鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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紆余曲折あって魔法概念を一新したいと思います。

端的に説明しますと、

事象(フェノメノン)の確定→属性の確定→発動!

だったのを、

物理魔法、属性魔法。

後はその複合技、ってのに変更したいと思います。

過去の分は…また追々。

では、どうぞ。


第弐章 模擬魔戦編
第陸話 前哨戦 -preliminary match?-


 

 

 

本日、四月十七日。

 

クラス対抗代表模擬魔戦まで残り四日。

 

 

 

1

 

 

さあ、章一つまるまる使って告知もしたんだ。

 

早速だが、修行パートに入っていくぜ。

 

今回、代表として模擬魔戦に出場するのは不動車座だ。

 

ところで、力の差が歴然としている相手を闘わせても溝を深めるだけなのに、学園は何でそれに

 

拍車を掛けようとするんだろうか?

 

ただでさえグランドキャニオン並にある溝が、チャレンジャー海溝になろうとしてるぜ。

 

まあいいや。

 

さあ、早速、文字数稼ぎに車座くんが必死こいて修行しているところを淡々と綴りたいのだが、

 

まずその前に。

 

まずに、だ。

 

不動車座の初期ステータスを確認しておこう。

 

いや、初期っつても、修行の前後で何かが変わるわけでもないんだがな。

 

奴の得意とする魔法は空気圧縮魔法だ。

 

具体的に言えば、『空気圧縮による高荷重気体を用いた汎用展開装甲』だ。

 

物理魔法・『圧縮(コンプレッション)』で圧縮された空気を約3cmの厚さで体表面1~3mmの間隔を空けた周囲に変形展開することで、

 

さながら、G-SHO○Kのような耐衝撃中空構造を作り出すことができる。

 

名づけて『空気装甲(エアアーマー)』。

 

・・・うわ、だっさ厨二かよ。

 

しかしながら、車座はその『空気装甲(エアアーマー)』をA級魔法使いレベルに使いこなせる。

 

通常、地表面を覆う空気は大気圏まで存在しており、その荷重は1平方cm当たり約9.807N、

 

即ち、0.1013MPaの圧力をもっていることになる。

 

魔法というものは非常に便利なもので、工業用機械の一切を使用せずに、この空気を圧縮することができる。

 

ご都合主義ここに極まれり。

 

この空気を用いて圧縮すれば、平均的な魔法使い(ウィザード)の圧力で、約97.248MPa(地表面圧力の960倍)。

 

というか、この時点で工業用コンプレッサーの許容圧縮限度0.6~0.8MPaを圧倒的に超越している。

 

対して、車座は恐るべきことに最大約1013MPa(地表面圧力の10000倍)の空気圧縮が行える。

 

驚天動地!

 

一般的な魔法使い(ウィザード)の平均圧力のゆうに10倍以上である。

 

また、ボイルの法則に基づき、10000分の1に圧縮された空気は、パンチングやキックなどの格闘技術のみならず、

 

ナイフやダガー、日本刀などの斬撃系の武器、

 

手裏剣や苦無(クナイ)、ポーラ、ボウイナイフなどの投擲系の武器、

 

ハンマーやメイス、モーニングスターなどの打撃系の武器、

 

槍などの刺突系の武器や、はてまて手榴弾や砲弾、プラスチック爆弾、ロケットランチャーなどの火薬系の武器までも防御してしまう。

 

流石に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機などの戦略兵器は無理だろうが(もしできたらこえーよ)、

 

さらに上位の使い手になるならば、できる奴も出てくるかもしれない。

 

・・・長ったらしい説明も終わりにして、

 

要するに車座は空気圧縮による『空気装甲(エアーアーマー)』と、後は申し訳程度の火属性魔法が使えるって訳だ。

 

そして、この度、俺が車座に教授しているのは、後四日に迫ったクラス対抗代表模擬魔戦に向けて対戦相手(既に発表済みだ)を効率よく倒すためのチキン作戦である。

 

世の中、覚えゲーと死にゲーだ。

 

STG然り。

 

敵機のフェードインする位置と攻撃の安地さえ覚えときゃ楽勝なのさ(錯乱)

 

さて、次章辺りで車座の対策相手の説明でもするか。

 

 

2

 

 

やあ(。・_・。)ノ

 

五行ぶりだね!

