鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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一か月も投稿なしですみません。

いろいろと作品の見直しをしてて、修正すべきところが7割以上あって絶望してました。

前話のサブタイでは思いっきりキャラの名前をばらしてました。

今話で登場します。

それではどうぞ。


第伍話 狙撃 -sniper in the darkness-

1

 

 

「お疲れのようだな、白鵺陵くん」

 

 

一連のバトルを終え、九死に一生を得たこの俺、白鵺陵が一息ついている所に揚々と馳せ参じてみせたのは、先日、合間見えたばかりの魔法学園風紀委員長三年生・東破魔蜉蝣だった。

 

 

「何でこんなとこにいるんですか、東破魔先輩」

 

 

俺は意外さも半ばに、僅かに猜疑的な視線を向け、真意を問うた。しかし、東破魔先輩はそんなのどこ吹く風で、

 

 

「いやいや、ここは敷地内だろう。なに、偶然ここを通りかかったら君たちがバトっていたから風紀委員長としての

 

職務を全うしようと思った、ただそれだけだ」

 

 

と楽観的に答えた。

 

たまたまここを通りかかった、って偶然も過ぎんだろ。他の風紀委員ならまだしも、昨日知り合ったばかりの

 

人とこんな時に出くわすなんて、ただの偶然の偏差とは思えなかった。

 

きっと、量子力学的な何かが働いているに違いない!

 

いや、でもあくまで東破魔先輩は風紀委員だし、パトロール中に偶然、ってことはあり得るのかもしれない。

 

でもなんか組織の長って末端の職員とか新入社員を馬車馬の如くこき使って、挙げ句に自分は椅子の上でふんぞり返っている、

 

っていうイメージが強いんだけど違うの?

 

俺の組織に対する不信感が強すぎる。

 

でも、なんか愛神先輩をみる限りなんだか一概に否定できないようでならないのは俺の気のせいだろうか。

 

 

「まあ、いいでしょう。それじゃ東破魔先輩。コレの後片付けお願いします」

 

 

と、俺は足元に転がった男子生徒二名を足で示す。

 

東破魔先輩は視線を足元に移すと、しばし硬直、俺に視線を戻し、俺に若干引いたような表情をした。

 

 

「おお、結構ひどいことするなあ、君。これは風紀委員長として看過できそうにない事態だが?」

 

 

東破魔先輩が訝しむ表情で言う。

 

まあ、倒れた生徒二人、その場にいるのは俺一人、疑いをかけられても不思議ではない。

 

というか、俺がやったし。

 

 

「で、俺をどうしようというのです?」

 

 

あれぇ?なんか自分がだんだん悪役に見えてきた。今まで悪役生徒二人を見事撃退した主人公を演じてたのに…

 

 

「いや、状況を見聞するに、だいたい状況は読めたよ。つまりは君に突っかかってきた上位魔法使いを迎撃した、いわば正当防衛だろう?」

 

 

「…そうっすね」

 

 

まさしく、その通りだった。

 

ご明察、と言ったところか。

 

 

「じゃあ、東破魔先輩。首尾よく聴取もできたわけですし。

 

 俺は一旦、戻ってもいいですか」

 

 

「…本来なら校内での決闘は校則違反だから風紀委員に連行して反省会と行きたいところだが、

 

 君も先日の標的破壊の件で随分と傷心だろうし、今日はここんところで勘弁しておこう」

 

 

東破魔先輩はやれやれ、といった感じで承諾した。

 

そうと決まれば、さっさと退くか。

 

ちょうど、あと十数分で昼休みも終わるしな。

 

おっと、その前に。

 

 

「東破魔先輩。そいつらどうするんです?保健室とかだったら手伝いますよ」

 

 

一応自分の蒔いた種だ。責任という芽は摘んでおきたい。

 

善意でないという辺り、俺のゲスさが窺える。

 

 

「そうだね。看護も必要だからね。まあ、みっちりとやってやるさ。

 

 風紀委員会本部で。」

 

