『岩石炸裂(ガイアボム)』。

 

よく手榴弾に鉄球を詰めて殺傷能力を上げるように、この術式は地中の細かい砂利や石などで代用している。

 

近年、岩盤の破壊や、ビル解体などにも使用される魔法だ。

 

だがこの術式、『発散(ラディエーション)』作用による爆発だけでも十分に人を殺傷する威力がある。

 

使用にも特別な許可が要される、国際魔法使い(ウィザード)法で指定された危険度Cランクの魔法だ。

 

男子生徒は薄れゆく意識の中、特攻とでも言わんばかりに自分もまきこまれる可能性のある魔法を発動したのだ。

 

 

「くッ!」

 

 

躱せない。

 

今この場で最大限の回避行動を行っても爆発の惨禍から逃れることはできないだろう。

 

と、万一の場合を想像していた俺の顔面すぐ横を――

 

 

シュンッ!

 

 

――収斂された魔力の塊が通過した。

 

直後、俺の後方で「ぐえッ」という間の抜けた声がした。

 

同時に足元で収束していた魔力も散り散りになり、消え去る。

 

何が起きたのか。

 

後ろを振り向いた俺が魔力の痕跡を辿ると、『岩石炸裂(ガイアボム)』を発動した男子生徒のこめかみ部分に

 

消滅しかけの霧状の魔力を感じた。

 

 

「魔力弾か…?」

 

 

魔力弾――

 

魔力を収斂させ、質量化した状態のこと。

 

また、それによる攻撃を指す。

 

男子生徒は気絶していた。

 

恐らく、こめかみへの魔力弾の一発により、脳震盪を起こし、演算が中断させられ、『岩石炸裂(ガイアボム)』も消滅したのだろう。

 

俺は早急に辺りを見回した。

 

この魔力弾を放った術者がいるのなら、絶対にこの近くにいるはずだ。

 

魔力弾を用いて、人間のこめかみに正確な攻撃を与えるためにはある程度接近している必要がある。

 

の、はずなのだが、視界の届く範囲には誰も確認できない。

 

気配も感じられない。

 

ならば、どのようにして?

 

一体全体どのようにして、この男子生徒のこめかみを叩き、脳を揺さぶったのだろうが。

 

そしてそれが人の手によるものなのだとしたら。

 

 

 

 

 

一体、誰が――

 

 

 

 

 

――その時、俺の視界の端に一人の人影が映った。

 

所在は第一体育館のさらに奥にあり、第一体育館の二倍ほどの高さの第一校舎。

 

その屋上。

 

現在地点(遊歩道)から第一校舎まではだいたい5、600m以上はある。

 

第一校舎の高さも含め三平方の定理で考えると、実際の距離は1.5倍がいいところだろう。

 

俺でも霞んで見えるか見えないかの距離だ。

 

そこには、銃身の長い銃のようなものを構え、スカートを風に靡かせながら、

 

柵越しにこちらを見つめる

 

 

 

 

 

――一人の少女がいた。




次回、新キャラか?!
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