 

さあ、約束通り、今回の車座の対戦相手について説明しておこう。

 

 

 

氏名:メイスィ=フランデンブルグ=グレイ

 

国籍:ドイツ

 

魔法使い(ウィザード)ランク:A 

 

所属クラス:B

 

得意魔法:水属性振動魔法

 

詳細:水を自在に操り、また物理魔法・『振動(ヴァイブレーション)』で自ら水分子を高速振動させ、変幻自   在な魔法振動剣(ヴァイブロブレード)

 

   (因みに、魔法振動剣(ヴァイブロブレード)とは別に、通常の剣に高周波振動発生機を取り付けた物理    振動剣(ヴァイブロブレード)があるが、

 

   魔法振動剣(ヴァイブロブレード)の方が、量産性、耐久性、威力、有用性、使用時のコストパフォー    マンス共に物理振動剣(ヴァイブロブレード)を遥かに上回る)

 

   を生み出す『多頭の水蛇(ヒドラ)』という魔法を使う。

 

   また、高速振動を得た水は強固な盾としても使える。

 

   まさに攻防一体の魔法である。

 

   その多角的な戦術性を認められ、欧州連合並びに周辺国から、魔法名より『多頭の水蛇(ヒドラ)』と    別称される。

 

備考:相当な自信家、ただし動揺しやすい。

   

   心理戦に持ち込めば有利。

 

 

 

初っ端、上位クラスと当たってしまったのは運が悪かったと言えよう。

 

しかし、これだけの情報さえ集まれば、有利に戦いをはこべるに違いない。

 

対して、相手はただでさえ溝の深い我らがFクラス。

 

まず、なかなか情報は入手できないだろうし、なおかつ俺ら程度相手に事前情報など不要だ、という

 

無駄なプライドの高さがそれを後押しする。

 

必然的に我らが不動車座は丸見えすけすけの相手と、対してメイスィ=フランデンブルグ=グレイは靄のかかった正体不明の相手と戦うことになる。

 

言うなれば、片面から見ればスモッグ、もう片面から見れば向こう側の見えるガラス越しに対面しているような状況だ。

 

車座は相手を見透かした状態だが、対してメイスィ=フランデンブルグ=グレイは相手が見えていない。

 

この差異は表面上、地味に見えなくもないが、戦術的観点においては砂山とエベレスト並の巨大な差がある。

 

つまり、俺らは戦う前の時点で既に相手より一歩か二歩先んじているということである。

 

・・・ん?

 

何だ。こんな情報、誰がくれたのか、だって?

 

おいおい、情報提供者の誰何(すいか)を問うのは無粋ってもんだぜ。

 

 

「ま、私なんだけどね」

 

 

「おい我が妹よ(ディアマイシスター)、他人の独白に勝手に割り込むんじゃあない」

 

 

「ごめんね~あ、でも情報云々を集めてくれたのは叶深ちゃんだけどね」

 

 

嗚呼…空の彼方にあの天使の微笑が見える…

 

アーメン!

 

カナミンに幸あれ!

 

って、あいつBクラスかよ。すげえな。

 

 

「…後であいつにゃお礼言っとくか」

 

 

ところで妹よ、お前はBクラスだったろ。

 

お仲間のとこに行かないで、こんなとこで油売ってていいのか。

 

おまけに対戦相手に情報まで開示して。

 

 

「いいの。いいの。あんな雑魚連中に付くよりは優秀な御仁に付いた方がいいよ」

 

 

 我が愛し妹(マイラヴリーシスター)の外道っぷりを垣間見た。

 

 

「…まあ、でもバレない程度にしとけよ。お前が間諜してたことが露呈でもしたらお前のみならず、

 

 俺らのクラスにも被害が波及する」

 

 

「心得てるよ。自分でいうのも何だけどこういう小賢しい真似は得意なんだよね」

 

 

…何だろう、お兄ちゃんの知らないところで妹が恐ろしい綱渡りをしていることに悲壮を禁じ得ない。

 

 

「いざとなったら『玉藻』の幻術でなんとかしてもらうよ」

 

 

玉藻。

 

黒鵺寵が使役する狐の妖魔――妖狐である。

 

伝承に基づき、妖狐は遍く人々を化かし、騙り、偽り、誑かし、賺し、欺き、瞞し、惑わす。

 