 

「バンビーノ」

 

 

撤退。

 

辣腕無双の取締コマンダーどもの根城に安々と足を踏み入れる程、俺は肝っ玉が据わっていなかった。

 

とりあえずは逃げよう。

 

あとは寄るところもあるしな。

 

 

2

 

 

屋上まで続く階段に来た。

 

そして屋上まで一時の休息も一切の間隙も挟まずに階段を駆け上がる。

 

第一校舎は五階建てだ。

 

屋上までの階段は五階分。

 

それを永続的に、継続的に行うのは、普通の人間ならば簡単にバテてしまうような至難の業であり、辛苦の所業であった。

 

しかし、幼少期よりある程度の鍛練を積んできた俺からしてみれば楽勝も楽勝。

 

アピースオブケイクだった。

 

毎回思うけど、この単語不思議だよな。

 

なんでケーキ一切れ、って書いて楽勝と読むんだろう。

 

多分、アダムズアップル(喉仏)よりも不思議。

 

というわけで、さながらマ○オの三段ジャンプのような軽快さで屋上へ続く階段を快走した俺は、果たして屋上に到達した。

 

屋上へのアクセスは鉄製の一枚扉のみだった。

 

雰囲気的にはRPGのボス部屋前って感じだ。

 

屋上へ続く鉄扉には錆びた鎖が蔦のように絡まり、簡易的な南京錠が掛けられていた。

 

…何だろう。

 

階下の近代的な、機械的な、先進的な内装と比較すると、この屋上付近は少し古風な、一昔前の学校然とした雰囲気が漂っている。

 

そして俺は一瞬の躊躇いもなく、その荘厳で重厚な鉄扉に手をかけた。

 

先程、南京錠が掛けられていた、とは言ったものの、実際は南京錠はとっくに酸化して朽ちており、

 

もはや鍵としての機能を微塵も果たしていなかった。

 

よって、その鉄扉はいとも容易く開放された。

 

扉を開いた瞬間、室内と屋外の僅かな気温差により気流の対流が発生し、微風が吹き付けた。

 

さらに今までふるさびた、言うなら暗澹とした空間に一条の陽の光が差し込み、一斉にして視界を覆い尽くした閃光による

 

突然の明暗の反転に網膜が対応できず、幾許かの時間、視界が真っ白になり、目がくらむ。

 

やがて感覚器官が徐々に明度に慣れはじめ、白みがかった世界がようやく元の色彩を取り戻し始める。

 

そこで、俺の両眼がとあるものを認識した。

 

人影だった。

 

今回は全くの比喩なしで人影だった。

 

その人影は太陽をバックにしており、陽光をさながら後光のように照射させているため、

 

その人影の細部を窺い知ることは現状不可能だった。

 

ただ光背を受けた長髪が靡くのが見えたので、その人影は女だろう、という予測はできていた。

 

 

「あら、あなたは?…ああ、先刻の」

 

 

直後に発せられた声が予想が的中であることの裏付けとなった。

 

柔和な印象を植え付けさせるやんわりとした声音だった。

 

彼女は、俺があの犯罪現場にいた男子生徒だとわかったようだった。

 

それもそのはず、あちらから見れば、こちらは逆に真正面から光が当たっていたため、顔の判別が容易だったのだろう。

 

「こんなところに何の用でしょう」

 

 

と、少女は控えめに、謙虚に問うた。

 

俺は少女に歩み寄る。

 

光の錯乱現象も弱まり、こちらも少女の相貌が確認できる。

 

少女は、端正な出で立ちだった。

 

季節外れの雪原のような純白の肌膚に、サファイアのような透徹された輝きを放つ鮮やかな碧眼、

 

艶やかな光沢の両唇を儚げに引き結んでいた。

 

髪は、その肌にも増して真っ白なそれを前で、切りそろえている。

 

それが可愛いすぎて、俺の許容属性に前髪ぱっつんが加わりそうだった。

 

