うちの鎮守府には、変な風習がある。
それは、艦種ごとに交代で秘書艦をやること。
例えば、先月に戦艦の誰かが秘書艦をやったら、次は重巡の誰かが一か月間秘書艦をやる。
その次の月は軽巡の誰かが~みたいなね。
誰が秘書艦をやるかは艦種ごとで取決め方法を決めるんだけど、駆逐艦は司令官が選ぶことになっている。
だから、秘書艦に選ばれたい駆逐艦は必死だ。
ま、あたしはどうでもいいと思ってるんだけどね。
本当だよ?
「敷波、最近頑張ってるよね~」
「綾波。別に、普通だよ」
「もしかして、秘書艦狙ってるの?」
「え……そ、そんな訳ないじゃん! あんなの何がいいんだか……」
「綾波は狙ってるよ。だって、司令官と一か月間だけれど、ずっと一緒にいれるんだから」
「ふーん……」
「でも良かった。敷波が興味ないんだったら、ライバルが減るもん」
「……そりゃ良かったね」
「今、一番の候補は朝潮ちゃんだもんね。綾波も頑張らなきゃ!」
「……」
綾波が秘書艦かぁ。
司令官、喜ぶだろうなぁ。
朝潮も司令官に忠実だし。
そういえば、雷や電も候補にあがってたっけ。
練度で言えば、不知火とか響も……。
「……って、別にどうでもいいし」
どうでもいい。
別に、どうでも。
「……本当は良くないのかな」
「司令官、おはようございます!」
「おはよう朝潮。今日も気合入ってるな」
「司令官ほどではありません! それよりも、朝潮に何かできることはありませんでしょうか!?」
「あ~! ちょっと朝潮! 司令官、頼るならこの雷にして!」
「ちょっと雷! 先に司令官に声をかけたのは私よ! 司令官、是非朝潮にやらせてください!」
「司令官!」
「い、今は何もないよ。何かあったら声をかけるから」
「本当!? じゃあ、その時は雷にお願いね!」
「この朝潮に!」
あー、司令官大変そうだなぁ。
「司令官、ちょっとご相談が……」
あ……綾波。
「お、おう。どうした?」
「ここじゃ何なので、あちらで」
「分かった」
綾波、わざと向こうに連れて行ったな。
朝潮と雷から救うために。
こりゃ、秘書艦は綾波かな。
あたしはあんな気は使えないし。
「……」
いや、あたしはそんな気ないし、別に気を使えなくてもいいじゃん。
いいじゃん……。
秘書艦をやった艦娘は、みんな口をそろえてこう言う。
「次もやりたい」
って。
秘書艦には特別にケーキとか出るのかなって思って聞いたことあるけれど、みんな笑って誤魔化すだけ。
それほどに、内緒にしておきたい事があるんだろう。
ちょっとだけ知りたい。
本当、ちょっとだけね。
「綾波が秘書艦になったら?」
「そっ。どんな事があるのか教えてよね」
「そんなに知りたいなら、自分がなればいいのに」
「あたしは……別に……。それに、あたしなんかが秘書艦になっても……司令官、がっかりするでしょ」
「そうだね」
「……」
「怒った?」
「別に……」
「まあでも、もし綾波が秘書艦になっても、敷波には教えてあげない」
「え? どうして?」
「だって、それを秘密にできるのも、秘書艦の特権だもの」
そう笑うと、綾波は司令官を見つけて、小走りで近づいて行った。
秘書艦の特権。
ま、確かにそうか。
知るには、秘書艦を狙うしかない。
「……あたしには一生、分からない事なのかな」
薄っすらと、綾波の姿に、私の姿が重なる。
楽しそうなあたしと、楽しそうな司令官。
あんなに笑えるあたしがいるんだ。
いや、ああやって笑いたいって、思ってるんだろうなぁ。
綾波と話す司令官の横顔は、キラキラして見えた。
「秘書艦」
「秘書艦」
「秘書艦」
どこにいても、そのキーワードが飛び交っている気がする。
どんだけ意識しちゃってるんだあたし。
それに、なんだか気が付くと司令官をずっと見ている。
「ん、敷波、調子はどうだ?」
「し、司令官……。別に……普通だけど……。じゃ、じゃあね!」
「あ、おい」
けれど、司令官を避けてしまう。
秘書艦を意識していると思われたくないし、なんだか恥ずかしい。
本当はいつもみたいに気軽に話したいけれど……。
「もう……。早く終わってよ……秘書艦戦争……」
でも、もし秘書艦戦争が終わって、綾波が秘書艦になったら、あたしは司令官とまっすぐ向き合って話せるのかと言われたら……。
「司令官」
「綾波」
無理だ。
割って入る事なんてできないよ。
二人の時間を邪魔しちゃいけないし、あたしは邪魔者になるだろうし……。
「……」
秘書艦。
秘書艦。
秘書艦。
「ああ、もうっ!」
あたしのばか!