その為の妖術の一つ、敵に幻を見せ、現実と錯視される妙技こそが幻術。

 

妖狐使いたる我が妹の最も得意とするものだ。

 

 

「おいおい、我が妹よ(ディアマイシスター)。頼むから俺の二の轍を踏んでくれるなよ。

 

 マジであの『紫電閃飛』はしくったと思ったんだ。

 

 最悪、本家の方に漏れたらヤバかったぜ」

 

 

これも全て愛神先輩のお蔭。

 

おお、救世主(メサイア)

 

後光を現出させ、末法の世を救世する仏の如き、神々しい御姿が見える…

 

さておき、愛神先輩が箝口令を敷いて以来、まるでダムの水をせき止めたように

 

Fクラスの中では、まことしやかに囁かれているものの他のクラスに溢れた形跡はない。

 

改めて、十神眷族の情報隠蔽能力の高さを思い知った。

 

 

「あ、そろそろ次の授業が始まっちゃう。

 

 流石に戻らないと猜疑がかかるからもう戻るね」

 

 

「あいよ…まあ、頑張れ」

 

 

一体、何を頑張れという話なのだが、

 

 

「うん、じゃーね。おにーちゃん」

 

 

妹は意気揚々と帰っていった。 

 

さあ、上位クラスを騏驥過隙、光芒一閃と叩きのめしてやるための戦略を車座に教示してやろう。

 

 

3

 

 

「さて、車座や。

 

 今回の作戦においてはお前の得意な『空気装甲(エアーアーマー)』よりも、

 

 火属性魔法が重要な勝利要因となる」

 

 

「なんやて?」

 

 

車座がエセ関西弁で反応する。

 

 

「聞くに、対戦相手の嬢ちゃんは水で作った振動剣(ヴァイブロブレード)を使うんや、

 

 水に弱い火属性魔法を使うよりは『空気装甲(エアーアーマー)』の方が、まだ対抗できるんちゃう?」

 

 

車座は予想通りの発言をした。

 

俺は予め決めておいた解答をする。

 

 

「まあ、その通りだろうな。

 

 ゲームの世界でも水>火というのは万人の常識だし、現実世界も然り。

 

 確かに、火は水と相対する場合、酸素欠乏により簡単に消滅してしまう。

 

 しかし、だ…」

 

 

僅かな沈黙タイム。

 

 

「水もノーダメージじゃねーよな」

 

 

「……?」

 

 

車座は図りかねる様子だった。

 

 

「分かりやすく言うぜ。火と水の接触によって消滅するのは火だけじゃあねーよな?」

 

 

「……………???」

 

 

三点リーダーとクエスチョンマークがさらに増えた。

 

 

「チッ…馬鹿め」

 

 

「ひどない!?」

 

 

おっと、すまん本音が。

 

さて皆様。

 

一体全体、俺は何を考えてるのでしょうか。

 

そして、俺らのジャイアントキリングの全容や如何に!?

 

 

4

 

4月18日。

 

クラス対抗代表模擬魔戦まで残り3日。

 

 

5

 

 

思うんだけど、一章まるまる使って時間経過を表現するのってどうかと思うんだ。

 

 

「知ったこっちゃないですわ」

 

 

「お前、どうやって俺のモノローグに介入した」

 

 

「活字世界では大抵のことが可能ですわ」

 

 

ちょっ…メタいてそれは…

 

で、俺と巫仙は今現在、食堂にいるわけだ。

 

しかし、これは食堂の名を冠したバイキング、あるいはビュッフェに他ならない。

 

ここはホテルかよ。

 

肉、魚、サラダ類は基本セルフサービス。

 

テーブルの上の巨大な容器から各々受け皿に自由にとっていくスタイル。

 

それでもステーキや麺類などは例外で、厨房のカウンターで受け取る形式だ。

 

俺は牛肉のステーキにコールスローサラダ、

 

巫仙はヘルシーにレタスやトマト、ヤングコーン、

 

ブロッコリースプラウトなどの色とりどりの野菜にノンオイルドレッシングをかけた物を各自、食事用のテーブルに運ぶ。

 

そして、この食事が全て国民の血税で賄われているのだと思うと、悲しい気持ちになってくる。

 

窓際の席に着座。

 

日当たりのいい場所だ。

 

俺は皿に盛られたステーキを見る。

 

恐らくサーロインかヒレ肉。

 

恐らく、歩留等級はA、肉質等級は4、即ち階級A4ランク。

 

上質な牛肉である。

 

さらに、括目せよ!この脂の照り返しを。

 

さながらブリリアントカットにより計算しつくされた輝きを放つダイヤモンドのようではないか!

