特に考証もしてないです。
間違いを見つけたら教えてください。
来たるは、クラス対抗代表模擬魔戦。
その会場となる第十三魔法実習室には、大会に参加しない一学年生徒が全員集結していた。
これは必然というべきか、生徒ら諸君は一部の例外を除いて、
さながら美しき数列の如く綺麗にクラスごとに区別化(いや、ここまで来るともはや差別化か)されていた。
鮮やかなまでの階級社会。
悍ましいまでの優劣意識。
不可視ながらも確かにそこにある重厚な隔壁がそこにはあった。
・・・話を戻そう。
各クラス一名ずつ、総じて六名の代表出場者を除く学年生徒234名という人数を収容できる第十三魔法実習室は、
他の第一~第九魔法実習室よりも大規模な魔法吸収装置、さらには生徒防護用の魔法障壁が室内全域に展開されている。
仮にも国際魔法連盟の定める魔法律においては『戦略兵器と同等の能力を持ちうる存在』と明記され、
国家によっては『人間兵器』と、
堂々と明言されている存在が大人数収まる場所。
故に斯様な大掛かりな対策を講じておくのも当然のことであろう。
会場内はオーディエンスの興奮と熱気に溢れ、ボルテージMAXの様相を呈している。
しかし、それは代表戦における勝率が一定以上保障されている上位クラス連中のみだ。
対して、うちのクラスは闇に温度でも呑みこまれたかのような暗澹たる様。
さっさとこんなイベント早く終わってくれないかな~的な雰囲気が漂っている。
非リア充どものクリスマスかよ。
中の人的には共感できるわ。
あちらとの熱気の差で蜃気楼現象でも起きそうだった。
このクラス対抗代表模擬魔戦は、基本二日に渡って開催される。
一日目に予選一組目、予選二組目、予選三組目。
二日目に準決勝と決勝。
怪我人などが出ない限りはこの日程が遵守される。
かくして俺らの最初の対戦相手となるBクラスだが。
もはや勝利でも確約されたかのようなはしゃぎっぷり。
俺達との試合を消化試合ぐらいにしか見ていない。
さながらオンラインゲームのレベリング程度の認識でしかないだろう。
というか、奴らは経験値の足しにすらならねぇとか思ってんだろ。
だが、残念。
他の奴らはどうだかは知らんが、正直、俺は負ける気なんて微塵もないぜ。
「勝利の確信に満ち溢れたその面を絶望の二文字で塗りつぶしてやるぜ」
「なに初っ端からイタイ台詞ぶちかましてんの」
「何ィ!?
「いや、アンブッシュだかアンジ〇ッシュだか知らんけど、違うし」
俺の座る席の右側にいつの間にか鎮座していたのは
「ほんとですわ。隣で聞いてて如何に恥ずかしかったことか。万死に値します。
一度無間地獄に堕ちて、二度と這い上がってこないでほしいですわ」
そして、俺の左側から青酸カリもびっくりの毒舌を放っているのは、我らが巫仙さんであった。
呆然と侮蔑のサンドイッチとなった俺はむしろ快感を覚え始めた。
はいそこ、マゾとか言った奴マジ殺す。
「ところでおにーちゃん」
「何だ?
「初戦から早速、私のクラスと対戦することになったんだけれども
勝算は如何ほどにあるのかな?」
「妹よ、愚問だな。万全に万全を10乗した俺の策略に抜け目はないぜ」
この会場に居る生徒共は皆、この俺の権謀術数なる謀略に舌がローリングスプラッシュすることだろう。
思わず、ニヤケが顔に出ちまった。
そして、妹と巫仙が例の表情。
ふふふ・・・これもまた悪くない。
おい今Mつった奴、誰だオラ。
と、ここで俺の脳裏に一つの疑問が過ぎる。
「ところで
確かに、この見物席に場所指定なんてのはねーが、さしかし、明らかにこりゃクラスごとに綺麗に分かれてる。
こんなとこにいると目立って仕方がないんじゃあねえか?
最悪、クラスにおけるお前の立場も・・・」
俺は心の内の不安を、疑念を妹に問い掛けた。
それに対し、妹は、さして問題ではない、という風であった。
「ちょいちょいおにーちゃん、忘れちゃったの?昨日の今日だよ?