ばかばかばか!
「なりたいんじゃん……結局さ!」
「はぁ……はぁ……。もー……なんでこんなに高いところにあるんだよぉ……」
何段もある石階段を登りきると、木々の隙間から、鎮守府が見えた。
「小さいなあ、うちの鎮守府って……」
管理者がいるのかも怪しい神社。
昨日の雨のせいか、辺りは土の湿った匂いで満ちている。
カブトムシの匂いに似てるよね。
「……」
中身の少ない財布から、十円を出す。
本当は五円がいいらしいけれど、まあ、ご縁二倍ってね。
投げるのはよくなさそうだから、さい銭箱にそっと落とした。
「えーっと……二拍手二礼……ん? あれ? どっちだっけ?」
ええい、適当にやっちゃえ。
「秘書艦になれますように……」
あたしには、こんな事しか出来ない。
司令官にアピールすることなんて出来ない。
影で頑張るタイプなんだ。
そう、評価されなくても、一人で頑張れるタイプなんだ。
だから、だから……。
「……」
こうやって逃げることしか、出来ないんだ。
帰ろうとした時、風で絵馬が揺れている音が聞こえた。
絵馬かぁ。
念には念を入れてみようかな。
もしかしたら……ってこともあるかもしれないし。
無いだろうけれど。
「絵馬……」
周りを見渡すと、木の箱の隣に、絵馬が積んであった。
おみくじみたいに、勝手にお金を入れて買う感じか。
本当、田舎だなぁ。
お金を入れて、筆をとる。
「秘……書……艦……に……な、れ、ま、す、よ、う……に! よし」
絵馬をかけようとした時、鳥居の前に人影があるのを見た。
「敷波?」
司令官だ。
「し、司令官……」
「どうした? こんな所でなにしてるんだ?」
こっちのセリフだ。
どうして司令官が……。
「えと……その……」
「お、絵馬か? 敷波も案外、ロマンチックなところがあるんだな」
「わ、悪い?」
「別に」
「司令官こそ……どうして……」
「出撃前にはここに来てるんだ。安全祈願ってやつさ」
「安全祈願?」
「皆、無事に帰って来れますようにってな。作戦指示でどうにも出来ない事もある。だから、最後は神頼みになってしまうんだ」
「ふーん……」
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、司令官はお賽銭を入れて、安全を祈願した。
その間に、あたしは絵馬を奥の見えないところに結んだ。
「よし。敷波、用事は済んだのか?」
「え、う、うん……」
「なら、一緒に帰るか」
司令官が手を差し伸べる。
しれっとしたものだ。
あたしの心臓はバクバクなのに。
「い、今は汗ばんでるから……」
「そうか」
あたしのばか。
いくじなし。
司令官と長い長い階段を下る。
この時ばかりは、長い階段で良かったと思った。
「ここからだと鎮守府が小さく見えるな」
「ここからじゃなくても小さいよ」
「ははは、そうだったな」
どうしてあたしはこうもキツイことしか言えないんだろう。
もっと、綾波みたいに気のきいたことでも言えればいいのにさ。
「そういえばさ、秘書艦……決めたの?」
「ああ、一応候補は」
「誰?」
「なんだ、敷波も秘書艦に興味があるのか?」
「べ、別に……。ただ、綾波が知りたがってただけで……」
「そうか。なら、なおさら言う訳にはいけないな」
え?