 

そのうえ、このナイフで切った際に染み出る濃厚な肉汁が――

 

…飽きたわ。

 

食リポもどきとか似合わねーな。ボキャ貧だし。

 

そして、俺がホクホクの気持ちで上質なステーキを食そうとしていると、

 

 

「こんにちは」

 

 

何だか無性にムカつくイントネーションの声が頭上より発せられた。

 

俺は「おいてめ、人の食事邪魔してんじゃあねえよ」と言いたいのを抑えつつ、

 

ナイフとフォークを置き、声の方を見上げる。

 

そこにいるのは、あろうことか緋狩澤光である。

 

緋狩澤光。

 

所属Aクラス。S級魔法使い。

 

今期の首席合格者である。

 

あと、その下僕らしき者共とギャラリー複数。

 

ギャラリーの「キャー、緋狩澤様だわ!」とか「女神の降誕よ!」などの合いの手が妙に安っぽい。

 

 

「Aクラスのトップ様がFクラスの凡人風情に何の御用で?」

 

 

俺は敢えて卑屈に応答する。

 

すると、緋狩澤光は馬鹿馬鹿しい、とでも言わん顔で、

 

 

「白々しいわね。

 

 Aクラスの魔法使い(ウィザード)二人を丸腰で沈黙させた男が、よく言うわね。

 

 しかもAクラスの生徒の方は身体強化魔法を施していたと聞くわ」

 

 

チッ…知られてたか。

 

Aクラストップの情報収集能力は伊達じゃないってか。

 

その発言に下僕、ギャラリー共々ざわめき立つ。

 

そう、実際、Fクラスの生徒300人がかりでもAクラスの生徒単体を討つことは不可能とされている。

 

それをたった一人で、しかも二人相手になど、尚のことさら。

 

いわんや身体強化を施している相手をや、である。

 

もはやこの領域に達すると、どんな高性能演算能力をもった次世代のスーパーコンピューターでも

 

予測不可能かもしれない。

 

 

「そのうえ、うち一人が発動した危険度Cクラスの魔法『岩石炸裂(ガイアボム)』を歯牙にもかけなかったらしいわね」

 

 

下手をすれば、国際魔法令により件のAクラス男子が縄につくような発言を余裕でする緋狩澤光。

 

食堂内の動揺のボルテージはもはやMAXだ。ゲージカンストと言ってもいい。

 

恐らく、奴らの中での俺の評価は鰻上りだろう。

 

…ん?

 

ああ、なるほど。

 

コイツの考えていることが分かったぜ。

 

未だ滔々と俺の英雄譚(?)お語り続ける緋狩澤光に俺は投げかける。

 

 

「おい、言うけど俺は代表戦にはでないからな」

 

 

ピキン、と一瞬だが、緋狩澤光の顔が凍り付く。

 

見破られた、あるいは当てが外れた、といった感じだ。

 

要するに、彼女の考えていることはこうだ。

 

セルフハンディキャッピングという心理学用語がある。

 

失敗の恐れがある際、事前に自分に不利となる外的要因を用意しておくことで自尊心を保とうとする心理である。

 

成功した場合には自分に不利となる要素があるにもかかわらず…

 

などと自分の最終的評価を高める結果にもつながる。

 

礼を上げるなら中間試験前によくある「俺全く勉強してないんだよね~」と吹聴する輩である。

 

この場合の外的要因とはFクラスにも関わらず、Aクラス二人を素手丸腰で倒した俺。

 

俺というファクターの存在で、勝敗にかかわらず、緋狩澤光は一定の威厳保持ができるのである。

 

 

「残念だったな。お前の浅ましい謀略は発動する前に終わったってわけさ。

 

 ところでさ、緋狩澤光。

 

 アンタ、格下相手にこんなチキンプレイやってて恥ずかしくねーのかよ」

 

 

切り返し、と言わんばかりに俺は最大限、緋狩澤光を煽る。

 

コイツも自尊心が強いのであれば、この程度の精神攻撃程度で簡単に動じる。

 

 

「なんですって…」

 

 