寵の幻術は世界一ィ!なんだよ?」
流石にそこまでは行かないだろ・・・
確かに妹は、妖狐という類の、いわば幻術のオーソリティとも呼べる妖魔を使役するが故の抜きん出た幻術の使い手。
確かにそんじょそこらの精神干渉魔法では遠く及ばないだろう。
だが、それは魔法という枠内における比較にすぎない。
こちら側の人間ともなれば黒鵺寵を技術的超越しうる者は数多いる。
「うんうん、お前の幻術の凄さは身に沁みて既知の上だ。
しかし、余りここでそういうものを使いすぎるなよ。
今のところ、まあ、あくまで俺の目算だが、お前の幻術を看破できるだけの力を持ちうる者を二人ほど見かけた。」
対して妹は、俺の忠告を了解したのか、してないのか、
「ふんふん、成るほど。じゃあ私もバレないように頑張らないとね♪」
と、挑戦的セリフを吐くだけであった。
はあ、我が妹は相変わらずだ。
と、我が子の身を案ずる親のような感情に浸る俺だった。
3
クラス対抗代表模擬魔戦、第一回戦。
対戦相手、Bクラス所属メイスィ=フランデンブルグ=グレイ。
『多頭の水蛇』と称されるハイランクの魔法使いだ。
正直、自分程度の力でそんな輩をどうこうできるのだろうか、という不安は拭えず、
終始緊張で強張った状態である。
しかし大会前日、白鵺陵の提示した一つの打開策ーー勝算が不動車座の唯一の行動原理である。
そもそもそれさえ無ければ、車座はとっくに代表の座を辞していたところだろう。
『それでは、Bクラス、Fクラス、各クラスの代表出場者はメインコートに集合してください』
緊張で凝り固まった聴覚を揺さぶるような機械じみた音声。放送部だろうか?
これから始まる大舞台に嫌でも心臓の鼓動が早鐘を打つ。
車座はそれを落ち着けるため、大きく深呼吸をした。
腹式呼吸である。この方法により最も効率的に脳に酸素を送り込むことができる。
ついでにに人の字を手の平に書いて、それを飲み込む。
時には、民間伝承も大事だ。
車座は心臓部に手を当て、鼓動が鎮静化したことを確認すると、
幾分か緊張の緩和した顔つきで控室を後にした。
3
『それでは対戦する代表選手の説明に入ります。
まずはBクラス代表、メイスィ・グレイ!』
大会の司会進行を担う放送部の先輩による意気揚々とした選手解説が始まった。
特に司会者の面としては、オーディエンスーー即ち、他の生徒に飽きられることのないバラエティー性に富んだ話術能力が問われる。
果たして、その勢いに乗り、Bクラスの領有する席の周辺では熱気がさらに増す。
(む。完全に勝ち確ムードやないか)
気に入らない。
というのが車座の心からの本心だが、この対戦カードを見ては、そう思うのも当然のことだろう。
こんな時、あの男なら何と言うだろうか?
『面白い。数値上の優劣で浮かれてる脳内フラワーガーデン野郎どもに現実の二文字を叩き付けてやろうじゃないの』
脳内で自動再生される陵の毒舌で、車座は気持ちを和らげつつ、車座は来たる対戦者と対峙する。
『対するは、Fクラス代表、不動車座!