思わず足を止める。
「どうした? 疲れたか?」
「司令官、それって……」
「ああ、綾波だよ。綾波を秘書艦にしようと思ってる。まだ候補だけどな」
そっか。
やっぱり、そっか。
うん、分かってた。
分かってたし。
そりゃそうだよね。
何ショック受けてるんだろ、あたし。
分かってたじゃん。
分かってた、じゃん。
「……そっか。じゃあ……言えないわけだね」
「聞いたんだから、内緒にしておいてくれよ。サプライズで伝えたいんだ。どういう訳か、駆逐艦にとって、秘書艦になることは特別らしいからな」
「……だろうね」
唇が震える。
ヤバ、泣きそう。
なに泣きそうになってるんだよあたし。
ばかみたい。
「……あたし、急ぎの用事があったんだった。じゃあね」
「あ、おう。気をつけてな」
なんとか涙は堪えた。
分かってたことだけれど、実際に言われるとショックなんだなぁ。
「……」
諦めよう……とは思えなかった。
何故だか分からない。
分からないけれど、感じたことのない、この胸の高鳴りが言う。
「秘書艦になりたい」
いや、なる。
ならなきゃ。
いつの間にか悲しい気持ちは消えていて、あたしの中で何かが燃えていた。
それからあたしは、長門さんにお願いして、毎日演習を積んだ。
「はぁ……はぁ……。もう一回お願いします!」
「敷波、それくらいにしておけ!」
長門さんが叫ぶ。
空を見ると、もうすっかり夜だった。
「はぁ……はぁ……」
「敷波、やる気があるのはいいことだ。だが、力み過ぎだぞ。お前にはまだ時間がたっぷりある。ゆっくり強くなればいいさ」
時間なんてない。
あたしには、急がなきゃいけない理由がある。
「まだ……! まだ出来る!」
「いい加減にしろ。これ以上やって、疲労が残ったら、いざという時の作戦に支障が出る」
「でも……!」
「……これは言いたくなかったのだが、仕方あるまい」
「?」
「提督は次の作戦で、綾波とお前を起用するつもりだ」
「え?」
「秘書艦に選ぶ艦娘を絞ると言っていた。敷波、お前も候補にあがっているんだ」
「あたしが……本当……!?」
うそ……。
でも、どうして……。
「ああ、提督はお前の日々の鍛練に注目していた。私も報告していたしな」
「長門さん……」
「だから、こんなところで疲れては駄目だろう。その作戦が遂行されるまで、力を温存しておけ」
「……はい!」
司令官があたしを候補に入れてくれた……!
やっと、やっとここまで来れたんだ。
でも、相手は綾波。
本来のあたしなら、ここまで来れただけで、満足していた。
けれど、今は違う。
その夜、あたしは綾波を堤防へ呼び出した。
「敷波、どうしたの? こんなところに呼び出して」
「綾波……」
あたしは長門さんに言われたことを話した。
そして、あたしの気持ちも。
「じゃあ、司令官は私と敷波を……」
「……」
「敷波も……本当は秘書艦になりたかったんだね……。だからかぁ、あんなに頑張ってたのは……」
「あたしは……絶対に秘書艦になる……。だから、綾波……あたしは全力で戦うから……!」
「敷波……。分かったわ。なら、私も全力で貴女を突き放すわ」
「作戦で会おう」
「えぇ」
それから、あたしも綾波も、全力で演習に挑んだ。
そして、その時が来た。
「本作戦は「キス島撤退作戦」だ。駆逐艦のみの高速艦隊で攻める!」
いよいよだ。
綾波以外にも、秘書艦になりえよう艦娘がいる。
本当に決めるつもりだ。
「敷波」
「綾波」
「手は抜かないわ」
「あたしだって」
とはいえ、これも立派な作戦。
陣形はしっかりとしなくては。
「では、駆逐隊、出撃せよ!」
「はぁ!」
「撃ちます!」
今のところは順調だ。
演習でやったとおり、上手く動けている。
「前方に敵!」
「あれが……最後だね」
「あれを叩けば作戦終了よ! 皆、行くわよ!」
皆も陰ながら努力して来たのだろう、次々と敵を沈めてゆく。
あたしだって……!