計 画 通 り。

 

案の定、乗ってきやがった。

 

フハハハ!こういうエリート気質の者ほど操りやすいものなんだよ。

 

ざまぁみな。

 

俺の言葉攻め(精神攻撃)に沸騰寸前の水の如く、業腹の緋狩澤光は、

 

ドスン、ドスン、とでも効果音の響きそうな足取り(地団駄、といった方が正しいか?)で、

 

 

「行くわよ!」

 

 

と、連れの下僕連中と共に解散していた。

 

周りのギャラリー(主に緋狩澤光目当て)は最初、えらいこっちゃ…みたいな目を向けていたが、

 

状況が終わると、さも今まで何もなかったかのように三々五々散っていった。

 

 

「陵さん、私はこれで」

 

 

いつの間にか全て食い終えていた巫仙さんは、こちらも何事もなかったように皿を片づけ、帰って行った。

 

って、俺のこと放置かよ。

 

まあいい。俺もそろそろステーキを食うとするか、と皿の方に向き直ると、

 

悲しいことに、ステーキは冷め、ジューシーな脂はねっとりとしたそれに変わり、膨大な肉汁も全て皿にこぼれきっていた。

 

~~~♪~~~~~♪

 

おまけに例のチャイムである。

 

昼休み、終了の時間だ。

 

さらば、肉よ。さらば、血税よ。

 

アーメン。

 

 

6

 

 

食堂からすごすごと退散した緋狩澤光は形容しがたい憤怒と羞恥に塗れていた。

 

少なくともあの男は会話の中から、自分の作戦を探り当てたために他にバレている心配はないだろう。

 

しかし、その場は取り繕えても、自分があの男から紛れもない恥辱を受けたのは確か。

 

緋狩澤光はそれに憤怒し、羞恥していた。

 

それに、

 

 

(あの男…代表戦に出場しないですって?!)

 

 

緋狩澤光は手早く懐から端末を取り出し、学内掲示板にアクセス。

 

『クラス対抗代表模擬魔戦』出場代表者Fクラスの欄を確認…

 

 

(確かに…不動車座とかいう名も知らぬ男になっていた)

 

 

くっ…このままじゃあ上位魔法使い(ウィザード)の威厳を保つための私の作戦が根本瓦解してしまう。

 

全ての根源は件のAクラス生徒と白鵺陵とのひと悶着から。

 

このままでは上位魔法使い(ウィザード)の尊厳と沽券に関わる。

 

クラス対抗代表者模擬魔戦に向けて、あらゆる可能性を考慮して、あの手この手を打って立てたこの作戦。

 

そのためにわざわざ恥ずべきあの件の醜態を多くの耳目の下で吹聴したのである。

 

それがこんなことになってしまっては元も子もない。

 

 

(こうなったら、意地でもあの男と代表戦で当たらねば…)

 

 

しかし大会規則により、原則、一度申請した代表者を変更することはできない。

 

どうにかならないものかと、緋狩澤光は端末のディスプレイに指を滑らせ、

 

生徒どころか、教師すらも読まないであろう細かい大会規則まで読み漁る。

 

 

(………!)

 

 

そして、見つけた。

 

闇金業者の契約書にでもありそうな小さいフォントでそれは記されていた。

 

緋狩澤光、上位魔法使い(ウィザード)の名誉を賭けた乾坤一擲の大勝負である。

 

 

7

 

 

4月19日。

 

クラス対抗代表模擬魔戦まで残り2日。

 

 

 

8

 

 

本当に思う。これやめようぜ。

 

 

「まあ、ええんやないの」

 

 

「ついにはお前までモノローグに干渉してきたか…」

 

 

「儂は流れを重視するタイプやから」

 

 

「それでいいのか、お前」

 

 

「ハハハ…」

 

 

まあいい。

 

俺らは今、教室の席で前後向かい合って話している。

 

早速、俺はこう切り出した。

 

 

「ほんじゃ、車座。今回の戦いに向けて、お前に一つだけ覚えてもらいたい火属性魔法がある」

 

 

「何や?」

 

 

「『爆炎(バーニング)』だ」

 

 

爆炎(バーニング)』。

 

本来、火薬に点火しない限りは自然の火で生み出すことのできない膨大な熱エネルギーを持った炎を生み出す術式だ。

 

最大温度は2000度まで可能と言われている。

 

 

