「ケッコンカッコカリかぁ。いいわね~」
「電が先にレディーになっちゃうなんて、思ってもみなかったわ」
「Хорошо」
「照れるのです……」
「それで? 司令官とどうなの?」
「どうって……?」
「ケッコンカッコカリしたんだから、大人がするようなことをするんでしょ?」
「お、大人がすること!? それって……ちゅ……ちゅーとか……?」
「暁……」
「そ、そんなことはしてないのです! ハレンチなのです!」
「えー? せっかくケッコンカッコカリしたのに?」
「ケッコンカッコカリしたからって……そんなこと……」
「私だったらするわ! ね? 暁?」
「そそそ、そうね……(で、でも……ちゅーしたら赤ちゃんが出来ちゃうし……)」
「ちゅーはしなくても、もっと特別なことがあってもいいはずだ。何かないのかい?」
「え……特に……いつも通りなのです……」
「ん~、そんなんじゃ駄目よ! 私だったら~」
皆はああ言ってたけれど、ケッコンカッコカリしたからって、そんなことしてもいいのかな……。
「電?」
「はわわわわ!? し、司令官さん……」
「どうした? 何か悩み事か?」
「い、いえ……何でもないのです」
「そうか? これから昼食を取るのだが、一緒にどうだ?」
「あ、はい! お供するのです」
「そうか、今日はカレーだったな」
司令官さんと特別なこと……。
こうして一緒にお昼を食べることも、特別と言えば特別なのです。
「しれいかぁ~ん、一緒に食べるぴょん!」
「あ……弥生も……いい……ですか?」
あ……。
「おう、いいぞ」
「やったぴょん! うーちゃんは~司令官の隣!」
「じゃ、じゃあ……弥生も……」
……別に特別なことじゃなかったんだ。
「しれいかぁ~ん、あーん♪ どう? うーちゃんのカレーは?」
「ああ、美味しいよ(作ったのは鳳翔だけどな……)」
「や、弥生のも……どうぞ……。あ、甘いです……」
「おう」
「……司令官さん、人気者なのです♪」
「ははは、そうだな」
特別なこと……か……。
「ケッコンカッコカリ……」
月明かりで指輪が光る。
この指輪は、練度をもっと上げる為だけの物。
ケッコンカッコカリだなんて、変な名前、つかなければ……。
「司令官さん……」
「電、ちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「これを」
「これは……?」
「ケッコンカッコカリの指輪だ」
「ケッコン……えぇ!? は、はわわ……」
「なに、本当に結婚するわけじゃないさ。練度を上げる為だけの物だ。指輪だからか、ケッコンカッコカリという変な名前がついているだけで」
「そ、そうなのですか……。でも……どうして電なのですか? 長門さんとか、戦艦の方が……」
「それはお前が……」
「提督よ。ちょっといいか?」
「長門、どうした?」
「実は、第三水雷戦隊より電報があって……」
「そうか。すまない電、詳しいことは後で話そう。今は、その書類にサインをしてくれ。そして、指輪をはめるんだ」
「は、はい」
「それで、ケッコンカッコカリだ」
「ん……夢……」
そういえば、まだ聞いてなかった。
どうして私を選んだのか。
執務室に入ろうとした時、中からワイワイと騒ぐ声。
「司令官さん……?」
扉を開けると、雷と暁、そして響がいた。
「み、みんなどうしたの?」
「電、ちょうどいいところに来たわ」
「え?」
「今ね、司令官に問い詰めてたところなの」
「な、何をです?」
「電とケッコンカッコカリした件についてだよ。どうして特別なことをしないのかってね」
「な……!」
司令官さんは明らかに困った表情をしている。
「司令官! さぁ! 答えなさい!」
「お、おう……」
「み、みんな! やめるのです! 司令官さんが困ってるのです!」
「電、貴女レディーとして扱われてないのよ? 悔しくないの?」
「別に……電は……」
「司令官!」
「司令官」
「えーっとだな……」
「し、司令官さん……いいのです。気を……遣わなくても……」
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。
そんなことを思っていると、司令官さんは席を立ち、私の目の前に片膝をついた。
「電……」
「ご、ごめんなさいなのです……。迷惑かけちゃったのです……」