例えば、人間が雄大な自然美に圧倒されるが如く、俺もその言い知れぬ美貌に圧倒されまくっていた。

 

 

「いや、別に…さっき助けてもらったしな。お礼でも、と思ってね。

 

 さっきはどうもありがとう」

 

 

俺は当たり障りの無いような感謝の辞を述べる。

 

少女は、まあ、と一時驚嘆の声を漏らし、明るく微笑む。

 

 

「まあ、わざわざそんなことのためにいらしてくださったのですか。それは…ご足労をおかけして

 

 申し訳ありませんでした」

 

 

と、何故か少女は深くお辞儀をして謝罪した。

 

なるほど、個々の謙虚な心、これが日本か。

 

よ、俺が和の精神に感銘を受けていると、

 

 

「あの…お名前」

 

 

と、少女は言った。

 

 

「はい?」

 

 

あまりに唐突だったので、思わず聞き返してしまった。

 

 

「その…お名前を聞いて宜しいかと」

 

 

少女は再度、言いなおした。

 

その白地の頬を僅かに紅潮させながら。

 

あまり異性に名前を聞く機会がなかったと見える。

 

魔法学園に通う女子生徒は、言うなれば『深窓の令嬢』。

 

そして、そんな彼女らによくあることだ。

 

なるほど、つまりこの娘は男馴れしてないってか。

 

いや、俺も女馴れしてないけど。

 

未だに緑の売り場のお姉さんとは高速会話だ。

 

…しゃーなし。ここは俺がリードしなくては。いやむしろさせてください。

 

「そうか。俺の名前は白鵺陵。”白”に”夜”と”鳥”で”鵺”に”陵墓”の”陵”だ」

 

 

前回、車座指摘された反省を生かし、問題の無い自己紹介をする。

 

 

「白鵺さんですね…私は時椿叶深(ときつばき かなみ)といいます」

 

 

と、少女――もとい、時椿叶深は胸を張って名乗ったが、しかし緊張を残した言いぶりだった。

 

うむ。これは後々のために場を和ませなくては。

 

 

「なるほど、じゃあお前はカナミンだ」

 

 

「カ、カナミン!?」

 

 

時椿叶深――もとい、カナミンは頭上にエクスクラメーションマークとクエスチョンマークを乱立する勢いで驚いた。

 

何だ?この娘、あだ名で呼ばれた経験とかないのか。

 

俺はしょっちゅう呼ばれてるぜ。

 

うじ虫とか、ゾウリムシとか、シラミとか、やぶ蚊とか、イビルフ〇イデーとか。

 

主に巫仙さんから。

 

ってか、最後に至っては魔界777ツ能力じゃねえか。酷いな、オイ。

 

 

「い、嫌ですよ。そんな変なあだ名…」

 

 

「そうか、ならばカナブンだ」

 

 

「カナブン!?!?」

 

 

先ほどよりもエクスクラメーションマークとクエスチョンマークが増設されていた。

 

すると、カナミン――もとい、カナブンは瞬間的に暗澹立ち込める表情になって、

 

 

「それ私の小学生の時のあだ名じゃないですか…」

 

 

「マジか」

 

 

ガチ系だった。

 

陵は 少女の 心の 闇を 掘り返して しまった!!

 

…ていうか、あだ名はつけられたことがあったんだな。

 

ただし不名誉な。

 

 

「私、当時他の子のご家庭よりも裕福で、その子たちに僻まれてたみたいで…いえ!彼らは悪くないんです。

 

 嫉妬というのは人間にとって当たり前の感情ですから、むしろ悪いのは巨額の財産を持て余していた

 

 私たちの方で…」

 

 

「お、お前は悪くねーよ。大丈夫だ。資本主義経済の日本では私有財産権が認められているから…」

 

 

カナブ――もとい、カナミンがなにやらブツブツとどす黒い何か(ダークマター)を吐き始めたので、

 

俺は慌ててフォローを入れた。

 

いや、今から考えてみれば全くフォローになってないな。

 