「なんじゃそりゃ。それ初級魔法やないか」

 

 

「お前はその初級魔法すら体得してねーだろ」

 

 

車座の反駁を一蹴する。

 

 

「しかし、陵。

 

 そんな初級魔法で『多頭の水蛇(ヒドラ)』たるメイスィ=フランデンブルグ=グレイに勝てんのかいな?」

 

 

「ああ、勝算はある」

 

 

俺は確信を得た笑みを浮かべる。

 

 

「この作戦であれば、相手の精神面を利用して、勝率…80%ぐらいじゃないか?」

 

 

「高すぎや!」

 

 

車座がツッコむ。

 

しかし、決してこれはおふざけではない。

 

真剣そのものだ。

 

 

「おいおい、Bクラス相手にそんな勝率高くてええんかい」

 

 

「ああ、むしろこの方が必然にして必定だろう。

 

 車座、一対一の勝負における勝敗を分かつ要因というのは力量差、技術力の差はあれど、

 

 根本的なものってなんだか分かるか?」

 

 

車座は暫し黙考して、答えを出した。

 

 

「さあ…精神力やないの?」

 

 

「正解だ」

 

 

というか、これぐらいだったら誰でもわかるだろう。

 

なのに、車座は喜色満面のドヤ顔をしていた。

 

ぶん殴りてぇ…

 

 

「幾ら戦力差が優っていても、幾ら戦況が勝っていても、

 

 畢竟、戦うための精神力さえなければ敗北の色が濃厚になる。

 

 例を挙げるならば戊辰戦争の鳥羽・伏見の戦いだな。

 

 結果は知ってるか?」

 

 

「ああ、政府軍が勝って、幕府軍が負けたんやろ」

 

 

「そうだ。このくらいだったら中学か高校の日本史で学ぶだろ。

 

 で、だ。

 

 実際のところはその鳥羽・伏見の戦い。途中までは幕府軍が押してたんだ。

 

 戦況的に幕府軍が有利だったのさ。

 

 しかし、時の将軍・徳川慶喜はあろうことか有利だったにもにも関わらず、全軍を撤退させてしまい、

 

 みすみす勝っていた戦を負け戦にしてしまったのさ。

 

 将の無能さが招いてしまった悲劇だな。

 

 なあ、分かっただろ。戦いにおいて勝利要因の大部分を占めるのは精神力の差だ。

 

 例え力量差があっても士気が高ければカバーが効くものなんだぜ」

 

 

途中辺りから首の傾斜角がだんだんと大きくなってきた車座だが、俺が言わんとしていることはなんとなく察してくれたようだ。

 

 

「陵よぉ、勝つために必要なのは精神力ってのは分かった。

 

 けども、それがどうしたっちゅうんや?」

 

 

「おうけい、説明して進ぜよう。

 

 俺の調べ(嘘)により、今回の対戦相手メイスィ=フランデンブルグ=グレイは動揺しやすい、

 

 有体に言えば精神力が低いことが分かっている。

 

 隙を突くならそこだ。

 

 相手の想像もつかないことをやって、相手が対応の追い付かないうちに一瞬で仕留める。

 

 速攻作戦をとる」

 

 

「おお、口上だけ聞けば、まともっぽいなぁ」

 

 

車座が食いついてきた。

 

まぁ、コイツはとばっちりと禍酒先生の思いつきで代表に選ばれちまった哀れな奴だしな。

 

せめて勝たせてはやろう、と思うだけさ。

 

 

「そうだろ。じゃあ早速だが、作戦の概要を話すぜ。作戦会議(ブリーフィング)だ」

 

 

俺はクラス専用の端末から文書ソフトと描画ソフトを立ち上げ、作戦会議(ブリーフィング)を開始した。

 

実のところ、作戦概要も手短に済ませば、全て口頭で済ませることができたが、

 

車座の処理能力で理解できるかは五分五分だったので機器を使っての説明と相成った。

 

しかし、その分、口頭では手間取るところも簡易に説明できたため、全体効率は良かった方だろう。

 

最後に俺はこの作戦をこう名付けた。

 

 

 

――作戦名『フリーアティク・エクスプロージョン』――

 

 

 

そんままじゃねえか。

 

なんてツッコまないツッコまない。

 

 

9

 

 

暗黒の海広がる第三情報処理室では机上と壁一面に設置されたホログラム投影機と、それにより空中に投影されたホログラムディスプレイのみが光源である。

 