「いや……私の方こそすまない。お前の気持ちを考えてなかった」
「そんな……私は別に……特別扱いしてほしいだなんて……」
「違う。ケッコンカッコカリの事だ」
「え?」
「お前の返事を聞かないで、指輪を渡してしまった」
「返事……?」
「練度を上げるだけとはいえ、こんな形をしている。艦娘も女だ。嫌なら断ってもいいんだ。書類に拒否の欄もあっただろう?」
確かに拒否に丸を付ける欄もあった。
「だが、あの時はほとんど強制みたいな感じになってしまった。すまない」
そんなこと……。
「だから、浮かれてられなかったんだ。練度をあげるだけと、割り切ってるだろうと思ったから……」
「つまり、司令官は電にケッコンカッコカリを強制してしまったと思って、特別に接しなかったということかい?」
「すまない……」
「司令官さん……」
執務室が一気に静かになった。
みんな、なんと言っていいのか分からないようだった。
「……司令官さん、司令官さんは……どうして電を選んだのですか?」
「え?」
「あの時……言いそびれましたよね……? それはお前が……って……」
「そういえば……そうだったな」
「聞かせて……ほしいのです」
「……」
「司令官……」
黙る司令官さんを雷が心配そうにのぞき込む。
「司令官さん……」
「お前が……私にとって特別な艦娘だからだ」
「え?」
司令官さんはちょっと恥ずかしそうに下を向いた。
「練度なんて、正直どうでもよかった。私の特別な艦娘に、特別な物を与えたかった。特別なのだと、知ってほしかった」
胸の奥が、何かにきゅっと締め付けられる。
嬉しいと時と似てはいるけれど、別の何か。
「一度装備したら、外すことは出来ないんだ。すまない……」
「違うのです……」
「え?」
「電は……嬉しかったのです。司令官さんの特別になれたって……。だから……謝らないでほしいのです……!」
「電……」
「今も……とてもとても……嬉しいのです。司令官さんが……特別だって言ってくれる度に、心が……締め付けられるみたいなのです」
「え? それってどういうことなの?」
「暁」
「え? なによ響?」
「行くわよ」
「雷まで。急にどうし……」
「いいから」
暁を引きずり、三人が執務室を出て行った。
「気を遣わせちゃったな……」
秒針の音がやけにうるさく感じる。
「司令官さん……」
「ああ……」
「電を選んでくれて……あ……ありがとう……」
「電……」
「これからも、よろしくなのです……♪」
「ああ、よろしくな」
司令官さんの手は、とてもとても、大きかった。
そして、とても温かかった。
「今日も司令官の隣だぴょん!」
「や、弥生も……!」
「お、おう……」
司令官さんがこっちを見た。
「……電はこっちでいいのです」
「そ、そうか……」
「しれいかぁ~ん」
「美味かったな、電」
「……」
「電?」
「電は……特別なのです……」
「……怒ってるのか?」
「怒ってるのです!」
「だ、だったら言えばよかっただろう」
「司令官さんだって断らなかったのです……」
「う……すまない……。許してくれ……」
「……アレ……やって欲しいのです」
「え?」
「アレやってくれなきゃ許さないのです」
「アレって……わ、分かった。じゃあ……失礼して……」
私の小さな体を、司令官さんが後ろから抱きしめる。
「お前は特別だよ……電……」
「はわわ……」
耳がぞわぞわする。
胸の奥がきゅってする。
「こ、これ……恥ずかしいんだよなぁ……」
「なら、電を特別扱いするのです!」
「お前、ちょっと我が儘になったなぁ」
「え?」
「失望しちゃうな」
「は、はわわ……ごめんなさいなのです……。調子に乗ってしまったのです……」
しょんぼりしていると、司令官が私を抱き上げた。
「なんてな。失望するわけないだろ。特別なんだから」
「司令官さん……」
「あー! 電、お姫様抱っこしてもらってる!」
「本当だわ! 暁にもやって!」
「Хорошо」
「分かった分かった。順番な?」
「だ、だめなのです! これは電だけの特別なのです!」
特別だとか特別じゃないとか、本当は形にしなくても分かっていたことなのかもしれない。
少なくとも……。
「司令官さん」
「ん?」
「大好きなのです」
「私もだよ」
この気持ちだけは、なによりも特別なものだ。