「砲雷撃戦、はじめるよっ!」
空が段々と暗くなってゆく。
こりゃ、夜戦になるかもしれない。
その前に終わらせなければ。
「よし、旗艦は……」
その敵の旗艦は綾波の方を向いていた。
綾波は駆逐ニ級と交戦中だ。
「綾波!」
敵の砲が綾波に向けられる。
このままでは間に合わない。
庇うしかない。
でも、そうしたらあたしが……。
その時、脳裏に浮かんだあの光景。
綾波と司令官が笑いあっている、あの光景。
秘書艦の綾波。
ああ、やっぱり、綾波の方が似合うなぁ。
だって、あたしはやっぱり、そんな風に笑えないもん。
想像の中だけでしか、笑えないもん。
「あああああああああああ!」
気が付くと、綾波を突き飛ばしていた。
そして、あたしは敵の砲撃をもろに受けた。
「敷波……!」
綾波の声が聞こえる。
「絶対に許さない!」
その声と同時に、綾波の魚雷が発射された。
そして、大きな爆発が起きるのが見えた。
きっと、旗艦を倒したんだ。
やったじゃん、綾波。
ああ、目の前が、なんだか暗くなってゆく。
海水がとても冷たい。
ああ、あたし、沈むんだ。
そっか。
でもまぁ、仕方ないか。
あんなに頑張ったし、悔いはない。
……。
嘘。
本気で悔しいよ。
泣きたいよ。
あんなに頑張ったのに。
こうなるんなら、司令官に大好きって、言えばよかったなぁ。
あたしっていつもそうだよ。
絶対後悔するんだ。
後悔した時には、もう取り返しのつかないことになってる。
結局、最後もそうかぁ。
綾波、MVPだよ。
秘書艦……よかったね……。
「ん……」
目を開けると、真っ白な天井が見えた。
ここが天国ってやつ?
もっと楽園みたいなところだと思ってたけど、あんがい普通なんだね。
「敷波……?」
隣を見ると、綾波がいた。
「敷波……! 良かった……」
「え……綾波も死んじゃったの?」
「死んでないよぉ……敷波……」
あたしを強く抱きしめて泣く綾波。
ああ、そういうことか。
助かっちゃったわけね。
「敷波……!」
もう一人の声。
声の先を見ると、そこには司令官が立っていた。
「司令官……」
「敷波……良かった……」
「……ごめんね……敷波……ごめんね……」
ずっと泣く綾波。
とりあえず、いつまでも泣かれているわけにはいかないので、長門さんに綾波を預けた。
「綾波……大丈夫かな……。トラウマにならなければいいけど……」
「ああ、そこはなんとかフォローしていくつもりだ……」
「……ごめん」
「いや……綾波をかばったんだろう? 私の作戦ミスだ……」
「そんなことない! あれはあたしが勝手に……」
「秘書艦になるために……無茶をさせてしまった……。そうだろう?」
「え?」
「長門から聞いた。秘書艦の件を言ってしまったと。それで無茶をさせてしまったんだとな……」
「……」
「すまない……」
「そんな……」
「敷波……」
司令官があたしを抱きしめる。
「ごめんな……。怖かったよな……。ごめんな……」
司令官は泣いていた。
泣くもんかと思っていたけれど、もう限界だった。
「怖かった……怖かったよぉ……。もう……司令官に会えないのかと思ったよぉ……。大好きって……言えないかもってぇぇぇ……」
わんわん泣いた。
いつもなら恥ずかしくて隠している自分が、ここに来て爆発してしまった。
それでも、いつまでもあたしを抱きしめてくれた司令官。
あたしが泣き疲れて眠るまで、ずっと。
しばらくして、綾波が秘書艦に任命された。
まあ、そうだよね。
MVPとったらしいし。
あたしも頑張ったんだけどなぁ。
でも、生きてただけで御の字かな。
これも、司令官が神社で願ってくれたからかもね。
あたしの願い事は叶わなかったけど。
怪我のリハビリも兼ねて、あたしはあの神社を訪れた。
「えーっと、」
今度は作法を調べてから来たからね。
ちゃーんと、神様にお礼を言いに来たんだから。