和の精神もここまでくると重いものがあった。

 

 

「まあ、とりあえず、選択肢は2つだ。2つに一つだ。カナミンか、カナブンか…」

 

 

「それ必然的い選択肢一つしかなくないですか!?」

 

 

「ふはは、何を言うておるのだ。我が輩はきちんと二つ提示している」

 

 

おっと、口調が乱れている。

 

これはまさかの陵くん意地悪モード。

 

ただし、キャンセル不可。

 

一度発動した術式詠唱は中断できないZE☆

 

 

「知ってて意地悪してません!?」

 

 

「おいおい、お前はあだ名をつけてもらう立場なんだから選択肢がどーのこーの言える身分じゃねーんだよ」

 

 

「むー。確かにそうですね…って待ってください!

 

 今、一瞬懐柔されかけましたけど、白鵺さんの言っていることおかしいですよ!?」

 

 

バレたか(笑)にしても、カナミン弄り甲斐ありすぎ(大草原)

 

なんか、字面だけみてると無感情っぽい。

 

 

「ごめんごめん、ちょーっち弄りすぎたな。んじゃあ叶深でいいだろ、な?」

 

 

俺としては至極真面目に言ったつもりだが、当の時椿叶深は怪訝そうな顔をした。

 

まだ若干顔が赤い。

 

 

「ま…まだ、弄ってるんですか」

 

 

ゑ?どうしてそうなる

 

 

「ど、どうしてといわれましても…その、叶深って…」

 

 

と、ここまで言われて俺はようやっと自らの失態に気づかされた。

 

俺は普段、友人感覚で巫仙や車座と気軽に下の名前で呼んでいるが、

 

相手は恐らく深層の令嬢、時椿叶深。

 

もしやのファーストネーム呼ばれの経験がないのでは?

 

ってかカナミン未経験多すぎ。

 

エロ本のタイトル風に言うなら『経験ゼロの少女を陵が虐め倒す――すみません以下自重します。なので規制はやめ…

 

…ふぅ、あぶねぇ。危うく今話最後まで俺の台詞が■に変わるとこだったぜ。

 

話を戻すが、ことこれに至っては別に時椿叶深に限らずとも大抵の女子は異性からのファーストネーム呼びに

 

対する耐性がないと思う。

 

まさか無意識にファーストネーム呼びをしてしまうなんて…

 

よりによって初対面の女子と。

 

俺はどこぞのハーレム系鈍感主人公だよ。

 

だがッ!一度行ってしまった以上、引き下がるのは男じゃないッ!

 

と、意味不明な男気を発揮し、一言。

 

 

「分かった。俺はお前を叶深って呼ぶから、お前は俺を陵と呼べ」

 

 

「…………………………………え?」

 

 

「……………………………………………………は?」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

何言っちゃってんのぉぉぉぉ、俺!?

 

一見、トレード・オフな内容に見せて、その実すごいこと言っちゃってるよぉ!

 

要するにお互いに下の名前で呼び合おう、っていう恋愛シミュレーションゲームのクライマックスの告白シーン

 

みたいなことやってるんじゃん!?

 

F〇teォォォォォ!D.〇.ォォォォォォォォ!!ミィィルキィィ〇ォォォォムズ!!!(発狂)

 

ちなみにFa〇e/シリーズの原作がR-18ゲームであることを知る者は意外と少ない。

 

や、や…やばし!テラやばし!

 

これは何とかして弁明せねば…

 

 

「■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

「………………」

 

 

ついに倫理規制の神が俺を見離した。

 

 

3

 

 

一旦休憩。

 

 

「へえ、時椿といやぁ魔装狙撃兵の一派じゃねーか」

 

 

「そうなんですよ」

 

 

俺らはなんだかんだありつつ、ゆるゆるの会話をしていた。

 

先ほどまでのことはお互い、完全に頭からデリートした。

 

これ以上、蒸し返しても黒歴史を生むだけだ。

 