静寂の室内に唯一響くのはキーボードがカチャカチャと打鍵される音、ではない。

 

というかキーボード自体も無線タイプのディスプレイにされ、音すら響かない。

 

強いて言えば、冷却ファンの回る音ぐらいだろうか。

 

そのホログラムディスプレイの一つに表示されているのは、

 

生徒の個人情報サーバーに照会されたとある生徒の情報。

 

それには年齢、国籍、出自、生年月日、得意魔法、人によっては過去の戦歴、数多の個人情報が表示されている。

 

 

「今頃、『情報は入手困難で、Fクラス程度相手に事前情報を入手することなど、奴らの自尊心が許さな

 

 いだろう』とか思ってんじゃあないのかしら。

 

 だとしたら、とんだ脳味噌お花畑だわ」

 

 

闇の中で一人の少女が毒づく。

 

しかし実際、この少女の言ったことはとある少年の発言と意を全く同じくする。

 

少女はなお、独りごちる。

 

 

「私たちが自尊心に駆られて事前調査を怠ると思ったかしら。

 

 勝負は考覈(こうかく)ありき。

 

 どんな格下相手でも私は一切警戒を怠らないわ」

 

 

そう、この時点でとある少年が比喩した『片面から見ればスモッグ、もう片面から見れば向こう側の見えるガラス越しに対面しているような状況』、

 

というのは崩れ去った。

 

むしろ少女のガラスの方が透明度が高いだろう。

 

彼女は油断を一切しなかった。

 

例え相手が、Fクラスの不動車座なる無名の魔法使い堕ち(ワースト)だとしても、

 

例え自分が、今もなお欧州で『多頭の水蛇(ヒドラ)』として恐れられる、A級魔法使い(ウィザード)・メイスィ=フランデンブルグ=グレイだとしても。

 

 

「ど~お?調査終わった?」

 

 

背後より陽気な声が聞こえる。

 

振り返れば、そこには冷却ファンによって制服でも寒いような室内を、あろうことかスクール水着で闊歩する少女がいた。

 

彼女はメイスィ=フランデンブルグ=グレイから見れば先輩にあたる。

 

おまけに彼女は巨乳ツインテールだった。

 

実際、生徒の個人情報サーバーなんてものは一介の生徒がアクセスできるものではない。

 

教師の中でもアクセス権限があるのは数名だ。

 

では、なぜメイスィ=フランデンブルグ=グレイはこのようなことができたのか?

 

答えは簡単、全てこの先輩の少女が助勢してくれたからだ。

 

なんとこの一見エロいだけの少女、

 

現実世界においてはその魔法技術で幅を利かせているだけでなく、

 

電脳世界、即ち0と1との狭間の世界でも圧倒的パワーレベルを誇る――ハッカーとしての能力ならば世界でも五指に入る実力の持ち主だったのだ。

 

そうこうしているうちにメイスィ=フランデンブルグ=グレイはサーバーからログアウトし、「電源は落としておいた方が良いですか?」と訊き、「あ~ほっといていいよ」との返答を

 

得られたので、ディスプレイは放置し、そのまま席を立つ。

 

ポリエステル化学繊維の生地を破らんばかりの勢いで、あふれるようにその双丘を揺らしながら

 

「じゃあね~」と手を振る先輩を横目に、

 

メイスィ=フランデンブルグ=グレイは、寒暖差で以上に暑さを感じつつも第三情報処理室を後にした。

 

 

 

 

 

白鵺陵は、勝利への布石を着実と打ち、

 

 

黒鵺寵は、賢しく考えを巡らせ、

 

 

夜鳥巫仙は、弱者の下剋上を傍観し、

 

 

メイスィ=フランデンブルグ=グレイは、あらゆる予測法則を欺き、

 

 

緋狩澤光は、運命の勝負に一擲乾坤を賭し、

 

 

様々な人間の、様々な思惑が入り乱れ、

 

クラス対抗代表者模擬魔戦が始まろうとしていた。

 

 

本日、4月20日。

 

クラス対抗代表者模擬魔戦まで残り一日。

 

 

 

 

 




どうでしたか、前回の話が深夜のテンションになりすぎたため今回は大人しく。

さて次回から代表戦の始まりです。
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