強敵に仇なす小さな巨人は下剋上を成し遂げることができるのか!』
と、それっぽい言いつつも、司会者の声には諦観が混じっている。
車座を見つめる周囲の視線も似たようなものだ。
諦観。憐憫。嘲笑。
さながら百獣の王に抗うバンビでも見つめる目だ。
(やけど・・・あの男なら、こんな状況すらも好機や捉えるんやろな)
ピンチはチャンスだ。
なんて、平気で言いそうな男である。
あの男ならば侮蔑の視線に炙られながらもニヤニヤと、達観したような笑みを浮かべることができるのだろう。
(やったらわしも、こんな状況、平気の平左で笑い飛ばしたる)
思いつつ、車座はその貌に不敵な笑みを貼り付けた。
4
(…何だ?この男は)
メイスィ=グレイは、目の前の男に対して『不可解』の三文字を抱かざるを得なかった。
理由?そんなもの簡単だった。
目の前の男ー―即ち、自分の対戦相手たる不動車座が、笑っているからなのだ。
へらへらと嗤っていたからなのだ。
メイスィ・グレイは、この行為をもはや『不快』とすら捉えた。
それは、単に不動車座の笑い顔が気色悪いとか、そんな理不尽な理由ではなく。
(たった今から無残で絶望的な敗北を喫するであろう相手に対して、こんな笑みを浮かべられるだろうか)
車座の貌を第三者が見たならば、到底これから負け試合を行うようには見えないだろう。
何なんだ、その表情は。
それは、まるで。
(勝たんと言わんばかりの表情じゃないか…)
この時、メイスィ・グレイは、
目の前の男に対し、『恐怖』とは行かないまでも、
明確な『戦慄』を覚えた。
そして――
試合開始の合図が鳴り響く。
5
試合開始早々、メイスィ・グレイがとった行動はとても単純であった。
「『
その宣言と同時に、車座の前方、後方、左方、右方、上方の計五方向から極太の水流が迸った。
それはほぼ同時に車座の躯体に命中し、全方向から降り注ぐ高圧水流により車座の身体を拘束した。
メイスィ・グレイはA級魔法使い。
その魔法発動速度は悠に車座を凌ぐ。
故にメイスィは車座が厄介な『
以てして機先を制すればよいのだ。
おまけに、車座の周囲を水で包囲する=空気と隔離する、ということなので、
車座は空気の供給ができず、同時に『
なんという一石二鳥か。
『
本来、この魔法は相手を吹き飛ばすためのものだが、
魔法の同時多数展開と、それを制御するだけの演算能力さえあれば、このような応用も利く。
さて、一方の車座だが…
(計 画 通 り とでも言うとこうか)
笑いが止まらなかった。
勿論、ここは水中なので本当に笑ってしまったら肺腑の空気が空っぽになって窒息は否めないので、
あくまで表情だけにとどめている。
この時点で、車座は自身の勝利を六割方確信している。
過信ではない。換言するならば白鵺陵への信頼、とでもいうべきか。
信頼――言葉尻だけ捕まえれば、何とも体の良く、偽善的な言葉に聞こえるが。
人間が行動を起こすにはその程度で十分である。
それでは、時機も上々と拝察したため、そろそろ明かすとしよう。
彼の考案した、作戦『フリーアティク・エクスプロージョン』――
和名、『水蒸気爆発』作戦のその全容を。
彼のとったアクションは至極簡易だ。
ただただ耐える。その一点。
ここで一つ。
いつ止むやも分からない攻撃に対して、耐久戦法は愚直すぎないだろうか。
という疑問が浮上するだろう。
しかしそれに関しては、車座もとい陵は既に攻略済みである。
大会規則にこのようなものがある。
『相手を絶命、ないし後遺症を残すに至らしめる行為を禁じる』
無論、当然のことだが、逆にこうはとれないだろうか。
前記の状態に至らない程度で攻撃は止むのではないか。
即ち、この場合は意識を奪うと言った程度か。
そこで一つ、ちょっとした雑学を提示しよう。
『窒息』というものには、段階があるというのはご存じだろうか。
数十秒程度ならば、心身に異常はないが、
1~3分で痙攣、意識喪失、昏睡。
8~12分で窒息死といった流れである。
勿論、窒息死させてしまえば大会規則違反どころか刑法、魔法律で裁かれるのは当然なので、まずない。
1~3分の間に留めておくだろう。
しかし、あまりにも長いと後遺症が残りかねない。
故に長くても1分。
それで足りなくても衰弱は見込めるだろう。
つまり車座は、この『
しかし、車座も超人類ではない。
開始直後の奇襲に対応し、息を1分止めるなど、車座の肺活量のキャパシティを超えている。
普通ならば対応不可能だ。
普通ならば。
しかし、今回は違うだろう。
『相手は恐らく、お前の『
対策はただ一つ。
予め息を吸って、肺に空気を溜めて乗り切れ。
厄介なのは水圧で空気を吐き出させられることだが…そこは頑張って耐えろ』