『獅子の御子たる高神の剣巫――』云々の祝詞を自室で叫んでいた(振り付き)のを妹に見られたとき並に黒歴史だ。

 

無論、SNSを介して後日、巫仙さんにも拡散してました。

 

開口一番言われたのが、みさらきちゃん☆で死にかけた。

 

そんなこんなで俺らは新たな気持ちで、改めて話していた。

 

ちなみにだが、互いの呼称は折り合いをつけあって、下の名前ということになった。

 

 

「じゃあ、あの時、俺に魔法を放った奴を撃ったのも…」

 

 

「はい、魔装です」

 

 

魔装――

 

魔法の媒体たる魔力は基本、人の手によって、人為的に操作することだ出来るが、

 

振動や、圧縮などの精密性を要する作業工程は、人の手を以てしてやるには限界がある。

 

その演算処理を代行して行ってくれる補助器具(アタッチメント)が『魔装』だ。

 

ちなみに魔装とひとくちに言ってもたくさんの種類がある。

 

(ソード)(ガン)(ランス)(アロー)(カノン)など様々。

 

さらに銃という括りの中でも、小型拳銃、大型拳銃、機関銃、施条銃、固定銃。

 

そして、狙撃銃(スナイパーライフル)

 

多種多様な形態、豊富なヴァリュエーションを有したのが魔装だ。

 

 

「なあ、お前の魔装って一体どんなんなんだ?」

 

 

俺は興味本位で聞いてみる。

 

狙撃銃(スナイパーライフル)系の魔装ということから、ある程度の形状や性能などは想定できうるが、

 

一男子として、興味を惹かれるものがあった。

 

 

「よろしいですよ」

 

 

と、叶深は快諾してくれた。

 

すると、さながらバンド少女の如く、その背中に背負われていたギターケースを下すと、その蓋を開けた。

 

中には丁寧に梱包された、部品(パーツ)ごとに分解されている魔装狙撃銃が入っていた。

 

叶深はそれを手慣れた手捌きで十秒とかからない早業で組み立てると、その一メートル弱の銃砲を有す魔装銃を俺に見せてきた。

 

見た目は光沢をもった銀灰に彩られていて派手派手しいが、形状は物理兵器の狙撃銃と何らフォルムが変わらない。

 

唯一、物理兵器との異なる点を挙げるとすれば、魔力圧縮炉の有無だろう。

 

初動圧縮のみを手動で行い、その圧縮時に放出される余剰エネルギーを再利用して、また圧縮を行う、という

 

循環機能――サイクロン・ファンクションを搭載した高性能新型の魔装狙撃銃だ。

 

そのサイクロンファンクションが組み込まれた圧縮魔力炉が全体の35%を占めているだけで、

 

後はスリムで携行性に優れたフォルムの武器だ。

 

また、銃砲の側面には『AGITO』と、開発メーカーの社名が刻印されていた。

 

 

「おいおい、こいつは『AGITO』社の新製品にして、半自動魔装(Semi-Automatic Wizard)――

 

 通称『SAW(ソウ)』シリーズの最新作『SAW(ソウ) - 黒龍(ヘイロン)』じゃあねえか。

 

 日本陸軍・魔装013旅団でも採用されている超すごい銃だぜ」

 

 

「ええ、去年、うちの実家から贈られてきたんです」

 

 

「すげぇな、お前の家。これって数億はくだらない品だぜ」

 

 

俺は純粋に褒めた。

 

なかなか見られない逸品も見させてもらえた、そのお礼に。

 

 

「……」

 

 

が、しかし、対して叶深は閉口した。

 

どうしたものかと俺は叶深の顔を覗き込み、慎重に話しかける。

 

 

「お、おい…大丈夫かよ」

 

 

さながら3Dアートでも見ているかのように、俺の後ろの方をじっと見つめ、虚ろを双眸に湛え、

 

ぽかーんとしていた叶深はようやく俺の視線に気づいて、

 

 

「す、すみません。私の家柄を知って、そんな褒める人なんて滅多にいなかったので…」

 

 