「司令官の願いを叶えてくれて、あたしを助けてくれて、ありがとうございました」
次は神様に頼らないでいいようにしないとね。
そんなことを思っていると、後ろから人の気配がした。
「敷波」
「司令官」
「大丈夫なのか? こんなところに来て」
「うん。今、神様にお礼を言ってたんだ。助けてくれてありがとうございますって」
「助ける?」
「司令官がお願いしてくれてたんでしょ? あたしたちが無事ですようにって。だから、神様があたしを助けてくれたんだよ」
「そっか。なら、俺もお礼をしなきゃな。敷波を助けてくれてありがとうございます」
「次は神様に頼らないようにしなきゃね」
「ああ」
そう言って、二人で笑いあった。
秘書艦戦争が終わって、やっと二人で笑いあえた。
いや、いつも以上に笑いあえてるかもしれない。
「そういえば、敷波は前に何をお願いしたんだ?」
「ん……。秘書艦になれますようにってさ。叶わなかったけどね」
「やっぱりそうだったのか」
「あの時は恥ずかしくて、見せられなかったけどね」
「なら、もう一度神様に感謝しなくちゃな」
「え?」
「綾波が、秘書艦を敷波に譲ってくれと聞かないんだ。他の皆も聞かなくてな」
「それって……」
「敷波さえよければ、俺の秘書艦をやってくれないか?」
「嬉しいけど……駄目だよ。あたしなんか……。それに……司令官だって……」
「敷波」
あたしの手を掴み、司令官はあたしを見つめた。
大きな手だなぁ、なんて、呑気なことを考えてたから、次の言葉にびっくりした。
「俺はお前に秘書艦になってほしい。これからもずっとだ」
「これからも……ずっと……?」
「ああ」
「い……いいの……? あたしなんかで……あたし……なんにもないよ?」
「なら、一緒に見つけていけばいい」
「でも……でも……」
「嫌か?」
「い、嫌じゃない! むしろ凄く嬉しくて……あっ……」
「なら、決まりだな。だってさ、みんな!」
「え?」
司令官の掛け声と共に、隠れていた艦娘たちがどっと出てきた。
「敷波ー! やったね!」
「え、ちょ……! 司令官! どういうこと!?」
「いやぁ、敷波に伝えてくるって言ったら、みんな行く行くって聞かなくてな……」
「断ってよね!」
「敷波」
「綾波……どうして……」
「やっぱり、納得出来なかったの。私が秘書艦になるってことが……」
「綾波……」
「でも、秘書艦は譲っても、ケッコンカッコカリは譲らないわ!」
「ケッコンカッコカリ!?」
「覚悟してよね! えへへ」
綾波が笑う。
それを見て、あたしも安心して笑った。
「こりゃ、敷波も大変だねー!」
「あ、あたしは別に……!」
周りが茶化す。
笑うごとじゃないよ。
そっか、ケッコンカッコカリかぁ。
「はいはい、帰るぞお前ら」
司令官とケッコンカッコカリ。
そんなの、考えたこともなかった。
秘書艦になる事しか考えたことなかったし。
「ほら、敷波も帰るぞ」
そう言って、あの時のように手をのばす司令官。
「うん」
今度は、ちゃんと握った。
「司令官」
「ん?」
「あのね……あたしは……ケッコンカッコカリも……譲らないからね……。司令官の事……大好き……なんだから……。な、なんてね!」
恥ずかしいけど、本心だった。
綾波には悪いけど、あたしはそれを譲る気もないから。
司令官はただ、笑うだけだった。
それが何を意味してるかは分からないけれど、いつか、分かる時が来たのなら、その時は……。
「みんなー! 聞いてくれ! 敷波が俺の事、大好きだってさ! ケッコンカッコカリは譲らないだってさ!」
「ちょ……!」
「ヒューヒュー! あついね駆逐艦!」
「な、なんで言うのさー! ばかぁ!」
いつもは静かなはずの神社に、笑い声が響く。
きっと、神様も笑ってくれてるのかな。
それくらい、大きく、遠くまで、笑い声が響いた。