先日のブリーフィングでの陵の言葉が脳裏を掠める。
車座は陵による助言を予め受けていた。
それならば不可能ではない、どころか限りなく100%可能だろう。
その助言通りに、車座は試合開始3秒前辺りから肺活量限界の空気量を肺に溜め込んでおいた。
車座の肺活量は常人よりも少し高い程度だ。
理論上、耐久可能な訳である。
車座は咄嗟に身をかがめ、水圧抵抗を逓減させる。
しかし――
(意外ときっついもんやな…ッ。そろそろ一分過ぎた頃やろか。
もう止まってもいい頃やと思うが…)
全方向から殺到する圧倒的水圧。
それは車座の肺の空気を奪うのみならず、身体的ダメージを重ね、体温すら簒奪する。
特に辛いのは、上方からの水流。
背骨にもろに攻撃を喰らう上、体表面積もあり、押しつぶすような攻撃になっている。
一度、地に伏してしまえば、地面と水圧のサンドイッチでもれなく酸素サヨナラである。
そして、『
水勢が徐々に弱まり、水流の身体拘束から解放されていくのが感じられる。
身体にはまだ若干、麻痺が残っているが。
(なるほど…間をとって2分っちゅうことか)
一人、心の中で納得して、周囲に立ち込める霧の中、車座は身を起こした。
6
メイスィ・グレイは勝利を確信した。
とまではいかないが、相手に致命的なダメージを与えることには成功したはずである。
少なくとも2分に及ぶ水流放射により、相手は魔法を展開するだけの体力をもう有していないはずである。
あとはそう、お得意の『
メイスィは白煙の如く立ち上る霧中にて、敵影を予測位置を認めつつ、視界が開けるのを待っていた。
――しかし、事はそう簡単に運ぶものではない。
メイスィは霧の奥に茫洋と浮かぶ灰色の影を視認した。
ところが、メイスィはその影に対し、冷静ではいられなかった。
そう、その影が踊るべき速度で拡大――つまりは接近しているのだ。
そしてついに数秒後、
不動車座が霧を割って、メイスィの眼前に飛び込んできた。
互いの間合いは僅か1m程度。
二人の決着はこの数秒後につくこととなる。
7
そして、数秒後。
倒れていたのはメイスィである。
暫時、意識が飛んでいたのであろう。
始めは起き抜けの頭のように思考すら出来なかったが、
徐々に意識が明瞭としてくると、体の諸感覚器官の情報伝達も回復し始めた。
まず、最初に感じたのは背部の痛覚だ。
次に、身体中に感じるじりじりと灼けつくような痛み。
そして、完全に復活したメイスィの脳は、この数秒の間に起こった出来事の全てを把握した。
あの時、メイスィの間合いに飛び込んできた車座に対し、彼女は咄嗟に『
利用した『楯』状の『
攻撃は最大の防御と言われるように、『
高周波振動で固められた金城鉄壁の楯はいかなる物理攻撃も弾き飛ばす。
それは、車座の『
説明はまだであったが、『
人誅無比の鎧と、金城鉄壁の楯。
いずれも攻撃性と防御性に長けた二つの魔法だが、
こと攻撃対防御に関しては、『
咄嗟の行動だったためにメイスィはそこまでの判断には及ばなかったが、結果的には良し。
『
相手の不意を突いたところを『
さしもの『
メイスィの脳内では既に勝利への布石は決定していた。
しかし、
車座がとったのは想像外の行動だった。
車座の右手に赤光が灯った。
それは瞬時に火焔の形をとり、文字通り爆発的速度をもって膨張し、加熱されていく。
それは、ともすれば業火の魔神にすらも見えた。
あれは――『
瞬間的に大質量の炎を生み出す魔法だ。
初歩的な初級魔法だが、しかし、メイスィはそれを恐れた。
魔法それ自体の脅威ではない。
何故それを使おうと思ったかが、理解できないからだ。
人間だれしも意味の分からないものは怖いものである。
つまり、メイスィはその心理的深淵に深く入り込んでしまったのだ。
『
『
火は水に勝てない。
それがこの世界の原理であり、常識だ。
そう、普通なら。
その時、不動車座が言葉を発した。
『自分がドイツにいた頃の公式戦見たで。
全試合42試合中、相手から予測不能の奇襲を受けたのが、うち七回。
その全てにおいて自分は防御形態の『
それは、まるで自分の行動が分かったうえで『
分からない。
全く分からない。
意味不明。
意味不明。
しかし、その意図は、直後、嫌にでも理解させられる。
何度も言うが、どんな世界ゲームの世界でも水>火というのは万人の常識だ。
火は水と相対する場合、酸素欠乏により簡単に消滅してしまう。
しかし――水もノーダメージじゃない。
そう、水というものには沸点というものがある。水は100°を超える熱を与えられると気化して水蒸気となる。
つまり火は水により掻き消されるが、同時に水もその体積を失うのである。
そのうえ、質量差もあれば優勢・劣勢の逆転も起こりうる。