言われて、そうだと気付く。

 

高貴な魔装狙撃兵一派・時椿家に生まれた彼女は生まれたときから環境や家庭に恵まれていて、

 

おおよそ他の家庭からは敬遠、憎悪、嫉妬の対象だったのだろう。

 

彼女に近づいてきた人たちも恐らく彼女の家の有する財産目的で、彼女からしてみれば真に自分を認めてくれる

 

人がいなかったのだろう。

 

――そうか、ならば俺が時椿叶深の友達第一号になってやるとするか。

 

と、ちょうど、俺の後ろでチャイム(例のヒーリング)が鳴る。

 

よろし。言うだけ言って去る口実には十分だ。

 

 

「よし、じゃあ叶深」

 

 

「…はい?」

 

 

「放課後、俺の妹と彼女と下ぼ――もとい、友人を紹介してやるから駅前の喫茶『Undine(ウンディーネ)』に集合だ。五時ぐらいだな。

 

 もし来なかったらバンビーノの刑だ」

 

 

「え、ちょっ、なんですかそれ――」

 

 

俺は彼女が言い終わる前に鉄扉を開け放ち、外に出る。

 

流れる大気の対流が今度は俺を後押ししていた気がした。

 

俺は心地の良いチャイムをBGMに階段を駆け下りた。

 

 

4

 

 

視点も場所も変わって、Aクラス教室。

 

自分の席に座っていた緋狩澤光は突如、耳に届いた一つの知らせを受け、屈辱に歯ぎしりをしていた。

 

その内容とは、『Aクラス生徒二名がFクラス生徒相手を奇襲したが、逆に返り討ちにあい、風紀委員会本部に連行。

 

一週間の停学を命じられた』ということだ。

 

 

(こんな屈辱…ないったらありゃしない)

 

 

彼女の出す黒いオーラは教室中に蔓延し、他のクラスメイトを戦慄させていた。

 

勿論、彼女にクラスメイトを傷つけられて悔しい、などの同胞意識は微塵もない。

 

ただ、Aクラスの魔法使い(ウィザード)が、たかだか魔法使い堕ち(ワースト)風情に討滅させられる

 

というのは、自分たち上位魔法使い(ウィザード)の尊厳を貶めかねない由々しき事態なのだ。

 

緋狩澤光とは、そういう人間。

 

利己的で自分の自尊心がちょいとでも堕ちることを絶対に看過することができない人間なのだ。

 

その反面、上位魔法使いがたかが二人やられた程度で自分の尊厳が堕ちると考えている辺り、臆病で神経質(ナーバス)

 

でもあった。

 

 

(バタフライ効果(エフェクト)というものがある。

 

 蝶の羽ばたきが遠くの地で竜巻を起こす――初期条件の違いが後の結果に大きな変化をもたらすというカオス理論

 

 よ。

 

 この事件は後に私とって非常に不利益な結果をもたらす恐れがあるわ。

 

 かくなる上は…)

 

 

緋狩澤光は机に設置されたディスプレイの校内行事告知の欄に目を移す。

 

そこには『各クラス代表模擬魔法戦闘開催 実施四月二十一日』と。

 

 

(これを利用するほかないわ。

 

 この機会に上位魔法使い(ウィザード)と下位魔法使い(ウィザード)どもとの差をきちんと

 

 知らしめなくては…)

 

 

緋狩澤光の放出するさっきにも似た黒いオーラが止む。

 

クラスメイトにも弛緩した空気が流れ始めた。

 

そして、彼女は妖しげに微笑む。

 

四月十六日、昼休みのことだった。

 

 

5

 

 

「各クラス代表模擬魔法戦争?」

 

 

車座が無駄にデカい声を張り上げて反復した。

 

 

「そうだ。今から五日後の四月二十一日、A~Fクラスの各クラスから代表を選抜し、模擬魔戦を行ってもらう。」

 

 

そう説明したのは、我らがFクラス担任、禍酒呪里先生だ。

 

