眩しかった。
艦娘と、楽しく話す、提督の姿。
私は、あの輝きの中に、いる事が出来なかった。
「こっち見んな!クソ提督!」
「ああ、悪かったな。もう下がっていいぞ」
「フン…」
どうして、こんな事を言ってしまうんだろう。
あの輝きを前にしては、私がいてはいけない気がして、強がってしまう。
「困った子ですね」
執務室を出たところで、そう、秘書艦の鳳翔が言った。。
提督は、それに返事はしなかったが、呆れているのだろうと思った。
窓の外を眺めていると、綾波型の駆逐艦達が、提督たちとワイワイ戯れていた。
潮ですら、あの輪の中にいるのに、私は、こんな所で、眺めていることしか出来ない。
眩しすぎて、私は、カーテンを閉めた。
せめて、あの輝きの中にいる事が出来ないのなら、ただ、戦って、戦果をあげるだけだ。
それが、自分の存在意義。
それ以外、忘れよう。
慢心だった。
戦闘の最中で、私は被弾し、動けなくなっていた。
「他の艦は無傷ですが、曙が大破です。どうされますか?」
戦闘でも駄目。
もう、私なんか、沈んでしまえばいい。
あの輝きの中にいれない私には、暗い海の底がお似合いなのかもしれない。
そう思い、空を遠く望んだとき、雲に隠れた太陽が、私を照らした。
「ああ、最後くらい、太陽が…」
しかし、それは、太陽ではなく、何かの信号弾だった。
確か、あの色は、撤退を知らせるもの。
私は、沈むことも出来ないし、太陽にすら見放された艦なんだと思った。
入渠が終わり、私は、執務室の扉を叩いた。
「曙か。もういいのか」
返事ができなかった。
それを見た提督は、鳳翔を下げた。
「どうした。深刻そうな顔をして」
「私を解体して」
もう、艦娘をやめようと思った。
何も出来ない私に、この艦隊にいる意味はない。
ただの、子供だ。
「何故かね」
「…ウザイのよ。こんな戦いも、こんな艦隊も…何もかも…」
「…そうか」
提督は、呆れたように返事をした。
本当は…本当は、止めて欲しかった。
まだ必要だと、言ってほしかった。
それが、私に残された、ただ一つの希望だった。
「しょうがないわね」
なんて、言いたかった。
でも、やっぱり、私なんかいらなかった。
弱くて、生意気で、クソ提督なんて、態度も悪かった。
「だが、お前、本当はやめたくないんじゃないのか」
「え?」
提督は、近づき、ハンカチを取り出した。
それが何を意味するのか、分からなかったけど、窓から吹く風が、頬に冷たく当たるのに、気がついた。
「泣くくらいなら、やめなければいいだろう」
そう言って、ハンカチで私の頬を拭いた。
その言葉を聞いて、私は声を出して泣いた。
自分でも驚くほど、大きな声で。
涙が枯れるころ、私は、提督の胸の中にいた。
提督はずっと、私を慰めてくれていたようだった。
それにも気がつかないほど、泣くのに夢中だったのだろう。
「曙、私は知っているぞ。お前が、素直になれない事、それ故に悩んでることも」
知っていた?
そんな馬鹿な。
だって、提督は、私の事なんか。
「ずっとお前を見ていた。他の艦と違って、お前は一人でなんでも解決しようとしていた。力になりたいと思っていたが、行動に移せなかった。すまない」
そんな。
「なんで、謝るの…?悪いのは、私なのに」
面と向かって、提督と話したのは、これが初めてなんじゃないかって思った。
それほどに、私は、いつもと違って、まっすぐに、提督を見ていた。
「そう思わせる、私が悪いんだ」
心が痛くなった。
今まで感じていた痛みとは違う。
あの輝きの中に入れなかったとか、戦闘で負った痛みなんか、比較にならないくらいの痛み。
「クソ提督…なんでよ…なんで…」
「曙」
「なんで…私なんか…」
「自分を卑下するな。お前は頑張っている。お前が自分を認めなくとも、私は認めよう」
その言葉で、私はまた、涙を流した。
「お前は弱虫だな」
提督が笑った。
でも、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、私も、この輝きの中に、いる事が出来ている気がして、嬉しかった。
「…ありがとう。…提督」
綾波型の駆逐艦達が、提督を囲んでいる。
私は、あの場所からグッと、提督に近づいているけど、一歩、下がった場所にいた。
朧が提督の周りを、元気良く、グルグル回る。
漣が提督をからかう。
潮が提督の傍に、勇気を出して寄り添う。
まだ、眩しい。
私には、あんな事、出来ない。
「曙」
提督が、私に手を伸ばした。
その手を、私は掴んでいいのだろうか。
「ほら」
漣が、私の手を、提督に握らせた。
「曙、提督と手をつなげるなんて、いいなぁ」
朧が言う。
提督の顔を見ると、その目は、私を見ていた。
「私の見えるところにいてくれ。私から離れるな」
「ちょ、ご主人様、それってプロポーズですか!?」
漣が茶化す。
潮が、オロオロと困りだした。
「分かったか?曙」
いつもなら、この手を、弾き返すんだろうけど、私は、しっかりと、提督の手を、握った。
「フン、命令すんな!このクソ提督!」
提督が笑う。
それにつられて、私も、笑った。
私は、ここにいてもいいのだろう。
笑いあってもいい。
好きなこの人と、そして、仲間達と。
あの日見た、あの輝きの中に。
この、暖かな、光の中に。