ここまでは小学生で習う簡単な化学だ。
そして、もし、大量の水分が気化により急激に膨張すればどうなるだろうか。
答えは簡単だ。
爆発する。
これが俗にいう、『
主に火山噴火において、マグマ熱により地下水が気化することで起こりやすい。
――そして、今、その水蒸気爆発が目の前で起ころうとしていた。
一瞬にして大質量の火焔に呑みこまれた『
無慈悲にもその姿を水蒸気に昇華させられ、その1600倍の体積膨張により生まれたエネルギーは――
――轟音を響かせ、水蒸気爆発を巻き起こした。
そして、その零距離爆発を耐えきったのは、
『
8
回想を終え、メイスィは自分の敗北を色濃く実感した。
現に、こうして爆発の衝撃で
こうも無様に倒れ伏している。
そして、思い知る。
『自分は
一時期、噂の俎上に上ったFクラスの男子生徒でもなんでもない、
ただの『
しかし、メイスィは
『
今のまま、上級
仮に今の地位のままだったとしても、この試合はほとんどの一学年生徒が観戦している。
メイスィの築き上げてきた強者の名誉と
(…ああ、そういえば、誰かが言っていた気がする『底辺の人間は失うものが少ないが、上位層の人間は失敗したときに失う地位やポストが大き――)
「おい、テンプレートな敗者の余韻に浸って、悲劇のヒロイン演じるのもそこら辺にして、さっさと賭けの清算済ませようぜ」
メイスィの独白を遮って、容赦ない言葉の追撃をかけたのは、
誰あろう、白鵺陵であった。
9
アニメやジュブナイル小説界隈じゃ、敗者(特に主人公性を持ってないキャラ)が何故か、さながら悲劇の主人公ぶってモノローグを語り始めるってのはベタで定番だったりするが、
正直、『勝てば官軍、負ければ賊軍、勝利がこの世界の正義なり』が主流の現代社会においては、
全く無駄な描写だと思う。
特に、こういうシチュエーションを割り当てられるキャラってのが、大抵かませ役か主人公に敵対するのがほとんどで、
いわば読者の反感を買うようなキャラ設定を与えられているキャラが、
一人で『どうして俺が負けたんだ』(笑)とか、『あれは何かの間違いだ』(爆笑)とかいうセリフを、
その作品世界において、『敗者』としての地位を築かれてしまったキャラに喋らせるというのは、
もはや『弱者の言い訳』に等しく、『自分の負けを認められない可哀想なヤツ』というイメージを読者に植え付け、
そのキャラからすれば追い打ちも甚だしい。
さらに、青春ラブコメなるジャンルにおいては、そういうキャラは大抵、上位のスクールカーストに属しており、
負けて顔に泥を塗られたら、取り巻きの子に泣きついてあーだこーだと喚き散らすため、
第三者からしてみればそれは、泥に恥辱を上塗りする行為で、非常にうざったらしく、はっきり言って迷惑だ。
――なので俺は、これ以上メイスィ・グレイが恥をかかないように、前記の持論を50字程度に要約して、
率直に伝えてやった。
おいそれって言い訳シチュより残酷な追い討ちじゃないかって?
知るか、敗者に慈悲はない。
…あれ、なんか後半何者かに憑依されたみたいな感じがしたが?
「おい、陵。『賭け』っちゅうんはどういうことや」
そう問うたのは、勝利おめでとう、車座だ。
俺は別に隠す必要もないため、あっさりと喋る。
「メイスィ・グレイとこの勝負前、内緒で取引した」
「取引、と言いますと?」
さらなる疑問をぶつけたのは巫仙だ。
「ああ、正確にいうなら、やっぱり賭けだな。この勝負で負けた方は勝った方の言うことを聞く。
まあ、テンプレだな」
「…確かに賭けやな。しかし陵よォ。
よく無駄に
「…」
おい、車座。堂々とディスるな。
メイスィ・グレイ、思いっきり閉口しちゃってるぞ。
「それは簡単だったぜ?」
確かにメイスィはありふれたエリート志向なだけあり、この提案を受諾させるには想像もつかないような、
熾烈な接戦ともいえる舌戦が繰り広げられたが、
今、この場でそれを逐一話す暇もないので、プロセスをかいつまんで話すと、
『おい賭けしようぜ』
↓
『いやよ、誰が『
↓
『へえ、俺らに負けるのが怖いから逃げるのか?上級
↓
『いい度胸じゃない。乗ってやるわよ』
とまあ、こんな感じだ。
こうしてみるとわかるが、なんとも内容の薄っぺらい舌戦だったことか。
「相手が無駄にエリート志向が高くて乗せやすかったぜ」
「……」
メイスィには こうかばつぐんだ。
やめたげてよぉ。これ以上、哀れな敗者をいびるのはやめたげてよぉ。
って、やってるの俺だった。てへぺろ☆
うわ、きもっ。
みささぎは じばくした。
「というか、自分。儂を賭けの対象にしてたんか」
車座がジト目で見つめてくる。
うっ、そんな目で見るなよ…だが、それもい――くない!