ところで、禍酒先生。

 

俺の敏感な嗅覚が物凄い量のアルコールを検知したんですけど、まさか校内で飲んでないですよね(震え声)

 

禍酒先生の発言を皮切りに、教室の中がざわめきだす。

 

大方、あいつが代表なんじゃねーの?とかそんな話題だろう。

 

アレレー、オカシイナー。トコロドコロ『ミササギ』ッテイウタンゴがキコエルゾー。

 

 

「そんなら、陵でええんやないの?」

 

 

車座がクラスの総意を代行して述べる。

 

 

「オイ貴様。何勝手なことを言ってやがる」

 

 

「だって、よう考えてみ。魔法実習であんな派手に標的ぶち壊した陵クンが適任やないの」

 

 

この男、下劣なッ!

 

俺を代表戦の矢面に立たせ、負けたときに恥じ晒しにする魂胆だろう。

 

 

「断る」

 

 

だって俺が出ちゃうと、負けて恥を晒すどころか、圧勝して妬心を買っちまうんだぜ。

 

 

「ああ、それだが」

 

 

禍酒先生が話に割り込んできた。

 

 

「陵の出場はなしだ」

 

 

先生は平坦に言った。

 

 

「何でですかぁ!?」

 

 

車座が声を荒らげて追及する。

 

フハハハ、当てが外れたな。このマヌケがァァ!

 

 

「この際言っておくが、そもそも白鵺陵は正規の入学でこの学校に来たわけではない」

 

 

「じゃあつまり裏口入学ってことですか」

 

 

「オイ何でそうなる」

 

 

トチ狂ったことを言い出した車座に、俺は反駁する。

 

俺という人間のイメージから、そういうのを勝手に決めつけないでほしい。

 

極めて心外だ。

 

 

「ゴホン…白鵺陵は言うなれば特待生だ。

 

 さらに暴露すると白鵺陵は古代魔法の使い手だ。

 

 魔法学園が、その希少性を買って入学を認可したんだ」

 

 

クラスメイト達がまたも、おおっ、と色めき立つ。

 

自分らの身近にいる人間が結構珍しいやつだったことに感嘆しているのだろう。

 

しかし、こうやって物珍しさに吊し上げにされている俺としてはなかなか喜び難い。

 

 

「そうやったんかいな」

 

 

と、車座は明らかに落胆した。

 

 

「てめぇ、あとでマジでバンビーノ」

 

 

本日三回目のバンビーノが炸裂した。

 

スリーバンビーニーだった。

 

 

「というわけで私たちのクラスからの代表は不動車座にする」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

車座の内部時間が停止した気がした。

 

しばらくして、

 

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

「ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁm9」

 

 

 

 

 

二名の絶叫が響き渡った。

 

 

「どうしてですかぁ、先生!」

 

 

エセ関西弁で車座が反論する。

 

禍酒先生は極めて冷静に応対した。

 

 

「ほら、こういう言葉があるだろ。隗より始めよ、だっけか。

 

 陵に押し付けるぐらいなら自分でやって見せろ」

 

 

即ち、言い出しっぺの法則だった。

 

あまりのブーメラン過ぎて車座が哀れすぎた。

 

アーメン。

 

俺は十字を切ってのける。

 

ってかヤッバ。車座チョー顔面蒼白なんですけど。

 

 

「ドンマイ、車座」

 

 

と、俺。

 

 

「ドンマイですわ」

 

 

と、巫仙

 

 

「ドンマイだったな」

 

 

と、なんか知らんモブ。

 

 

「ハッハッハ、ドンマイだ、車座」

 

 

と、禍酒先生。

 

いや、アンタが言うなよ、張本人だろ。

 

 

5

 

 

放課後。

 

俺&妹&巫仙&車座が『Undine(ウンディーネ)』で各々の注文したメニューを食していると、

 

カランカラン。

 

入り口のベルが鳴った。

 

淑やかな振る舞いで入店してきたのは、もちろんのこと時椿叶深だった。

 

