甘粕正彦による英雄譚   作:温野菜

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冒頭の部分をすこし書き換えました。


第4話

氷室玲愛は甘粕から受けた言葉に安堵と申し訳無さを覚える。同時にある問題もある。彼女は甘粕に助けを求めたが具体的にどう助けて欲しいのかと決められていない。だがそれも仕方ないだろう。彼女の望みはこの日溜まりのような日常を大切な人たちと過ごしたい。ただそれだけなのだから。

 

 

 

「……ありがとう。それとごめんね……。だから、お願い。信じてほしい。これから話すことは夢物語ではないことを。」

 

「ああ、話してくれ。おまえが魅せてくれた勇気だ。どのようなことであれ、信じよう」

 

甘粕の返答に少し表情を綻ばせて玲愛は頷く。人に信じられるとは気持ちの良いものだ。だから話す。その信頼に答えて。

聖槍十三騎士団、それは過去のドイツで産まれた怪物たち。とは言っても玲愛自身が詳しくは知らない。わかるのは騎士団に所属する黒円卓の面々は聖遺物を操り、エイヴィヒカイトという魔術の奇跡を宿しており、殺せば殺すほどに強くなる。大量殺戮者たち。玲愛も其処に所属し、生け贄という文字通りの役割だということを。そして、ここ諏訪原市も生け贄だということを。

 

 

 

甘粕はそれを黙って聞いていた。彼女の生まれながらの宿業。それに抗う勇気を手にいれたこと。それらがすんなりと頭のなかに入っていった。邯鄲の夢を経験した身。この世界でも似たような力があってもおかしくはないだろう。元より信じているのだ。

「なるほど、生け贄か。そして諏訪原市もそれに入ってると?許せんことだ。俺は血も戦争も好かん。だがしかし、友のために、そして諏訪原市に住む、一市民として立ちあがらなければなるまい。俺たちに課せられた、この試練。見事打ち破ってみせようではないか」

 

甘粕は生け贄、言い方を変えれば虐げられる弱者、そういう存在がいることを悲しく思う。これから、諏訪原市でおきるであろう悲劇。様々な人々が悲しみの渦に飲み込まれるやもしれない。だがそれに屈さずにいてほしい。しかしそれも機会がなければ意味がない。つまるところ力が必要だ。はたして彼らは諏訪原市の住民は、黒円卓という怪物たちに対抗できるだろうか?出来ないとは言わないが難しいと言わざるえないだろう。先ほどの説明によれば黒円卓のものたちは霊的装甲なるものを纏っており、現存する武器ではまともに痛打を与えられないという話だ。甘粕とて前の世界では全世界中の人間を邯鄲へと叩き込んで、機会または力を与えようとしたのだから。虐殺を見過ごすことは出来ん。それが甘粕の心境だった。まあ、しかしこの男、一度、横浜を壊滅させているのだがな。しかも邯鄲の夢の力も持ち合わせていない、ただの市民がいる市街地を。(興が乗れば別)といったところだろうか。はた迷惑な男である。

 

 

「私……うん、信じてくれるだろう、とは思ったけど、ここまですんなり信じてくれるとは、思わなかった。改めて、――ありがとう」

 

「なに、一度、手助けをすると約束したのだ。どのような口約束であれ、守るのが礼儀だろう」

 

「うん、キミならそういうと思った」

 

屋上の日の下で照らせるその笑顔はきっと誰もが眩しいと思わせるものだった。

 

 

 

 

 

だがすぐに日常が変化するわけではない。数日しか猶予がないがまだ日常としての形は保っている。あの屋上での話し合いから次の日、事実まだ変化はない。藤井蓮は綾瀬香純と共に学校へと登校してきた。遊佐司狼と殺し合い染みた喧嘩を二ヶ月前にしたせいか、どうにも周りから避けられてはいるが、彼はそれを気にはしないだろう。昼休み。甘粕は蓮に声をかけた。

 

「蓮。息災でなによりだ。もう問題はないようだな」

 

蓮はいつもの甘粕に少し笑みが浮かぶ。中休みにこの男がクラスで話し掛けることはない。中休みとは授業の準備もしくは予習するための時間だからだ。と言う姿が思い浮かぶからだ。

 

「ああ、もう大丈夫だよ。身体に違和感はないし、な。そっちはどうなんだよ?香純のこととか、任せっきりきりだったろ?」

 

「なに、ヤツは人気者だ。俺の手は必要ない。まあ、おまえたちが入院した直後の数日あたりは気に掛けていたよ。……大事にしてやるといい。綾瀬香純は真におまえたちのことを想っている」

甘粕の言葉に蓮は罰が悪そうな顔をしながら頭を掻く。

 

「……わかっているよ」

 

ぶっきらぼうに、しかし、その言葉には想いがこもっていた。その様子に甘粕は満足そうにしながら藤井蓮と共に屋上へと向かい、氷室玲愛と三人で昼食を共にした。

 

 

 

 

 

放課後、剣道部道場にて胴着を着込んだ二人の男女がいる。しかしほかの部員は見当たらない。もうどうやら部活は終了し居残り練習をしていたようだ。

 

「でも、ごめんね、正彦。居残り練習に付き合ってもらちゃってさ」

 

香純は申し訳無さそうな顔をしている。彼女は本当に感情が表に出る。だからこそ、その豊かな想いが周りを笑顔とする。人気者たる所以だろう。

 

「いや、おまえに付き合うのは俺が言い出したことだ。この近くでは通り魔殺人がおきたらしいからな。ここでおまえ一人で帰らせたら男として問題外だろう」

 

香純の表情が通り魔という部分で一瞬、曇った。だがそれを振り払うかのようにはつらつとした声をあげる。

 

「流石は正彦ッ!男のなかの男ッ!なんたって、あたしはレディだからね。まったく蓮もあたしをこういうふうに扱えってーの。たまには「香純、おまえはなんて可愛い女なんだ。抱き締めたくなるぜ」とか、そんなことがあってもいいんじゃないかな?あいつが入院していたとき、何度も病院に通いつめる幼馴染みなんていまどきいますか!?いや、別に見返りがほしくてやっていたわけじゃないけど」

などなど香純はまだ続けるようだ。甘粕は苦笑を浮かべながら道場入口に目をむける。どうやら彼女の愚痴を聞くべき相手がきたようだ。

 

「香純、いま俺に向けている、その言葉はヤツに向けるといい」

 

甘粕は道場入口を示すと、そこには間が悪かった、そんな表情を浮かべた藤井蓮が立っていた。おそらく道場から自分に対する愚痴が聞こえてきたのだろう。香純は立っている蓮に気付いて小走りで彼に「れーんッ!」と声を上げて近付いた。あのあとサボったことに対する言及があるらしい。どうやら居残り練習はもう終わりのようだ。

 

そうこのときはまだ日常としての形は保っていた。まだこのときは。

 




ふうやっと書けた。始まりがなかなか書けなくて困りました。聖槍十三騎士団についてもっと説明があったほうが良かったですかね。というより先輩って、どの程度まで知っていましたっけ?そこらがどうにも思い出せない。pspのほうはまだ香純ルートすら入ってないし。

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