やっぱ、幼女にジト目で見られたい。見てください。
「二ヘラすんなや、気持ち悪いぞ」
おっと、俺の深層心理が表層意識に出てたか、これは危ない。
そして、車座。お前の方が気持ち悪い。
「赦せ。勝ったからいいだろ。それに事前に伝えといたらお前の枷になるだろ」
その言い分で、車座も渋々了承したか、口を閉じた。
「まあ、そんじゃあメイスィ・グレイ。賭けは俺ら、というより俺の勝ちだからな。
約束、呑んでもらうぜ」
「…いいわよ。言いなさい」
俺らの追い討ちから立ち直ったであろうメイスィ――大丈夫だよね?立ち直ってるよね?泣いてないよね?――は、
無駄にエリート志向なだけあって、約束はきちんと呑むらしい。
ここで、あーだこーだ文句をつけてこない辺り、まだマシな奴だろう。
「そうだな。とりあえず、お前に車座の情報をリークした奴を教えろ」
その発言が図星だったのか否か、メイスィは目をこれでもか、というほどに見開いた。
「貴方…なぜそれを?」
「バッカ。俺が気づかないとでも思ったか、お前の公式戦を見させてもらったが、お前は42戦中、
相手の強弱に関わらず、全てにおいて初っ端から『
そんなお前がわざわざアンチ車座の『
どこかで車座の情報を手に入れていたに間違いない。
俺もネットワークを漁ってみたが、
全く無かった。
つまり、お前は一般意外の
基本的に個人の魔法情報は本人が公開しない限り、かなりのシークレットだ。
無駄にエリート志向の強いお前は他人に聞いて回るようなことはしないだろう、と踏んだ。
ならば、お前はそのシークレットな情報に介入しうる人物に情報提供を依頼した。
それもこの学園内だろう。違うか?」
俺が推理を滔々と述べている最中、メイスィ・グレイは徐々に諦めの表情を浮かべた。
隠すのは無理と悟ったのだろう。
「ええ、その通りよ」
「じゃあ、そいつはどこの誰か教えろ」
俺は早速、聞き出しに入った。
情報提供者の誰何を問うのは無粋だ、と言ったのは誰だよ、だって?
知らんな。
「分かったわ。その前に聞かせてもらっていいかしら?」
「ああ、なんだ」
情報を教えてもらうのだ。
こちらもある程度の情報を開示する寛大さはある。
「貴方に情報を提供したのは誰?」
「…と、いうと?」
「貴方、私の公式戦がどうとかと言ってたわね。
確かに私がドイツにいた頃のの公式戦は保存されているけど、それは
一般に公開した、と聞いたことはないし、
正規の方法で入手したとは思えないけど」
…バレてたか。確かに喋りすぎた節はあるがな。
「まあ、確かに正規とは言いがたいが…」
「別に追及するつもりはないけど、貴方はわざわざ私の情報提供者を頼らずとも、その人を頼ればいいんじゃあないの?」
「…そうなんだけどな。あまり大がかりにしたくはないんだよな」
「大がかり…?」
つまりは組織ということなのかしら、とメイスィ・グレイは独りごちた。
というか、いつの間にか俺が詰問されてんじゃねーか。
質問にはちゃんと(?)答えたし、さっさとこちらも聞き出そう。
「で?聞こうか。お前の情報提供者は誰だ。」
「私の情報提供者は――」
訊くと、メイスィ・グレイは大仰に溜めた。
逡巡しているのだろうか。
数秒後、ようやくその名を告げる。
「二学年Aクラス所属特待生・
入学からずっと第二情報演算処理室に引きこもってるわ」
ネーミングがDQNになってきた…