叶深は暫時きょろきょろして辺りを探すと、すぐにこちらを見つけ、駆け寄ってきた。

 

 

「ああ!陵さん」

 

 

「陵さん?」

 

 

巫仙さんは目ざとくその言葉を聞き逃さなかった。

 

 

「あ、ああ…叶深」

 

 

「ほぉ…叶深」

 

 

ぎくりぎくり。

 

 

「ええと、こちらの御三方が陵さんの紹介したかった妹さんと彼女さんと下ぼ――友人さんで?」

 

 

「オイ、陵。自分、儂のことどない紹介の仕方したんや」

 

 

車座も目ざとかった。

 

すると、俺の右方より怜悧なる殺気がッ――!

 

 

「み・さ・さ・ぎさん♪

 

 彼女の私を差し置いていつ何時ぞ逢い引きを済ませ、下の名で呼び合う間柄に?」

 

 

恐ろしい噴炎のオーラを纏って巫仙が詰問する。

 

何故だか背後に幽波紋が見えた気がした。

 

そしてその指一本一本が人間を嬲り殺せるという手を俺に伸ばし、がっちりと頭をロック。

 

げにすばらしいアイアンクローだった。

 

 

「陵さん☆来ていただけますね?」

 

 

「え、いや…その…」

 

 

「き・て・い・た・だ・け・ま・す・ね☆」

 

 

巫仙さんのとどめの一撃が決まった。

 

あっさり折れる俺。

 

 

「陵さん」

 

 

「ナンデスカ」

 

 

「遺言を聞きましょう」

 

 

「シニタクナイッス」

 

 

「それが最期の言葉となるでしょう」

 

 

そして、俺は終焉のカウントダウンの刻まれる中、ずりずりと店の外まで引きずられた。

 

 

 

 

 

~注意!~

 

この先の展開はいろんな意味で筆舌に尽くしがたいため、音声のみでお楽しみください。

 

 

 

グシャッ!

 

バキィッ!

 

ドゴォッ!

 

ブチュッ!

 

グサァッ!

 

ギャァァァァ!

 

ヤメェェェェェ!

 

グハホッ!

 

ギェェェェ!

 

ヒィィィィッ!

 

キモチィィィィィィッ!

 

1combo!

 

2combo!

 

3combo!

 

4combo!

 

5combo!

 

6combo!

 

 

4444combo!

 

 

そして時は動き出すッ!

 

場所は戻って喫茶『Undine』店内。

 

絶望と死の淵にいた俺、白鵺陵は自由と人権と男の尊厳をいろいろ失って無事生還した。

 

にしても恐ろしかった痛覚がだんだん快感に変わっていったからな。

 

まさか巫仙さんにヤンデレ(ただしデレはない)属性があったとは。

 

っていうかそれただの病んでる人じゃないっすかやだー。

 

心も体も満身創痍の俺を女神(フレイヤ)の笑顔で迎え入れてくれた妹と叶深に心配をかけぬよう

 

体裁だけは取り繕った。

 

その後は、車座が模擬魔戦の代表に選ばれた話や、男子生徒の襲撃など取り留めもない話をして、

 

お開きになった。

 

店外へ出る。

 

空は茜色の色彩を帯び、気温も日中より大分下がっていた。

 

地平線の彼方からこっそり顔をのぞかせる太陽と輝きのまだ薄い星を散りばめた夜空のグラデーションが美しかった。

 

ベタな表現をするなら、『薄墨を流したような』といったところだ。

 

最後に。

 

俺は、時椿叶深に問うた。

 

 

「なあ、お前今日楽しかったか?」

 

 

それに彼女は満面の笑みで答えた。

 

 

「はい!」

 

 

そいつはよかった、と俺は呟く。

 

 

 

 

 

夜闇に沈む街並み。

 

しかし、そこには、俺にも計り知れない恐怖が大口を開けて待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか。

地の文がスカッスカですね。

反省します。

意味ありげな終わり方をしましたが、果たして?
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